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刻界の魔術師は生まれ直して気儘に歩む【旧題・刻界の転生魔術師】  作者: 銀闘狼
4章【ファルス製薬医薬研究所】
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111.【刻】を【界】とし穿ち、【刻】んだ【界】を通す

 アルベルト達突撃部隊が戦闘を行って数十分が経過した。多少は進みはしたものの、押し寄せる【特異体質者】や【魔人】の勢いは中々衰えず、黒獅子こと高藤は散々黒雷を無差別に辺りにばら撒いた後に籠が地下へと落ちた扉が開いたままのエレベーターの中に飛び込んで一人地下へと消え、残るアルベルト達の中には度重なる戦闘で疲労を隠せずにいる職員が少なからずいた


 「クソッ!本当にきりが無いなぁッ!」


 アルベルトは首無しの【特異体質者】の熊の様な鉤爪の生えた豪腕による振り下ろしを身を翻して躱しながら腕を掴み、反転しながら小さくなって懐に入り込むと、其のまま相手の勢いを利用した背負い投げで背後の【魔人】を巻き込む様に投げ飛ばす


 拳銃のマガジンを入れ替える為に床に突き立てていた【ダイン】を引き抜き、丁度落ちてきた数秒前に真上に放り投げていた装填済みの拳銃を左手で掴むと、近場の【魔人】の腹を壁代わりに蹴り、更に別の【特異体質者】の肩を踏み台にして上へと飛び上がり、先程から今までの戦闘で出来た新鮮な死体を操作して襲わせている鬱陶しいネクロマンサーに向かって遮蔽物の無い高所から脳天目掛けて銃弾を放つ


 「死に晒せやゴラァ!!」


 拳銃から放たれた銃弾を、ネクロマンサーは其の場にしゃがみ込みながら足元に集めていた体表を硬質化させる能力を持つ死体を操って、自身を隠す様に動かして盾にする


 盾になった死体の鉱物や鱗の外殻を砕き、弾き飛ばすも銃弾が弾かれる様子を見ながら、アルベルトは死体を足場にネクロマンサーに接近しようとした時、左側にある通路から叫ぶ様な救援要請が聞こえてきた


 「誰か薬物か治癒能力持ちがいるなら急いで来てくれ!【酒呑童子】が猛毒を受けて重体になった!」

 「ッ!?何だと!?」


 アルベルトは其の内容に動揺した所為か、足場にしている死体から足を滑らせると云う普段なら有り得ないミスを犯して体勢を崩しながら落下する


 途中、拳銃を左手で腰のホルスターに仕舞い、体を縮こませながら捻って足から着地すると、しゃがみ込んだ姿勢で呟く


 「悪いが直ぐに片付けさせてもらうぞ」


 空いた左手で柄を握り、抜き身の【ダイン】を腰溜めに当てて居合の構えを取ると、頭上に《倉庫》を開いて早口に言葉を紡ぐ


 「【時を刻む四つ針は楔と為りて、自らが刻む時すら穿ち静止する】」


 《倉庫》から真下に伸びる鎖で中空にぶら下がる銀の懐中時計―魔導具アーティファクト【操刻の銀時計】の能力を解放する二節の言葉(キーワード)を唱えると同時に、アルベルトを除く【操刻の銀時計】の四つの針を含めた一切が実物大の模型の様に静止する


 「【纏装:シュレディンガー】、《炎の外套》、【瘴焔の軍装】、【形態変化:大刀】、【五行符:獄炎】、《再現魔術リプロダクト・マギ:剣精の手》、《再現魔術:水晶の剣》、【猟犬の超視力】、《次元をずらす》、《空間を折り重ねる》」


 アルベルトの銀髪が黒く染まり、尾骶骨がある辺りから二本の細長い尾が生えて、頭頂部に猫科動物の先の尖った耳が現れる


 アルベルトが着ている軍服に似た上着が燃え上がり、まるで外套の様に上半身を包み込むと、其れを上書きする様に焔が黒く染まり、瞬く間に黒焔は黒い燐光を纏う膝下まで伸びた長い裾の長袖の軍服の外套と三角形に三つの紅い猫目が並んだ軍帽、そして軍靴である金属と革の半長靴へと形を変えた


 腰に当てた【ダイン】の刀身が二倍以上に伸び、《倉庫》から落ちてきた赤褐色の文字と紋様が書かれた呪符が刀身に触れて燃え上がり、其の焔が刀身を紅く包み込むと、更に創造系【特異体質者】の能力を再現した二つの魔術による強化が付与され、刀身に水晶の様な透明な結晶体に包まれると内側からの力に罅割れて赤黒い焔が隙間から漏れ出す


 「消費する精神を【儀式の短剣】に込められた魂で代替、魔力を【イスの魔力水晶】で代替、両腕に対する【瘴気侵蝕】を代償に【瘴焔】の火力上昇、更に【瘴焔】を目印に《大君主への供物の献上》」


 黄金が混ざった紅い双眸で文字通り此の戦場の全てを視界に収めると、空間に干渉して自身の存在する次元をずらし、敵の存在する空間を折り重ねて繋ぐ


 《倉庫》から背後に空間が歪む程の陰鬱でおどろおどろしい負の気配を放つ夥しい数の(精神)を宿す禍々しい装飾が施された儀式用の短剣と、同じく膨大な魔力を宿す周囲の水蒸気が瞬く間に凍結してダイヤモンドダストを出現させる程の冷気を放つ1m程の高さと四方の幅がある巨大な白い輝きを放つ水晶を出現させ、其れ等から幾つもの魔術と能力の対価である精神と魔力を代わりに負担する


 急速に短剣から怨霊じみた気配が消えていき、其れと共に短剣自体も一気に時が経過した様に刀身の一部に錆が現れて広がり全体を覆うと、罅割れて其処から砕けて粉々になり塵の山に変わり、魔力が抜けてゆく水晶は冷気と白い輝きが減じていき、霜に覆われた淡く光る大きな半透明の水晶になる


 【ダイン】を構成する【瘴気】が滲み出る様に柄を握る両手から両腕へと侵蝕して黒く染める。両腕を蝕む痛みと引き換えに水晶に覆われる【ダイン】の刀身から噴き出す紅黒の焔が白黒へと変わり、罅割れから漏れる輝きが鼓動する様に明滅する


 「【時を穿つ楔は刻む針へと戻り、今再び四つ針は時を刻み出す】」


 アルベルトが【操刻の銀時計】の静止を解除する二節の言葉(キーワード)を呟くと世界は思い出したかの様に動き出し、落下した【操刻の銀時計】が床に当たって跳ね返ると同時にアルベルトの姿が消えた


 コンマ零秒未満、何時の間にかネクロマンサーの背後に立っていたアルベルトは残心する様に下に下ろした、水晶が剥がれて刀身が剥き出しになった【ダイン】を小さく振って纏う白黒の焔の残滓を払うと、ネクロマンサーの頸を始めとした一帯の【特異体質者】や【魔人】から白黒の焔が噴出して真っ直ぐに体を両断する


 斬られた【特異体質者】や【魔人】の体が揺らぎ倒れ始める。しかし、次の瞬間に狼の様な重厚感のある低めの高音の咆哮が響き渡ると、大口を開いた蒼い巨狼の幻影が白黒の焔に包まれる【特異体質者】と【魔人】を呑み込む様に通り抜け、最後の一人を通り抜けた後に巨大な顎を閉じると、白黒の焔に包まれた一切の【特異体質者】と【魔人】の姿が消失した


 時を止め、【ダイン】と自身に魔術と能力の付与を行い、紙をジグザグに山折りと谷折りにする様に目の前に空間を折り畳んで重ね合わせた後に仕込みをして、止めていた時を動かした瞬間に次元をずらす事で擦り抜ける様に折り畳んだ空間を一直線に通り抜けながら斬り付け、最後にネクロマンサーの頸を刎ねた後に仕込みが起動して死体を一掃した


 これがアルベルトがした事の全てである


 【特異体質者】や【魔人】の中には少ない数とは云え、時や空間に関わる能力を持つ者が確かにいた。しかし、この場にいる【特異体質者】や【魔人】程度では其れを防ぐ処か認識する事すら出来なかった


 【(時間)】を自らの【(領域)】とし、【(空間)】を自在に【刻】み戦場を支配する。其れ故にアルベルト―樋口圭吾は【刻界の魔人】の二つ名で呼ばれたのだ


 嘗て日本を始めとした国家を相手取り、深淵に沈んだ裏社会だけで無く無知な人々が過ごす表社会で暴れ回って恐慌を齎した末に、【神怪課0班】を含む日本に存在する組織の総力を挙げて鎮圧されたこの男にとって、この程度の事は児戯にも等しい


 だからこそ樋口圭吾は【東京第一特殊刑務所】に投獄されるも【第十三支部】に登用され、其の能力と戦闘能力で時として【神格】に遭遇する程の危険な数多くの任務を今まで生き抜いてきたのである


 アルベルトが纏う【瘴焔】で出来た軍装が外に剥がれる様に解け、髪を黒く染めて耳と双尾を形作る【瘴気】と共に黒い燐光となって消える


 アルベルトはすぐさま紀矢子のいる通路へと駆け出す


 通路を左に曲がり、其処で待つ職員の元へと駆け寄り、鬼気迫る表情の職員達の向こうで床に横たえられた、脂汗をかいて浅く早い呼吸を繰り返す、顔色が青白いと云うよりも最早死人と見間違えそうな程に土気色にまでなった紀矢子の姿に気付き、余りの状態の悪さに血の気が引く


慌てて駆け寄り、しゃがみ込んで紀矢子の体を慎重に其れでいて素早く調べる。背中のどす黒く変色した深い切創を見て、対処する為にアルベルトは思考を加速させる


 (目立つ傷はこの背中の切創だけだが、余りにも状態が悪過ぎる!俺が使える魔術では気休めにしかならないし、時間に干渉するのは今の紀矢子にはリスクが高いッ!)


 紀矢子の時間を巻き戻して背中の切創や猛毒に侵された状態をなかった事にする事は、一見すると時空に干渉する能力を持つアルベルトにとって容易い事に思えるかも知れない。だが、実情は寧ろ真逆であった


 肉体は確かに直す事が出来る。しかし問題は(精神)だった


 肉体がコップならば、精神は其れを満たす水だ。今の紀矢子の状態は至る所に出来た罅割れから殆どの水が漏れ出て辛うじて底の方に僅かに残っていると云える程に精神が消耗している


 時への干渉は必要なエネルギーが極めて高い。其れを行うには関係のある神格の助けを受けるか、儀式や魔導具によって膨大な魔力を集めるか必要な魔力を軽減するか、何らかの力によって強引に捻じ曲げるかの何れかの方法を取る必要がある


 そして、此処で重要なのは器である肉体には効果があるが、中身の水である精神には意味がないと云う事だ


 物質である肉体は時を戻せば容易く元の状態へと戻す事が可能だ。しかし、精神はそもそも時が存在しないエネルギー体だ


 此の場合の精神は本人だけが扱える焚火に表現出来る


 本人が生きる活力や目的等の空気を入れ薪を焚べれば、或いは魔術によって燃料を注ぎ込めば燃える火は炎となって高く大きく燃え上がる


 しかし、逆に重篤な病や致命傷等による大量出血と云う薪を取り除く行為や、猛毒や魔術に蝕まれる様な消火剤を入れる行為を行えば、容易く火は消え掛かってしまうのだ


 そして時を戻す事は、例えるなら中に水が入ったままの罅割れた器に熱を加えて、其の熱で器の表面を溶かして罅割れを修復する行為であると云える


 アルベルトがある程度の負担をするにしても、器の罅割れを戻す間に、焚火ならば殆ど消えていると表現出来る位に辛うじて僅かに残っている水が一瞬で蒸発する事になるのだ。下手に時を戻せばギリギリの所で踏み止まっている瀕死の紀矢子に止めを刺し兼ねない


 (今の俺では紀矢子を治せない。そして他の治療が出来る奴が来るのを待っていては間違いなく手遅れだ…ッ!)


 アルベルトは自分では手の施しようがない事を理解して、無力感に無意識の内に歯を固く食い縛り、握りしめた代償で傷だらけになった血塗れの拳を衝動的に床に叩き付ける。その時、誰かが背後からアルベルトの肩に手を置いた

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