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刻界の魔術師は生まれ直して気儘に歩む【旧題・刻界の転生魔術師】  作者: 銀闘狼
4章【ファルス製薬医薬研究所】
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110.内外の戦場

【ファルス製薬医薬研究所】の外に少し移ってから本筋に戻ります

 【ファルス製薬医薬研究所】の外では枝の籠によって張られた結界を破壊する為に攻撃が続けられていた


 「この結界、どんだけ頑丈なんだ!?かなり砲撃をしたのに罅一つ出来ないぞ!」

 「月光とあのレンズだ!あのレンズで月光の魔力を集めて利用しているんだ!」

 「近くの基地にヘリと火器の支援を要請!中も消耗しているんだ。早く突破して合流するぞ!」


 結界の外では、戦車や戦闘機等の街中で扱い難い物を除く火器や戦闘ヘリを使って結界の破壊を試みていた。しかし、宙に浮かぶレンズは只でさえ存在する場所の高度が高い上に、投下した爆弾や砲撃がホログラムの立体映像の様に透過し、結界は其の猛攻を嘲笑う様に揺らぐ事無く彼らの侵入を阻んでいる


 一方の結界内部も聳え立つ巨木を破壊する為に動くが、投下される眷属による妨害を受けて其れに集中する事が出来ない状況に陥っていた


 「クソッ!次から次へと投下しやがって!【砲戟】、あの馬鹿デカイ木は倒せそうか!?」

 「済まねぇな、【黒曜】の旦那。ちょっと難しそうだわ。屋内に侵入した奴等がどうにかするのを待つしかねぇや」


 黒城の怒鳴る様な問い掛けに、万機は何とか口角を吊り上げた取り繕った笑みを浮かべて、隠し切れない苦々しさを滲ませた軽口で答える


 今まで其れなりに巨木に向かって砲撃をしてきたが、こちらに向けてネット状に張られた枝の壁を幾重にも重ねる事で威力を削がれ、更に投下された果実から生まれ出る眷属が群がる事で、そちらへの対処に攻撃のリソースを割く必要があった為に巨木に対して有効な損害を与える事が未だに出来ていなかった


 「ったく、埒が明かねぇなぁ…ッ!…?誰だ、ありゃ…?」


 万機が形成した重機関銃の銃座を回して、身体中を損壊させながらも近くまで這い寄って来た体長が3mはある眷属の頭部を粉砕した後に、思わず愚痴った時にふと結界の外を見て疑問の声を漏らす


 結界の外、慌ただしく職員達が動き回る中、いつの間にか余りに其の場の雰囲気にそぐわない女性が立っていた


 (いつの間に来たんだ?見覚えがないって事は他所の支部の奴か?少しでも意識を外したら見失いそうな位、気配が希薄だ。其れに誰も彼女の事に気付いている様子が無い。もしかしてあの女、反ミーム(認識を阻害する能力)持ちか?)


 万機は混乱しながらも、真夏の蜃気楼か目覚める間際の夢の様に掴み所の無い、其れこそ幽霊か何かと勘違いしてしまいそうな程に朧気で、何処か神秘的な雰囲気を纏う女性を注意深く観察する


 年齢は二十歳位だろうか?肌は新雪の様に白く、透き通る様なこの世に存在するどの色とも違う不思議な色彩の地面に付く程に長い髪を縛る事無く伸ばし、印度のサリーの様に長い布を巻いただけにも見える、首元にフードらしき布地が雑に重なる部分のある自身よりも一回り以上大きなサイズの外套や法衣の様な、脚の殆どを隠す程に裾の長いゆったりとした白い服を着た女性は髪色と同じ色彩の双眸を結界に向けると、脱力していた右手をゆっくりと上げて結界に触れる


 「……何も触れている(・・・・・・・)物は無いわ(・・・・・)


 女性が小さく口を動かして一言呟く。すると、【ファルス製薬医薬研究所】を覆っていた結界が、籠の様に囲う枝ごとまるで幻であったかの様に一瞬の内に消失した(・・・・)


 「なッ!?」


 万機が今まで苦労していた結界が一瞬で消えた事に思わず声を漏らしているこの瞬間にも、思考の停止は許さないと言う様に事態は刻々と変化し続ける


 突然、背後から爆発音が鳴り響く


 万機が慌てて背後を振り返ると、轟音と共に建物を覆う巨木の根本や絡み合う幹が次々と爆ぜ、建物の全ての窓や出入り口から爆炎が噴き出し炎に包まれると、ミシミシと云う軋む音が忽ちバキボキと固い物が圧し折れる大きな音を立てて巨木が全体的に斜めに大きく傾ぐ


 巨木を形成する絡み合う一本一本が長い年月を経た大樹を思わせる程に太い蔦が内側から爆ぜて砕け散りながら豪炎に包まれ、燃え盛る芯となっていた本体である巨木の大きく広がっている枝に茂っていた、魔力で形成していたらしい淡く光る若草色の葉を火の粉へと変えて宙に散らしながら、ゆっくりと崩れ落ちて炎上する建物の中へと沈んで行った


 「…私は別の場所に居て(・・・・・・・・・)此処には居なかったわ(・・・・・・・・・・)そして(・・・)此処に何もなかったと(・・・・・・・・・・)言う事は消えないわ(・・・・・・・・・)


 歌う様な高く澄んだ声が聞こえて、万機は其の方向を向く。其処には振り返る直前と同じ様に、慌ただしく職員が動き回っているだけで(・・・)、近くを見回しても声の主と思われる人物は何処にも見当たらなかった


 「?…空耳、か?」

 「【砲戟】どうした?今まで準備を(・・・・・・)手間取って右往左往(・・・・・・・・・)していた(・・・・)奴等を見て(・・・・・)。また湧き出さない内にさっさと雑魚を一掃するぞ!」

 「済まん、何でもない。そうだな」


 万機は先程の声を空耳と断じて直ぐにこちらに押し寄せる眷属へと銃撃を再開する。そして其の時には、既に先程聞こえた気がした声の事は頭から完全に消えていた

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 時は戻り場所は【植物園】から正面にある棟に繋がる通路


 【ザイクロ・クァエ】を撃破して数十分経過した現在、先に進んでいたアルベルト達は、押し寄せる大勢の【特異体質者】や【魔人】との戦闘によって、応戦しながらもジリジリと植物園へと通路を後退していた


 「クソッ!数が多い!」

 「エレベーターに入った職員から応答は!?」

 「ありません!やはりあの速度で落下した以上、機材の故障か、少なくとも応答が出来ない程の重傷を負ったかと!」

 「よっぽど先に進ませたくないらしいな。他の奴等は大丈夫なのか?」


 遅れて来た荒八木とアンシャトレーヌとの合流後、一度は正面の通路を抜けて棟の中に侵入したが、エレベーターを動かして確認の為に二、三人の職員が乗り込んだ瞬間、ケーブルが切れてエレベーターの籠が地下へと落下した


 更に其れが合図だったのか上階から、階段や籠が無くなったエレベーターの縦穴を使って、頭や身体の一部に蔓植物が絡まった明らかに正気を失った、襲撃後に【東京第一特殊刑務所】からの失踪を確認されていた大勢の【特異体質者】や【魔人】が一斉に押し寄せて来たのだ


 即座に荒八木が戦闘能力が高い職員に対して、文字通り突破口を開く為に臨時の小隊による突撃を指示し、残った職員による後退しながらの戦線維持が行われた


 「全く、こんな所で今まで失踪していた【東京第一特殊刑務所】の奴等とご対面出来るとはな!感動して涙が出そうだよッ!」

 「合流するのに支障が出るので、そんな事を言っていられる状況じゃないかと」


 右手に持つ黒焔を纏わせた小太刀程の長さに調整した【ダイン】で、目の前の両腕に鉱物の結晶を生やした巨漢の拳をしゃがみ込んで躱し、擦れ違いざまに脇腹から肩まで斬り上げたアルベルトのヤケクソな軽口に対し、全身が炎上した男女の区別がつかない人型を左手に構える大盾で受け止めて突き飛ばして硬直させた後に、右手の槍による神速の刺突で頭部を刺し貫いたジャンヌが槍を振り払いながら冷静に言葉を返す


 「そりゃッ!そうッ!だッ!って危ねッ!?」


 アルベルトは振り返りざまに、這っていた天井から背後に飛び掛かる毒々しい赤と藍の人型蛙の頭部の上半分を、左手の大型拳銃で爆散させると、振り返る勢いのまま別の【特異体質者】を後ろ回し蹴りで近くの【特異体質者】や【魔人】諸共蹴り飛ばす


 直ぐに【ダイン】で右から迫る、縦割れの瞳孔を持つ、蛸の様にも見える頭部が大きく膨れ形が崩れた【魔人】を斬り付けようとした直前、進路上にいる【特異体質者】や【魔人】を中継しながらジグザグにこちらに向かって奔る極太の黒雷に気付いて足を止め、蛸頭の【魔人】から大きく離れる


 アルベルトと入れ違う様に蛸頭の【魔人】の頭部に黒雷が直撃すると、超高電圧により頭部が消失する。残された胴体が激しい痙攣しながら倒れるよりも早く黒雷は屈折する様に軌道を変え、其の隣にいた鱗に覆われた鉤爪の鋭い両腕が発達した鰐人間の胸部を貫くと、その場でバリバリと云う大気が弾ける放電音を響かせながら黒い獅子へと姿を変えて、動く度に全身から黒雷を辺りに撒き散らしながら、其の場で周囲の【特異体質者】や【魔人】に向かって荒々しく鉤爪の生えた強靭な前脚で引き裂き、唾液の代わりに過電流で放電した黒雷が迸る牙が並ぶ顎で噛み砕いて暴風の様に暴れ回る


 「テメェ、もう少し周りに気を付けやがれ!」


 アルベルトの文句に対し黒獅子は、返答代わりに明らかにアルベルトを狙って振り下ろされた前脚五本爪から放たれた五条の黒雷で形成された飛ぶ斬撃を、アルベルトは【ダイン】を偶々視界に入った【特異体質者】に向かって投げ、突き刺さる姿を確認するよりも早く其の場で小さく円を描く様に回りながら、近くにいた【魔人】の頸を弾切れになった拳銃のグリップで横殴りにして、黒雷の射線上に無理矢理割り込ませて盾にする


 「ハッ!黙ってろってかッ!?」

 「どうしますか?」

 「ほっとけ。元々利害が一致してたから連れてきただけだしな。アイツにだけ感じられる何かがあるのかも知れん。其れよりも早く合流出来る様にどっちかの通路に向かうぞ」


 盾にした【魔人】を一瞬で炭化させてざっくりとバラバラにした斬撃を、拳銃のマガジンを入れ替えながら横に転がって躱し、周りに光球を浮かべて光線をばら撒く【特異体質者】に起き上がる勢いのまま肉薄して、肘鉄から繋げた体術のラッシュで怯ませてから頭部への拳銃による三連射で仕留める


 何時の間にか近くに来ていた険吞な気配を放つ表情が硬いジャンヌの、怒りを抑えた何時もよりも幾分か低く硬い声の問いに、アルベルトは襲い掛かる【特異体質者】に銃弾をばら撒きながら何でもない様に返すと、黒く炎上する死体から【ダイン】を回収して僅かな合間に溜息を吐いてぼやく


 「ッたく、程々以上の質でそれなり以上の数が押し寄せるとこうも面倒だとはな。さっさと終わらせて煙草の一本もゆっくり喫いてぇよ、全く」

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