10.森からの侵攻
今更ですがこれは1章です。2章は軽い構想だけは出来てますよ
ステータスを確認して1ヶ月位経った頃、部屋で暇潰しに、《倉庫》と言う名の亜空間に物を収納する魔術に入れていた手持ちと、ガリウスに頼んで用意してもらったこの世界の素材を使って、二輪車に使う部品の試作品を作成していた時、【ギルム・ヘルムの大森林】の方角から突如カーン!カーン!カーン!という鐘の音が聞こえてきた
(この音は…、確かこれは緊急時に鳴らされる警鐘だった筈だな)
俺が表情を引き締めてレイラと共に部屋から出た時、金属鎧を着て帯剣したガリウスが目の前にいた。走っていたのか息が乱れ、呼吸が荒い。ガリウスは肩を上下させて俺に話し出す
「魔物の氾濫が起きた!お前達、早く避難しろ!」
「え?嫌ですけど?あ、レイラは逃げてね?」
「何を馬鹿な事を言っている!?スタンピードは最悪の場合、街一つ壊滅する程の厄災だぞ!」
「大丈夫ですよ。引き際は弁えていますし、俺の称号を知っているでしょう?死にはしませんよ」
「だが!」
「時間が無い!先ずはレイラを送ります。他に避難が完了していない人は?」
「っ!お前達だけだ」
「分かりました。失礼します」
俺はガリウスに背を向けてレイラと共に屋敷に出て、街の中に数ヶ所用意されている中で一番近い避難所の建物に行くと二人の兄とレイチェルがいた
「アル君!良かった!遅かったね?」
「レイチェルお姉様、お兄様達もご無事で何よりです。レイラはここで待っててね?では行ってきます」
「分かりました。お気を付けて」
「え?何処に?」
「ちょっと森からのお客さんと一緒に戦闘をして来るだけですよ」
俺はそう言って避難所から出ると物陰から森に向かって空間に穴を開けて潜る。森と領地を隔てる壁から離れた所に出てくると、軽重様々な装備を着た冒険者や傭兵、騎士団や街から来た義勇兵の皆さんが集まっていた。見ているだけで熱気と士気の高さが伝わり、壁の向こうからは侵攻してくる魔物が立てる地響きに似た足音が聞こえてくる
俺は彼らのその様子や場の状況に煽られたのか、思わず闘志を昂らせる。俺の漏れ出た闘志に気付いたのか何人かが振り向き、俺に気付くとあり得ない物を見た様に眼を見開く
「おい、坊主!こんな所で何してるんだ!?親と逸れたんならさっさと見付けて早く避難しろ!」
「自分の意思で来たのでご心配なく。それにちゃんと戦えますよ」
「何を言っているんだ!その見た目だとまだ10歳か其処らになったばかりだろ!?命が係った状況で思い上がると死ぬんだぞ!」
「…だからどうした?」
俺は短い言葉と共に闘志と殺気を解き放つ
俺から放たれる威圧感に全員が俺を向き、気圧された様に俺から離れる。ゆっくりと門が開かれた。俺は凶相を浮かべて魔力が溢れる程纏うと弾丸の様に飛び出して森の前に立つ
背後から何か聞こえる気がするが気に何てしてられない。今のアルベルトを支配しているのは、これから行う殺戮の事だけだった
どうも場の状況に逆上せたのか何処か酒に酔った様なある種の酩酊感を感じる
口角が上がる。感覚が極限まで研ぎ澄まされ、見える速度が緩慢とし、感じる気配が鮮明になる。触覚は僅かな気流や温度の変化を感じ取り、聴覚は僅かな音も聞き逃さない。心臓が鼓動を刻み、体が熱くなるのを感じる
「はぁっ!」
俺は自分らしくもないと思いながらも衝動に身を任せて魔力を高めると、裂帛の気合の声と共に闘気を体から放つ
すると直ぐに樹を押し倒し、草を掻き分けて右前方から現れて、俺目掛けて鋭い爪の付いた太い前脚を振り下ろす体長が5mはある赤褐色の熊を見て俺は笑みを深くした
《練闘気術》【挑戦者の闘気】
これは放った闘気で敵対する対象のヘイトを俺に集めやすくなるという技だ。数が多いと成功率が上がり、距離が離れる程効果が落ちる。これは保有魔力量で決定される
俺は脇を擦り抜けると背中に跳びかかり頸を切り裂くと、背後から襲い掛かった緑のゴリラの拳を振り向かずに片手で受け止めて握り潰す。ゴリラが最後に見たのはグリンと首だけ振り返った俺の狂った嗤い顔だった
「グオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
「アハハ」
―ザシュ
ゴリラの頸を一閃して頸を落とした後、熊の死体を蹴って飛び上がり、こちらに滑空する3m程の迷彩色の大鳥の首にワイヤーを結び付けたナイフを投擲して絡めると引いて飛び乗り、頸を刺して近くを飛んでいた別の個体に飛び移った
下から石の礫が四方八方から放たれるがそれは鳥が勝手に避ける。俺は背中に掴まって魔法名を唱える
「焼き切れ《業火剣嵐》」
俺と鳥の周りに何本もの炎の剣が現れる。炎剣は真下にいる2m程の蜥蜴の群れに向かって降り注ぐと途中で剣が舞い、燃える斬撃の嵐を起こす。炎剣が消えた時には一帯に灰燼と化した魔物の姿があった
乗っていた鳥を斬り殺して着地した後も襲い掛かる猿、狼、キメラ、鳥、甲虫、蜥蜴を斬って、殴って、蹴って、裂いて、砕いて、絞めて、刺してその場で死の舞踏を踊りながら屍を築く。こちらも幾らか軽い切り傷や擦過傷を負うがそれもまた心地良かった
「アハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
命の遣り取りをしているこの状況に思った以上に酔っているのか、自分の物とは思えない程に上機嫌な嗤い声を上げて辺りに響かせる
森の前で獲物の返り血に身を染めて嗤い声を響かせるアルベルトの姿は、正しく血に飢える銀狼だった。周りには他の魔物を相手するガリウス達の剣戟音や魔法、悲鳴や怒号が飛び交う
「どういう事だ!?今回は数が多過ぎるぞ!?」
「そろそろ数が減ってもいい頃なのに…っ!」
「怯むなっ!必ず乗り越えるぞ!」
ガリウス達の声を聞きながら、俺は口元の返り血を舐めて援護をするが、段々と増していく多幸感と快楽に理性が呑まれる気配と彼等の明らかな疲労を感じて、魔物が一向に数が減らない現状に内心焦り始めていた
(不味いな。そろそろこっちの戦線が崩れかねないし、俺も理性が飛びそうだ)
そう判断した俺は斃れた魔物の屍と血液で埋め尽くされた地面に立ち止まると、素早く魔力を操作して魔術を構成する。詠唱と共に天に儀式に用いられる幾つもの、中央に金星を示すシンボルと悪魔崇拝を示す逆十字が描かれた巨大な多積層型の魔法陣が俺の上に浮かび上がる
「【神の寵愛を受けし金星の熾天は、驕った叛逆によって奈落へと堕とされた!堕落の白蛇よ、禁断の果実は再び実り、嘗ての罪へと我らを誘う!マゴクに落ちし叛逆の王よ!楽園と言う名の牢獄はその計略によって失われ、今尚その咎を背負う堕ちたる王よ!永劫の餓えと乾きに支配された奈落の底より我が呼び掛けに今こそ応えよ!ニャル・シュタン!ニャル・ガシャンナ!ニャル・シュタン!ニャル・ガシャンナ!】《ルシファーの招来》!」
解説
【魔物の氾濫】
何らかのの要因で異常発生や環境が激変した際、新たな住処や縄張りを探す、又は奪う為に大量の魔物が本来の生息域から街や街道に流れ出る現象
詳しい原因は不明




