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刻界の魔術師は生まれ直して気儘に歩む【旧題・刻界の転生魔術師】  作者: 銀闘狼
4章【ファルス製薬医薬研究所】
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102.EーD通路

 鈍色のローブの触手に鏡華が鎖をぶつけて、弾いて防ぐ。しかし、完全に弾く事は出来ず、更にすり抜ける様に鎖を避けた触手が孝義達に襲い掛かった


 孝義達の腕や肩、頬や胸を切り裂く。更にその内の比較的、鈍色のローブと近かった数人が触手によって喉や手首を切り裂かれ、血を噴き出しながら崩れ落ちた


 「グッ!」

 「ガァッ!?」

 「クソッ!各自被害状況はどうなっている!?」


 孝義は短く吐き捨てると、怒鳴る様に仲間の被害状況を尋ねる。すると【公安0課】から悲鳴じみた声で、【神怪課】からはカナリアが冷静に被害報告をした


 「【公安0課】職員四名が頸部や手首の動脈を切り裂かれて重傷!他の職員も切創による被害有り!」

 「【神怪課】も二名重傷。残りも鏡華姉さんの鎖で弾いたとは言え被害が出てる」

 「すみません。間に合いませんでした」

 「いや、警戒を怠ったのは俺も同じだ」


 被害が出た事で落ち込む鏡華を苦虫を噛み締めた様な顔で鈍色のローブを見ながら孝義が慰める。鈍色のローブはその場から動く事なく、研いだばかりの刃物の様な曇りの無い銀色の薄く細長い、先端が針の様に尖った鋭利な触手を揺らめかせる


 フードの中を伺う事が出来ない為に、どの様な表情を浮かべているか分からない。そもそも何処から出現したのか分からないが、部屋の扉が開閉した様子が無い以上、天井近くの柵が二本壊れた通気口の蓋を外す以外に出入り出来そうな場所が無い事や、ローブの裾から伸びる触手から明らかに人間では無い為、表情が浮かぶかすら不明だ


 孝義達が鈍色のローブ、又は重傷を負って倒れた仲間の応急処置の為に意識を向けていた。その隙を待っていたかの様に、ー事実待っていたであろう


 ジョンソンが隙をつく様に、いつの間にか手に持っていたナイフを背を向けている孝義達へと投擲した


 それに気付いた孝義は大きく回る様に体を動かして職員達の前に出ると、振り返る動作を利用して振るった【鬼斬】で切り払う


 弾かれた投げナイフが回転して山なりに宙を舞う


 その向こうでジョンソンの全身の輪郭がぼやけて小刻みに波打ったかと思うと、左右に膨らむ様に広がっていき、モザイク処理された肥満体の人の画像の様な物がジョンソンの左右に現れたかと思うと更に広がり、やがて輪郭がはっきりとして最初にいたジョンソンを含めて五人へと増加した


 「【毒華麗姫ハイドランジア】は重傷者の応急処置、鏡華と近くの戦闘可能職員は後ろのローブを警戒。残りの戦闘可能な職員はそれぞれ近い相手に攻撃」

 「「「了解」」」


 指示を受けたカナリアは素早く床に倒れる重傷者の下へと駆け寄ると、傷口を押さえる職員の横で能力で一瞬で注射器を制作する


 「フマル酸第一鉄、ビタミンB12…、増血剤と養分投与!体に負担が掛かってこの作戦の後、寝込むだろうけどそれまで頑張ってよ!細胞活性剤、アドレナリン投与!その他のドーピング剤投与!」


 注射器の中に淡い色の透明な液体が何処からともなく湧き出すと忽ちの内に満たされる。腕の血管に注射針を刺して中の液体を注入すると、包帯やテープ、縫合針と糸等の医療具を制作すると慣れた手際で処置を開始した

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 鏡華と職員は、裾から伸びる触手を揺らめかせ佇む鈍色のローブと真正面に向き直ると出方を伺う


 鏡華が盲目である事を知っている職員は鈍色のローブの一挙手一投足を見逃すまいと注視する。鏡華は両腕から何本か鎖を生成すると、その内の一本ずつを鈍色のローブを拘束する為に伸ばした


 鈍色のローブは動かない。残り数cmまで鎖の先が近付いた瞬間、裾から伸びる触手の先が持ち上がると鎖を弾く様に振り払った


 弾かれた鎖は空中で弧を描く様に軌道を変えると、菱形の錘の切っ先を向けて放たれた矢の様に真っ直ぐ鈍色のローブへと凄まじい速度で突き進んだ


 鈍色のローブが身を守る様に体と鎖の間に伸ばした触手を、鎖の錘が容易く切り裂き、そのまま鈍色のローブの頭部と左胸を貫く


 鈍色のローブは貫かれた勢いに押されて体を揺らめかせたもののそれだけで、それどころか表面が波打ったかと思うと、右に移動しながら、鈍色のローブの体を鎖が水の中にあるかの様に抜けた


 鈍色のローブは時折探る様に触手を伸ばすが鏡華の鎖や職員の銃撃に弾かれ、鏡華や職員も又、有効打が無い故に牽制程度にしか仕掛ける事しか出来ない。よって結果的に状況は膠着する事となる

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 孝義と残りの職員は五人のジョンソンに攻撃を仕掛ける


 職員の拳銃から放たれる銃弾をそれぞれ跳ねる様に回避するジョンソンの内、最も前に出ていた右側の壁の近くにいたジョンソンに孝義が素早く肉薄すると、抜刀した【鬼斬】で斬りかかる


 【鬼斬】はジョンソンの右脇腹に接触すると、そのまま勢いが減じる事無くジョンソンの腹を横一文字に切り裂く。ジョンソンの姿が創傷からノイズが走る様に揺らぐと、煙の様に姿が薄らいで消える


 振り抜いた【鬼斬】を引き戻しながら孝義が【生命感知】を発動する


 孝義は感知した反応を認識すると同時に、振り返る様に体を左に向けると共に、【鬼斬】から右手を離して左手だけで、柄を顔の前に翳す様に逆手に持つ


 其れとほぼ同時に誰もいない(・・・・・)虚空から突如(・・・・・・)現れたナイフ(・・・・・・)が孝義が構えた(・・・・・・・)鬼斬(・・)の刀身に突き立った(・・・・・・・・・)


 ナイフと【鬼斬】がぶつかり合いガキーンッ!と甲高い金属音が通路に鳴り響く


 首を狙った刺突を【鬼斬】の腹で受けた力を、出来る限り軽減する為に不完全な姿勢で咄嗟に後ろに跳び退った孝義は、目の前に翳した【鬼斬】の柄と左手の先にある空間が輪郭を写し出す様に歪んでいく事に気付く


 ガラス細工か何かの様な輪郭のある透明なジョンソンの顔が浮かび上がると、徐々に色付くと共に、顔の白地に描かれた笑みを表す弧を描く赤が横に裂ける


 赤い顔料で化粧された口は両の口角が吊り上がり、半開きになった事で、やや黄ばんだ並ぶ歯と糸を引く様に垂れる唾液が覗く


 その陰に隠れる様に先端が尖った輪郭が浮かび上がり、切っ先がこちらに倒れる様に向けられる


 漸く気付いた職員が銃を向けるが、その先にいる孝義に誤射する危険性から思わず引き金に掛けられた指の動きが鈍る


 その間にジョンソンは孝義に肉薄するとナイフを心臓へと貫こうと突き出す。孝義は反撃は出来ないと判断を下すと、空中で体を捻って僅かに体勢を変えると、【鬼斬】をナイフの前に翳す事でナイフを受け止め―




























 「ッ!?」


 ―る事無くナイフは【鬼斬】を透過した


 「ッ!!しまった!!」


 孝義が、このナイフがジョンソンの幻影によるフェイントだと理解するとほぼ同時に脇腹や腕、脚や頬が十箇所以(・・・・)上の場所(・・・・)が一斉に(・・・・)切り裂かれる


 「グッ!!」


 (《幽体の剃刀》か?いや、違うな。切られた感覚から考えて刃渡りのある大型のナイフか其れに近い刃物による刺突だ

 だが、其れにしては数が多い!其れに何処か違和感がある。其れは何だ?)


 孝義は切られた痛みに、歯を食いしばり僅かな声を漏らして耐えながら、今の攻撃について考える。大凡おおよその見当はついているものの、分からない事が幾つか存在する


 一つは切られた場所の数だ。投げたにしては範囲が広く、裂傷の向きが乱雑過ぎるのだ


 投げたのならある程度、対象となる損傷部分が集中して、更に裂傷の方向が似た向きになる。時間差でなら兎も角、少なくともほぼ同時に広範囲且つ、様々な方向から攻撃する事は不可能だ


 糸を括り付けたにしろ勢いから考えてあり得ない。そもそも其れでは刺突では無く、切り付ける事になる


 (ジョンソンは確か光学系の能力だけだった筈。後天的に発現したか?

 サイコキネシスみたいな念動系か?それとも肉体変化系?クソッ、本体の姿が見えないから情報が足りないな)


 意識が思考に囚われ掛けた時、背後から気配を感じる。しかし、孝義は全く別の物に意識が向いていた


 「ッ!?(ふざけんなよ!?)」


 孝義の視線の先には拳銃を構える【公安0課】の職員の後ろに立つ、治療を終えたカナリアの姿があった


 カナリアはイタズラをする悪ガキの様な面白そうな何処か質の悪い笑みを浮かべると、職員の頭を越える様に山なりに何かを投げた


 其れは大人の拳程の大きさの、取っ手のある凹凸のある楕円型の物と、カラーボールと思われる球体であった


 孝義の足が床に着くとそのまま膝をたわませ、腰を落とす


 一拍遅れて頭上を何かが通過した気がするが、孝義はそれ所では無く、体を壁に向けると、右前方へと左脚で床を蹴った


 体を伸ばした孝義は蹴る様に右脚を前に出すと、壁に足が着くと勢いを吸収する様に膝を曲げる。そして体が落ちるよりも早く脚を伸ばして更に前にある天井へと跳び上がった


 孝義は捻りを加えて前に反転すると、【公安0課】の職員の頭上の天井を蹴って、カナリアのいる負傷者のいる場所に下りようとする


 しかしその時、カナリアが投げた凹凸のある楕円体―手榴弾が爆発して狭い通路を爆風が吹き抜けた

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