98.植物園
エリアボス戦です
先週、投稿出来ずすみませんでした
忙しくて編集出来てませんでした
【医薬研究所】へと足を踏み入れたアルベルト達の視線の先には床から天井に掛けて毛細血管の様な植物の蔦が一面に張り巡らされた広いエントランスが広がっていた
壁や吊り下げられた蔦は職員らしき白衣を着た人間や一般人らしき人間、元々人間だったと思われる名残を持つ異形を、幾匹もの無数の蛇が集団で一頭の大きな獲物を協力して締め殺す様に重なり合って巻き付き、捕らわれた全てが水分を失ってミイラの様に皺枯れている
そして天井から垂れ下がっていた蔦が訪れた侵入者を感知し、更なる自身の養分にせんと蠢いて獲物を捕らえる為に自分の一部をゆっくりと、しかし放置していれば確実に脅威たりえる量を垂れ下がる天井だけでなく壁や床からも這う様に伸ばした
次の瞬間、極寒の冷気がアルベルト達の背後から吹き抜けて蔦が霜に覆われて動きが停止する。しかし、ピシピシと罅が入る音が凍り付いた蔦の至る所から聞こえて来ると、凍り付いた部分が割れて、内側からの膨張圧によって剥落させながら、内側から真新しい赤黒い血液らしき液体に濡れた短毛が生えた蔦を急速に成長させた
「…申し訳ありません。足止めは無理そうです」
蔦を凍結させた【公安0課】職員が申し訳なさそうに告げる。実際に蔦の動きを止めていた時間はほんの数秒程度だった
「問題無い」
それでもこの様な異常な事態に於いて歴戦の【神怪課】の面々にとって充分過ぎる時間だった
剣閃が風切り音を伴って宙を走る。銃弾が頭上から忍び寄る蔦を的確に射抜き、足元の蔦はのたうちながら表面から崩壊を始める
襲い来る反撃に蔦が畏縮する様に僅かに縮こまり、動きを止めた。その隙に【神怪課】の面々はエントランスの奥へと突入した
扉に蔦が這って閉ざされた、或いは破壊されて侵入した蔦に絡め取られて養分にされた人間がぶら下がる警備室や応接室等の外部の人間と対応する部屋や、食堂や職員の休憩室が並ぶ廊下を進んだ先、そこは正しく植物園だった
左右には植物園を迂回する様に曲線の廊下が伸び、床には内側から外側への力で破損し散乱したガラス片が、吹き抜けになっている植物園の上に聳える巨木から伸びて天井を突き破って垂れ下がり、其のまま床を這う根や蔦の下に広がる
円柱を形作る様に緩い弧を描いていたであろう金属のフレームは、絡み付いた巨木の根や蔦で歪められ、絡み合って網の様に植物園と外を隔てている
そのフレームと根や蔦の先には様々な種類の植物や樹木が繁殖して内部を密林の如く支配していた。そして植物園の中央に当たる場所の床には直径5、6m程度の円状に空いた仄暗い穴が不気味な気配を漂わせていた
頭上を覆う大樹から広がり垂れ下がる根、或いはそれに絡まる蔦によってこの場に於ける唯一の光源である月光の大部分が遮られてかなり薄暗い。その上、壊れた室内を満たす草木のさざめく音が不気味さとこの場に潜むであろう何かの存在への危機感を否応なしに煽っていた
アルベルト達は全員、暗視装置を装備しており、誰一人懐中電灯等の灯りを付ける者はいなかった。それは突然それが消えた時の眩惑を防ぐ為であり、何よりその灯りが自分達の存在と居場所を相手に気付かせる事に繋がる為だ
「この先に行くならマスクをした方が良い。花粉やガスで催眠を行うか、毒で変調をきたす可能性がある」
「了解した」
植物園に進む為に暗視ゴーグルが装着されたガスマスクに装着し直して、左右の廊下と目の前の植物園の三手に分かれたアルベルト達は、それぞれ薄闇に慣らした夜目で辺りを見回し、微かな物音を聞き逃さない様に耳をそばだてる
そして植物園へと足を踏み入れたアルベルト達が数歩、穴に近付いた時、それは現れた
-穴の底から水しぶきの音が聞こえたかと思うと、巨大な紫色をした、滑る花が伸びてきた。花弁が飢えているかの様に開いたり閉じたりしている
しかし穴の底から水しぶきと共に現れた怪物で最も異常なのは、緑色の触手だった。その先端は邪悪な美しさを持つ多数の指の生えた手が付いており、何時か来るであろう獲物に向けて切なそうに伸ばされていたのだ…!
それはかつてラムジー・キャンベルが自らの作品である小説【妖虫】にてその存在が記した異星の怪物-【ザイクロ・クァエ】或いは【ザイクロトルの死の植物】と呼ばれる上位の独立種族
それが今、目の前に空いた穴の底に潜み、自らの糧になる獲物を捕まえる為にその一部を現したのだ
「総員警戒態勢!!」
【公安0課】のこの場で最も地位が高いであろう厳めしい顔つきの中年男性が目の前の明らかな脅威に素早く命令する。即座にそれぞれが互いの背中を守る様に円になると、銃を構えて自分の正面や頭上の異変に神経を尖らせる
そして前を歩く【第十三支部】の面々に続く様に前進を始めた
滑る花から毒々しい花粉が放出し、漂って足元から徐々に視界を塞いでいく。それと共に宙を掻く様に揺れていた触手が一転してアルベルト達へと素早い動きで伸ばされた
「六一で散開!!」
中年男性の号令で【公安0課】の面々は六人一組でそれぞれその場から離れる様に移動する。そして触手が手探る様に伸びる中、半円を描く様に配置に付くとザイトル・クァエに向けてアサルトライフルを構え、短い命令と同時に一斉に銃撃を開始した
「撃てぇ!!」
「グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」
それに合わせる様に【第十三支部】からも射撃や自身の持ちうる遠距離攻撃を行い、止めとばかりに黒獅子へと姿を変えた高藤が咆哮と共に極太の黒雷を放った
黒雷の爆風で花粉が吹き飛ばされて視界が戻る。炭化した木の様な物がゆっくりと倒れると、その後ろから無傷のザイトル・クァエが触手を揺らしていた
良く見ると触手の先には3m程の所々に銃撃によって小さな穴の空いた、くすんだ銀の幹を持つ、横に等間隔に並ぶ六本の枝の先の短く分かれた先端に丸い緑の葉が生えた木がまるで盾にする様に掲げられていた
-そしてそれは弱々しくも確かに枝葉を動かし、頂点の丸い先端が裂けた、内部に突起の生えた穴からダラダラと水で薄められた緑の絵の具の様な液体を垂れ流していたのだ!
「盾を使ったのか…!」
明確に知能があると判る行動に、【公安0課】に予想以上の脅威が現れた衝撃に僅かな動揺が走る
何故なら、もしこの中の誰かが捕まれば目の前の怪木と同じ様に盾にされる恐れがある事を示していたからだった
ザイトル・クァエは力無く動く怪木を捨てると触手を振り回す。無差別に振るわれる触手は回避が難しく、打ち付けられて武器をとり落とす者や、弾き飛ばされ、地面に叩き付けられる者が現れ始める
地面に倒れる【公安0課】の職員を捕らえようとする触手を、仲間が銃撃によって牽制する。負傷した職員を引き摺って触手の範囲外へと避難させながら戦闘を継続する
しかしこちらが放つ如何なる攻撃も穴の中から取り出された怪木の盾で防がれ届かない
「こうなったら…」
その時、【公安0課】の職員の一人-先程、蔦を凍らせた若い青年が覚悟を決めた様にそう呟くとザイトル・クァエへと駆け出した
「おい、止まれ!」
上司の命令にも足を止めずに接近すると銃撃を開始する。ザイトル・クァエはそれに構わず触手を青年に伸ばすと、そのまま青年を捕らえ、体を締め上げた
「ウググゥ…!」
「小林!!」
青年-小林は締め付けられる苦痛に顔を歪め、呻き声を漏らしながらも気丈に笑って、ザイトル・クァエを見据えて問う
「この状態なら盾は使えねぇよなぁ!?」
瞬間、小林は自身の能力を発動して周囲にダイヤモンドダストが発生する程の強力な冷気を発する。締め上げる触手は瞬く間に内部まで凍結していき、濡れた表面が霜に覆われていく
それに危機感を持ったのか凍り付いた触手によって身動きの取れない小林に向かって無事な触手で攻撃しようとするも、【公安0課】の銃撃や【神怪課】の攻撃に邪魔されてそれが出来ない
凍結する部分はどんどんザイトル・クァエの本体へと侵食していき、やがてザイトル・クァエの全体へと及び、不気味な動かぬ氷像へと姿を変えた。上に伸ばされた触手はまるで凍結から逃れようと天へと救いを求めている様にも見えた
「小林を救出するぞ!!」
「こっちは凍り付いた化物の破壊だ」
【公安0課】と【第十三支部】の職員はそれぞれ穴に落ちない様に銃撃や銃その物で叩いて攻撃する
アルベルトは小林を傷付けない様に凍り付いた触手を破壊する事に手間取る【公安0課】の様子を見て、【ダイン】を振るって黒い斬撃を飛ばすと、【黒縄】に変形させて巻き付けると引っ張って【公安0課】のいる場所に飛ばした
「グエッ!」
潰れた蛙の様な声を漏らして床に落ちた小林に、【公安0課】の職員が慌てて集まり、拳銃のグリップやナイフの柄で叩いて絡み付いたまま凍結した触手を破壊する
やがて自由になって起き上がった小林を、静かに近付いた中年男性が無言で思い切り頬を殴った
「グアッ!?」
「何で命令を無視したっ!!」
中年男性の怒号が室内に響く。小林は殴られて倒れた姿勢のまま中年男性から視線を逸らしてばつの悪そうに答える
「これが確実に奴を仕留める策だと思ったからです」
「死んだかも知れないんだぞ!確かに俺達の仕事は危険が多い。死ぬ可能性だって高い
それでもな、俺は部下であるお前達の命を預かっている以上、お前達を無事に現場から帰還させる義務がある
だからこそ、部下を犠牲にする可能性が高い方法を取る気は無い!!少しでもお前達を生きて帰す模索して、命令を下していく。今も、これからもな」
「…済みませんでした」
「以後、指示に従う様に。…俺も殴って済まなかったな」
中年男性が伸ばした手を小林は掴まって立ち上がる。その間、ザイトル・クァエは【第十三支部】によって原形を留めず破壊されて穴の底に沈んでいた
ネタとリアルによって又遅れるかも知れません




