95.月下にさざめくは狂い咲く樹塔の籠
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高藤との交渉から翌日、アルベルトを含む【第十三支部】職員が全員会議室へと集められていた
「集まったか。これより【バイオハザードによる変異暴徒事件】についての会議を始める。【自動人形】」
荒八木に名前を呼ばれた白衣を着た眼鏡を掛けた十代位に見える黒い短髪の男―【自動人形】が荒八木の隣に置かれていたパイプ椅子から立ち上がると、手元の資料に視線を落としながら説明を始める
「あぁ、先ず事件の始まりである東京、神奈川に現れた爆発による破損をしたコンテナを積んだトラックやタンクローリーは既に【第一支部】が回収し、残された内容物の解析が行われている。移動ルートも【第三支部】が監視カメラの映像や情報規制の為に削除されたSNS等のコピーから情報を解析して特定が進んでいる
次に被害状況だが建物は下手な自然災害と同レベルで半全壊。人的被害は発生源に近い程変異とそれによる暴走が発生。【第一支部】が回収した【変異者】は完全に自我が喪失しており、破壊及び殺人衝動のままに能力を乱用。対話等の意思疎通が成功したという報告は現在なく、投薬等による鎮静化までならともかく元の人間に戻す事は現状不可能という見方がされている」
その説明と同時に前方のスクリーンに東京と神奈川の一部を拡大した地図が映しだされ、被害範囲を示す淡い赤の円と現場の写真、コンテナが内側から破壊されたトラックと変異した人間らしき変質した人型の画像が映し出される
「【東京第一特殊刑務所】の奪還に成功。その際、幹部と思われる、仮面を付けた白衣の若い女性と青年と接触したという報告がある。女性の能力は肉体の変質で、鱗等の組織の生成、及びそれらを組み合わせた混成生物の生成が確認された。青年の能力は不明だが、魔術を使用するらしい
また、【泥男事件】に関わる事を口走っていたという報告も上がっている。あの場所にいた事からも今回の件にも深く関わっている事は間違いないだろう」
荒八木がそこで言葉を切るとスクリーンに写された被害範囲を示す地図以外の画像が消え、新たに倒壊した建物を飲み込む巨木を中心とした小規模の森や蟲の大群の画像が映し出される
「これらは事件の混乱の最中突如として現れたものだ。蟲が出現した地域は蝗害に遭った田畑の様にあらゆる物が食い荒らされ、更に排泄物で汚染され疫病の温床となりかけている。蟲そのものは食料が尽きると同時に其の場から散開したりマンホールや排水口から下水道へと姿を消している
次に巨木は仮面を着けた白衣にローブを着た人物が現れて両手を広げると、地面を突き破って3m程の一本の未知の樹木が現れた。その後の報告で樹木は地球上に存在するあらゆる植物の特徴を持つキメラである事が分かった
その樹木は地面から複数の根、又は蔦を出現させると仮面の人物を避けて周囲に向けて伸ばした。手当たり次第に周囲の人間や建造物に巻き付くと、人間や生物は中身を吸い取られた様にミイラ状になり、建造物は巻き付く圧力で破壊された
それと共に樹木は成長し、最終的に画像程の巨木へと変化した後、種子を撒き散らしすぐさま発芽。小規模の森を形成した。報告によると種子に寄生能力があり、発芽して根が脳まで達すると操られるらしい
数時間に及ぶ調査と戦闘の最中、突如樹木の活動が停止。即座に葉や花弁が茶色に変色し、萎びて枯れたと表現できる現象が発生。その後の調査で完全に活動の停止が確認された。また巨木を発生させた仮面の人物は発見されなかった」
「以上の事以外では大きな出来事は報告されなかった。襲撃による被害を受けた支部の立て直し、再編が完了し、調査が行われている」
荒八木がそう言った所でモニターからポンッ!という軽い音が鳴った。モニターを操作している【自動人形】が送られてきたデータを暫く眺めるとモニターに映し出された地図の東京都内に赤い点が現れた
「別件で来日していた【solver】の協力もあり、拠点らしき場所が判明した。トラックの発進元である事も確認。場所は【ファルス製薬医薬研究所】。付近の監視カメラからは仮面の人物らしき人物も確認された。尤も他の職員の可能性もあるがそれでもまず間違いないだろう
よって本日21時に【ファルス製薬】関連会社の立入検査を行う。私達は今送られてきた【医薬研究所】に向かう。各自万全の準備を整える様に。解散!」
荒八木の号令で一斉に職員が部屋から退室を始める。アルベルトも部屋から出ようと立ち上がった時、【自動人形】がアルベルトを呼び止めた
「【双頭の猟犬】、ちょっと待て」
「何だ?」
「ほら、終わったぞ」
【自動人形】はそう言うと引いてきた台車の上に乗せられた縦2.5m程ある黒い塗装の金属ケースをアルベルトに差し出す。留め金を外すと中から2m程の大型回転弾倉砲が現れた
「良く調べたら他にもガタが来ていた上に型落ちしていたから別物を用意した。時間がかかっていたのは元の銃と比べた重心とかの調整だな
【オティヌス・アレクトⅥ:OC】電磁加速装置と砲撃に対する反動制御装置の改良。シリンダーを改良した事で装弾数が6から8に増加。装弾形式は中折れで、反動制御装置と連動した回転機構を用いた自動装填。フルバーストは従来のオートマチックと遜色無い代物だ
銃身の拡大、及び重量の増加。フルバースト後は砲身冷却の為に十分は使用不可。そして新たに砲弾の口径が変わったから注意しろ。砲弾はもう一つのケースにそれぞれ一式入っている」
「了解。済まなかったな」
「本当だ。もっと丁寧に扱え」
アルベルトが台車から【オティヌス・アレクトⅥ:OC】の入ったケースを背負い、砲弾の入ったケースを回収すると申し訳なさ気に笑って言う。対する【自動人形】は心底うんざりした様子で半眼になりそう言った
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同日、時刻21時、周辺一帯に『有害物質の漏洩』と云うカバーストーリーの流布による一時的な退去と交通規制が行われ、一般人から隔離された【ファルス製薬医薬研究所】の敷地前に、【第十三支部】のメンバーを含む【神話・怪異対策課】職員とアンシャトレーヌとその部下、【公安0課】及び【怪異対策班】の職員又は隊員が集まって突入の準備を済ませていた
「準備は出来たか?」
「あぁ、それにしてもアレは中々凄いな…」
両腕に戦国甲冑に使われる様な数枚の金属板の端を段々になる様に重ねた重厚な小手を嵌めた荒八木の問い掛けに【ダインスレイフ】を抜刀して【医薬研究所】を眺めるアルベルトは感嘆交じりにそう答える
その視線の先には冬に差し掛かった凛冽とした澄んだ空気の輝く満月の下、白いタイル張りの四階建ての横に広い建物を飲み込む様に幾本もの樹木が中央の巨木に螺旋状に寄り集まって一本のフィクションにある世界樹の様な優に100mは超える大樹を形成していた。コンクリートで舗装された地面からトランプのダイヤの様な菱形が寄り集まった幹に鮮血の様に鮮烈な紅い桜の花弁の椿の様な満開の花を咲かせる高さ6m程の樹が乱立して、コンクリートの破片で足場が悪くなっている
風もなくさざめく濃い緑の中に紅い蕾が散在する巨木の上に輝く月の下に、半透明の中央が上下に弧を描いて膨らんだ円形の物体が広がり、まるで巨大なレンズが宙に浮かんでいる様だった
「突入部隊、準備完了しました」
「こちらも問題ないわ」
「【第十三支部】準備完了」
「では突入!」
荒八木の号令と同時に突入部隊は怪しい樹木が乱立する【ファルス製薬医薬研究所】の敷地へと足を踏み入れる。部隊の半数が敷地へと侵入した時、巨木が一際大きくざわめくと頂点から上空へと長い線の様な物が伸びると中空で放射状に散開し、円状に地面に降りてきた
「な、何だ!?」
「既に敷地内にいる者は前に進め!まだの者は待機だ!」
二つに分かれた集団の間に細い捻じれたそれは淡い光を放ちながら地面に突き刺さる。外から見るとそれはまるで巨大な鳥籠の様であった
解説
防御と空間について
肉質:其の存在が持つ特性
例:原生物の流動性や、ミ=ゴやシアエガの貫通最低値等
装甲:生物の体表にある堅牢な組織。又は装備
例:外骨格や鱗、甲殻等。或いは鎧や防護服等
障壁:魔術等の技術による防壁や防御の付与
例:《ナーク=ティトの障壁》や《肉体の保護》等
結界:異界や領域を区切る物や概念。又の名を境界
例:山の麓、神社の鳥居や注連縄、川等
領域:神格や其れに準ずる存在が構築する異界の一種
異界:知的生命体が人為らざる存在の領域と定めた場所に対する概念によって構築された【領域】。又は一定以上の力を持つ存在が構築した【領域】
侵入者が本来存在する空間や時間、次元から隔離された場所。【領域】或いは異空間。其れ等の総称。異世界とは別物
例:山や森等。きさらぎ駅
門:結界を緩め、曖昧にし、時空や異界を渡る術。或いは其れを引き起こす物
例:濃霧や闇、橋等。銀の鍵や《門》の魔術等
追記:《招来/退散》の魔術は《門》に加えて特定地点に対するマーキングを施す魔術を組み込んだ魔術である
序に【神怪課】の通常装備はアルベルトや荒八木達の例外を除き、素材が一般的な範囲で強化されただけの自衛隊が装備する物と同じ物です。神話生物由来の素材はリスクが高過ぎて無理




