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93.激戦

少し遅いですが明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします


現在に戻ります

八重樫回はこれで終わります

 時は戻り現在、【東京第一特殊刑務所】


 ―ブゥン!ズチュッ!

 ―ガキンッ!ボグッ!


 八重樫と仮面の人物との戦闘は激化していた。ワイヤーを使ったナイフの振り下ろしを仮面の人物の周囲から伸びた床の血肉の壁が受け止め、仮面の人物が何処からともなく取り出した両手の大鉈の片方を引き戻して逆手に握ったナイフで受け流し、もう片方が届く前に義足で蹴り飛ばす


 それなりに重い一撃だった筈だが、仮面の人物は接触の瞬間に後ろに跳んだのかそれなりの距離を飛んだにも関わらず軽い足取りで着地すると無邪気な嗤い声と共に足元の血肉の床から無数の触手を伸ばした


 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 八重樫は軽業師の様な身のこなしで触手を回避したり、足場にして前へと進み、仮面の人物に接近する


 仮面の人物の目前まで迫る。振るわれる双刃を体捌きと足運びで躱し、背後に回った八重樫がその華奢な首筋へとナイフを突き立てようとした時、くぐもった小さな詠唱と共に体が後方へと吹き飛ばされた


 「グッ!」


 更に床から形成された触手の群れの薙ぎ払いにより更に後方へと飛ばされる。胸を打つ絡み付いた極太の触手群の一撃を構えた杖を交差させたナイフを支えにし、更に接触の瞬間に腕を引き、体を逸らす事で衝撃をいなし切る


 捻りを加えながら縦に反転し、床に頭が向いた瞬間に杖を突いて体勢を整える。ナイフを手放すと素早く腰から大型拳銃を抜き、銃弾を放つ


 宙を駆ける銃弾はしかし、仮面の人物を守る様に伸びた絡み合う触手の壁に阻まれ、体液を噴き出して受け止められる


 「アハハ!無駄だよ!無駄だよ!貴方も私のしもべになるんだよ!」


 四発、五発と肉壁に銃弾が受け止められる。その様子に仮面の人物の嗤い声が大きくなったその時、


 ―グシュッ

 「―えっ?」


 貫通した一発の銃弾が仮面の人物の脇腹を抉って背後に抜けた


 思いも寄らない一撃。格下と舐めていた相手から受けた負傷による痛みは彼女の高いプライドを確かに傷つけた


 「テメェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 激昂した仮面の人物は壁にしていた触手を着地した八重樫に向けてその先端を向けて伸ばす


 「…まるで子供だな」


 そう呟いた八重樫は腰にぶら下がる手榴弾を三つ抜くと迫る触手の壁に投げつけた


 触手に飲まれる直前に放たれた銃弾が手榴弾を穿ち、爆発する。吹き飛んだ触手の群れを潜り抜けた八重樫は素早く詠唱すると爆炎の残滓から一匹生ける炎―炎の精を目の前に呼び出し、すぐさま別の呪文を詠唱した


 「【赫灼たるフォーマルハウトに住まいし大いなる炎帝の眷属よ。今こそ秘めた力を解き放て!フングルイ ムグルウナフ クトゥガァ、フォーマルハウト ンガァ・グァ ナフルタグン イア!クトゥガァ!】《炎精の解放》!」


 次の瞬間、炎の精はその体を大きく揺らめかせると一瞬の内に膨張して先程の手榴弾と比にならない威力で爆発した。空間を震わせる程の衝撃と爆轟が拡張する炎壁を伴って独房棟の通路を触手ごと呑み込んでいく


 至近距離にいた八重樫は叩き付けるそれらを事前に付与していた《肉体の保護》で受け止めながら更に前へと加速した


 《肉体の保護》が削られる感覚を感じながら爆炎に包まれて仮面の人物へと肉薄する。触手が焼き尽くされて無防備になった体を仰け反らせる仮面の人物が振り下ろした大鉈を杖で受け流すと、すれ違いざまに身を翻し逆手に構えたナイフを仮面の人物へと突き出した


 確実に左胸、心臓がある場所へとナイフは深々と突き立てられた―






































 ―その筈だった(・・・・・・)


 違和感を覚えた八重樫は直感に従い後ろへ跳んだ。刹那、先程まで八重樫がいた場所を闇色の長い何かが硬質な床を削る重厚な音を立てて通り抜ける


 それは全体がやすりの様な鋭利な鱗で覆われた眼のない鰐か蛇の様な存在だった。鮫の様な幾重にも重なる牙を打ち鳴らして今し方抉り取った床の残骸を咀嚼すると飲み込み、鎌首をもたげて八重樫を存在しない眼で見降ろす


 八重樫が仮面の人物がいた場所を見るとそこには床を覆っていた血肉を吸い上げ、下半身が灰色みがかったタールの様な玉虫色の光沢を持つ黒い廊下半分を埋める程肥大化した楕円体の不定形の体に変化させ、そこから生えた上半身が天井近くから背を丸めて仮面を隠す様にブロンドの髪が垂れ下がる


 不定形の体からは鱗、眼、口、触手、手、脚が無秩序に浮かんでは沈みを繰り返し、出来の悪い手足のねじくれた暗い眼窩を晒す同色の人形(ひとがた)が沸き出て床に倒れながら前に進む


 臀部と思われる場所から伸びる先程襲い掛かってきた鱗に覆われた長い存在が八体、眼窩すら存在しないのっぺりとした硬質な頭部で睨み付けていた


 異形と化した仮面の人物は狂った嗤い声をあげる。肥大化した体はその場から移動出来ない代わりに一階に通じる階段への移動を封じる壁となっていた


 「アハハハハハハハハハハハハハハハ!死ネ!死ネ!死ンデシマエ!」


 その言葉を号令に八首の黒蛇が八重樫へと襲い掛かる。一体目の大きく開かれた顎を半身になって下がると同時に拳銃を発砲する。銃弾は鱗に当たると甲高い硬質な音を響かせ弾かれ、運良く口内に入った銃弾もどうやら痛痒を与える事は出来なかった様だ


 二体目が左後方から回り込み滑空する様に襲い掛かるのを体を傾け、横に反転する勢いを乗せた杖の一突きを挟み込むように迫っていた三体目の横っ面に叩きこむ。偶々近くにいた四体目にぶつかり互いに怯むとその隙を衝いて潜り抜ける様にその下を駆け抜ける


 残り四体が八重樫に迫る。しかしその大きな図体がそれに対して狭い通路では上手く動かす事が出来ず、その隙を潜り抜ける形で仮面の人物へと接近していった


 ブヨブヨとした肉体から這い出た人間と呼ぶには余りに不完全な人型が八重樫に殺到するも移動の合間に装填した銃弾とナイフで瞬く間にその数を減らし、積み上がる半ば溶解した死体を足蹴に前に進む


 遂に肥大化した下半身の間近まで接近した時、仮面の人物はその水風船の様な下半身を大きく震わせると無数の触手がビチャビチャと水音を立てて腐敗した血肉の悪臭を漂わせる体液を撒き散らして生え、八重樫へと襲い掛かる


 それらをナイフや杖で捌いていた八重樫だったが、杖で太い触手を逸らす様に受け流した時、ミシリと軋む様な音が鳴り、追撃する様に振り下ろされた細い触手が絡み合った触腕がぶつかった時、バキリと音を立てて中程から圧し折れた


 それを見た八重樫は眼を見開き、仮面の人物は仮面の奥で嘲る笑みを深める。好機と見た仮面の人物は杖の失われた左側へと殺到する


 八重樫は杖の残骸を捨てるとスーツの胸元にある裏ポケットから四つ折りの紙を取り出すと片手で開き、触手の群れに掲げる様にして魔力を流した


 A4程の大きさの紙がそこに描かれた歪んだ星形の中央に眼とも平皿の中央に灯る小さな火とも取れる物―《旧き印(エルダーサイン)》を中心に煌々と輝く


 触手の群れが《旧き印(エルダーサイン)》に触れた瞬間、内部の水分が沸騰する様に泡立ち膨れ、のたうちながら弾ける様に粘性のある黒い体液を撒き散らして崩壊した。更にそれは伝播する様に凄まじい速度で根本まで崩れるとそのまま蠕動する潰れた水風船の様な下半身をも駆け抜けて、中程の高さの最も張り詰めた部分が真一文字に裂けて大量の体液を噴き出しながら崩れ落ちた


 対する八重樫も無傷とはいかず、接触した際の運動エネルギーを流す余裕もなく吹き飛ばされて壁に背中を強打する。無理矢理押し出された肺の空気と激痛に一瞬、息を詰まらせながらも意識を保ち、倒れる前に脚を前に踏み出して反動で前に倒れる事を防ぐ


 「ガッ!?グゥウウ…!」

 「ギヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」


 八重樫はふらつく体を気力で支えて仮面の人物へと歩を進める。その時、コツコツと固い靴底が床を鳴らす音が聞こえてきた。段々と近付いてくるその音の主は裾の長い白衣に同色のローブを着た倒れる仮面の人物と同じ物と思われる仮面を付けており、ごく自然にそれこそ偶々散歩に寄っただけにも見える程違和感なく不自然な程自然な様子で仮面の人物の下へと歩いていた


 「…これまた随分とこっぴどくやられた物だね」

 「ウ、ウグゥッ…!」


 嘲る様な口調で倒れる仮面の人物に声を掛ける。仰向けに倒れる仮面の人物は悔し気に唸り声を上げるだけで起き上がる様子はなかった


 「まだ君には仕事が残っているんだ。これ以上此処に留まる意味もないし戻ってもらうよ」


 そう言って仮面の人物に肩を貸す為に屈んだ時、観察する為に立ち止まっていた八重樫は素早く新たに現れた人物の頭部へと構えた拳銃の引き金を迷いなく引く。しかし放たれた銃弾は新たに現れた人物が何気ない様子で振り返り、右手を向けると突如軌道を変えて明後日の方向へと飛んで行った


 「では失礼させていただくよ」


 八重樫は小声で詠唱を完了させて右腕にモルディギアンの力を宿した触腕を袈裟斬りにする様に振り下ろす。しかし八重樫と仮面の二人との間に広がったタールの様な体液が波打ったかと思うと一気に噴き上がり、壁の様に【独房棟】を塞いだ


 障子を破る様に容易く引き裂くとその向こうには既に誰もいなかった


 「逃げられた、か。一応、任務達成だがこれは…」


 苦々し気にそう呟くと八重樫は黒い体液と外殻だけを残し中が空洞になった八頭の蛇擬きの残骸が横たわる【独房棟】の探索を再開した。度々襲い掛かるゾンビと交戦する事になったものの、数時間後には【東京第一特殊刑務所】の制圧が完了したのだった

アルベルト視点に戻ります

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