表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/156

8.餓狼解放

 俺はアルグス達の前でキメラを見据え、ナイフを順手に持って腰を落とす。その眼差しは正しく久方振りの獲物を目の前にした飢えた捕食者そのものであり、もし、【気薄影身】を使っていなければキメラといえどもその眼光に竦み上がり、逃げるどころか動く事すらままならないだろう鋭さと強さだった


 キメラは口を開いて鳴き声を上げ、俺を踏み潰そうと蹄の付いた両脚を上半身を反らせ、嘶く馬の様に体ごと高く持ち上げる。恐らく偶々近くにいるからの行動だろうが隙の大きいその行動は俺相手に悪手もいい所だ。俺は嘗て軍事学校時代に同い年にしか見えなかった教官に言われた言葉を思い出す


 『いいか?お前らに敵対者の対処について幾つか教えるぞ。先ずは―』

 「――第一に仲間を呼び、助けを求める声を奪う」

 「ギョエッ!?」


 そう言って俺の手から手首の返しだけで放たれたナイフがキメラの開かれた嘴の中に吸い込まれ、喉を貫く。本来は縄等で締め上げて窒息させると云う意味だからやっている事が全く関係ないが気にしない


 キメラは短く戸惑う様な鳴き声を上げて沈黙すると、殺意と怒りを燃え上がらせて両脚を振り下ろし、俺を踏み潰そうとする


 「第二に逃げる為の脚を奪う」


 その場に僅かに舞い上がる土を残して《縮地》で一瞬でキメラの直ぐ後ろに移動する。移動前に左手から持ち替えた順手に握るナイフと逆手に抜いたナイフで股を通り過ぎると同時に軽く跳んで回転し、擦れ違いざまに両後足の腱を乱暴に何回も切り裂く。魔力を纏った刃は丈夫な皮を切り裂き、腱を断ち切った


 通り過ぎて地面に脚を付けるとつま先で地面を捉えて強引に回転を止め、キメラの方を向く。それと同時にキメラは体勢を崩して地面に倒れるが、直ぐに前脚で体を持ち上げる


 キメラは苦し紛れに尻尾を横薙ぎに振るが、俺は尻尾を掴み、乗り越える様に避けるとアルグス達の下に戻る。その際、通った左脚の腱を切り裂くのを忘れない


 「第三に抵抗する為の手段を奪う」


 右手のナイフを投擲して倒れたキメラの右足の膝関節に突き刺す。これでもう動けない。終わり(チェックメイト)だ。俺は左手のナイフを右手に持ち、腰を落として纏う魔力の密度を高める


 「最後に残った命を奪う。じゃあな」

 「ギ、ギャッ」


 俺は一気に地を駆け、俺に殺意と敵意、そして何処か諦めの混じった眼を向けるキメラに近付き、一瞬で通り過ぎた所で腰を落とし、腕を前に向けてやや下に下げた状態で止まる。喉を潰され呻き、四肢を失いもがく事しか出来ないキメラは一瞬、動きを止めると体中から鮮血を噴き出して崩れ落ち、ピクリとも動かなくなった


 《仙斬術》 地之型 【血桜散華けつおうさんか


 魔力が籠った斬撃を斬り付けた箇所に残し、技の最後に解放されて追撃する技だ。手数が多ければ多い程威力が上がるが、その分、魔力の維持や制御の難易度も上がり、下手に失敗すると暴走した魔力が自身にも牙を剥く中々に危険な技である


 思い出した様に風が吹き抜ける中、ゆっくりと静かに残心を解いた俺はキメラを振り返り、敬意の籠った眼差しと言葉を静かに送る


 「心地良い殺意だった。もし、お前の魂に次があるならばもっと強くなって俺の前に立ってくれよ」


 俺はそう言うとナイフを一度強く振ってから、ポーチから取り出した布で拭って汚れを落とすと納刀し、眼を閉じて合掌した。2、3秒程で眼を開けるとキメラの死骸からナイフを回収した。嘴の中に投擲したナイフは唾液と血液でグチョグチョにだったので少し不快だったが、水の魔法で洗い流してから鞘に納めた


 「アルグスさん、終わりましたよ」

 「は、はい。所で今のは?」

 「秘密ですよ。それでどうしますか?」

 「そうですねぇ。本当だったらアルベルト様には戻って欲しい所ですけど」

 「自分の身は自分で守れますよ?」

 「そうなんですよね。寧ろ我々が足手纏いになり兼ねないですからね。取り敢えず何かの前兆かもしれないのでもう少し探索しましょう」

 「分かりました」


 そうして暫く【ギルム・ヘルムの大森林】の表層を見て回ったが、キメラの様な大型で危険度の高い魔物はおらず、小規模のゴブリンやオークの集落があったのでアルグス達と共に潰して帰った。レイチェルと二人の母親にとても心配され、怒られた


 翌日、


 「あぁ~。クッソ、体痛ぇ~」


 筋肉痛で自分のベットの上で動けなくなっていた。魔力纏って体を強化していたとは言え、負荷は当然掛かり、魔力を解いた瞬間にそれらが全身、特に脚に降り掛かって筋線維はボロボロ、骨は疲労骨折になりかけていた。実の母で治癒魔法がある水属性魔法が扱えるエミリーは、『無理をした罰だ』と言って治療してくれなかった。酷い


 「無理をなさるからですよ。何か欲しい物はございますか?」


 ベットの横で椅子に座るレイラが優しい声で俺の頭を撫でながら森での行動を窘める


 「特にはないよ。いや~、転生前みたいにはっちゃけたくなっちゃってさ。後悔はしてないよ」

 「でも反省はしないといけないよ?」

 「おや、エイブラハムお兄様。いらっしゃったのですか?」

 「うん。口調は変えるんだね?」

 「一応、必要かと思いましてね。それより僕の事を聞いたので?」

 「転生がどうこうって話はね。びっくりだよ。まぁ、何故か誰も黒目じゃないのに黒目だったから何かあるんじゃないか?何て話しはあったけどね」

 「それは知りませんでしたねぇ」

 「まぁ、ゆっくり体を休めなよ」


 そう言ってエイブラハムは手を振って部屋を出る。俺は欠伸をしながら体の調子を見ていた


 「この感じだと1週間くらいは動けず暇なんだよねぇ」

 「それまで私がアルベルト様のお世話を致しますよ」

 「御免ね?後、別に嫌なら世話をしなくて良いよ?」

 「いえ、私がやりたくてやっているのですからお気になさらないでください」


 そんな平穏な時間が日差しが差し込む部屋の中で静かに流れていた

解説

《仙斬術》

《仙術》と言う《練気術》を用いた武術の内、斬撃系統の呼び名

地上戦の地之型と、地対空戦又は空中戦の天之型の二つがあり、それぞれ奥義に当たる技が極地と終天と呼ばれる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ