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 私は決めたんだ。どんな事からも、もう逃げない、と。

 あの日、目の前でかけがえの無い家族を亡くしてから、私は全てから逃げ出そうとしていた。生きることからも、逃げようとさえ思っていた。生きる事は辛い事の連続だと言うけれど、それにしても、こんな仕打ちは無い。あれから何日過ぎても、ボロボロになって、最期まで私を護ろうとした、父さんの姿が目に焼きついて離れない。母さんの悲鳴が、断末魔が、耳から離れない。夢の中にまで出てきて、私に助けを求めている。

 毎日毎日、避難所の片隅で、膝を抱えて俯いて過ごしていた。誰に話しかけられても、ずっと、黙ったまま、心を閉ざしていた。他人と関わるのが、たまらなく怖かった。また目の前で大切な人を失う事が。ずっと心を閉ざしていれば、誰とも関わらずに過ごしていれば、もうあんな辛い思いをしなくて済む。そう思っていた。

 手首を切ろうかと思った事もあった。死んでしまおう。死んでしまえば、もう何も苦しいことは無い。辛いことは無い。あの日みんなと一緒に死んでいたら、どんなに楽だったろう。そう思う事さえあった。でも、正直、死ぬのも恐かった。あの日から、たくさん見てきた死体。血の気のなくなった青白い顔の中で、光の無い瞳だけが、どこか虚空を眺め、その顔は最期まで恐怖に歪み、助けを求めるようだった。私もああなるのかと思うと、恐かった。

 でも、病院に併設された避難所に運ばれてくる、血まみれの人たちを見ている内に……、私自身の傷口を抑える、ガーゼに滲みる血を見ている内に、思い出した。

 あの日、目の前でたくさんの人が死んでいった日、私は生き残った。私はまだ、生きている。まだ、心臓は止まってない。私の体の中には、熱い血が流れている。

 思い出した。私は、生きている、って。

 死んでしまった人は、もう何をすることもできない。絶対に、死にたくなんて無かったはずだ。それなのに、あの日、何の前触れも無く、終わらされてしまった。そんなかわいそうなことって無いよ。

 でも、私は死ななかった。生き残ることが出来た。運が良かったのか、誰かが助けてくれたのかは分からない。でも、今、こうして生きていられる。だったら、死んでしまった人の代わりに、何か私に出来ることがあるはずだ。

 そう思うようになった。生きているからこそ、何か出来ることがあるんじゃないか。生きているからこそ、やらなきゃいけないことがある、そう思った。あの時、自分の命を張って、私を護ってくれた父さんと母さんの姿が、私の背中を押してくれた。

 そんな時だ。私が柿本博士と出会ったのは。だから、「一緒に戦わないか」と誘われた時、私は断らなかった。むしろ、嬉しかった。私なんか、どうせNOAHと戦っても、敵わないだろうって思ってたから。こんな私でも、役に立てるんじゃないか。そう思ったから。

 私なんかが戦ったって、いつかはやられて死ぬ。でもこのまま、ここで何もしなくても、いつかは死ぬ。だったら、負けてもいい。死んでもいい。少しくらいは、みんなの役に立ちたい。足手まといになるかも知れない。それでも、みんなと一緒に戦いたい。

 死ぬのは嫌。でも、何もしないで死ぬのは、もっと嫌。どうせ死ぬなら、少しくらい、誰かの役に立って、それから死にたい。そう思った。戦っても、死ぬ。逃げても、死ぬ。だったら私は、もう逃げない。最期まで戦う。そう、決めた。

 だから私は、NOAHとの戦いに志願した。

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