表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

「当時から私は、大学の院で機械工学を専攻していたのだがね。私には、妻と、2人の娘がいたんだ。毎日を研究に明け暮れていた私は、ある日家族を、ドライブに連れて行ったんだ。その山中でね。交通の少ない登山道だったから、他に誰も見ていなかったんだ。急に車道に飛び出してきた何かを避けきれなくて、私の車は崖下へ転落した。私だけが車外に放り出されて、結果私だけが助かったのだが。はじめは、熊か何かだと思ったんだが、違った。それが、私とNOAHとの出会いだ。初めて奴らを見た私は、それは鬼かと思ったよ。後から後から、次々とNOAHが現れて、そして私の目の前で、乗っていた車が襲われて、妻と娘たちは、NOAHに殺されたんだ。」

「警察には……、言わなかったんですか?」

「もちろん言ったが、取り合ってなどくれなかった。私が見たものは何かの野生動物。妻と娘は事故死、と言うことで片付けられた。ショックで記憶が混乱しているとか、頭がおかしくなったとか、色々言われもした。それよりも何よりも、何も出来ずにただ逃げたような自分がたまらなく悔しかった。後から調べてみれば、NOAHの目撃情報や、被害にあったと言う話は、伝説とか、怪談とか、そんな次元ではあるが地元では何件も報告されていたそうなんだ」

 柿本は遠い目をしていた。

「そこで私は、NOAHへの復讐を誓ったんだ。それから20年間、……もう20年にもなるのか……。私は、ずっとこの日を夢見ていた。そしてこの日のために、こいつの開発を続けてきたんだ」

 復讐のため……だと?

「つまり、あんたの復讐のために、俺を利用しようってのか?」

 柿本は俺に向き直ったが、けれど何も言わない。

「自分でロボットの脳みそが作れないから、俺を利用して、ロボットを完成させて、それで復讐しようってのか!?」

 俺は柿本に向かい、柿本の白衣の肩を両手で掴んだ。

「あんた、人を何だと思ってるんだ! 俺はロボットの部品なんかじゃない! 復讐がしたいなら、一人で勝手にやってろ!」

「……君は、悔しくは無いのかね?」

 柿本の、絞り出すように発せられた言葉は、けれどどこまでも力強かった。

「君は、自分の家族が殺されて、日常を奪われて、それでも悔しくないのかね!?」

 ふと、渚の顔が頭をよぎった。

「私は悔しかった。妻を、娘たちが殺されたときも。そして、先の戦闘でも、私の下に集った同志が何名か、命を落としている。家族が殺されて、仲間が殺されて、悔しくはないのか。ただ黙って、殺されるのを見過ごせと言うのか」

 柿本は、押し殺したように、静かにそう言った。しかし、その瞳には、強い力が込められていた。

「それに、日常を奪われたのは私や、君だけではない。あの日の戦闘だけで、数百人の命が奪われた」

 俺の目の前で、何人もの人が動かなくなっていった。

「犠牲者や、その遺族だけではない。それ以外の市民も、どこに潜んでいるとも知れぬNOAHの恐怖に怯え、隠れるように生活しているんだ」

 幾つもの死体を前にしても、けれど俺には渚を護るどころか、逃げる事すら出来なかった。

「確かに私は、君を君の意思に関係なく、ただ自分の復讐のためだけに、NOAHと戦う兵器へと改造した」

 何も出来なかった俺の目の前で、渚は殺された。

「かってな事を言っているのは重々承知している。けれど、この復讐は、君自身のためでもあるんだ。違うかね?」

 くそったれが……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ