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 俺は柿本に導かれるまま、部屋を出た。足の代わりに、二本の機械を動かしながら。機械の脚は、とてもスムーズに稼働し、忘れていれば元の体と違わないようにさえ感じた。しかし、それでも違和感を覚えずにはいられない。歩けば、リノリウム張りの床から、カシャ、カシャと金属的な足音が鳴り、モーターやシリンダーの稼働する音が聞こえるのだから。

「うん、動作には問題ないようだね」

 柿本は俺に話しかけながら、長い廊下をゆっくりと歩いた。この廊下には、というか、先ほどの部屋もそうだが、窓が無い。ただ白く装飾の無い壁と、等間隔に並ぶ金属製のドアだけが、続いていた。

「NOAHが本格的に活動を始めたのが、君が襲われた、あの日からだったからね。君が何も知らなくても無理は無い。あれから君は、1週間眠ったままだったから」

NOAHノアー?」

「ああ、あの化け物……、白い巨人の事だよ。我々が便宜的に付けた名前だ。Neo human who evolves Over the limit Adversary of Human raceの略だ。直訳すると、人間に敵対する、限界を越え進化した新人類」

 俺はあの日の惨劇を思い出す。あの醜悪な怪物の顔。人の形をした悪魔。いや、鬼だろうか。

「奴らの正体が何者で、どこから来たのか、何も分からない。ただ、突如現れ、人間を襲いながら爆発的に増殖し、地上を占拠している」

 柿本が一つのドアの前で止まった。他のドアとは違い両開きで、その脇には金属のパネルが壁面に埋まっていた。これは、エレベーターだ。柿本がボタンを押すとすぐにドアが開いた。ゴンドラはこのフロアに停まっていたらしい。俺たちは、エレベーターのドアをくぐった。

「あまりに急な、それも大群での出現だったからね、警察や自衛隊も、ほとんど何も出来なかった。すぐに出動した地元警察では手に追えず、自衛隊の出動要請が掛かった。それでも、その時にはNOAHは増えすぎていた。ましてや、奴らが現れたのは市街地の真ん中だったからね。警察や自衛隊は、むやみに攻撃することも出来なかったんだよ。すぐ側には民間人がいるかも知れないんだからね」

 重力が増加しているが、エレベーターの天井付近に表示される数字は小さくなっていく。ということは、ここは地下なのか。だとすれば、随分と深いことになる。乗り込んだフロアの、エレベーターのドアの上部には、58と書かれたプレートが張り付いていたから。

「私たちに出来たのは、逃げることだけだった。警察も自衛隊も、何も出来ないまま、みずみず殺されるだけだった。民間人だけじゃなく、多くの警官や自衛官が殺されたんだ」

 小さなエレベーターの中は無機質で何の装飾もされておらず、フロアの案内すら無い。ただ、静かな動作音と、増加する重力だけがある。

「現在、K県中央部は既にNOAHの勢力下に置かれている。今のところNOAHはどこかに身を潜めているようだが、再度侵攻は時間の問題だろう。警察も自衛隊も、前線を守るので精一杯のようだし」

「じゃあ、今は……」

「1週間経って、街は落ち着きを取り戻しつつあるが、でも、いつ訪れるとも知れぬNOAHの恐怖に、皆が怯え、過ごしている」

「……」

「そこで政府はNOAHと対抗するため、あるプロジェクトを立ち上げたんだ。そして、私の研究所に声が掛かった」

「でも……、それとこれと、一体何の関係があるんですか? これは一体何なんですか?」

 俺は柿本に向き直り、右肩から生えた機械を見せ付けるように前へ、柿本へ差し出した。

「この扉の奥に、その答えがある」

 エレベーターがゆっくりと停止した。

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