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番外編ー怒りの導火線


私は彼らの恋を凄く助けたし、凄くかき回しもしたとも思う。


それはもちろん、半分以上は当人達の為で、でも、残り半分はというと実は、けっこう、自分の為だったりもした。


「はぁ、なんで私はあの二人が付き合ったら私も告白しようなんて……」


そんな目標を立ててしまったのだろう。


私はあの二人なら中学の間にはさっさとカップルになるものだと思っていたし、私と彼の関係ももっと進展しているはずだった。


なのにだ、気の弱いの透君もさる事ながら親友の鈍感美帆ときたら全くもって進展を見せない。


もういっそ私は別で先に告白してしまおうかなんて考えもあったけど、一度決めた事を覆して告白に行くなんてのはなんとも縁起の悪い気がして気が引けた。


「そうは言うけど、俺だって結構頑張って……」

「はぁ、透君て私に泣きついてくる時の雰囲気、美帆とそっくりね」


私は小さくため息をつきながらも、いつも通り無難なアドバイスに徹する。


それにしても、この二人の相談役を同時に受けている私はなんとも複雑な気分だ。


恋愛ってのはこんなに難しいものなのだろうか?


相手に好意を示す→相手からそれが返ってこれば成立する。


ただそれだけの話しだと思うし、私をサンドイッチの具にしてこんなに愛し合う二人が未だに結ばれないなんて滑稽でしかなく、いつか来る私自身の告白を不安にさせていた。


私が好きな相手はクラスメイトじゃない。

どころか、実は学校すら違う。

接点はただ、私の通うスイミングスクールで私と同じ選手養成クラスにいる年上の男性だ。


彼は私が水泳を習うきっかけだった。


早く、それ以上に伸びやかに水面を過ぎていく彼を見て私は彼を勝手に目標に決めていただけなのだが、年頃になって美帆達がお互いを気にし始めた頃からはそんな二人を鬱陶しく思う反面、羨ましくも思い、美帆が見つめる透君の先に、私は彼を思い浮かべるようになっていた。


「はぁ……はぁ、今日も勝てなかったわ」

「いや、恵美ちゃんには毎回驚かされるよ。水泳を習い始めたのだって僕よりずっと後なのに、すぐにこのコースまで来てるし差もどんどん埋まってる」


年の差はたった一つだけなのにこの大人の余裕がなんとも悔しい。


「確かに、差は縮んでますが……全く追いつける気がしないです」

「んー、僕もそう簡単に負ける気はないよ」


困った様に微笑む彼と私にはまだ5秒近い差がある。


水泳の50メートルにおいて、5秒の差というのはもの凄く大きな差で、だけど、多分、この差が縮まる事はない。


女子の中でも小柄な私と彼の身長差は20センチ近い。


それでも彼は水泳選手としては小柄な方なのだが、それに加えて男女の筋肉差も大きく影響しているから、そういうものを考えても、私が彼に届く事はあり得ない。


証拠にここ数ヶ月、私はスクールを増やしたにも関わらず、差は全く縮まっていない。


実のところ、私は水泳を始めた最初の目標はもうクリアしている。

憧れた速さも伸びやかな泳ぎも、趣味の域はとっくに超えて、身長的には極めて珍しいこのクラスまで来ているくらいだ。


だから今もこうして水泳を頑張っている理由はたったの一つだけ、彼の視界に入れる場所を追いかけ続けているだけ。


(身体が彼を追いかけられるのはこの距離まで……あとは言葉と心……)


そこまで分かっていて、縁起だのなんだのと告白も、他の誘いを出さない私も多分美帆や透君をバカにできる立場じゃないんだろうと思う。


「美帆……本当に髪切ってた……」

「女々しいわねぇ……そうだ!もういっそ他に彼女がいるって嘘でもついてみたらどう?押してもダメなら引いてみるってやつ」


「……そんな……」

「あなた達は……相思相愛だったのにね……」


これで多分、二人はお互いの意識を改めるだろう。


付き合いの長い私にはこの程度の逆境なら案外早く、美帆が乗り越えるだろう事を予想していた。


しかし、そんなアドバイスを出した私自身は今日も必死に彼の視界を追いかけているのだから滑稽なものだ。


「恵美ちゃん、なんか悩んでるかな?」

「え?」


その日、私は水泳以外の事で初めて彼に話しかけられた。トクンと、小さく胸の音が聞こえた。


「ちょっと……友達同士の恋愛について」


私は……咄嗟に、嘘をついた。


「そっか……いや、恵美ちゃんは友達思いなんだね……タイムに支障が出るほどその友達の事を考えてあげてたんだ」

「えっと……」


人を疑う事を知らない瞳が私を見つめていた。


今からでも違うと言いたかった。

半分は、半分以上はあなたの事を考えていたと言ってしまいたかったのに、私の口は思う様に動いてくれない。


(はぁ……これじゃあ本当に美帆達をバカにできないじゃない……)


透君は思ったよりずっと凄い男かもしれない。


二人きりでもしゃべれなくなってしまった私に比べ、彼は何度も大衆の前で彼女に話しかけている。


美帆だって何度も落ち込み悩むけど、その悩みはいつもどうしたら先に進めるかであって、私の様に何かを待ったりはしていない。


「今、美帆から電話で呼び出されて……」

「もう恋人がいる計画はやったの?」

「い、いや、まだだけど……」

「そう……でもわざわざ会って話したいって事はもしかするかもしれないわね……」

「そ……そうかな!?」

「まぁとにかく美帆が来るのを待つしかないわね。私も今からいくわ」


今日も私は透君に偉そうに意見をしておいて、本当はこんなにも情けない。

そんな事を思っていた時だった。


『チリン……リリリリリリリリリリリリ……』


「え?ここは!?」


突然聞きなれない鈴の様な、それにしてはあまりに連続した音が聞こえ、気づくと私は電車の中にいた。


(え?ここは……透君の告白計画の……)


何が起きたのかはどうにも理解し難かった。


無理やり辻褄合わせをするならさっきのが妄想や白昼夢の類いだったと思うしかないが、


(それにしては凄くリアルだった様な……)


「あっ!」


私がそんな事を考えている間に美帆が透君にもたれかかり、その頭に透君が手を置いた。


それはどう見ても恋人同士の姿だった。


(やったんだ……美帆、透君……凄い……)


さっきのが夢だったのかは分からない。

でも、その夢のおかげで、私は素直に彼らを祝うことができた。


(もしかして、さっきの夢は、彼らが付き合って私の番が来るのが怖かった私の……私にだけ都合の良い妄想……だったのかも……)


もし……そうだとしたら、こんな格好の悪いことはない。


透君の合図から3つ数えて『せーの!!』で飛び出し、彼らを祝う中、その立案者がそれを一番お祝いできないなんてそんな情けない話があってたまるものか。


「やれば出来るじゃない?」


そう口に出しながら……


(あなた達、本当に凄いわ!!)


と心の中で賞賛して、


駅員さんのお茶目なアナウンスに口をポカンと開けて惚ける美帆を笑いながら……


感動の涙を笑い涙に隠した。


そして、驚いた美帆の肩に手を置いてからかいながら、心の声で


(おめでとう!次は私が頑張るわ)


そう強く誓った。

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