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慮る  作者: 樒 七月
7/8

7 綺麗なものだと思いたかった

「最近楽しそうだね」

 瀬尾せおが生徒会長の顔で笑った。作った笑顔って気持ち悪い。まあ、これが作り笑顔だということを知っている人は少ないんだけど。顔が整っているって得だ。

 同じ大学で同じ学部を第一希望にしていてライバルだけど、ピリピリした関係ではない。友達というほど単純ではなく、親友というほど心を開いていない。俺は生徒会役員じゃないから、三年間同じクラスという繋がりだけだし。中学までは他県にいて、高校から引っ越しでこっちに来たから、入学時には知り合いはいなかったらしい。

 それでも生徒会長になれるほど人望があるということだ。

「家に帰っても勉強なのに」

「友達と一緒だからな」

 そういえば言ってなかったか。瀬尾は言わないだろうけど、他の奴は「低レベルなヤツと勉強しても意味ない」って言うだろうから隠していた。

 高校受験の時よりも気楽でいられるのは、勉強会のおかげだろう。

「じゃあ校門まで一緒に行こうよ」

 瀬尾は鞄を肩にかけた。ずっしりと重そうなそれは、教科書と参考書がぎっしり詰まっている。それは俺も同じだけど。

 毎日持っているから、力がついてきたかも。

 靴を履き替え、校門に向かった。なんか騒がしいけど、何かあったのか?

「あ! やっと来た」

 宮木が手を振った。隣でイチローが軽く肩まで手を上げた。

 騒ぎの原因はこいつらか。二人でいると目立つんだよな。美男美女って並んでいるだけで華やかだ。

「どうしたんだ?」

「昨日はケータが来てくれたからね。私は付き添い」

「立花の勉強友達? 僕は瀬尾。同じクラスで同じ志望校のライバルだよ」

 爽やかに笑った瀬尾は、宮木に手を差し出した。宮木はにこやかに握手に応えた。

 この二人、似てる。笑顔がそっくりだ。

「瀬尾……瀬尾秀一さんを知ってるか?」

 瀬尾の名字に心当たりがあるのか、イチローが尋ねた。

 確か年の離れた兄がいたはずだ。

 そういえば、名前はシュウイチだって言っていたような。

「瀬尾秀一は兄だけど」

「じゃあ、須賀すが由宇ゆうは」

「由宇さん!?  兄の友達だけど。君は誰?」

「由宇さんの従弟の宮野一郎」

 瀬尾は興奮してイチローの手を両手で握った。

 須賀由宇。イチローの『お兄ちゃん』。実のお兄さんではなく、従兄のお兄ちゃん。イチローの理想像。

 亡くなっているから、もう会えない。

 そのお兄ちゃんを知っている人が身近にいたなんて。

 何で今なんだろう。何で瀬尾だったんだろう。

 皆、俺には無いものばかり持っている。

 イチローは、手をやんわり解いた。

「一郎くんのことは聞いたことがある。僕と同い年の従弟がいるって」

「秀一さんと有紗さんのことは聞いたことがあるけど、友達のことはあまり話さなかった。俺と会うのは年に二回くらいだったから」

 お盆と正月に会うと言っていた。会う機会は少なかったけど、それだけでも『お兄ちゃん』は特別になった。

 優に小学二年の夏休みの話をしていたけど、その話だけでも『お兄ちゃん』は凄い人だとわかった。頭が良くて運動もできて優しいお兄ちゃん。頭が良いのを自慢しなくて、誰にでも優しいわけじゃないお兄ちゃん。イチローが尊敬する理由がよくわかった。

 瀬尾は、俺が知らない『お兄ちゃん』のことを知っている。

 それが怖かった。

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