表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
慮る  作者: 樒 七月
5/8

5 恋だと信じさせる

「さっき汐里のことを『宮木』って呼んでたな」

「今は『彼女』じゃ変だろ。でも名前で呼ぶのは違うかな、と。だから苗字で呼んでみた」

 宮木は呼び方を変えたことについては何も反応しなかったけど。

 今までは、『彼女』という三人称で呼んでいた。最初は宮木とは仲良くなるつもりはなかった。クリーガーの戦いに一般人がいてはいけない。彼女が巻き込まれる可能性を消したかった。念のため連絡先は交換したけど、一郎に何かあったときのためのもので、友達のように気軽に連絡する気はなかった。

 宮木は、俺については一郎に害がなければ良いと思っているらしい。初めて会った時から、宮木は俺が『一郎が助けられなかった女の子の兄』ということに気付いていた。一郎が協力することを承諾したとき、反対はしなかったけど俺のことを信用してはいなかったはずだ。

 一郎は私が守る。そういう目をしていた。

 二人の絆は深い。きっとそれはずっと変わらないだろう。

「そういうことか。何かあったのかと思った」

「何かあっただろ。お前と付き合うことになったから、宮木を『彼女』って呼ぶのが変なんだ」

「……じゃあ、俺のことはまた『イチロー』って呼んでほしい」

 イチロー。それは前に呼んでいた特別な呼び方だった。

 一郎がクリーガーの戦いに協力することになった時、宮木が提案して呼ぶようになった。友希はユーキ、陽介はヨースケ。その呼び方は幼馴染みの間での呼び方だったけど、俺達にも適用された。

 その呼び方を、一郎から言われて使わなくなった。

「いいのか? 『一郎』の方が良いって言ったのはお前だから、お前が戻したいならそう呼ぶけど」

「ああ。優ちゃんが『一郎くん』って呼んでくれるようになったから『一郎』にしてもらったけど、『イチロー』は特別だから」

 優が原因か。悪くはないけど、どれだけ優を優先しているんだか。優だったら、普通に『イチローくん』って呼ぶだろうけど。

「『イチロー』っていうのは、幼馴染みとクリーガーで知り合った友達だけにしか呼んでほしくない。たとえ優ちゃんでも、呼んでほしくないんだ」

「わかった。じゃあイチロー、今日は俺の家へ来るか?」

 深く理由を聞くのは避けた。イチローが特別だと言うのなら、それで良い。優にも呼んでほしくない呼び方。イチローにとって、その呼び方には何があるんだろう。

 久しぶりにイチローと呼ぶと、困ったように苦笑いされた。

「ユーキに連絡しておく」

「任せた」

 何回か俺の家で勉強会をしているから、場所はわかっているだろう。わからなければイチローに連絡があるだろうし。

 優がイチローに会いたいと言ったときに家に呼んでいた。今日は、優には何も言われていない。でも、イチローを自分のテリトリーに置きたかった。イチローの家ではなく、自分の家へ。

 付き合っている実感なんてなかった。

 だから、じわじわと実感させていくんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ