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慮る  作者: 樒 七月
2/8

2 恋だと思ったから

「いいよ」

 即答した。悩むことなんてない。今まで断ってきた告白を、初めて受けた。

 きっとこの気持ちは間違いない。1年前から、ずっと特別だった。この想いに名前を付けるならきっと。

 圭太は一瞬顔を歪めた後、不敵な笑みに変えた。

「まずは受験を一緒に頑張ろう、だったな」

「そうだな」

 付き合うことになっても、すぐに何かが変わるわけじゃない。今は受験第一だ。

 圭太の第一志望校を考えると、自由時間なんて限られている。俺だって、その大学の近くの学校が第一志望だから、遊んでいる暇はない。

 汐里は遠距離恋愛で6年も我慢してきたんだから、1年くらい大したことない。

 

 次の日、汐里と陽介に圭太と付き合うことになったことを報告すると、二人は「へえ、良かったね」とだけ言った。

 なんというか、反応が薄い。それが幼馴染みと友達が男同士で付き合うことになったことに対しての反応か?

「一郎が誰かと付き合うなんて考えたことなかったからね。相手が圭太って聞いて納得」

「あの戦いに参加したからな」

 二人は顔を見合わせて、頷いた。納得するようなことなのか? まあ、二人には家庭環境も知られているし、今まで告白を断ってきていることも知っているから、そういうものなのかもしれない。

 そして、あの戦い、『クリーガーの戦い』を知っている二人なら、俺たちの関係はその延長に見えるのかも。

 圭太とは、1年前に出会った。

 4回勝てば失ったモノを取り戻すことができる。3回負けると何かを失う。そんな戦いを半年前まで続けていた。俺と圭太は不戦勝込みで4回勝ち、失ったモノを取り戻して戦いを棄権した。

 その戦いに参加できるのは、人間の体液を摂取して一時的に身体能力が上がる、『クリーガー』と呼ばれる者だった。偶然『クリーガー』として覚醒し、戦いに参加することを決めた翌日、圭太に会った。圭太に出会っていなければ、失ったモノを取り戻せなかった。なんとなく参加して、何も得ずに棄権していたはずだ。

 圭太がいたから。圭太と協力することになったから、俺は『失った記憶』を取り戻すことができた。失った記憶の中に、『突然遠くに引っ越した幼馴染みの陽介』の記憶も含まれていたから、今こうして陽介と幼馴染みとして接することができるのは圭太のおかげだと言える。

 俺が『失った記憶』は、『辛い記憶』だ。

 親の不仲、幼馴染みの陽介、助けられなかったランドセルを背負った女の子。

 目の前で起こった交通事故。被害者の女の子は圭太の妹だった。男にランドセルを押され、道路に向かって倒れていく女の子の手を掴むことができなかった。

 圭太の取り戻したいモノは『元気な妹』で、4回勝って1年間意識不明だった妹が目を覚ました。

 圭太の妹、ゆうちゃんは、今では俺を「一郎くん」と呼んで慕ってくれている。

 今では週の半分は家に泊まっている半同居人の友希もクリーガーの戦いで出会った。友希は『見返りを求めない愛』=『家族愛』を求めていて、俺がそれを擬似的に与えることによって戦いを棄権した。友希との関係は、友人というより弟に近い。

 だからこそ、圭太に対する感情が恋愛感情だと思った。

 

 欲しいと思った。

 ずっと一緒にいてほしいと思った。

 誰かのものになるなら自分のものにしたくて。

 俺のことを好きだと、付き合ってくれなんて言うから。

 泣きそうなくらい、感情を揺さぶられた。

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