1 それがきっと
「お前が好きだ。付き合ってくれ」
何度も似たようなものを聞いたことがあった台詞だけど、安心したのは初めてだった。
高校三年の春。本格的に受験に向けての勉強が始まった。
志望校によって編成されたクラスで、幼馴染みの汐里と陽介と同じクラスになった。
幼馴染みが三人揃うって久しぶりだ。大学に合格したら、今は遠くに住んでいる修二も戻ってくるから幼馴染みが全員揃う。そのためにも今頑張らないと。
「毎時間課題が出るって面倒くさいー」
「予備校に行っている人とか大変だろうな」
汐里は、文句を言いながらも計算式を解いていっていた。陽介も相槌を打ちつつ、問題を進めている。理系のクラスだから、計算は得意だ。数式に当て嵌めて計算していくという作業の繰り返しだから、話しながらでも出来る。
課題は休み時間に終わらせるようにしていた。汐里と陽介と一緒にすると、時間内に終わらせることができる。一部のクラスメイトも加わり、受験のライバルだけどクラスの雰囲気は良かった。担任の方針で、クラスメイトを蹴落とすより、クラスのレベルを上げて学校一の進学率にしようと意気込んでいる。
「圭太の方はどうなの? 進学校だから毎日補習があったりするの?」
「補習は希望制らしい。課題はすごいみたいだけど」
この高校も進学校だけど、偏差値の高い学校のレベルは違う。去年から受験対策が始まっていた。流石有名国立大学進学率が高いだけのことはある。
そんな中、圭太は補習を選ばず、俺の家で俺と半同居人の友希の勉強を見てくれていた。復習のようなもの、と言っていた。少しランクを落とした勉強だから、息抜きになっているみたいだった。
今日も圭太の家庭教師の日だ。
「宮野ー手紙預かったぞー」
「……ありがと」
クラスメイトから手紙を受け取った。汐里と陽介は一瞥した後、課題に戻った。
可愛らしい花柄の封筒に、一枚の便箋が入っていた。
『放課後、中庭に来てください。』
教室にいた皆が中身を予想できていた。こういう風に手紙を貰うのも5回目だ。またか、と周りは呆れて見ていた。
3年になって、汐里が「来年彼氏が帰ってくるのが楽しみ!」と宣言してから、俺に対する告白が増えた。今まではよく一緒にいたから、汐里と付き合っていると思われることが多かった。実際、彼氏の振りをしたこともある。
汐里の彼氏は他にいることがわかり、俺に彼女がいないことが確定した。それで告白が増えるってどうなんだろう。狙われていたということか?
圭太に家に帰るのが遅くなるというメールを送り、課題に取り組んだ。
「また告白、ねえ」
家の前で待っていた圭太をリビングに通し、冷たいお茶を用意して席に着いた。
友希は進路指導で遅れるらしい。圭太と二人って結構久しぶりな気がする。
帰るのが遅れた理由を話すと、圭太は呆れたように口の端を上げた。
「受験中なのに、よくもまあ告白するな」
「受験中だから、恋で悩むをの止めたいって。OKだったら受験を一緒に頑張ろう、駄目だったら諦めよう。そういう理由らしい」
「なるほど。悩むのを止めるためか。だから、この時期か」
圭太はお茶を一気に飲み干し、表情を引き締めた。
久しぶりに見る表情だ。
これは、初めて出会った時に見た。
「俺も決めた。悩むのは止めだ」
「悩むのを止める?」
「お前が好きだ。付き合ってくれ」
男同士。友達。そんなことは頭になく、圭太から言われた、ということに何故か安心した。