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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

輪廻

作者: 上津

 ーーその男は狂っていた。


 男の頭上では古ぼけた蛍光灯が消え入りそうなほど小さく点滅している。


「ようやく、これで……」


 男はひどく狂的に笑う。それをたしなめる者はすでにいない。否、そもそも男に視線を向ける者がいないのだ。そして、それは鏡に映る自分でさえ例外ではない。何時しか、その状況こそが男の日常となっていた。

 ふと、男は恍惚に満ちた吐息をこぼす。目線の先には青年が二人は入るだろう高さのカプセルがあり、その中には一人の少年が眠っていた。

 男はふらつきながらも、近くの老朽化した椅子に腰掛けようとする。だが、椅子は軋み、悲鳴をあげつつ壊れてしまう。

 男は短く舌打ちをし、そしてケタケタと笑う。男には込み上げてくる感情を抑える意志も理由もないのだ。


 ただ、胸に灼けつくような痛みだけがあった。





 そして、少年が目覚めた。

 名前はない。これからも必要とすらしないだろう。

 自分を創造した人物から、


「お前は造られたのさ。俗に言う人造人間だな。お前には私と同じ知識量がインプットされているはずだ。お前は賢い子だ。そうできているのだよ。」


 等、言葉を並び立てられた。


「ああ......伝え忘れていたが、記憶は設定していない。必要ないからな。血や涙も同様だ。」

 




 そうして教育を受けた後、少年はあちこちに視線を巡らせる。

おかしい、と少年は考えた。漠然とした違和感が脳を支配する。何かが必死に警鐘を鳴らすのだ。おそらく、インプットされたモノだろう。

実際に疑問点はある。まず、この部屋があまりにも生活感がないのだ。窓から確認したところ、ここは山奥だと考えられる。近くに家などが一切見当たらず、あるのは草木ばかりだからだ。だというのに、此処には最低限の食糧すら置いておらず、あるのは実験道具のみ。まさに、実験のためだけの施設だ。

それは、少年に此処が不気味な所であると思わせるには充分すぎた。




実のところ、もう一つ疑問があるのだ。単純な話だが、男が若すぎるのだ。その無邪気な面貌から察するに、青年だろう。少年だとしても、何ら違和感を持たない程の童顔だ。そして、人造人間を創るということは決して簡単ではないはずだ。だが、目の前の人物はそれを成し遂げている。若くして偉業を達成する人には、大きく分けて二つのパターンがいる。余程、優れた頭脳の持ち主か、あるいはーー。

そこで、此れ迄の疑問点が繋がった。散りばめられた疑問点が線を作り、その線が絡まり合い、一つの仮説を形作る。



そして、少年はある物を発見する。

それは、仮説を肯定する物であると同時に、ヒトを否定する物であった。



「どうした。」


 異変に気付いた男が短く説明を求めると、少年は言いづらそうに口を開く。


「創造者さんの昔の記憶はありますか。」


 そう尋ねた少年は、男と鏡を興味深そうに交互に見ていた。


「なにを、言っているのだ。私はずっとーー」


 --ーー生まれてからずっと実験をし続けているというのに。


 少年の無垢な言葉は、時として無垢故に残虐に切り裂く。

 少年は続けて言う。悪辣とした笑みを貼り付けながら。


「いえ、それよりもーーなぜ僕と同じ顔なのでしょうか。」



 無理解。わけがわからなかった。目の前の少年が何を言っているのか理解できない。


 無理解。私とお前が同じだというのか。そんなはずは。だって僕はずっと。僕は。無、理解。



 男のジンセイに実験以外のことは何一つとしてなかった。






 理解。男は理解してしまったのだ。男は賢い子だから。そうできているのだから。

 男は耳を劈くような悲鳴をあげる。

 男には涙を流すことさえ許されない。

 怨嗟と自嘲を綯い交ぜにした形のない号哭を聞き、少年はケタケタと嗤う。

 どうやら少年も壊れてしまったらしい。




 それから長い年月が過ぎた。








 そして、その男はーー。



最初と最後がループするように頑張りました。

あと、今年度の高文連地区大会応募作品です。

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