表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅雪姫  作者: ぴこ
見え隠れする影
8/20

ロボット対決

訓練を始めて数十分後。

アザレアがちーんという効果音と共に地に伏していた。


だから言ったのに。

どんな強いやつでもなかなか倒せないよーって。


「アザレアー。生きてるー?」


ゆさゆさと体を揺さぶってみると、ハッ!とアザレアが気を取り戻した。


「な、なんだよこのロボット!なんでこんなに強いんだよ!」


「なんでって…。戦闘訓練用のロボットだから?」


ちらりとロボットに目をやると、傷一つない姿でこちらに体を向けていた。


あたしだって最初から剣がうまかったわけでも、ドラゴンを召喚できたわけでもない。

エルバに襲われながら、グレアのおっさんに鍛えられながら今の自分ができたんだから。


なんか…思い返してみたら本当に頑張ってきたな、自分…。

下手すりゃあ追放された時よりも命懸けで修行してきたんじゃないかなんて思ってしまう。

ドロドロになって立ち上がるアザレアを過去の自分と重ねてみてしまい、思わず苦笑いしてしまった。


だが、余裕そうに動く傷一つないロボットを見て、アザレアは悔しくなってきたのか、顔がどんどん険しいものになっていった。


「俺は…」


ボソリ、とつぶやき、ゆらりと立ち上がる。

その瞬間、アザレアを取り巻く空気が一瞬にして凍りついた。


そして、どんどん氷の結晶が舞い上がってゆき、アザレアの剣に集まっていった。


な、何が起きているんだ……?


あたしはこの空気に恐怖を覚え、思わずブローチを握りしめた。


そして、アザレアは思い切り体を仰け反らせ、とち狂ったように叫んだ。


「俺は強くならなきゃいけねぇんだ!こんな所で立ち止まってたまるかよおおおお!!!」


その言葉と同時に巨大な氷の竜巻がアザレアの周りに渦を巻き、大きな氷の結晶の魔法陣が上空に浮かび上がった。

そして、中から大きな氷のドラゴンが現れた。


キラキラ輝く氷で造られた彫刻のように美しい、深い蒼色の目を持ったドラゴンは、あたしをちらりと見た後にアザレアの体内へと吸い込まれていき、眩い光を放った。

その瞬間、今まで生きてきた中で感じたことのないような強風が襲ってきた。


「う、嘘でしょ……?!」


あたしは風圧に耐えきれず、アザレアと同じくドラゴンを召喚し、その翼の中で様子を伺った。


この世にあたし以外のドラゴン使いがいるなんて。

そして、ドラゴンと自分を合成する術を持つ人間がいたなんて。


ドラゴンと人間の合成術は禁忌とされていて、なんらかの後遺症が出ると言われているのだが、アザレアは、大丈夫なのかだろうか?


シュッと光が消え、思わず目を細めた。

ぼんやりとアザレアの姿が見えた時、あたしは思わず目を見開いた。


青い目が特徴だったアザレアの目は、真っ赤に染まっており、右目には氷の結晶が目を貫くように生えていた。


そして、背中には氷の粒子でできた翼のようなものが浮いており、刀はまるでドラゴンが鼓動を打っているかのように光を放っていた。

こめかみには真っ黒で巨大な角のようなものが生えていたのだった。


これは、本当にアザレアなのだろうか。

始終目を逸らさずに見ていたはずなのに、ありえない姿をしているアザレアに、思わず自分を疑いたくなった。


にやりと笑ったアザレアは、思い切り剣を振り上げ、…


「ぶっ壊してやんよおおお!!!」と思い切り叫んだ。


やばい、と思った時にはもう遅い。


強烈な地響きと共に、あたしのドラゴンは危険を察知したらしく、あたしを抱きしめ、その場からものすごい勢いで離れた。


振動が収まると、ドラゴンは元いた場所に警戒深く戻ってくれて、あたしは思わず恐怖ですくみ上がった。


そこには、原型を残さないくらい粉々になったロボットと、とち狂ったように笑い続けるアザレアがいたからだ。


。。。


キラキラ光るダストが消えると、それと同時にアザレアは崩れ落ちた。


やばい!


急いでアザレアに駆け寄り、大丈夫!?と声をかけると、アザレアはゆっくりと目を開け、あたしの顔を見た瞬間に、目を見開いた。


「こ…」


「こ…?」


「壊してしまったぁぁぁあ!」


一瞬何を言われたのか全く理解出来なかったが、頭で整理出来た途端に拍子抜けして、デコピンをかました。



なんか一気に力が抜けた。

本当に無事でよかった。


あたしは懐にあるポーチの中を探ると、ポーションをアザレアに渡した。


「体力消費してるでしょ。お疲れさま」


他に聞きたいことが山ほどあったけど、今は疲れているだろうから自制した。

アザレアはありがとうと笑うとそれを一気に飲み干した。

その姿を見て、ついさっきのアザレアを思い出す。


狂気と自信に満ちる真っ赤な瞳。氷のキラキラした翼、ダイヤモンドダスト……。


綺麗、だったなぁ……。


あのダストの中に輝くアザレアの姿が忘れられず、無意識に顔を直視してしまう。

それに気づき、アザレアもあたしの顔を見たその瞬間。


ピーーーーー!!!ピーーーー!!!


けたましい警報音が鳴り響いた。

その音を聞くと同時に、あたしとアザレアは思わず「ぎゃーーー!」と悲鳴をあげる。


音の発信源は、さっきアザレアが破壊したロボットの一部から発されているらしい。あたしはその場所へ足早に向かい、部品を見て、思わず顔が引きつったが、改めてアザレアへと向き直る。


「アザレア?」


「な、なんだよ」


「ピーーーーー円請求しますだって」


「嘘だろぉぉぉぉ?!」


警報音と共にアザレアの悲鳴が反響した。


だけど、あたし達はその時に気づかなかった。

その影で口角を上げ、こちらを一部始終見ている奴の存在に。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ