リーダー
2016/06/06
秘密基地の道をひたすらまっすぐいくと、ミスリルの石を叩く音が響いてきた。
音のする部屋に入るとガタイのいいおっさんが大きなハンマーを振り上げて作業をしていた。
おっさんはあたしたちに気づくとニヤッと笑って「おかえり!」と片手を上げた。
このおっさんの名前はグレア。
私達が所属するチームのリーダーでもあり、鍛冶屋だ。
普段は今叩いてるミスリルなどの宝石や鉄を自慢のハンマーで叩いて武器を作り、それを売ってくれたりする人なんだけれど、リーダーとしてはまとめ役になってくれている、気さくな性格のいいおっさんだ。
この反逆チームはちゃくちゃくと勢力をつけて王国を滅ぼすという目標を抱いた大きなチームで、さっきも言ったが、そのメンバーのほとんどがあたしと同じ被害にあった人達だ。
「グーレア!頼んでいた武器はできているんでしょうね?」
ずいっとおっさんの作業台をのぞきこんだエルバの目はキラキラと輝いている。
「おうおう、わざわざ深海のグレイフィリアまで貝殻を取りに行かせておいてお礼の一つもねぇのか、お前さんはよ」
おっさんは移動費が高い、だの死にそうだったんだぞ、だのとぼやきながら一本の槍を取り出すと、そらよとエルバに渡した。
「へぇ。やっぱりセンスいいんじゃない」
エルバが手にしたのは真珠や色とりどりの貝殻が装飾されたきれいな水色の槍だった。
おっさんは満足そうにエルバの顔を見たあとに、作業へと戻っていった。
…ちょ、おいおいおい!
「グレアのおっさん!?あたしのは!?」
「…ん?」
あたしの顔をぼーっと見続けていると、あーー!!!とどでかい声で叫んだので思わず耳を塞いだ。
そして。
「忘れてたっ!ごめんねっ!」
テヘペロっというような軽いノリで言われて思わずこめかみに血管が浮き出た。
「かんわいくない!ぜんっぜんかんわいくない!」
思わずため息をつくと、また何かが思い切り頭にぶつかってきた。
今日で頭がダメになるんじゃないかと本気で心配になる。絶対に厄日だ。
頭を抑えながら地面に落ちたものを見ると、それは林檎のブローチだった。
「お守りだ。やる」
「まじで!?」
自分のためにここまでやってくれるグレアに、いらいらが瞬時に消え、逆に申し訳ない気持ちとうれしさでいっぱいになって何も言えなかった。
武器じゃなかったけど。
まぁ、ある意味心の武器か、なんて思いながらブローチを胸につけ、「ありがとう!」と笑うと、おうよ!とほほ笑んだ。
宝物がまた増えたなぁ。
。。。。。
「そのブローチはな、ただのお守りじゃないんだぜ?なんのお守りだと思う?」
「…どうせあれでしょう?人を爆発させるとか人を吹っ飛ばすとかとんでもないものなんでしょう?」
エルバが鼻で笑いながらあたしの顔を見て言った。
確かにこのおっさんは顔に見合わず大の悪戯好きで、よく自分の作った何かで人を吹っ飛ばしたり地面に落としたりしていたりするからなんか嬉しいけれども裏がありそうなのがまた怖い。
一番怖いのはその被害者の大半があたしということだ。
騙されやすいんだって思うけど、嬉しいからなぁ。
とりあえず、「それはお守りの定義に入らなく無い?」と突っ込んでおいた。
おっさんはがっはっはと笑うと得意げな瞳でこう語った。
「このブローチはな、自分の中にあるすべての力を戦闘に活かすことのできるお守りなんだ。燃えるような赤色のガーネットという宝石でつくっていて、とある地方では炎の石とも呼ばれている」
「はあ!?ちょっと待ちなさいよ!なんであたしの槍にもそんな石をつけてくれないのよ!」
エルバ、気持ちはわかったから地味に槍で腕をつつかないで。あんた力強いから穴があいちゃうって。
すると、グレアのおっさんは自分の仕事机に足を運び、道具箱を開いてとある丸い宝石を持ってきた。
「こいつは水晶っていうあらゆるものを透視したりするときに便利な石だ。おれがこいつにガーネットを捧げてやった理由はだな…」
グレアのおっさんは水晶をあたしに向けると、水晶の中で炎が燃え盛った。
「これを見れば一目瞭然だ。こいつは炎の能力に長けていて、才能があるとみた。だから、ガーネットを削ってブローチにしてやったんだよ」
確かに前にさりげなく横を通った時に水晶を向けられていた時があったな、なんて思い出し、笑った。
まさかそこまで考えてくれていたなんて思ってもいなくて、まじまじとブローチを見ると、ガーネットの石が一瞬燃えたように見えた気がした。
「グレアのおっさん!ありがとう!」
「いやいや、どうってことねえよ」
そして、そのあとにエルバの性質を分かっているけどあえて見てみたくて水晶を向けてもらったら、なぜか水晶の中に魚が跳ねているのが見えて、おっさんと大爆笑をしたのは、また別のおはなし。
登場人物紹介
○グレア
通称『グレアのおっさん』で反逆チームのリーダー。
傍から見たらいかつく、ごついおっさんだが、気さくで意外と乙女チックな性格。
部屋にふわふわの兎のぬいぐるみやお花の香水を飾ってるのを見た瞬間、一瞬目を疑ったけど。