不憫な主人公、アイリス
2016/06/05
小鳥がさえずり、キラキラ輝く太陽が森に優しく木漏れ日となって降り注ぐ希望の朝。
そんな森の中であたしの悲鳴が反響した。
「キャァァァア!!!」
ドッシャァァァン!という音とともに、あたしの脳は完璧に覚醒する。
囀っていた小鳥は思いっきり羽ばたいて「こいつやばい奴だ」と言わんばっかりにどこかに飛んでいった。
あああ…。またやってしまった。
じんじん痛む頭を押さえてうずくまり、悔し涙を浮かべる姿は、傍から見たら変人だ。
あたしの名前はアイリス。
元々インギュア王国という大きな王国に住んでいたらしいんだけれど、生まれてまもない頃に死ぬ寸前まで暴力を受け、川に捨てられ国を追放された。
枝に引っかかり、ぐったりしていた所を半ウンディーネのエルバに助けられて、なんとか今まで生きながらえている。
この話を聞いたのは、物心ついた頃だったけれど、その時からこの恩は返しても返し切れるものじゃない。
だからこそ何かエルバに恩返しがしたい、そう思う一心であたしは今を生きている。
そんなエルバから毎日頼まれるのが、自分の家になっているリンゴを、とある貧しい村の人達に届けること。
それを毎日続けて欲しいと言われているので、毎朝頑張って収穫しているのだけれど、樹年うん100年の大きくて横に長いリンゴの木なので、いつも足を滑らせて木から落ちてしまい、冒頭に至る。
自分の足にロケットランチャーか何かがついていればなーと思ったけれど、自分が装着したら機械音痴が発動して変な場所へ飛んでいきそうだなと思ってしまい、余計に怪我が増えてしまうことを予測して現実逃避をやめた。
なんとか死守したリンゴを入れたかごを抱え直して、木にぶつかりながら、エルバ達が待つ村に向かうのだった。
。。。。。
村に着くと、真っ先にこちらにすごい速さで向かってくる青い光が。
実際には光じゃなく、早すぎてそう見えているだけなんだけれど。
思わず苦笑いしてリンゴを一つ手に取り、軽く空に投げると同時に、金属のぶつかり合う音がその空間に響き渡った。
青い光…ではなく、深海を思わせるように長く、綺麗な髪を一つに束ね、悪戯っ子のような笑みを浮かべる女性は、ぶつけてきた槍を抱え直した。
それを見て、改めてあたしも『りんご』…ではなく、リンゴをモチーフとした『レイピア』を持ち直し、反撃に備えた。
「あのさ、毎日戦闘用の槍ぶつけてくるのやめてくれない?あたしが命かけて収穫してきた林檎が傷んじゃうし、村で堂々と槍振るってて被害がでたら洒落にならないからね?」
「あらあら。腕が鈍ってないか、師匠の『エルバちゃん』が直々に見てやってるのにひどい口の聞き用だわ。全く、誰に似たのかしら、ねっ!」
エルバはにやりと口角を上げると思いっきり槍を振り上げてきた。
…こうなったら長引きそうだし、あえて手抜きでもしようかな?
あたしはレイピアに力を込めると、思い切り槍を振り払い、素早くエルバの懐に入った。
そして、思い切り蹴り飛ばし、無理やり終わらせようとした…が。
「甘い!」
「ぶふぅっ!」
咄嗟にマーメイドにフォルムチェンジしたエルバのヒレがあたしの顔面にクリティカルヒットした。
思い切り岩にぶち当たりそうになったところをなんとか回避し、改めてエルバに向き合い、思い切り睨んだ。
「マーメイドキックは反則だからね!?ていうか、一応女の子してんだからさ、年頃なんだからさ、ぶっ飛ばすなら顔以外にして欲しかったな!?」
「はぁ!?エルバちゃんの世界一美しいヒレでぶっ飛ばされるなんて光栄なことなのよ!?泣いて喜ぶ輩もいるのよ!?あと、あえて顔を狙ってやったのよ。その減らず口が治るように、ね?」
フンっ!と鼻で笑うエルバにイラッとしてしまうのは毎日の事なんだけれど、カゴの中のリンゴを勝手に持って行ってそれをかじりながら観戦する村のみんなもどうかと思う。
ジトっとした目でみんなを見ると、リンゴを手にそそくさと散っていった。
あの、あたしやっぱり恩返しやめようかな?
登場人物紹介
〇アイリス
インギュア王国を追放された女の子。主にリンゴをモチーフにしたレイピアで戦う。
あまり争いは好まない平和主義な性格。
周りのキャラの濃い人達のツッコミ役に回ったり、パシられたりと苦労しているため、胃薬を装備している。
ローレライ色の長い髪の毛をハーフアップにしており、動きやすい服を好んで着ている。
王国ではりんごの剣で可憐に兵士を切り伏せていく姿から『紅雪姫』と呼ばれている。
◯エルバ
アイリスを保護した半ウンディーネ。
水と槍と自身の馬鹿力を利用して戦う。
普段は人間と変わらない姿をしているが、戦闘の時には状況に応じてマーメイドフォルム(要するに人魚)に切り替える。
常に自分に自信を持っていて、言いたいことは自身の持つ槍のように鋭く心に突き刺す(悪気は全くなし)
だけれど、世話焼きで優しいお姉さん。
好きな言葉は飴と鞭。