魔法が解ける音
食卓に並ぶ美味しくて仕方ないご飯を頬張りながら、目線を上げると、なにやら悲しげな瞳をするマーガレットさんと目があった。
あたしは急いで口に入っているものを飲み込み、首を傾げた。
「マーガレットさん?どうしたんですか?」
「…いや、なにもないよ」
はぁ、と溜息をついたマーガレットさん。
どうしたのだろう。
……まさか、あたしが増えたから生活費がとか……!?
サーっと顔から血の気が引いていく感覚に見舞われていると、足を軽く蹴られ、アザレアを睨むと、首を振った。
…なんで考えていたことがわかるんだろう。
すると、マーガレットさんと目が合い、ちらっと一瞬だけアザレアを見つめてすぐにあたしへと視線を戻した。
…見ろと。
ちらっとアザレアの方を向くと、食事が全く進んでおらず、ずっと下を向いている。
ん!?あの大食いで食べることの大好きなアザレアが!?
思わずスプーンを地面に落としてしまった。
すかさずマーガレットさんが拾ってくれたけれど。
なんだろう、恋煩いだろうか。
ゆっくりと席を立ち上がり、アザレアの背後に回って、耳をつかもうとした瞬間!
「師匠!!!」
「ぎゃ!!!」
思い切り立ち居上がり、マーガレットさんと向き合った。
あたしは思い切り尻餅をついた。
地味に痛い。
マーガレットさんも、目を見開いてこちらを見ている。
「お、俺!旅に出ようと思うんです!こいつと!」
そう言って、頭を掴まれて横に立たされた。
あの、扱い酷くない!?
ていうか、なんかとんでもないこと言い出したんだけど!!!
そんなあたしには気にもかけず、アザレアは続ける。
「もっと俺はいろんな世界が見たい。そして、もっと強くなりたいんです。」
もちろん、王国を滅ぼすためにも、と今にも泣き出しそうな顔で、アザレアはまっすぐにマーガレットをさんを見つめた。
マーガレットさんの方を見ると、口元に笑みを浮かべていた。
「いつか、こうなることはわかっておったんじゃがなあ。ついにお主もそう言い出す日が来たか」
マーガレットさんは、ゆっくりとこちらに歩いてきて、アザレアの頭にポンと手を載せ、ゆっくりと撫でた。
「わしは止めんよ。ここにいるだけではお主の野望も叶わんじゃろうて」
かっかっかと笑うと、また言葉を紡いでいく。
「アザレア。この世界はとてつもなく広い。そして、とてつもなく美しいのじゃ。それはそれは憎らしいほどにな」
じゃがな、というと同時に悲しそうな声色になる。
「みんなどこに住む人間も元は綺麗なのじゃ。綺麗すぎるが故に歪んでいくものなのじゃ。わしの言っている意味は、今のお主では到底理解できんじゃろう。しかし、絶対にいつかわかる日が来るから、たくさん仲間を作って頑張るのじゃぞ」
わしが言いたいのは、それだけじゃ。と、マーガレットさんが笑った瞬間、マーガレットさんを綺麗な光が包み、その周りには黄金の竜が舞い踊っていた。
思わず目を細めた瞬間、より一層強い光が回りを包み、消えていった。
光が収まり、目を開けると、金色の長い髪を2つに束ね、緑の魔道士用の服をまとった女性が、そこにいた。
「魔法が、溶けてしまったようね」
はあ、と溜息をこぼすマーガレットさん(?)に、アザレアもあたしも、思わず目を見張る。
誰!?
マーガレットさん(?)は、アザレアとあたしに向き直ると、ゆっくりと頭を下げた。
「ずっと騙していてごめんなさい。実はこれが本当の姿で、老婆の姿に化けてたの」
悲しそうな、でもどこまでも優しそうな瞳があたしたち二人を見つめる。
「マーガレット…さんなの?」
「ええ。マーガレットで間違いないわ。実はあたしも命を狙われている身なのよ」
何回目かわからない溜息をこぼすと、未だにショートしているアザレアに向き直った。
「もうあたしは老婆になることはできないわ。第一の封印が解けてしまったようだからね」
「第一の封印???」
なんか美女になってからどんどん訳のわからないことを言うマーガレットさんに、頭がついていかない。
あはは…こっちの話。と笑うと、再びあたしたちに向き合った。
「一つ言えることは、私はあなた達の絶対的な味方ということ。もうひとつは…」
「あたしは、すべての真実を、未来を知るもの」
もう訳がわからない。
マーガレット
老婆の姿をしていたが、実はものすごい美人なお姉さんだった。
すべてを知るものだとか、封印がとか、言っているうことの次元が飛びすぎて頭がパンクしそうだ。