氷の剣士の真実
それからアザレアとまた談笑をしているうちに日が暮れていった。
しばらくすると、マーガレットさんが帰ってきた。
「ただいま。遅くなって悪かったのう」
滅相もないです!おかえりなさい!というと、元気になったみたいじゃな、と言われ、そこで初めて自分の心が晴れていることに気づく。
もちろん、王国に対しての憎しみは消えないけれど、ごちゃごちゃしていた頭の中もアザレアのおかげで整理がついたようだ。
アザレアに笑いかけると、なんだよとそっぽを向いた。
可愛いやつめ。
のほほんとした雰囲気を醸し出していると、突然何かがこちらに飛んできた。
「…っと。病み上がり相手に容赦ないね」
手にとったのは、一本の立派な弓矢だった。
先端にはなにやら紙が巻きつけられている。
…デジャヴュ。
微かな火薬の匂いに、紙の中に起爆剤を仕込んでいるのはバレバレだった。
戦い慣れていて、こういう手のトラップには何件も応じていたあたしは、思わず眉根を寄せてしまった。
アザレアもそのことに気づいているようで、それをあたしから奪い取ると、ふぅっと矢に息を吹きかけた。
すると、みるみるうちに矢が凍っていき、それを飛んできた方向へ勢いよくぶん投げると、ドシャァァァン!という騒音と共に、緑色の雷が降り注いだ。
ギャアアァ!!!という悲鳴と共に、空にメッセージみたいなものが浮かび上がった。
『キサマハ ニゲラレナイ』
「…いや、いつも逃がしているのはこっちだっつーの」
「言うな、一生懸命考えてきてるであろうアホな奴らが可哀想だ」
でっかい赤文字の花火とともに飛んでいくインギュアのアホな兵士を見送ると、アザレアにもうひとつ聞かなければならないことを思い出した。
「ねえ、アザレア。グレアのおっさんも言っていたけれど、なんで王国式の召喚魔法が使えるの?」
すると、アザレアは悲しげに目を伏せたあと、マーガレットさんに「話してもいいでしょうか、師匠」というと、マーガレットさんは、決めるのはお前さん次第じゃ、と笑った。
確かに王国の召喚魔法が使えるということは、訳ありなのは間違いない。
だからこそ知りたかった、アザレアのことをもっと。
すると、アザレアは顔を伏せて何かを考える素振りを見せたけれど、決意を決めたのか、あたしの腕を無言で引っ張っていった。
あたしたちが去ったあと、マーガレットさんは空を見上げ、これでよかったんじゃよなあ、わしはと、悲しげに笑っていたことに気づかなかった。
。。。。
あたしが連れてこられたのは、茶の間。
そこでアザレアが手を離すと、座れよと言ってくれたので、腰を下ろした。
「これから話すことは他言無用で頼む」
そう悲しげにいうと、アザレアはまた話し出した。