王国の現状と、人のぬくもり
「今のインギュアのてっぺんには、王様と妃さんと…姫がいるんだ」
…え?
どういうことだ、あたしはインギュアのお姫様で殺された設定なんだよね?
なのに、また子どもが出来て上にいるの?
なんだかそのことに物凄い怒りを感じた。
今になっても追い出されないということは、今度は成功作だったのだろうか。
それとも、自分の代わりとしてなのだろうか。
自分は川へ突き落とされて死んだ。
だけど、その子は実は生きていた、という事にした……?
もう頭が混乱してパンクしそうだ。
だけど、内心はこの目がおかしいから…そう思っている。
いまガラス越しに自分の目を見てみても両目は緑色をしていて、その顔は悲しげに歪んでいた。
それに気づいたのか、アザレアはどうした?と声をかけてくれたけれど、なにもないよ、と返した。
「そのお姫様が主に指示を出しているらしくて、そいつが気に入らなくなった奴や、恨みを持つようになったやつは殺すらしくてな。とんだ腐った国だぜ」
ということは、アザレアの目的は王国の崩壊ではなくて、お姫様の暗殺なのだろうか。
「アザレア。あたし、よくわからなくなってきた」
「まぁ、無理もねぇよな…」
そう言って悲しげに笑った。
ひとつ整理がついたこと。
妹の存在なんてどうでもいい。
でも、認めたくないけれどエルバとグレアのおっさんがインギュアの戦力にいることは間違いなさそうだ。
そう考えると、命を今まで狙われてきたことに示しがつく。
だけれど、今まで生かしてきた本意はどうしても分からなかった。
そして、もう一つ気になるのが、リンゴの木のことだ。
エルバはなぜあそこまでリンゴの木に執着していたのか…。
そう考えると、なぜかすごく胸騒ぎがしだした。
すると、ポン、と頭に手を乗せられる感覚を感じた。
「…ん?」
顔を上げると、頭を思い切りなでられて髪がぐちゃぐちゃになってしまった。
む。と顔を上げると、アザレアが優しい目で見ていた。
「お前はさ、死んだ妹に似ているんだ。だからかな。放っておけなくて」
なんじゃそりゃ。
ははっと乾いた笑みを浮かべると、アザレアは真剣な顔をしてあたしに向き直った。
「なにか抱えていることがあるなら吐き出せ。溜め込み続けていたら自分が苦しくなるだろう。俺は黙って苦しい思いするお前を見ているより、笑ったお前が見たいんだよ」
そんなこと、言うなよ…!
あたしは今までの事を思い返しながら思い切り声を上げて泣いた。
アザレアはさっきあたしがしたように、強く抱きしめて背中をさすってくれた。
今になって、思いが思い切り溢れて止まらなくなった。
苦しかった、裏切られて。
悔しかった、過去を知って
嬉しかった、優しくしてくれて
「あ、ありがとうっ!」
そう言うと、アザレアはそっけなくおう、と返事した。