表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

はたして僕は騒音被害に慣れることはできるのだろうか

作者: 九重九十九

そのおばちゃんと知り合ったのはこのマンションに引っ越してきて一週間くらいのときだったと思う。

愛想の良い、でもちょっとおしゃべり好きで話が長くて、急いでいる時には捕まりたくないようなタイプの典型的なおばちゃんだった。


ある時、僕は一週間くらいの出張を終えて、久しぶりにマンションへと帰ってきたわけだが、このマンションは、まあその、こういうと自慢みたいに聞こえてしまうので嫌な言い方になるが、エレベーター付きのちょっとお高いマンションで、当然、僕も階段よりもエレベーターを使うことが多かった。


ましてや出張帰り、ちゃんと睡眠は取っていたが、やはりどこか体が重い。

僕は当然の如くエレベーターで5階の自室を目指す。


エレベーターが動き出して階数表示が3階を示すと、エレベーターはいったん止まる。

まあ、その階の人がエレベーターを止めたのだろうと適当に想像する。

数秒後にはエレベーターのドアが開き、件のおばちゃんの姿がみえた。


「あら○○さんじゃない、最近姿が見えないから心配してたのよぉ」

「はい、あの、ちょっと仕事で……」

体の疲労はあるが、この人とは仲良くしておきたい。実はこの人マンションのほとんどの住民と顔見知りなのだ。いわいるマンションのボスというか、ご意見というか、とにかくそんな感じの人だった。


おばちゃんはエレベーターに乗ると、ドアが閉まりだす前に口を開く。

「お仕事も大変そうね。でも若い内が稼ぎ時よ。うちの旦那も、結婚する前は――……」

「はぁ」

おばちゃんという生き物はとにかく話好きなのだ、僕は適当に相槌を打ちながら聞き流す。


すると、今度は4階でまたエレベーターが止まる。

(やけに多いな)

そんなことを思いつつ、エレベーターを呼び止めた誰かを待つ。


入ってきたのはおばちゃんと歳が近いおじさんだった。

(次の犠牲者が乗ってきた)

なんて、思っていると、不思議なことにおばちゃんはそのおじさんに会話はおろか、挨拶すらしない。

これには少しびっくりした。おばちゃんとおじさんは歳が近いということもあってよく話しているのを目撃する。そんな仲なのに挨拶すらしないなんて、僕がいない間に喧嘩でもしたのだろうか。


そんなことを考えているうちにエレベーターは5階で止まる。

「では、僕はこれで」

そう言って僕はエレベーターから出ようとする。

「ああ、私もここで降りるのよ」

そう言っておばちゃんは僕と一緒にエレベーターを下りる。


(これは本当に喧嘩でもしたのかな?)

なんて思いながら、「ああ、そうでしたか」と適当に返す。


エレベーターはドアが閉まって、上へとあがっていった。


「ふう、びっくりしたわー」

おばちゃんはふうと大きなため息をつく。

「あのおじさんと喧嘩でもしたんですか?」

思い切って聞いてみることにした。


「いいえ、私は誰とも喧嘩はしないわよ、ほら、オバサン八方美人だから」

自分でそれ言うのか。

「じゃあなんであの人に話しかけなかったんです?」

「あの人ねぇ、実は○○さんがお出かけ中に飛び降り自殺したのよ。もうそろそろかしら」


飛び降り自殺!? でもじゃあ今のおじさんは何で――急な話で驚いた僕に更に追い打ちをかけるようなことがおこる。


「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


ドシン!!


「――ッ!?」

外側を向いていた僕の視界に、さかさまになって落ちていくおじさんが見えた。

身を乗り出すような勢いで落ちて行ったおじさんを確かめる。


「え、あれ?」

おじさんが落ちたと思われる場所には、おじさんが倒れているわけでもなく、マンションに帰るときには気が付かなかった花がそえられていた。


「何に思い悩んでいたのかは知らないんだけどねぇ、死んでも死にきれないってやつなのかしら。十分間くらいかしら、だいたいこの時間になると落ち続けるのよねぇ」

おばちゃんは頬に手を添えて、困ってるのよねぇと言った。


「折角ご近所付き合いしてるんだから、悩みくらい相談してくれてもよかったのに。ご近所トラブルが原因で跳び下りはたまに聞くけど、仲がいいのに跳び下りることもあるのねぇ」

おばちゃんはしみじみ言った。そして後ろを――つまりエレベーターを指さす。

エレベーターの表示は、下の階からどんどん上へと階表示を上げていき、最上階で止まる。


「ほら、また落ちるわよ」

おばちゃんが言った直後、また「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」とおじさんが落下しながら何度目かの断末魔を叫ぶ。


「まあ、最初はびっくりするだろうけど、○○さんもすぐに慣れるわよ」

そう言うとおばちゃんは、またねと言ってエレベーターの横にある階段に足を向けた。


僕は、慣れって怖いなと思うと同時に、本当に怖いのは僕はこんなところに住み続けないといけないのかと思うところだった。


「幽霊の騒音被害って、どこに相談すればいいんだろうか」

だが今は、とりあえず自室に帰って風呂にでも入って疲れを取ろうと思うのだった。

淡白な人間関係が現代問題になっているとどこかで聞きましたが、実際問題人間関係に関係なく悩む人は悩むものだと私は思います。

話は変わりますが、人にとって恐ろしいもののひとつはきっと『慣れ』だと思います、これは駄目だ、おそろしい、してはいけない、等の禁忌(ちょっと大げさな言い方でしょうか?)ですが、二度三度と繰り返すと最初の一度ほどの警鐘感はなくなるものですし、十や二十も繰り返すと、そこには(ああ、イケナイとわかってるんだけどなー、わかってるんだけどなー)くらいに落ちるものです。

何が言いたいかというと、自分でもよくわかりません(笑)つまり人間が一番怖いってことです(暴論)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ