恋愛対象ど真ん中の彼は、オタクでした?
あけましておめでとうございます。
本来12月に投稿予定だった作品です。遅れてすみませんでした。
実は風邪を出して寝込んでいました。
ヒーロー好きすぎる女の子の告白場面です。けれど、一筋縄ではいきません。
はたしてどうなるでしょうか?
ではでは、どうぞ!
夕暮れが差し込む教室。普段と変わらない風景なのに、私は緊張してた。
というより、この状況で緊張しないならおかしい!
「名波さん。話って」
「え!? あ、えっと……その」
はい、お察しの人はいるかもしれないけど、ただいま私、名波 柚音は告白なるものをしようとしています! ……あれ、そういえば誰に対して言ってるんだろ。混乱のせいかな?
心臓の音がうるさいし、教室に大好きな遠野君がいて、二人っきりなんてシチュエーションだけでもパンクしちゃいそう。できることなら気絶してしまいたい。
でも呼び出したのは私だし、いい加減覚悟を決めて『好き』って伝えなきゃ。
女は度胸、度胸よ! 柚音!
「遠野君! あの……その……」
「……なに」
そんなにジッと見ないでほしいな。自意識過剰だよね、わかってるけど。
だって、ますます呼吸しづらくなっちゃうから。
息継ぎをするみたいに、短く呼吸をするしかなくて。こんなんじゃ、ますます心臓が痛くなっちゃうのに。
「その……つ、つつつつ付き合ってください!」
「……無理」
即答!? あと一言のみ!?
クール! クールすぎるよ遠野君!
これって、脈なし?
で、でもここであきらめちゃダメだよね!
「ど、どうしても、ダメ、かな……」
せめて友達から、とか……。
望みを断ち切って、遠野君は首を縦にためらいなく振った。
「うん。時間ないし」
「え、えっと……用事とか、塾とか?」
遠野君って、そういえば放課後に教室に残ってない。友達にもあいさつして早々に帰っちゃってて。今日だって、わざわざ手紙を使って呼び出しをしたんだよね。
バイトとかしてるのかな?
あ、ちなみに部活に入ってないのは調べ済み。弓道部とか似合いそうなのになぁ。
やっぱり学外ですることがあるのかな?
って、遠野君? どうして肩にかけたバックを開けて探ってるの?
なにか取り出すの?
「ううん、ちょっと。世界救わなきゃいけなくて」
え? それって有名な3次元に見えちゃうゲーム機?
ヒゲを生やしたオジサンが姫様を助けに向かうようなのが代表作の?
今の会話の流れで必要? それって。
……。
え、あの、え。え、まさか。
あの、もしかして、遠野君て……オタク?
え、ええええ!? そ、そんなのリサーチしてない! 遠野君用ノートに書いとかないと!
……っは! そうじゃなくって!
私、ゲームとかあんまり詳しくないかも。妹がやってるのを隣から覗き込んでるだけだし……。それもたまに。
話題とかついていけないよね。
それに、もし、もし遠野君がそういうゲームとかアニメとかの人しか好きになれない人だったら……どうしよう!?
私に勝ち目ない!
ううん、でも! でも、そんなの関係ない!
だって、遠野君のこと、好きだもん!
***
そう、あれは入学式の後の数日後の昼休み。
購買のパン買いの生徒同士にまぎれた私が、あっけなく負けた後。
私はトボトボと歩いて教室に帰ってた。今日はずっとお腹がすいた状態で授業を受けるなんてついてないなぁ、なんて溜息を吐いて。
せめてジュースだけでも買って、誤魔化そうかなって自販機に立ち寄ったとき。
自販機が置いてある中庭で、私は遭遇した。
動くパンの山に!
……なーんて、最初は驚いたけど、すぐに分かった。両腕いっぱいにパンを抱えた人だって。
私とは違って、その人はうまく購買戦争を乗り切ったみたい。
いいなぁ、うらやましい。一個くらいくれないかな。
なんて見てたら、山が崩れて、運んでた人の顔が見えた。
一瞬、女の子かと思った。それぐらい、中性的な顔立ちで。でも、下を確認したらズボンをはいてた。
――そんな彼は、トンカツサンドとあずきホイップサンドを口にくわえて、もふもふと食べてた。
なんで!? え、なんでその組み合わせなの!? おかしくない!? 口の中に甘ったるさと脂っこさの戦いが起こってるはずでしょ!? え、ホントになんで!?
心の中でツッコミの嵐が巻き起こった。
そしてどういうことか、その顔との違いに胸がキュンと切なくなった。
そう、見事に私はギャップ萌えをしてしまったのです!
認めたくなくて、『え、そんなまさか』なんて慌ててちゃったっけ。そんな私に、すぐに通り過ぎるって思ってた彼が何故か立ち止まった。
「ふふぅふふふふ?」
「……えっと、とりあえず口に物を含んだままだと、聞き取れません……」
初対面だから、敬語で答えてみせた。
しばらくもふもふ口を動かして、二つのサンドを落とすことなく平らげた彼は、改めて言葉を発した。
「……よかったら、いる?」
「ぜひ!」
っは、脊髄反射で答えちゃった。がっついてるって思われそう……で、でも、この人だってそうだしいいよね!
「好きなの、取って」
「あ、ありがとうございます!」
両手がふさがってるから、渡せないんだろうな。
パンの山から、レタス入りのサンドイッチを一つ取った。
「……それだけ?」
「え?」
誰が言ったのかとっさにはわからなかったけど、この場には私以外に彼しかいない。
だから、顔を上げると彼と目が合った。
「少なくない?」
「え? ううん、そんなことないよ?」
私にとってはちょうどいいんだよ? あんまりいっぱい食べると、午後の授業眠くなるしね。
「ふぅん。だから、小さいのか」
「そっ、そう、だね……」
平均身長よりちょっとだけ低いんだよね。すごく低いってわけでもない、はずなんだけど……。
気まずくって苦笑いしか出てこない。
失礼なひとだけど、こっちはパンを恵んでもらった立場だから、文句を言うのもためらっちゃうなぁ。
目の前の彼だって、背の高さは他の男子生徒より低めに見えるけど。私より高いし、言われても仕方ないのかも。
……そう自分に思い込ませようっと。
「……うん、かわいい」
「え?」
ふいに落ちてきた呟きに、思考回路が停止しちゃう。
声の主の彼は、ぼんやりとしていた私にやわらかく微笑んだ。
「っ!」
春の陽だまりのような笑顔。見ているだけで、ぽわっとしちゃうような温かさ。
「あ……う……」
顔に血が集まって、口はハクハク開け閉めしかできない。言葉なんて出せそうもないよ!
――このとき、完全に私は彼に落とされてしまいました。
***
それからは遠野君を見つめる日々。
実はクラスメイトだったっていう事実に、まずは驚いて。自分の幸運に飛びあがりそうなくらい喜んじゃって。
ほんっとうに、遠野君って素敵なんだよ?
例えば――
*
(昼休み、遠野君とその友人2人の会話から)
「……遠野」
「ふぁに? ふぁにふぁほう?」
「いや、しゃべりながら食うなよ。なに言ってんのかわけわかんねーよ」
「とりあえず飲み込め? な?」
「……」
「「……」」
「…………」
「……早く飲み込めよ! いつまで咀嚼してんだよ!?」
「遠野、俺らお前待ちなんだけど?」
「(ゴクン)……なに?」
「いや。あのさ、それ、全部食うの?」
「パンが机からこぼれ落ちそうだな……」
「? そうだけど」
「何不思議そうな顔してんだよ!? こっちが不思議だわ!」
「ホント、このほっそい身体のどこに入るんだろうな」
「あれって、全部遠野君のだったんだ……」
遠野君が、パンの山を一人で消費したり。
*
(とある授業風景から)
「(遠野! ……遠野!)」
「(呼ばれてるぞ、おい)」
「スー……」
「……遠野、いい身分だな」
「ムニャ」
「起きろ。授業中だ」
「スー」(教師に肩を叩かれ、机をゆすられても無反応)
「……」
バサッバサバサッ!
「! 鳩!?」
「スー」
「クルックー」(遠野君の頭に着陸)
「お、おい……」
「ムゥ」
「クゥクルック、クルックー!」(カカカカカカッ!! とすごい勢いで遠野君の頭を高速ついばみ)
「ちょっ! お、おい、遠野!」
「……」
「ククゥクルックー!」(カカカ!! とくちばしを間隔をあけずに動かし続けている)
「え、おい。まさか、まだ寝てるのか……」
「……スー」
「…………もう、遠野は好きなだけ寝てていいぞ」
「(遠野君……諦められてるよ?)」
窓際の自席で寝ている遠野君が、鳩につつかれ始めたり(窓が開いてて自然と入ってきたみたい)。
*
(昼休み、中庭にて)
「(あ、遠野君だ!)」
「……」
「(? カラス? なんで睨みあってるの? それと、毎回見てるけど、あいかわらずパンの量すごいよね)」
「……ック!」
「(? どうかしたの?)」
「これは、俺のだ」
「……!(カ、カッコイイ! カッコイイよ、遠野君! わ、私も言われたい!)」
「……カァ」
「……」
「カァアアア!」(遠野君に突撃するカラス)
「させない!」(素早く避ける遠野君。どうやったらパンを落とさないまま動けるのかな?)
「カ、カカァ」
「……ふっ」(ドヤ顔の遠野君。カッコイイ!)
「カ……カッカカカァ!!」(反撃であて身をくらわせつつ、すかさず1個のパンを強奪したカラス)
「っ!?」
「(あ!)」
「カカァ……」(ドヤ顔のカラス)
「ック! ……ァ、カァカァ!!」(※遠野君、鳴き出した!?)
「(え!?)」
「カ……カァカァ!」(負けじとカラスも応戦し始めた!?)
「カァカァカァ!」
「カァカァカァカァ!」
「(……え、ええっと)」
遠野君が、カラスとパンを懸けて争ったり(あの……威嚇して『カァカァ!』って叫ぶのは、ちょっとどうかな。それと鳥運ないの?)。
*
どの遠野君も素敵で……すてき、で?
……思い返してもロクなことしてないし、されてないよね、遠野君。
あれ? なんで私、好きになったのかな?
と、ともかく! 好きになったものは仕方ないの!
気合いを入れなおさなきゃ! 絶対に遠野君に振り向いてもらうんだから!
「時間的にもギリギリだから、今日はもう帰ってもいい?」
「! ダメ!」
なんで告白して1分もせずに帰っちゃうの!?
オマケに無理の一言だけって!
「そ、それじゃあ好きなソフト教えて? 私も、遠野君が好きなのをやってみたいから!」
「……無理」
すげなく却下!? 冷たい! 冷たすぎるよ、遠野君!
「そう言わずに! お願い、ねっ!?」
「無理。それに、そういうのって、迷惑だと思う」
「うっ!」
迷惑って! 迷惑って言われた!
でも、ここで引き下がっちゃダメ!
あきらめちゃいけないよね!
「でも、私! 遠野君のこともっと知りたくて!」
「……そうなの?」
「うん!」
遠野君に見えるように、大きく頷いてみせた。
「……ふぅん。わかった」
「え?」
『わかった』って何が?
首を傾げる私をほっておいて、遠野君はおもむろに頷いた。
「いいよ、名波さん」
「ほ、ホントに!?」
「うん」
うわぁ! やった!
これで、少しは前進したのかな?
思わず両手を叩いちゃった。遠野君にそれを観察されてることに気づいて、すぐに恥ずかしくなっちゃったけど。
子供っぽいって思われちゃった? でも、すごく嬉しくて我慢できなかったし。
「――じゃあ」
「え?」
……え、ええ!? どうして、私、遠野君に腕つかまれてるの!?
「しっかりつかまってて」
「っ遠野君! う、うううううで! 腕が!?」
「はぐれたら大変だし、我慢して」
「はぐれたらって……!?」
「どういうこと?」そう聞こうとして、言葉の途中でやめた。
妙に明るい光が、室内を満たし始めたから。
「っええ!?」
まぶしっ! これって、どこから漏れてるの?
……って、ゲーム機から!?
なんで画面が光ってるの!?
こんなの、なにも見えない……!
思わずギュッとまぶたを閉じて。
まぶたの裏にも光が伝わってくるくらいの強い光が、長く続いてる。
しばらくして、それも徐々に収まって、ようやく目を開けることができた。
「……え?」
教室じゃ、ない?
どうして、え? ここって?
なんで、ツルツルした白い石の床に立ってるの? もしかして、これって大理石?
そ、それに、目の前に噴水まであるよ? ヨーロッパのお城にありそうなの!
な、なんかすっごく、場違いなところにいる気が……。
「って! そうじゃないよ!」
「? どうかした?」
「! 遠野君!」
「? うん」
よかった! 遠野君は一緒なんだ!
って、あれ? そういえば、さっきまでの会話の流れ、なにかおかしかったよね?
「よかった。無事に連れてこれた」
「それだよ!」
「? どれ?」
そうだよ、遠野君が『はぐれたら』とかなんとか言ってた気がする!
「……? 名波さん?」
「えっと、あの。遠野君がここに連れてきたの?」
「? うん」
……。
…………。
………………。
って、ええええええぇぇぇぇぇぇえええええええええっっっ!?
「名波さんが来たいって言ったから」
言ってない! 言ってないよ!?
私が聞いたのは、ゲームのソフト名!
べつに連れてってなんて言ってないよ。そもそも、ここどこなの?
どうして、教室じゃないの? いつの間に私達は移動したの?
色んなことを一気に問い詰めたくなって、私は口を開こうとした。
……んだけど、え、あの。ね、ねぇ、遠野君、誰か近づいてきてるんだけど。
白いズボンを着て、深い緑色のジャケットをその上に着てて。下は白いズボンにブーツ。なんか、服装の素材が全部高そう!? あのジャケットの端に刺繍してあるのって、も、もしかして金糸!?
金髪に碧眼って、思いっきり外人さんですね! 顔つきだって彫りが深くて、鼻が高いよ。
そ、それに腰に下げてるそれって、もしかして、剣ですか!? 帯刀してるんですか!?
なにより、すっごくイケメンなんだけど! ハリウッド俳優の中に混じってても変じゃないレベルだよ!
コ、コスプレかな? それとも、なにかの撮影?
堂々としてるなんて、すごい自信かも。私なら情けない声上げて、全力で拒否だよ。
ところで、どうしてこっちに来てるの? あの人。
遠野君は私の視線の先が一点に集中してることに気付いたみたいで、背後を振り返った。あの人を見ても動じた様子がないなんて、遠野君ってやっぱりすごい。
そして彼は、私と遠野君の目の前で、立ち止った。
妙にキラキラした王子様っぽい人が口を開いた。
近くで見ても、ものすっごく美形な人! でもでも、遠野君のほうが……って、キャーッ!? 私、なにを考えてるの!?
「こんばんわ、勇者殿」
微笑みが眩しいですね! 歯だって歯磨き粉のCMに出ちゃいそうなくらい、真っ白ですね! アイドル大好きな友人が見たら発狂するんじゃないかな。
ところで、勇者ってなんですか? あ、もしかして、そういう設定なの?
王子(仮)が話しかけてるのは遠野君だから、遠野君って勇者の役?
……かっこいい! 龍とか悪い魔王とかを凛々しい顔で、剣の技を駆使してドンドン倒しちゃったりしそう。
それでそれで、囚われのお姫様を救いだしたりとか……!
『……待たせしました、姫。どうぞこちらに』
なーんて。キャーーーーーッ!! そんな風に駆けつけてくれたら、もう私幸せすぎて泣いちゃうかも!
あ、でも……鳥の魔物とか出てきたら、遠野君負けちゃいそうな……鳥運ないから、遠野君。
美形さんの視線が動いて、目が合った。
動揺してワタワタしてるうちに気付かれた!
「……む? そちらはどなただ?」
「どうも、殿下。名波さんは級友です」
ほ、ホントに王子様だった!
って、え。ちょっと、待って。さっき、気になること、この王子様が言ってなかったっけ。
遠野君のカーディガンの裾を軽く引く。
すぐに、遠野君が気づいて私を見つめてきた。
「ねぇ、遠野君。一つ、聞いてもいい?」
「うん」
「……ここって、どこなの?」
「異世界」
「え?」
え。
聞き間違いかな? 私が遠野君が言う言葉を取り違えちゃうなんて、疲れてるのかも。
遠野君には申し訳ないけど、もう一回言ってもらわないと。
首をななめにしてる遠野君カッコ可愛い! ……ッハ! じゃ、じゃなっくって!
「ご、ごめんね、遠野君。よく聞き取れなくって……もう一回言ってほしいな?」
「? わかった。……ここは異世界」
「……」
「……名波さん」
「…………え?」
「え?」
間違いじゃ、なかったの?
唇の端が引きつってる。絶対ブサイクな顔しちゃってるって自覚あるけど、すぐには直せそうもないよ。
混乱する私に、大好きな遠野君はとどめをさしてきた。
「言ったはず。世界を救わなきゃいけないって」
「……アハハハハハ…………ぇ。ぇぇぇぇええええええええええええ!?」
私の間抜けな叫び声が空間に反響するけど、そんなの気遣えないほどビックリしちゃう。
そんな私を、キョトンとしつつ嬉しそうに遠野君が、「ほぅ」とあごに手をあてて面白そうに王子が眺めてたなんて気がつかなかった。
――どうやら、好きになった彼は、勇者だったみたいです。
遠野、という名前にニヤッとした方、いらっしゃいますでしょうか?
彼は、別作品のサンタくんシリーズに出てきました、主人公の友人のサキちゃんの親族です。彼女、遠野咲月の弟君です。
下の名前は出てきませんでしたが、彼は『遠野光希』といいます。
この作品では、『サンタくんと一緒!』の後半以降、伊月達が高2くらいの時系列です。
サキちゃんはこの不思議系?弟の対応に大変手を焼いています。
さらにさらに、この二人が通っている高校は、みずたまシリーズの佐上と瑞木が入っている高校と同一のものだったりします。四人とも同学年です。
名波柚音さんがどうなったのか、というと、遠野君を必死に追いかけたり、王子にちょっかいを出されてしまったり、宰相に言い寄られてしまったり、はぐれ騎士に忠誠を誓われてしまったりします。頑張れ、柚音さん!
そのうち、遠野君サイドを書いてみたいですね。
きっと、キャラ崩壊もはなはだしい内容になりますが。
ではでは。
読んでくださったあなたに、最大限の感謝を。