三
「ちょっと反感を買い過ぎたようだ」
俺はまた教卓に立って述べた。
「昨日アカウントなくなってたな。運営に止められたのか?」
いつもどおり佐古田がヘラヘラ笑いながらバカなことを聞いてくる。
「違う。自分から消したんだ。そしてまた別のアカウントで入会した」
俺は手にぐっと力を入れて、堂々と話し続ける。「また作品を投稿する。同じやつだ。でも、タイトルやあらすじも変えるし、登場人物の名前も少し変える。これはただの変化じゃない。進化だ」
決して妥協ではない。あの作品を作ったのは過去の俺だ。過去の俺より現在の俺の方がずっと成長している。その成長した俺がタイトルや登場人物の名前を変えた方がいいと思っているのだ。変えなければならない。
「評価やお気に入り登録はそんなにしなくていい。徐々に増やしていってくれ。少なくとも今日はいらない。明日以降にまずお気に入り登録だけしてくれ。評価を入れるのはもっと話が進んでからだ。俺が合図するまで待っていてくれ」
おう、と佐古田たちが返事するのが聞こえた。凡人というのは本当に単純な生物だな。まさに単細胞だ。
「今日、昨日までの分の三話と第四話を一気に投稿する。内容が少し変わるからもう一回読んでくれ」
分かった、と言いながらもにやにや笑う佐古田たちの表情がやや気になったが、特に気にはしなかった。
「楽しみにしてるぜ」
「ああ。お前らの期待を超えてやるよ」
「リスタートだ」
俺は家に帰り、パソコンを開く。登場人物の名前を変えながら加筆修正するのだ。
検索機能を使って登場人物の名前を次々と新しいものに置換していく。今思えば前までの名前は魅力がなかったり、あまりにも中二病臭があったりしていた。つまらない。
タイトルもいまいち人の目を引くものではない。こんなものをネットに投稿していたかと思うと、今すぐマンションから飛び降りたくなるくらい恥ずかしい。
そして文章も所々甘い。書いている時は面白いと思った比喩なども、今思えば空回りだったかもしれない。
ストーリーはいいが、描き方がいまいちだったな。まあ、あの時はまだ若かったから仕方がない。
一時間ほどかけ、今完成している分の全てを修正完了。まあ、俺ほどの実力者ならこんなものだろう。
「さあ、投稿だ」
スマートフォンのアドレスで作ったアカウントのユーザページで「ダイレクト投稿」を押し、書いた文章をコピペして投稿する。その際にネット小説らしくいくつか改行を入れる。
そして人気キーワードをいくつか入れた上で、他にはない個性的なキーワードもいくつか入れる。
確認として文章を読みなおす。すると、文を読むだけでその情景が頭の中に広がってきた。
これは素晴らしい。さすがは俺。さすがは天才だ。
最後に『投稿【実行】』を押して完了だ。天才の再スタート、逆転劇がここから始まるんだ。そう思うと未来が実に輝かしい。俺の前を真っすぐ伸びる道にレッドカーペットが敷かれてスポットライトが当てられているかのようだ。
ついでに昨日までの分の第三話までと最新話を投稿する。
クラスのグループチャットにもそのことを報告した。そして俺はパソコンを離れ、いつも通り家族と会話し、風呂に入る。昨日以上に気持ちいがいいな。なんの入浴剤も入れてないのにバラの香りが鼻を抜けて全身を巡るようだ。
風呂から上がり、ふわふわのバスタオルで頭を拭きながら俺はパソコンの前に座った。
おそらく評価点などはあまり付いていないだろう。まだ三話目だから評価もあまり多くはないだろう。
――評価やお気に入り登録はそんなにしなくていい。徐々に増やしていってくれ。少なくとも今日はいらない。明日以降にまずお気に入り登録だけしてくれ。
俺はそう言ったはずだ。クラスメイト分の評価はゼロなんだから、せいぜい2点か4点か。多くても10だろう。この四話でストーリーのすごさや表現の大胆さは伝わるはずだろうからな。
さあ、と俺はパソコンを立ち上げてブックマークからユーザページへ飛んだ。
『感想が書かれました』『レビューが書かれました』の赤字が写った。
「おお、」
これはクラスメイトのものでないはず。ということは、俺が完全に認められた証拠と受け取っていいだろう。
その赤字を俺はあえてクリックせず、小説管理ページに飛んだ。楽しみは後に取っておくものだ。
少し下にスクロールさせると赤い字の総合評価点が見えた。
「はっ?」
俺は目を疑った。目を擦る。でも、変わらない。
「なんだこのポイントは?」
総合評価:540pt
評価人数:45人
お気に入り登録:45人
更によく見ると感想数は30、レビュー数に至っては40も入っている。
「なんだこれは……っ」
俺は半ば反射的に『レビューページを見る』をクリックしていた。
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『ゾクゾクした!』 投稿者:人の左に古い田んぼ
これを読まないなんて、人生の半分を損している。
最初の数行でそう思いました。
しかし、最新話まで読んでみるとそれが間違っていたことに気付きました。
人生の全てを損します。
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佐古田? どうしてあいつが? 何もするなと言っただろう。
他にも『直木賞か芥川賞間違いなしです』『東野圭吾も村上春樹も真っ青だ!』などと嘘臭いレビューばかりだった。
「なんだよ? これ」
俺はすぐさまスマートフォンでクラスのグループチャットに向かった。
佐古田たちが「最後の問題の答えなに?」などと明日の宿題について話し合っている。
それが異様に腹立たしかった。それどころじゃないだろう。何をくだらないことを。
そこに「どういうことだ! 何もするなと言っただろう!」と叫びたいほどの怒りを込めて書き込んだ。
すると、すぐに『既読』の文字が浮かび上がった。
だが、返事はすぐに来なかった。
きっと返答に困っているのだろう、と俺は考えた。
しかし、待てども待てども返事は来ない。更に佐古田たちは何事もなかったかのように宿題の話を続けている。
その間にもポイントは増幅し、時計の針が頂点を過ぎる頃には1000を超えていた。クラスメイト四十人が12ポイントずつ入れても遥かに届かない数字だ。
ということは自然にクラスメイト以外もポイントを入れているということになる。それなのに、どうして次々と飛んでくる感想やレビューは嘘臭いものばかりなんだ?
新着活動報告にも【拡散希望】の文字がスピード感染していく。
『ワロタwww こんなポイントの増やし方で読者が増えるとでも思ってんのかよ』
思ってない……!
『あいつが別アカウントで帰ってきた! バカだろ、あいつ』
意味が分からない……!
『数十人を使ってポイントをちょっと水増しして批判が来たから、百人近くを使って増やしてやったってところかな。そんなに顔の広さをアピールしたいのかなあ、この馬鹿野郎は』
何なんだ、これは……。




