一
この世に天才など本当にいるのだろうか?
そう問われれば俺は迷わず答えるだろう。
イエス、と。
「みんな! 聞いてくれ!」
授業と授業の間の十分休み中、俺はクラスの教壇に立った。
「なんだよ」
そうやって嘲笑気味に笑ったのは佐古田だ。このクラスの委員長で、俺の親友。
俺はこのクラスの人間全員と意思疎通を図り、もう全員が友達だ。その中でも特に佐古田とはよくつるむ。
俺は大統領になったような清々しい気分で演説を続けた。
「『小説家になろう』ってサイト知ってるか?」
クラス中を見渡す。隅から、隅まで。
知ってる? と他の友達に聞く者もいれば、じっと俺を見つめる者もいる。
「知ってるぜ」
そう答えたのは佐古田だった。基本的にコイツは何でも知っている。「素人が小説を投稿するサイトだろ。俺の友達がやってるよ」
「なら、話が早い。実は俺、趣味で小説書いてるんだ。最高に面白いぞ。その作品で俺は『小説家になろう』の天下を取りたい」
そして、プロになるんだ。
自分でよく言うよ、とどこからともなく聞こえる。確かにそうかもしれない。でも、読めば分かるさ。俺の才能が。自分でよく言えるくらいの才能が、ひしひしと伝わるはずさ。
「そこでみんなに協力してほしい。このサイトではポイントと言うものがある。それはサイトのユーザになれば付けることができるんだ」
俺はそこで少し溜めを作る。最高に気持ちのいい瞬間だ。
「みんなも入会して俺にポイント入れて欲しいんだ。それだけでいい。もちろん入会はタダだ」
「ポイントを付けられるといい事でも起きるのか?」
「いい質問だ、佐古田」
俺は教卓を挟みこむように手を力強く置き、佐古田の目を真っすぐ見つめる。
「ポイントを付けられるとな、ランキングに載るんだよ。総合ランキングにはそう簡単には載れないが、ジャンル別なら少しのポイントでも載れる。総合ポイントは評価ポイントが10、お気に入り登録で2入るようになっている。つまりひとり12ポイントだ。二、三人がそれだけのポイントを入れてくれれば十分トップ3は狙える。これはかなりの宣伝になるんだ。みんなにはできるだけ長くランキングに載るために一日三、四人くらいポイントを付けてほしい。何もマックスで付けることはない。徐々に付けてくれればいい。お気に入り登録も、な」
「そんなポイントの水増しみたいなことをしていいのか?」
また佐古田が揚げ足を取るようなことを言ってくる。こういうところがコイツの悪いところだが、この際どうでもいい。
「構わない。みんなやってるさ。ひとりかふたりくらい巻き込んでポイントを増やさせるくらいのことはな。それを俺は四十人でやろうって言ってるだけだ。何も悪くない。俺が読んだ限り利用規約にも反してはいない。ひとりで複数のアカウントを持つのなら規約に反するが、そうじゃないだろ?」
こんな作戦を考えるとは、俺はやっぱり天才だ。間違いない。
思わずにやりと笑ってしまう。
その時、また佐古田が尋ねてきた。
「俺たちにメリットはあるのか?」
その質問を聞いて、また俺はにやりと微笑んでしまう。
やっぱり佐古田のような凡人にはメリットが想像できないみたいだな。この、あまりも素晴らしいメリットを。
「俺には文章の才能がある」
俺は力強く『才能』を強調しながら演説する。
「ストーリーテラーの才能がある。俺の作品は最強なんだよ。でも、光が当たらなければ意味がない。そこで、みんなで俺に光を当てて欲しい。俺の作品にポイントを入れたり、お気に入り小説登録してくれればいい。そうしたらポイントが増え、ランキングに載る。つまり俺の才能に光が当たるわけだ。このサイトではたくさんプロが生まれている。俺なら間違いなくプロになれる。友達にプロの作家がいたら誇れるだろ? 自慢話になるだろ? それがメリットだ」
すると、教室がざわめき始めた。まだ俺がプロになるべき天才だと信じられてはいないのだろう。
でも、読めばわかるさ。
「面白そうだな」
そうにやにやと微笑んだのはやはり佐古田だった。「いいぜ、みんなでやろうじゃんか」
授業が全て終わった後、俺は部活に行く。でも、部活では何も言わなかった。部活のみんなには、クラスのみんながポイントを付け終わる頃に協力を頼むべきだろうと考えたのだ。
そして部活も終わり、俺は家に帰り着く。
一人部屋のパソコンを立ち上げ、早速ログインだ。昨日の内に入会は済ませておいた。
そしてワードを開く。一応、俺は今までどちらも未完ではあるが二作書いている。ひとつはファンタジーもので俺の最高傑作。もうひとつはどのジャンルとも言い難いものだ。
一応公募もいくつか調べたのだが、ふたつともかなり長い話なので、どの新人賞に送ることもできなかった。こうしたくだらない縛りで立派な才能の芽が潰されると思うと憤りすら感じる。
そんな時に知ったのがこの『小説家になろう』だった。このサイトでは数多くのプロが生まれている。つまり、ここは字数制限のない新人賞に等しいのだ。
そして、俺はここ一週間でそのふたつの小説を見改めた。やはりファンタジーものの方が完成度は高いが、所詮過去の自分が書いたものだ。文章に甘い所がたくさんあった。そして俺はそこを書き直し、完璧なものに仕上げたのだ。これでプロになれないわけがない。
どちらも大胆で今まで誰も考えて来なかったような設定だ。表現方法も今まで誰も見たことがないような常識破りの素晴らしいものを所々使っている。これは小説界にとって革命になるだろう。読んだ者たちが凡人天才限らず驚きと恍惚に満ち溢れるのが、目を閉じればうっとりと見えてしまう。
とりあえず俺は最高傑作ではない方を投稿することにした。こちらは新人賞を取れるほどのものではないが、二次選考くらいはおそらく通るであろう作品。ある程度のファンを掴むには十分だ。この作品で俺の知名度を上げてから最高傑作を出すのも悪くない。
それに、『小説家になろう』ではファンタジー人気が高すぎる。最初の内にクラスのメンバーが票を入れてもランキングでは大した順位にならないだろう。
つまり、ここはもうひとつのものから始めるべきなのだ。そこでファンを掴めばファンタジーで上位を取ることだって夢じゃない。
この俺ならな。
ジャンルは『その他』だ。この作品の作風としてはそれがふさわしいだろうし、クラスメイトの力を使えば新人ながらジャンル別ランキングのベスト3に載るのも、そんなに難しくないはずだ。
そして、小説を投稿する。さあ、俺の輝かしい未来への大きな一歩を踏み出してやったぞ。
すぐにクラスのグループチャットに顔を出し、小説のURLを貼った。すると、次々とメッセージが届く。
「見るぜ」「やっときたか。待ち切れなかったよ」「入会したよ。ポイント入れるね」
それから俺は夕飯を食べたり、風呂などに入ったりし、二時間ほどしてから部屋に戻ってスリープさせていたPCを開いた。
「ハハッ」
笑い声を洩らさずにはいられなかった。
もうポイントが100近くになっている。調べてみると午後六~七時更新の日間その他ランキングにも12ポイントで15位になっていた。そのせいかPVが100を超えている。クラスメイトの分だけではないはずだ。
すぐに二話目も投稿する。きっとたくさんのユーザが「まだ一、二話なのにそんなに評価を貰えるとは、面白いに違いない」と俺の作品を読み、そこで更に感銘を受けてブックマークくらいはしてくれるはずだ。
それに加え、ポイントが溜まってない不人気作よりもポイントが十分にある人気作の方が「皆が評価しているから」という日本人らしい理由でポイントを入れやすくなる。我ながらすばらしい作戦だ。
もう、俺のデビューは約束されたようなものだった。
その後は学校の宿題や授業の予習などを済まし、グループチャットに貼られる俺を称賛する声を眺めていた。皆が口をそろえて俺を称賛しているとは、これほどの快感だったのか。癖になってしまいそうだ。
少し時間があったので他の人の適当な作品に目を通してみた。そこそこ人気のある作品だったが、実につまらなかった。しかも後書きに「評価をください。せめてPVだけでも……!」などと書いてある。こんなことを書かなければ評価を貰えないとは、本当にたいしたことのない作品だ。
「評価が欲しい」「PVが欲しい」などとわめいている凡人どもよ。お前らがどれほど馬鹿なのか、俺が見せつけてやろう。




