第06.5話 お姉様と踊ろう If End 『もふもふする未来』
黒の森と呼ばれる森がある。
ダンジョンに順ずる程に濃い魔力の立ち込める森は、昼でも薄暗い。
旅慣れた冒険者ですら松明でもなければ満足に踏み入ることのできないその森の半ばには、けれど多くのダンジョンを専門に活動する冒険者――探索者と呼ばれる者たち――が日夜を問わず足しげく通っている。
曰く、三柱の魔王が巣食う魔窟であるだとか、原初の魔王が今なお住まう魔界であるだとか。
その真意を知る探索者は居らず、誰一人として最奥に足を踏み入れたことのないその世界最大難易度の迷宮の一つは未だに衰えぬ魅力をかざし、その入り口を広く全ての探索者へと開放し続けている。
◇ ◇ ◇
ざり、と踏みしめる地面の質が変わった音を聞き届ける。
森から、洞窟へ。
栄養価が高すぎるんじゃないかと勘ぐらざるを得ない良質の腐葉土から不意に赤土の地面に変わるその境界を踏み越え、だだっ広く門戸を開くそのダンジョンへと視線を投げかける。
第一目標は、サキュバスの角の採取だ。
サキュバスを生かしたまま角を切り取り、ダンジョンに吸収分解されるまえに素早く強い結界の効果を持つ聖布と呼ばれる布で包めば吸収は止まり、採取が完了するという。
ダンジョンと野外では、魔物の死体が消え去るまでの時間が大幅に違う。
昨日殺して回ったミミズで約一分、オークなら三分程、そして今回狙うサキュバスの角は切り離してから五分程度はその姿を保持するのだという。
ちなみに、野外で倒したモンスターが消え去るまでにはダンジョン内の約千倍程の時間を要すらしい。
ワイルドウルフは、野外では一日と経たずに消え去るらしい。
ダンジョンで換算すれば、約二分前後だ。
それが、それぞれの持つ魔力の濃度だという。
つまるところ、角だけで五分も持つサキュバスってどんだけ魔力の塊なんだよって話である。
まあそれでも、俺と比べれば可愛いもんなんだろう。
そんな楽天的なことを考えながら、どこまでも続いているように思わせるその仄暗い穴倉へと入っていく。
道中の魔物は、とりあえず無視しよう。
今回の依頼を考えればそんなはした金目当てで時間を浪費するのも惜しい。
リミットは、あと六時間しかないのだ。
しかも勢いに任せて昼飯を食っていない。
晩飯は逃したくないという一心で洞窟をの中を駆けていく。
にしてもサキュバスだよ。
第一目標は角だ、なんて考えてみてもどう考えても一番の目的はサキュバスをこの目で見て、あわよくばくんずほぐれつしたいと思う男心を誰が責められるだろうか?
男なら、誰にだって分かるはずだ。
一番大切なことが。
悪いな、兄弟。
俺は先に大人にならせてもらうぜ。
誰に向けるでもなくそんなことを考えながら、高速で流れていく洞窟の壁の中を進んでいく。
目的地まで、概算で概ね五分というところだろう。
今のうちに方策で宙にぶら下げたままになっている事柄について考えてみようと思う。
要は、昨日みた魔女っ娘を見かけたらどうするかである。
まあ、生きてたら生きたまま持って帰ろう。
死んでたら残念ながら遺留品だけを持って帰ることにする。
……うん。言うまでもなく俺はアッシュが修めた|死者蘇生って禁呪を使える《・・・・・・・・・・・・》。
でも、まあ、あの術式には多大な前準備が必要だ。
今回は残念だが、そういうのはナシと言う方向で行かせてもらおう。
そもそもアッシュの死者蘇生、ぶっちゃけホムンクルスを作り出し、擬似的な思考能力を宛がってソレらしく見せるだけなのだ。
本人はその時点で既に下手をすれば次の生に旅立ってしまっている。
言ってみれば、俺の中に居る故人たちの劣化版を生身で複製する技術なのだ。
要は、結局|人形遊びの範疇でしかない《・・・・・・・・・・・・》。
流石の俺でも故人の形を作って好き勝手に扱って悦に入る趣味はないはずだ。
そんなことに一人納得しながら、目的の分岐路へと到着した。
万全を期し、ポケットから消臭ポーションを取り出して全身に振り掛ける。
どうせああいう種類の魔物は鼻が利くんだ。
半ば確信に近いその直感を信じての行動である。
そして、万事つつがなく準備完了。
分岐路の先へと感知範囲を伸ばして、その先へと足を踏み入れる。
◇ ◇ ◇
「ッ……!!」
そうして進んだ先のその状況を見て、思わず目を疑った。
なんだそれ、都合が良すぎる。
一体何がどうなってんだ。
視線の先には、例の魔女っ娘ことノエルという少女がへたり込んでいる。
依頼書に名前が書いてあった。
そして彼女の目前には……五人のサキュバスがじりじりとにじり寄っているところではないか!
まさか、こいつらもアレなのか?
そんな予感を感じながら、思わず息を殺して物陰からつぶさに、隅々まで観察する。
こと戦闘に携わる職に就く人間にとって、観察とはすなわち勝利への最も重要な一歩なのだから!
「い、いや! いやです!!」
おっと、まさに良いタイミングではないですか。
ノエルの悲痛な叫びを聞きながら、我ながら下種なことを考えながら食い入るようにその光景を見つめる。
「そう連れないことを言うな。なに、案ずることはない。全て我に任せていれば良いのだ」
サキュバス側の、恐らくリーダー格だろうその女性がやけに時代掛かった口調でノエルの説得に当たっている。
やっぱりそういうことなのか? これは期待しても良いのか? ここに塔を建てるべきなのか!?
わくわくとてかりを放ちながら観察を続ける。
「でも……その……」
言い澱むノエル。
咲くバスのお姉さん! 早く畳み掛けるんだ!!
「ぬう、どうしてもダメか?」
上目遣い!
健康的な褐色の肌にこれでもかとメリハリを利かせたボディを見せ付ける彼女が操る惚れ惚れする程にコントロールされたギャップの妙技が光る!!
これは期待が高まるというものだ!!
「その、その……ごめんなさい!」
おっと、ここでノエルまさかの拒絶!
良いよ、サキュバスの皆さん、もういっちゃいなよ!!
大丈夫だって! 嫌よ嫌よも好きのうちって言うじゃないか!!
「そうか……残念だ」
どうしてそこで諦めるんだそこでぇ!
思わず口から飛び出しそうになった言葉を慌てて飲み込む。
「我は無理強いは好かぬのだ。だが、そうだな。せめて我らの巣でもてなしだけでもさせてもらえぬか?」
おおう、サキュバスの巣って単語だけでもいろいろ広がるよ。
どんなおもてなしされちゃうんだろうか。
凄く興味がある。
「でも、私もう帰らないと」
しかしノエル、再三の拒否!
これは交渉決裂だろうか!?
「ちょっと! 貴方さっきからお姉様が優しくしてくれるからって調子に乗ってるんじゃないわよ!!」
おおっとここで意識の外からの口撃!
取り巻きの幼女サキュバスがその口火を切って落としたぁ!!
……って、ちょっと俺も落ち着こうか。
そろそろ雲行きが怪しくなってきた。
いつでも飛び出せるように構えておこうか。
ほら、その、暗がりのキャットファイトが今にでも始まるかもしれないじゃないか。
流石に目の前で怪我をさせるのは心苦しいのだ。
それ以外の意図なんてのはこれっぽっちもない。
今日の俺は紳士なのだ。
「やめよ、見苦しい。だが、それは我のための義憤か? それともそなた自身の嫉妬か?」
ぬ。あのお姉様サキュバスは何のつもりだ?
読めない。
何だろう? おい、まさか目の前でそういうこれであれでそれという誘い手なのか!? 上級者すぎるだろ! 流石サキュバス!!
むくむくと湧き上がる下世話が止まらない、ああ、止められない。
「もちろん、私のものは全てお姉さまのものですわ!!」
おおっと、ここで幼女果敢に攻める!
熱にうなされたように、恥じ入るように頬を染めるそれはまさに楚々とした花弁のように可憐に見る者の心を掴んで離さない!!
これは高得点が期待されます!!
「ふふっ、なら我も何も言えぬな。……今夜は寝苦しそうだ、少々夜話に付き合ってもらえるか?」
出た! 出ました!! これはお姉様の『お誘い』でしょう!!
これは強い!
決まるか? 決まるか!?
「はい! 喜んでお付き合いさせて頂きます!!」
決まったァあああ!!
堂々のゴールイン宣言!
恥らう表情から一転、咲き誇る大輪の笑顔が炸裂しました!!
巻き起こる取り巻きたちの嫉妬の嵐!
浮き足立っている! 浮き足立っている今、ここで!!
「とりあえず角寄越せやあああああああああああああ!!」
言うより早く素早く抜刀し、お姉様の角を刈る!
その軌道で剣を走らせる!!
捉えた! 俺の剣がお姉様サキュバスの角のその付け根を捉え――。
ぎん、と空間を軋ませる程の衝撃が走り抜ける。
っかってえなおい!!
だが、角は折り取った! 素早く宙を舞うそれを聖布で包み取る。
もう一本は……こりゃ、剣が折れるな。
無理だ。これ以上は無理。
硬いなんてものじゃない。
周囲の空間ごと切り取る斬撃ですらギリギリ負けるってどんな強度の角だよおい。
これで金貨十枚とか割りにあわねーってレベルじゃねーぞ!
と、言ってる場合じゃない、とりあえず逃走の段取りを立てよう。
下らない実況してる暇があったらそっち考えてろよ、なんて言葉は受け付けない!
あれはあれで必死に隙を探っていたのだ!!
ここまで考えて、ようやく周囲が俺とお姉様の二人の速度に反応し始める。
『お姉様!!』
重なる四つの声、俺も真似しそうになったのは秘密である。
そのお姉様だが、俺の剣が届く前に僅かだが反応していたのだ。
俺の最高速の不意打ちに反応するとかどんな反射神経だよと思いながら流し見る彼女はゆっくりと仰け反り、後ろへと倒れ込むところだった。
……左右に二つある角が片方だけ折れてるってのは格好付かないな。
思うが速いか、無意識に魔力が彼女の折れた角へと伸びていく。
角に魔力が接触した瞬間だった。
――世界が、凍った。
そう思わせるほどに濃密なその刹那のやり取り。
まず開幕は彼女から発される、濃密な殺気。一度目、自分が死ぬ幻影を垣間見た回数だ。体が内側から黒い槍に食い破られて死んだ。
理解するよりも早く全魔力を瞬時に練り上げ、その攻撃をレジストする。二度目、彼女の目が赤く輝いた瞬間に糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちる自分の姿を幻視して、目を閉じる。
桃色だった彼女の長い髪が赤に変わる。三度、胸を貫くか細い腕を見た。慌てて体を捻る。
赤かった瞳が更に濃く、深く、もはや紅以外に呼び名なんてのが見つからない色にまで変わる。四度、もう片方の手が突き出され、首の正面から脊椎を破壊した。捻った体の勢いに乗って体の軸をずらす。
まるで抱きつかれる寸前というような状況。五度、彼女の両の腕の間で別の宇宙が生まれる。残った魔力を燃やし尽くす勢いでその空間の崩壊と拡散を防ぐ。
都合五度、刹那という時間の間にほんの鼻先程の場所を死が通り過ぎる。その間、俺ができたことは必死に彼女の攻撃を往なしながら、彼女の角を治すことだけだった。
と、いうか、角でデカミミズの五倍程度の魔力の量って絶対嘘だろ。そんな場違いな悪態を心の中で吐くってのは行動にカウントしても良いんだろうか?
彼女の角を治すのに、角の再生だけで俺の全魔力の半分を持っていかれた。
下手すりゃそれだけでタイラントと同じくらいの魔力の量だ。
術式の展開に、危なすぎる魔法の相殺。あと、人体の稼動限界なんてなかったんだと言わんばかりの体捌き。
これの合計が概ね全魔力の九割。
冗談も程ほどにして欲しい。
もう逃げる手もほとんど思いつかねーレベルの消耗具合である。
対して、相手さんは多分残り魔力八割くらい。
詰んだ。
そんな俺を至近距離で見つめるお姉様。
真っ赤な髪、紅い瞳、小麦色の肌、女神と直接対決できるレベルのプロポーション。
というか、顔も女神とタメ張れるねこりゃ。
要は、筆舌に尽くし難い次元の超美貌である。
そんな相手にここまで熱烈に見つめられているというのに沸いてくるのは諦観しかない。
ああ、こんな美人怒らせたらそりゃ殺されるわ。
その一言だけだった。
状況を整理し終えた頃、残り四人のサキュバスが俺とお姉様の移動に気付いたようだ。
そうして、気付いたことだろう。
俺とこのお姉様の戦いは、自分たちに介入できる次元には存在しないと。
「貴様、何のつもりだ?」
「角を貰いに来ただけだよ。元々戦闘する気も倒す気もこれっぽっちもない」
まあ、角くれ! なんて言っても多分普通に致死レベルの魔法をぶつけられるだけだったろうけれども。
さて、打開策はー、まあ、ないな。
魔法の技量も魔力の量も相手が上、剣が使えるなら接近戦は多分俺が上、でもこの超密着距離で使えるのは徒手空拳のみだろう、そうなると接近戦も互角。
腕を下ろしたお嬢様は、だが一歩も引かない。
鼻先同士の距離、五センチというところだろうか。
美人に睨みつけられるというこの状況、生前ならご褒美だと思ったんだろうけど現状は違う。
ぶっちゃけ超怖い。さっさと逃げ出したい。
「ってか、見た瞬間に『あー、これ勝てそうにないわー』と思ったしな」
ある意味本心である。
ただ、角を折った後に最速で逃げ去ることはできると踏んでいた。
詰の甘いことだと思う。
俺の言葉を聞きながら、お姉様はただただ睨みつける視線を強くしていく。
あー、これ、マスターの睨み食らってなかったらこの場で腰抜かしてたわ。
気安くそんなことを考えながら、それでも俺の頭は打開策を求めて空転し続ける。
「……女神、か?」
確かに、俺の背後には女神が居るといえるだろう。
けれど、その問いは何に対するものなのかが分からない。
「何が?」
分からないなら聞いてみよう。
無知は決して、恥ではないのだ!
無知なんかより、いけるだろって相手を過小評価してばっちり捕まった俺の現状の方が確実に恥ずかしい。
「その力だ」
その尋ねかただと、この答えしかできないな。
「違う。これはこの世界の偉人たちの力だ」
俺はそれを借り受けているに過ぎないのだ、と。
確かに切っ掛けは女神に貰っただろう。
けれど、実際に力をくれるのは歴史に名を残す一人ひとりの人間なのだ。
たとえ『魂の複製体』という、悪意を以って言えば偽者のそれだったとしても、彼らが持つ感情は確かに生きていた一人の人間のそれなのだ。
残念ながら、半分も使いこなせていた気はしないのだが。
それに、実際に言葉を交わせたのだってたったの二人だ。
それでも、俺はその二人にこれ以上なく『人間』ってやつを感じてしまっているのだと気付いた、気付いてしまった。
「ふん。狂人の間違いだろう」
その言葉に、思わず目を瞑る。
彼らが狂っていたかどうか。
俺がまともに知っているのはアッシュくらいなものだ。
何を以って狂人と言うのか。
こういうことは、深く考えたことがない。
考えるまでも分かりきっている答えがどうしても頭をちらつくからだ。
「狂ってなきゃ人間なんてやってらんねー」
答えは肯定でも否定でもなく、そもそも質問そのものをなかったことにするような下劣かつ陳腐なものだと理解している。
まあ、そんなのはどうでも良いことだ。
なんとなく、このお嬢様が掴めてきた気がする。
彼女もきっと、女神と同じ人種だ。
人だとか、魔物だとか、そんなの美人なら関係ないよね! そういう精神でいこうと思う。
わりと、本気で。
「ふふ、ふははははは! そうか!! なら人間をやめる機会をくれてやろうか?」
おおう、どうやら俺の答えをお気に召したらしい。
腹を抱えながら三歩下がった。
何がどう琴線に触れたんだか。
ただ答えは決まっている。
「それって街には入れる感じ? 一生飯を食わせてやるって熱烈なアプローチかけてくれる子を待たせてるんだよ。街に入れるならどっちでも良いけど」
そういえば、まだクローディアに飯を食わせて貰っていないことを思い出してそんなことを口走ってみた。
「ほう! 物好きも居たものだな!!」
お姉様は、随分壷に入ったようで笑いながらそんなことを言う。
「蓼食う虫も好き好きって言葉知らないのか?」
その言葉にむっと眉をひそめる。
「お前、自分を好いてくれている奇特な相手を虫扱いか?」
もちろんそんな意図はないし、お姉様もわざと下らない言葉遊びに興じているのだろうと伺える。
この不機嫌は表面的なものだ。
さっきまでの身動ぎすらできない程に鋭く刺すような威圧感はその一切を霧散させているのがその証拠といえるだろう。
「むしろ俺が食うほうなんじゃないかな」
「今度はゲテモノ扱いか! ふふふはは!! おま、お前、その内軽口のせいで刺されても知らんぞ!」
刺されるって……。
いや、そんなことにはならない。はず。
「だから俺がさす方だっての」
「ふむ。もう少し品性を養え。直接的なものは好かん者も居るのだぞ」
急に真顔になって説教されてしまった。
サキュバスに下ネタのダメだしされる俺って……。
ある意味凄まじく貴重な体験だな!
「お姉様はもうちょっとソフトな方が好きなのか」
「ま、何事も程々というものだろうよ」
しみじみと頷きを返してくるお姉様。
「勉強しておくよ」
「そうしろ。さて、お前は私の角を折ってくれた訳だが、何か弁明はあるか?」
おおっと、急に本題が来た。
すっ呆けたい衝動に駆られるがぐっと我慢する。
弁明、か。
「ない! 俺は『プル牧場』が作りたいって自分の欲に従ってここに来たんだ。だから俺にできるのは弁明じゃなくて、『プル』がいかに素晴らしい生き物かを広めることだけだと思う!!」
自分でも馬鹿じゃないのか、という勢いで開き直ることにした。
かといって、これも偽りようのない本心なのだ。
というか、本当に本当のことなのだ。
弁明なんてのはない。
できるのは謝罪か逃走、その二択である。
現状逃走を封じられている以上、もう謝罪か開き直りかの二択になっている。
「『プル』と言うと、あの毛玉か?」
「そう、その『プル』だ」
「ふむ……」
急に黙り込むお姉様。
よくよく考えると、案外ころころと表情の変わる人だ。
その顔は、にやりと酷く人の悪い笑みに変わる。
「その牧場とやらに、我らサキュバスも一枚噛ませる気はないか?」
おお!
まさかお姉様も『プル』の素晴らしさに心を奪われた内の一人なのか!?
胸の奥から熱いものがこみ上げてくる!
「もちろん、喜んで!」
そうだよな、そうだよ!
サキュバスだって年頃の女の子から妙齢の女性ばっかりの種族じゃないか!
そんな彼女たちに『プル』の良さが分からない訳がない!!
◇ ◇ ◇
それから一昼夜、ノエルの存在もすっかり忘れたままお姉様と『プル』について熱く語りあった結果。
「頼むぞ、我が朋友よ!」
「任せてくれ、相棒!!」
がっしりとお姉様、ロザリアと握手を交わして『プル牧場』の野望を現実のものとしていく。
牧場は、切り取ったロザリアの角を売った金で十分すぎる程に足りた。
そしてサキュバスという労働力を得た俺は、この世界の一角に『プル帝国』と呼ばれる大牧場を持つまでに至ったのだった。
『もふもふひろば』なるおさわりコーナーを開設したのが決め手だろう。今や入場料だけで運営が成り立つところまで漕ぎ着けたのである。
今では領地のお嬢様までお忍びで遊びに来る一大テーマパークと化した俺の思い描いた理想郷は、今日も『もふもふ』と音を立てるように全ての人を毛玉の海へと飲み込んでいくのだった。
ああ、そうそう。おさわりと言っても触るのは『プル』なのであしからず。
あれ、台本と違う。




