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このろくでもない世界で  作者: Glass-holic
風の通り道
49/89

閑話 a short rest, 竜殺しは肉を焼いた

「おおー! つめてー!!」


 突っ込んだ足先から、川の水の冷たさが這い上がってくるような気がする。


「先輩……何はしゃいでるんですか。それより準備手伝ってくださいよ」

「カオル様。ご主人様のお手を煩わせるようなことではありません。カオル様もお休みになっていてください」


 薫め、こんな時まで真面目くんやりやがって!

 なんて思いながら、川辺で準備に奔走しているパーティメンバーと奴隷達に目を向ける。

 たまには息抜きも必要だろうってことで、いつものように魔物達の集落周辺に食い物運んだ後の昼前、俺たちは牧場予定地近くの小川までバーベキューに来てるって寸法だ。


 って、ケディが凄いスピードで竈(かまど)組んでるなぁ。

 それもすっごい笑顔で。

 なんというか、趣味と仕事が面倒の出ない範囲で噛み合ってるっぽいケディは仕事しててもこういう遊びに来てても楽しそうだ。

 アレが人生楽しんでるヤツ、言ってみれば勝ち組ってヤツだろう。奴隷なのにな。

 まあ、それはどうでも良い。


 ざっくりと辺りを見回してみると、真面目なヤツ不真面目なヤツといろいろといる。

 その中での真面目筆頭は薫、ユミエルと、あとクローディア、クレア、サーシャだろう。

 何故か活き活きとしているユミエルに、自然体のまま臨戦態勢をそれと気取らせずに維持できるようになりつつあるクローディア、なんにしても全員、無駄に手馴れた様子である。特にクレア、動きが効率的だとかそんな次元じゃなく計算されつくしてるんだろうな、というのがなんとなく見て取れる。

 それと同じくらいに無駄なく働いてるのに、今にも小躍りでも始めるんじゃないかってくらいに機嫌が良さそうなユミエルはなんというか……ワーカーホリックだとかそういうヤツだろうか。


 不真面目なヤツ筆頭は、早くも適当な岩に腰を落ち着けて酒を煽ってるニーナと、奴隷年少組三人娘と遊んでいるミリア、働いてるフリをしつつ完全にサボりに入ってるアンリと、ミリアと戯れている年少組を眺めているシャオ、難しい顔で俺が言いつけた魔力制御の訓練を続けてるエミリー、ノエルの二人……って、これはある意味真面目だ。


「あれ、リノアは?」

「薪拾いついでに周囲の警戒に出たぞ」

「……あいつ、案外真面目だよな」


 クローディアの返答にそんな納得を感じながら、百メートル程離れたところにあるいくつかの気配を拾う。

 そもそもクレアを筆頭にそれなり以上に大物の魔物がいるのに襲い掛かってくるような魔物なんてのは、この辺りにはそうそういないんだけどな。

 それに、一応俺もずっと周辺五百メートルくらいの気配は探ってる訳で、ヤバそうなのがいたら向こうに見つかる前にどうとでもできると思う。

 ……ああ、風下にいるのは向こうが先に気付くかな。まあ、誤差だろう。


 ってか、クレアがいる以上不意打ちなんてのはほぼ不可能だろうに。

 そんなことを考えながら、もしかして偵察の練習だとか奴隷に森の歩き方教えてるだとかそういうことだろうか、なんて思考を遊ばせた。


「まあ、良いや。とりあえず半分くらいは遊んでても良いだろ。五十人近くいるんだから一緒にごちゃごちゃやるってのも逆に邪魔だろうし」

「そうですね。是非、『アマツカゼ』の皆様は楽になさっていてください」


 ユミエルの輝くような笑顔の裏に私の仕事を取るな的な思考が感じられるのは捻くれ過ぎだろうか。


「にしても、缶とか瓶の飲み物とか、スイカみたいなのがあれば川で冷やして、なんてのも良かったのになぁ」


 こっちの世界にも瓶詰めくらいはあるけど、アレ結構密封度だとか耐久性に不安があるんだよね、なんて考えながらないものねだりしてみる。


「カン? なんじゃそれ」


 妙なところに食いついてくるニーナ。

 ああ、酒飲んで落ち着いたら暇になったのかね。

 流石に移動中には飲んでなかったしな。


「薫、説明」


 いつものように後輩くんに説明を丸投げしてみる。

 ユミエルに仕事を取られて暇そうだったし丁度良いだろう。


「はぁ。薄い金属で密封した飲み物だとか、食べ物を入れるものですよ。保存食なんですけど、缶のまま温めたり冷やしたりして食べたり飲んだりするんです」

「ほぉ。主らの故郷ではそんな物まであったのか」

「まあ、なぁ」


 よくよく考えれば現代社会からドロップアウトしてそろそろ一月近く経ってる訳だが、案外すぐに馴れてしまった。

 俺が味噌汁を恋しく思うのはまだまだ先らしい。

 馴れたといえば、薫だな。

 パーティを組んだ当初はデカい虫だとかを見つける度に悲鳴を上げそうになっていたのが、今や涼しい顔で踏み潰すくらいに逞(たくま)しく育っている。

 郷に入らば郷に従えってヤツだ。

 こっちの世界には殺虫剤とかないしな。気に入らないなら叩き潰す以外ない。

 もしくは俺みたいに薄く結界的なものを張ってみたり、ってヤツだろう。

 最近はほとんど無意識に維持できるようになっていたりする。

 案外、魔力と魔法の制御の訓練に丁度良いのかもしれない。


 閑話休題。


 魔法と言えば、全力でイメージしてみたら缶詰の一つや二つ魔法で作れないかな?

 なんて考えながら、右手に魔力を集めてみる。

 イメージは、どうしようか。

 こういうレジャー的なヤツだとやっぱりビールだろうか。

 パッケージはイメージできる……が、飲んだことないし中身がイメージできない。

 良いや、適当にエールでも詰めとけ。

 そんなことを思いながら缶ビール、というかパッケージ詐欺な缶エールを魔法で作ってみた。

 ……これ、魔力量的にわりに合わないってレベルじゃねーな、と一息。


「こんなのがあったんだよ」


 言いながら缶エールをニーナに投げ渡す。


「ほぉ! ……これは、どうやって飲むんじゃ?」

「振ったばっかだからそのまま開けたら吹き出るぞ。あと、そういうのは冷やして飲むに限る。とりあえずしばらく川に沈めとこう」

「先輩……なんというか、魔法の無駄遣いすぎませんか」

「…………俺もそう思うよ。まあ、折角だし子供用にソフトドリンクも適当に作ってみるか」


 ソフトドリンクなら飲んだことあるしな! というか、部活の後だとかに結構な頻度でいろいろと飲んでたし味はまだ覚えてる。

 子供受けしそうなのっていうと、紙パックのコーヒー牛乳だとかグレープの炭酸飲料だとか、あと、やっぱりコーラとオレンジは外せないだろう。

 それと、何故だか乳酸菌飲料だとかあっちの方向も好きな子は好きだったと思う。


 なんて思い出しながら次々と作っていると……さすがに作りすぎた。

 久々に魔力半分以上使ったわ。最後にこれだけ使ったのって、多分サラタナを連れてシュトライトの皇宮まで転移した時くらいだと思う。

 あの辺りから転移にも慣れてきたし、転移で使う魔力が少なく済むようになってたしなぁ。


「……先輩、作りすぎですよ!」


 という薫の声にふと現実に戻ってくるまで延々と作り続けた結果である。

 ……なんというか、全員に行き届きそうなくらいにいろいろと出してしまった。

 中にはキュウリ味の例の炭酸飲料だとか、回復薬なハズがなんだかダメージを受けそうな味のアレまで再現してしまった。


「というか、こんなにどうするんですか? 誰が飲むんですか……ってこれ、あのゲームの回復薬じゃないですか!」


 そんな具合に薫がはしゃいでいる。

 とりあえず、頭を掻いておいた。


「どうせだし本気で回復するような感じに魔法とか込めてみるか?」

「い、いや、やめておきましょうよ……」


 うん、俺も食い物で遊ぶのはどうかと思うよ、と頷きを返しつつ、とりあえず最後にネットを作って全部詰め込んで、川に沈めることにした。


「まあ、準備できる頃には良い感じに冷えてるだろ。最悪コップに氷入れて無理矢理冷やせば良いし」

「……ですね。それで、ゴミはどうするんですか?」

「プラスチックだとかそういうのはとりあえず魔法で消せば良いだろ。それ以外は別に害になるものも……いや、インクだとかああいうのは微妙か? まあ、魔法で消せるしどうとでもなるよ」


 ぶっちゃけほとんど使う機会がない物質消失魔法の出番が来た。

 ……一度魔物に試したことがあるけど、相手の魔力より多い魔力をぶつけないと消えなかったんだよなぁ。要は、凄まじく効率が悪いのである。

 その効率たるや、プライムボア辺りの馴れ始めた駆け出し冒険者パーティでも十分に狩れるような相手にタイラントを倒した時くらいの魔力を使うのだ……ってこれ、全然どれくらいかわかんねぇな。あとこの例えだと五十匹くらいまとめて消してようやく俺の魔力一割くらいだ。

 単に倒すだけで良ければ、一割も魔力があれば一万くらいは巻き込める範囲で魔法を使えると思う。

 とにかく、中二心が躍る魔法だけに、実戦投入はナメプ、みたいな時しか使えないのが実に残念だ。

 あと、張り切って使うと核まで消すことになるから素材だとか魔力だとかいろんな意味でわりに合わない魔法なのだ。


 っと、そんなことはどうでも良いか。

 と考えながら適当にスポーツドリンクを三つ、冷たい状態で作ってみる。

 で、未だに難しい顔をしているエミリーとノエルの後ろから近付いて……と。


「ふゎう!?」

「ひゃ!?」


 首筋に冷えたスポーツドリンクのペットボトルを押し当ててみた。


「とりあえず、そんなに根詰めても仕方ないだろ。それくらいにしとけ」


 言いながら手に持ったペットボトルを二人に差し出した。


「あ、あの。コレ、何ですか?」

「あぁ? ……ああ、俺の故郷の飲み物だな」

「瓶……じゃない、柔らかい。これは?」

「説明が面倒。以上。まあ、いろいろと便利な入れ物だ。こうやって開けるんだ」


 二人にペットボトルのキャップを捻って見せる。

 聞き慣れた、懐かしい音と共に封を切った。

 そしてペットボトルを煽る。……うん、味はちゃんと再現できてるな。

 なんてことに頷いて二人を見ると、俺と同じようにキャップを捻り……って、


「エミリー、逆だ、逆」

「ん……こう?」

「そうそう」


 ペットボトルのキャップを開いて、開いたペットボトルとキャップを見比べる二人。

 いや、そんなの見ても仕方ないだろ。


「とりあえず、飲め」


 俺の言葉に、恐る恐るペットボトルを傾け……、


「「っ!?」」


 同時に驚いてすぐに口を話した。


「あ、甘い、ですね」

「これ……魔力が回復する」


 ……ん?


「エミリー、何言ってんだ?」


 ただの清涼飲料水で魔力が回復するはずがないんだけども。

 というか、俺が飲んだ時は別にそんなことなかったんだけども。

 と思いながらも、まさか、と思いつつもう一度飲んでみる。

 ……いや、回復しないだろ。


「ノエルは?」

「……回復、してますね」


 …………いや、どういうこと?


「というか、核を砕いた時に似てませんか? 回復するというか、魔力が増えてるような……?」

「はぁ!? それこそまさかだろ!」


 もう一度飲んでみる。

 …………いやいや、魔力、回復もしてないし増えてもないって!

 なんて騒ぎを聞きつけたミリアとニーナ、それにアンリが寄ってきた。


「魔力が回復するとか増えるとか、何の話してるの?」

「この、タクトさんが作った飲み物なんですけど、飲むと魔力が増えるんですよ」

「……売り出せば、凄い値が付くかもしれないですね?」


 なにやらミリアの目の色が妖しい……。

 というか、獲物を狙う肉食獣に似た眼光が見える。

 身の危険を感じて思わずアンリを盾にした。


「いやいやいやいや、コレ、俺の魔法で無理矢理作ってるだけだからな? そんな売り出せる程作れねーぞ?」

「……先輩、全員分くらい軽く作ってたじゃないですか。今更それは無理があると思いますけど」


 なんて、いつの間にか背後に寄ってきていた後輩くんが余計なことを口走る。


「つってもなぁ。本当に増えるかどうかも分かんねーし、実際俺は増えなかったんだけど?」

「飲んでみれば分かるわよね」


 と言いながら俺の手からペットボトルを奪い取るアンリ。


「あ、こら。……あー」

『あっ!』


 そのまま抗議する間もなく流れるように口を付けた。

 ……顔を赤くしながら。

 アレか、確信犯かお前。

 なんか俺の顔まで熱くなってきた。


 というか薫と俺を除いた四人が同じタイミングで何やら声を上げる。

 仲良いねお前ら。


「ふぅ……うん、私も、魔力増えてる気がする」


 顔を赤くしつつ注目を集めながら、ペットボトルから口を離したアンリがそんなことを宣った。


「ああ、そう」

「タクト。ワシにも」


 ニーナとミリアがじっとりとした目を向けてくる。


「……はぁ。分かったよ。ほら」


 言いながら魔法で作ったジュースを手渡す。

 なんというか、五十本以上作ってるしそろそろジュース作りも馴れてきたなー、なんて現実逃避をしてみる。

 力技でやってるにしても、アッシュが嬉々として解析している結果、成分分析だとかが完了してしまっていたりする。

 要は、作れば作るほどに一本辺りのコストが加速度的に少なく済むようになっている。と言っても、後二、三十本も作れば頭打ちだとは思うけど。

 そんな現実逃避をしていると、ニーナとミリアが迷わずにジュースを煽った。


「っ!? ほんとに増えますね、これ」

「……トロールの核と同じくらいか…………? そりゃ、タクトの魔力の量じゃ増えんのも頷けるな」


 そんなことを言いながらなにやらアイコンタクトを交わすニーナとミリア。

 さて、逃げ道は、と一歩後退ろうとするその背がアンリに捕まえられた。

 ……ほーりーしっ。


「本当に増えないの? ご主人様。ちょっと飲んでみて」

「まへ……」


 待て、と言い切る前に口にペットボトルを突っ込まれた。

 アンリてめぇ……と非難の視線を送りつつ観念して喉を鳴らす。

 というかこれ、どういう状況だよ。

 後ろから抱きつかれてジュース飲まされるってどういう状況だよ。

 右肩にアンリの顎が乗ってるのが分かる。

 なにより……身長差の問題で背伸びしたアンリがそうしてる訳で、ぶっちゃけ胸が全力で背中に押し当てられてるんだけども。

 で、この間接キスである。

 いや、今さらそれくらいでどうこう言うつもりはないんだけど、だな。


「どう? 増えた?」

「いひゃ……」


 次はミリアに突っ込まれた。


「量が足りないのかもしれないですからね」


 まさかのミリアである。

 というかお前、何ちょっと頬赤くしてんの?

 あれ、俺ってお前の好感度そんなに上げてたっけ?

 そんな混乱の中、その次はエミリーに、そしてノエルに、最後にニーナにまで口にペットボトルを突っ込まれた。

 ……なんというか、腹がたっぷんたっぷんしてるんだけど? なんて文句は、顔を赤らめながらそわそわとした様子でジュースをちびちび飲み進める彼女達の姿に、もうどうでも良いか、と黙殺されることになった。



 ◇ ◇ ◇



「何プレイだよ……」

「先輩、モテモテですね」


 若干ぐったりしつつ呟いた俺に薫が苦笑交じりに言葉を返してくる。

 あの後クローディアとサーシャに見つかった俺たちは、真っ赤な顔をしたクローディアと生温い感じの視線を送ってくるサーシャにジュースを渡してリノアを呼んでくることになった。

 当然のようにパーティで一番魔力の量が少ないリノアのドーピング目的である。

 魔力量的に少ない相手に飲ませても大丈夫か、なんて不安は、クローディアの一言で吹っ飛ばされた。


『ふ、ぅ……確かに、魔力が増えるな。その、タクトの魔力が、なんというか、馴染んでくるような、そんな感覚がする。これなら子供に飲ませても大丈夫だろう』


 なんて、顔を赤くしながら言うのだからどうしろというのかと。

 ぶっちゃけチューしてぎゅっと……って何か懐かしい歌思い出した。

 俺はホストじゃない。

 って、そうじゃない。どうやら混乱してるらしい頭を振った。


「そりゃ、何の嫌味だ」

「嫌味というか、事実じゃないですか」


 何とも悪気の欠片もなさそうな後輩を半目で睨みつける。


「誰かのせいでこういうのに慣れてなくてな。……ってかなんなんだろうなこの世界。来てからモテ期が続いてる気がするんだけど。いや嬉しいのは嬉しいがモテ期が終わった後がツラそうだ」

「……先輩、もしかして本当に気付いてなかったんですか?」

「え、何が?」


 何やら不思議そうな顔を顔を向けてくる薫に思わず問い返した。


「先輩、向こうの世界でも相当モテてましたよ。……知りたくはないと思いますけど、米田(まいだ)先輩とよくそういう仲だ、みたいな妄想の」

「待ておいこら薫ちょっと黙れ」


 オーク見てからその手の話題はお腹一杯なんだよ!


「……先輩達のせいで僕が何度取り合いされたと思ってるんですか。毎日毎日天米(あままい)だとか米藤(まいとう)だとか藤天(とうあま)だとか聞かされてた僕の身にもなってくださいよ」

「…………すまん」


 前の世界でよくつるんでたこの後輩くんも当然のように『そっち』のネタになってたらしい。

 つってもこの見た目なら男女を問わずそういうののネタにされても仕方ないと思うんだ。


「ってかそれモテてる内に入るのか? 入んねぇだろ」


 という訳で逆ギレ風に言ってみる。


「……前にも言いましたよね。何度も女の子に呼び出しを頼まれたって」

「いや、何度もかどうかは……って何度も!?」


 全部伝えてたらしいというのは確かに聞いたように思うが……ああ、確かに毎日どこかで待ってるだとか伝えられてたような……?


「それで、誰が何度呼出しても顔も出さない先輩が実は女に興味が無いんじゃないか、という話になってたみたいで……」

「それ半分お前のせいじゃねぇか! なんだよ俺と祐次のせいっておい!!」

「……ああ、確かに。春香ちゃんに真剣な顔で相談されて知ったんですけど…………それが原因だったんだ……」


 何やらショックを受けている様子の薫。

 春香ちゃんって、アレか、コイツの幼馴染のあの子か。

 ってかコイツ、案外抜けてるところがあるよな、なんてことを改めて思い知った。

 ある意味致命的に。


「……まあ、尻が不安になるような話しはとりあえず置いておこうか」

「……ですね。まあ、とにかく、米田先輩と同じくらいには人気でしたよ? 先輩も。というか、米田先輩は彼女さんいましたし、フリーな分先輩の方が人気だったくらいですよ」


 そんな今更な話題を掘り返す薫。

 微妙にイラッとしてしまった俺は悪くないと思う。


「誰かさんのおかげで気付きもしなかったけどな!」

「いや……結構露骨にアピールしてる人、いたじゃないですか」

「あぁ? 誰がだよ言ってみろよ」

「ほら、あの図書委員の人とか。というか部活でも三人以上人がいるような時ってすぐに女の子で埋まったの覚えてないですか?」

「え? アレどっちかって言うとお前目当てだったんじゃないのか?」

「いや、単にいつも先輩といますし、見た目が……その、女の子っぽいのは自覚してますから、話しやすかったんじゃないですかね」


 そんなもんかねぇ。

 というか、図書委員って言うと居眠りしてる間に何故か割り当てられてたんだよな。

 男女一人ずつ、みたいなヤツに。

 男側は言うまでもなく俺で、女側は……はて、誰だったか。


「……すまん、図書委員ってどんなヤツだった?」

「覚えてないんですか」

「覚えてないから聞いてんだけど」

「……眼鏡の人ですよ」


 眼鏡……眼鏡…………つか同じクラスで眼鏡した女の子なんていたっけか。

 ………………あ、いたな。すっげぇ地味な子。今時いるんだ、みたいな黒髪お下げの背が小さい子だったと思う。

 ああそうだ、妙に気配消すのが上手い子だった。

 こっちの世界なら優秀な斥候役に……いや無理か、運動神経ほとんどなさそうだったし。

 名前は確か……手嶋(てしま)さん、だっけ。

 というかあの子にアピールされたような記憶が一切ないんだけど。

 図書委員で仕事がある時はなんというか、がんばってついて来てる感は確かにあったけども。

 ぶっちゃけ図書委員なんて荷物運びがほとんどだったから半分以上、というか八割がた俺が持ち運んでたようにも思う。


 ……うん、多分アレだな、コレは薫が勘違いしてるパターンだろう。

 なんて結論を出したと同時に、そろそろリノアに声が届く範囲まで近付いてることに気付いた。


「っと、無駄話はこれくらいだな。リノア! そろそろ戻ってこーい」

「タクト? どうしたの?」


 にゅうっと木の枝の隙間から顔を出すリノア。

 何故木の上に上ってみたのか。


「とりあえず俺らパーティメンバーは仕事するなってユミエルに怒られたから呼びにきた。警戒はクレアがいれば十分だし、川で遊んでようぜ」

「先輩が魔法で作った飲み物なんですけど、魔力が増えるみたいです。リノアさんも飲んでください」

「まっ! 魔力が増える? 何言ってんの?」


 そんなリノアの反応に、だよなー、なんて共感しつつも実物を作り出して投げ渡してみる。


「飲めば分かるって。ってか、なんで木に上ってたんだよ」

「飲めば分かるって……単に、木の実を見つけたから取ってただけよ。……これ、どうやって開けるの?」


 飛び降りてきた後、戦利品が詰まった鞄をこちらに見せながら首を捻るリノア。


「ここを捻れば開く」


 とりあえず木の実が入った鞄を受け取り、ジェスチャーを交えつつペットボトルの開き方を教えた。


「……へぇ、何かに使えそうね、このボトル」


 惜しい、それ、ペットボトルって言うんだよ。


「まあ、使い道っつぅと水だとかそういうのを入れるくらいだろうけどな」

「っ!? ほ、ほんとに魔力、増えるのね」


 どうやらリノアも魔力が増えるらしい。

 魔力が増えたらちょっとした魔法でも覚えてみるか、だとか、魔力を使った身体強化のやり方だとか、そういう話をしながら警戒に出ていた奴隷達を回収しつつキャンプまで歩いて帰った。



 ◇ ◇ ◇



「おー、結構安定してきたな。慣れてきたか?」

「かなり。タクトが出したの飲んでから、やりやすくなった」


 俺が出したの飲んだって……また微妙に危ない所端折ったなエミリー。

 そんなことを考えながらいよいよ俺の雷兎(ライト)っぽいものが出せないか試してみることにした。


「とりあえず、得意な魔法が形にならないかやってみれば良いんじゃないか?」

「……分かった。水にしてみる」


 会話の間も魔力の制御が甘くなったりすることはない。

 よしよし、なんというかあのジュース、良く分からない効果が結構ありそうだけど便利なことは分かった。

 これから隙あらばパーティメンバーと奴隷達に飲ませることにしよう。

 ……それと、セレノア辺りに調べてもらうことにしよう。

 専門家に見てもらえば何か分かるかもしれないし。

 そんなことを考えている間に、エミリーが浮かべていた魔力は水に、そして人の形にその姿を変えていた。


「……アプサラス…………」


 思わず、呟いた。

 妙に艶っぽい、というかぶっちゃけないすばでーな感じのその水でできた人型が、インド神話の水精を思い起させたのである。

 そんな俺の声に、その水精とエミリーが揃ってこちらに目を向けた。


「アプサラス?」

「……あー、いや、なんでもない」


 そして見詰め合うエミリーと水精。


「アプサラス」


 エミリーはそれだけを告げ、しばし、瞳だけで語らっていた。

 ……これは、どういう状況なのか。

 つるぺったーんな感じの合法ロリ系体型の美少女系魔法使いが、手に妖艶さすら感じさせる豊満な手乗りサイズの水の美女を乗せて見詰め合っている。

 ちなみにその隣からは俺が二人を見つめ、更に俺の逆側からはノエルが恨めしそうな感じの、悔しそうな視線を投げかけていた。

 いやノエルよ、別に俺だけのユニークな感じの能力じゃないってことも分かったし、いずれお前もできるようになると思うんだけど?

 そんなことを思いつつ様子を伺っていると、エミリーが水精を乗せた手を俺に差し出してきた。


「アプサラス」


 もう一度そんなことを呟きながら。

 いや、それだけ言われてもだね。

 何故かエミリーも、多分アプサラスという名前に決まったんだろう水精もドヤ顔である。

 どういうことなの……とか思いながら、とりあえず確認することにする。


「えーっと、そいつの名前か?」

「そう」


 自信満々に頷くエミリーとアプサラス。


「そうか……それで良いなら別に俺は何も言わないけどさ」


 そういうことにしておいた。

 エミリーもアプサラスも満足気だし、まあ、問題ないだろう。

 それにしても……、


「ノエル。別に焦らなくてもその内できるようになるだろうし、気にするな」

「……はい」


 渋々、という感じに頷く愛弟子の様子に、溜息が出そうになった。

 まあ、気分を変えていこう。気分を変えると言えば、ドーム状に空気の流れを制御していた魔法を打ち消す。

 そしてたちどころに広がる食い物の焼ける匂い。

 気分を変えるなら、美味い飯だろ!

 ということで、ようやく今日の目的のバーベキューを開始することにした。

 鳥、牛、熊、猪、鹿、豚――オーク肉でない――に色とりどりの野菜、それにきのこだとか魚、何よりメインに控えるドラゴンの肉と、結構豪勢な感じのラインナップである。

 というか、ドラゴンの肉にはまだまだ余裕があるとは言っても、人数が急激に増えた上にアリシアってドラゴン肉ジャンキーまで近々越して来ることに決まってる現状在庫が厳しい。

 しばらくしたらドラゴンを探して狩に行かないとな、なんて、普通の神経してる人が聞いたら正気を疑うだろうことを考えながら火に近付いて行く。


「ご主人様、こちらに席を用意しました」

「ああ、悪いな」


 ユミエルの声に釣られてそちらを向くと、風上の、煙も匂いも直撃しない辺りにテーブルが鎮座していた。

 その一席にはスープとサラダが取り分けられている。

 更に、ピザ的なものまで添えられていた。

 ああ、ケディが竈(かまど)作ってたのはこのためか。

 ……何か、俺がイメージしてるバーベキューと全然違うんだけど?


「ああそうだ、飲み物取って来るか。そろそろ冷えてるだろ」

「こちらに」

「おおう、わ、悪いな」


 川の方に目を向ける前に差し出される飲み物が大量に入ったネット。

 それ結構重いだろうに。そんなことを考えつつも、とりあえず飲み物を配ることにする。


「お前らも適当に取れよ。あ、でも何個かハズレあるから注意な」


 数量限定のネタ味のジュースが何本か入ってるんだよね。

 まあ、普通の味を知らないだろうコイツラからすればそういうものとして受け入れられるかもしれないが……何故だろう、例のキュウリ味と回復薬がぎっしり詰まった冷蔵庫を想像してしまった。

 とりあえず、先に色物だけ選り分けておくことにする。

 ついでにアルコール入りのものも。

 間違っても子供にエールなんて飲ませたらマズい。

 そんなこんなで全員の手に飲み物が行き渡ったのを見届け、飯をはじめることにする。


「なんつうか、たまにはこういう休みってのも悪くないだろ? 牧場も、あと一息ってところみたいだしな」

「はい。あと五日もあれば完成する予定です」

「そっか。完成したら、もっと派手に騒ごう。牧場の建設はもう少しだけど、それからもいろいろと頼むことがあると思う。そのどっちも、よろしく頼む。乾杯!」


『乾杯っ!!』


 唱和を聞き届け、よく冷えた缶エールを飲み下す。

 皆思い思いに手に取った飲み物を飲んで、驚いたり騒いだりしている。


「よし、肉焼くぞ肉!」


 缶エールを飲み干すと同時に焼き網に突撃を掛けた。


「ご、ご主人様! それは私がやりますから!!」

「いいからいいから。こういうのは男の仕事なんだよ。ユミエルも、たまには楽しんどけ!」


 慌てて飛びついてくるユミエルの頭を撫でながら、魔法でトングを作り出す。

 こういう場には、こういう小道具もやっぱ必要だよな!

 そんなことを思いながら、恐縮しまくるユミエルに肉だとか野菜だとかを取り分けたり、酔って突撃してきたケディと何度も乾杯してみたり、逆セクハラを仕掛けてくるアンリとミリアに付き合ったり、それを見て赤くなるリノアとクローディアとノエルを肴に飲んだりして騒いだ。

 正直年少組が変に酒だとか火だとかに近付かないように注意を惹いていた薫とサーシャ、それにミラとマイティ、マジグッジョブというところである。


 何か褒美的なものはないだろうか。

 そんなことを考えながら、とりあえず飽きる程肉を焼いた。

結構ヤバ目のドーピングアイテムが出ましたが、主人公が回復すらしなかったのは自分の魔力で作った飲み物だったからです。

ちなみにドーピングアイテム≒トロールの核の魔力上昇の上限は、ニーナには追いつけるがカルフには追いつけない程度。

一年程飲み続ければ魔力量だけは一流になれます。

適正と体質の関係もあるので、例えばノエルとリノアでは上限到達時点での魔力の量の差に倍程開きがあったり……というのは、多分最終回までに到達しないんでどうでもいいですね。

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