第18話 予感
「アナタが奴隷にポーターをさせるようなド鬼畜な英雄様ですか……思ってたより普通の人なんですネ」
兎耳な少女が開口一番に毒を吐いた。
ああ、あの要求ってそういう風に取られる訳ね……。
「一応魔法の鞄とかは用意してるんだけどな……とりあえず、俺は天利拓斗だ。よろしく」
「ルカと言います。ポーターの仕事も理解せず雇ったのですカ? 無知とはそれだけで罪なのですネ」
「ルカ、あまり余計なことは言わずにこの人にさせれば良いのでワ? あ、私はトーナと言いまス」
「あ、ああ……」
毒舌と腹黒の二人組と心の中でレッテルを貼りながら二人をざっと眺める。
身長自体は俺の胸程度、百五十センチ強というところだ。
ただしその頭の上には兎の耳が付いていて、それを含めれば俺の鼻先くらいまではあるだろうか。
顔は瓜二つと言えるルカとトーナは見分けが付け難そうだ……というのも顔だけで判断しようとした場合だ。
髪は、ルカが白、トーナが黒で瞳は二人とも赤。
髪色以外の外見は本当にそっくりだ……一部を除いて。
ぶっちゃけるなら胸である。
ルカが巨、トーナが貧だ。
髪の色と胸元という二つの相違点が二人の判別を容易にしている。
……というかこれだけ似てれば姉妹か何かなんだろうけど、どうしてそこまで差が付いたのかと少し人体と遺伝というものを考えさせられる。
『双子ですヨ』
俺の見比べる視線に気付いたのか二人がそんな声をユニゾンして届けてきた。
……本当に、どこでそこまで差が付いたのか…………。
まあ、良いか。
「そろそろその嫌らしい目で見るのを辞めてくれませんカ? 実に不愉快でス」
「……胸元見てるのに気付いてないとでも思っているのですカ? 引っこ抜きますヨ……?」
「ええと……何をでしょうか?」
トーナの殺気が篭った言葉に思わず敬語になってしまった。
ってか、胸見比べてたのバレてた。
無言で酷く冷たい目を向けてくるトーナに非常に逃げ出したくなりながらも、とりあえず彼女たちの扱いとかそういうのを決めないといけないだろうと走り出しそうな脚を抑える。
「ま、まあ、とりあえず今日から三日くらいポーターを頼む。……で、ルカ。ポーターの仕事ってのは何だ?」
「黙秘しまス」
俺の問いに即答したのはトーナだ。
その清々しいまでの即答っぷりに思わず狼狽しそうになり、
「魔物の解体もポーターの仕事だ。その辺りも嫌ってポーターになりたがる女性は少ないな……タクト、知らなかったのか?」
「知らなかった」
クローディアのフォローに即答した。
でも、そうか。魔物の解体もポーターの仕事なのか。
そりゃ女性のなり手も少ないはずだ。
普通にやれば結構汚れるし、匂いも酷い。
そして何より見た目が、ねぇ……?
そりゃやらなくて済みそうなら黙秘もしようってもんだ。
「そっか。なら解体は俺がやるよ。二人にはとりあえず、荷物運びだけ頼む」
「タクト……それ、ポーター雇う意味半分以上なくなってるわよ?」
リノアから突っ込みが入った。
「え、どういうこと?」
別に解体ぐらい自分でやった方が早くね?
俺の場合剣で一瞬な訳だし、特に。
「先輩、普通戦線維持のための死体の運搬なんかもポーターの仕事ですよ……?」
「つっても本気で戦ったらそんな暇ないだろうしなぁ。解体も俺が終わらせた方が早いだろ?」
「まあ、そうなんですけど……」
薫まで突っかかってきた。
この辺りはポーターが男でも女でも変わらない。
むしろ俺より早く解体できるようなヤツが居るなら連れて来いよってところだ。
「まあそんな訳で、二人がする仕事は本当に荷物運びだけで良いぞ。ああ、俺が一緒ならだけど」
薫も多分そろそろ似たようなことができるくらいには剣を扱えそうだが、かといってそこまで俺の一存で負担を増やすというのも横暴というものだろう。
「奴隷商の婆様、ついに頭がトチ狂ったのかと思っていましたけど案外優良物件なのですかネ?」
「ええ、思いの外楽そうな買い手かもしれないですネ。品性はなさそうですけド」
密談のつもりだろうその小声のやり取りは当然バッチリ拾っている訳だが……っていうか薫も聞こえてるのか苦笑してる。
他の四人と比べると成長速度おかしくねぇか?
俺も人のこと言えないけども。
「分かりましタ。タクト様の専属になりますけド、『そういうこと』は正式に私を買ってからにしてくださいネ?」
「ルカ、抜け駆けですカ? 私もタクト様の専属になりまス。私は触るくらいなら好きにしてくれて構いませんヨ」
え、『そういうこと』ってやっぱり『そういうこと』?
なになに、買ったらどんなコトができる訳よルカ。
そしてトーナ、ガンガン攻めるね!
当然のようにそんなオープンセクハラかます度胸なんてのは俺にはないんだけどね!!
「いやいやお前ら何言ってんの? お前らに求めてる仕事はポーターとしての仕事だけだよ?」
女性陣の冷たい視線、その中でもノエルとルーミィから向けられる恨みがましい目線に負けてそんな弁明を口走ってみる。
……うん、うん。『そういうこと』はやっぱり『そういう関係』になってから合意の元でやらないとね!
だから疑わしい目で見ないでくださいお願いしますと心の中で呟きながら唯一何のことだか分かってなさそうなクローディアに心癒されながら採決を言い渡す。
「とりあえず、片方は俺、片方は薫かクローディア担当で。毎回交代ってことで良いだろ。反論は聞かない。あと、誰かホールディング・バッグ空にできないか? 一つ足りない」
「私側になったら私のホールディング・バッグを使えば良いだろう。私物はほとんど入ってない」
「んじゃそれで」
クローディア、マジでパーティに誘って良かったよ! いろんな意味で!!
この女性優位のパーティに降臨した天使、いや、女神に心の中で手を合わせながら護衛で聞き忘れていたことを確認することにしよう。
「そうそうセレノア、調査隊は十人でよかったよな? 配置とかはどうなってる?」
「現地調査に入るのは五人だけですよぅ。残りは本部待機ですぅ。というか、実は実際に調査に入るのは私を含めて三人だけで、残りは雑用代わりの見習いなんですよぅ」
……つまり俺たちは七人も余計に護衛してたってことか…………?
ジト目になっているであろう俺の視線を気にした様子もなくセレノアが続けた。
「ほらぁ、生活能力なんてお金で買えますしぃ、ご飯作る時間があったら研究してた方が建設的じゃないですかぁ?」
「飯作る時間で仕事するってのは分からなくもないな。飯屋ってその辺りの時間と技能も売ってる訳だろうし」
「流石タクトさんですぅ。話が分かりますねぇ」
だからと言って研究道楽に突き進みすぎて放置したら二週間もすれば死んでそうなセレノアの姿勢を肯定するつもりは一切ないのだが……。
だから、そういうダメ人間を見るような視線を向けてくるんじゃない、リノアにミリアよ。
「つっても見習いなら実際の調査とか見ておいた方が良いんじゃないのか?」
「見ても理解できませんよぅ。身に付かないなら見学なんてする意味ありませんからぁ。あ、訓練の見学はあくまでデータ収集が目的ですからねぇ? アタシたち、戦闘を売り物にしてる訳でもないのに本職の訓練なんて身に付けても意味ありませんからぁ」
ブーメランという単語を思い描いた途端にその思考を否定された。
「ってことは、護衛も二箇所を受け持たないとダメか。やっぱ片方の護衛は俺一人の方が良いな。待ってる間暇だろうし、クローディアは護衛部隊に訓練でも付けてやっててくれ」
「分かった」
エルドに義理立てるって訳でもないけど、新兵とはいえ領地を守る兵士の錬度があの程度ってのは問題だろう。
一日、二日程度の訓練でどの程度改善されるかってのは考えないことにして思考を次へ。
「薫とリノアは警戒の練習、ミリアは訓練で怪我人が出たら治療して……ノエルは、薫とリノアの補佐かなぁ」
こういう時にノエルをどう割り当てようかというのは結構難しい。
相手がある程度まともに動けるなら対魔法訓練、なんてこともできるんだけど今回の相手じゃ下手すれば怪我じゃ済まないだろう。
なんといってもノエルの方も上手く手加減できるほどの実力がないのだ。
不満はあるだろうが、その辺りも後々解消できるようにしていくから今は我慢して欲しい。
そんなことを思いながら休憩を終える。
◇ ◇ ◇
「ルカ、コイツで高く売れる部位とかはあるか?」
今し方倒したばかりの一抱えはあるだろう大兎を指差してルカに聞いてみる。
金自体はもう有り余ってるとは言っても、それに胡坐をかいていてはいつどうなるか分からない。
考えたくはないが、国を追われるなんてことになればギルドに預けている金を引き出すことすら事実上不可能になるだろうし、こういう知識はあって損はない。
「ラピッドラビットですネ。毛皮は装備に装飾品に衣服と結構な需要があるはずでス。肉も食用で売ることができるはずでス」
「毛皮と肉ね。りょーかい」
ルカの言葉に頷き、剣を走らせる。
さて、血抜きとかどうするかなという考えはもう丸投げしてしまうつもりだ。
どうせホールディング・バッグの中は時間が止まってるような状態になってるっぽいし後から処理すれば良いだろう。
「ん、後は頼んだ」
「分かりましタ」
解体を済ませた兎をルカに任せて感知範囲を広げる。
周辺の魔物は粗方狩り終えた。
これで調査中に魔物と出くわすなんてことはあるまい。
そのことを確認し終え、ルカへと目を向けた。
「んじゃ、一度調査隊の方に戻ろう」
「はイ。……それにしても、解体もタクト様がするという意味が分かりましタ。まともなポーターでは絶対に解体が追いつきませんヨ」
「かもな。数が数だから体力の問題も出てくるだろうし」
物量という意味でもホールディング・バッグは必須だと言って良いだろう。
何ならもう数個買い足しても良いくらいだ。
「でモ、タイラントを討伐しているんですよネ? 今更こんな端金を集める意味もないと思うのですガ?」
「まあ、当面はな。でもな、よくよく考えてみろ。俺が今持ってる金全部一気に放出したらそれだけで経済ってのが破綻するぞ。そうなると別の国にでも行って金を集めなおすって必要が出てくるかもしれない。そういう意味では無駄じゃないんだよ」
もちろんそんなことをするつもりはないが、つもりは所詮つもりというか、いつ何時そうせざるを得ない状況にならないとも限らない。
ぶっちゃけそんな経済テロみたいなことをした国でまともに生きていける気もしないし、そうなれば国外逃亡一択だろう。
当然、資本の価値が揺るいでいる貨幣なんて余計なものを持っていく選択肢は存在しないし、恐らくそんな余裕もない。
そんなことをつらつらと考えながらセレノアたちと合流する。
「どんな調子だ?」
「ほぼ決まりで良いでしょうぅ。お嬢様の証言通りにぃ、痕跡はクルムア地方の方面から続いていますぅ。明日は早めに終われそうですよぅ」
訓練、楽しみにしてますよぅ。
そう言いながら向けられたセレノアの目に僅かな違和感を感じた。
「……何か引っかかってる物でもあるのか?」
「……変なところで鋭い人ですねぇ。えぇ、なんというかぁ、作為的な物を感じるんですぅ」
作為的な物、ねぇ。
「例えば、タイラントがクルムア地方から流れて来たように見せかけようとしてる、とかか?」
「はいぃ。悪意と言うかぁ、少しだけそういう匂いがするんですぅ」
「悪意の匂いって……んなもん分かるもんなのか?」
「はいぃ。アタシ、アトリュという種族なんですけどぉ、何となくそういうのに敏感なんですよぅ」
「セレノア様!」
調査隊の一人がセレノアの言葉に叫び声を上げた。
確か……ルインという名前だったはずの少年、にしか見えない男だ。
セレノア直属の雑用係みたいな。
「良いんですよぅ。どうせタクトさん、下心はあっても悪意は見えませんし」
それはそれでどういうこと?
そんなことを思わせるセレノアの言葉に、そもそも種族名明かしたくらいでそんなに過敏に反応することだろうかと思う。
というか、種族とか言われても実はそこまでピンと来ないというのが正直なところではあるのだが。
「ですが……!」
なおも言い募ろうとするルインの声はルカの言葉に遮られる。
「アトリュ、ですカ? 実在したのですネ」
「えぇ、ここにぃ」
「珍しいのか?」
「はイ。有翼人種の中でも魔力の扱いに長けた種族だと言われていまス。その……内臓が万能薬の元になるとして乱獲された歴史があるのですヨ。今では姿を見ることもできないのデ、途絶したと思われているはずでス」
若干言い難そうにそんなことをいうルカ。
内臓を薬にするって……どこかの薬売りの俗説じゃないんだから。
そんなことを思っているとセレノアが補足した。
「事実ですよぅ。アタシの両親もそれで亡くなってますからぁ。ちなみにぃ、アトリュの肝が万能薬になるというのは真っ赤な嘘ですけどぉ」
「……そっか」
なんでもないことのように言うセレノアに、そう返すことしかできなかった。
……空気がやけに重い気がする。
急にそんなヘビーな話題を振られても困る。凄く。
そんな空気は、他の誰でもないセレノア本人の言葉で霧散する。
「ほらねぇ? タクトさんはぁ、こんな話を聞いても本人の言葉を信じちゃうくらいには善人ですからぁ」
「え、どういうこと?」
「内臓じゃないですけどぉ」「セレノア様!!」
今度はきっちりと話を遮るルイン。
まあ、何となく話は見えた。
体のどこかが万能薬の元になるのは事実なんだろう。
そんな事実があったところで俺の態度は変わらんがな!
とは言っても、周囲も全部がそうかと言われると話は変わってくるかもしれない。
とりあえず、ルカには釘を差しておこう。
「ルカ。正式に買い取った訳じゃないけど厳命しとくぞ。このことは口外しないこと。もし口に出したら……」
「しませんヨ。命は惜しいですかラ。狩ろうとする側も守ろうとする側も頭のおかしいのがいますかラ、こんなこと口にしようものならどうなるか分かったものじゃありませんヨ」
不要な心配だった。
そうか、ルカはこういうヤツなのか。
「ってな訳だ。万能薬どうこうは別に興味ない。……まあ、もし身の危険を感じるようなら護衛くらいは直接受けるってのも吝かじゃない。見知った相手を見殺しにする趣味はないからな」
「ほらねぇ?」
「……」
『大丈夫だったでしょ?』とでも言いた気なセレノアの視線にルインが沈黙する。
「そもそも、万能薬なんてなくても治療術でなんとかする自信もあるしな」
ある意味本音のその言葉への返答は、疑いが満載の視線だった。
慌てて話題を変える。
「そ、そういうことなら、もしかすると調査が長引くかもってことで良いのか?」
「……かもしれませんねぇ。当てにならない勘みたいなものですけどぉ。できれば早めに終わらせたいんですけどねぇ」
「勘か」
「勘ですぅ」
どうしよう。その勘、当たる予感しかしないんですけど。
俺の勘が告げているその事実からそっと目を逸らしながら、とりあえず棚上げすることにした。
「まあ、明日の調査の下調べは済んだんだろ? なら帰って休もう」
「賛成でス」
「そうですねぇ」
そんなこんなで設営が済んでいるだろう本部へと引き上げていく。
その道中、徐々に大きくなっていく予感に顔を顰める。
なんというか、今回同行してる十名の調査隊、十二名の兵士、それにルーミィと侍女三名にポーターの二人、あとはパーティメンバー全員か、総勢三十三名全員から目を離してはいけないと、そう告げてくる直感がある。
俺の中の五人が五人、何となく血の匂いを感じ取っているのが分かる。
張り詰めたまま弛緩する者、感覚を尖りに尖らせている者、僅かに高揚する者、機嫌の悪くなる者、機嫌を良くしている者と反応はそれぞれだが。
さて、どうしたものか。
帰ってからどう説明するかもそうだし、明日の調査の間本陣を空にするという問題もある。
ただし、絶対に必要なことだと確信できる。
何か、見落としている気がする。
何を根拠にこんな予感を感じているのかすら理解できずに思考だけを尖らせていく。
同時にもやもやと広がっていく嫌な予感がある。
明日は、どうなることやら。
そんな不安を押し隠しながら、設営が済んだテントを視界の中に収めた。
◇ ◇ ◇
「師匠、何かありましたか?」
食後、ノエルがそんなことを聞いてきた。
「別に何もなかったぞ?」
そう、気軽に口に出せるようなことは何もなかった。
だからこそ、あえて楽観的な言葉を口にする。
「タイラントが来た方向もルーミィが言ってた通りだし、予定通り明日の朝には調査も終わるんじゃないか?」
そうなって欲しいという願望が多分に含まれていることに気付いたのだろうか。
ノエルは俺をじっと見つめている。
……居心地が悪い。
どうしろと? そんな言葉が口から出そうになる。
「そうですか」
しばらく見つめ合い、ノエルがふいと目を逸らした。
……何だったんですかねぇ? なんて考えて、弟子にすら見透かされてるのかと胸中溜息を一つ。
…………あんまり隠しても仕方ないか。
というか、明日土壇場でこんな無茶な指示を出すのも憚られる。
数名の見張りを除き、今回の調査に参加している全員が集まっているこの場はお誂え向きとも言えるだろう。
その数名だって、少し離れた位置にいるだけで今俺がいる場所から見えるんだ。
当然、声だって聞こえる。
意を決して声を上げた。
「全員、聞いてくれ!」
「どうした?」
全員が俺に視線を向けたことを確認して、クローディアが続きを促してくる。
「明日の調査だが、全員で向かう。本陣は一時的に放棄、本当に全員だ。これは決定事項だ。何か質問はあるか?」
「それは……どういう意図があるのか聞いても?」
まず薫が疑問を挙げた。
その言葉に頷きを返し、言葉を選ぶ。
「悪い予感を避けるためだ。この予感は、絶対に外れてくれないだろう。恐らく隊を分割すれば一方が取り返しの付かないことになる。……これは、タイラントを狩った冒険者の勘だと理解してくれ。今この場で安全が確保されるのは、恐らくは俺の目が届く範囲だけだ。だからこそ、一人の例外もなく全員で調査に同行する」
ここで一度言葉を切る。
動揺、困惑、不安、そんな心の動きがどよめきに変わって押し寄せてくる。
まあ、こうなるよなと心中独りごち、言葉を続けた。
「手荷物は最小限にすること。馬車も、馬だけを連れて移動する。食料もなしだ。水は俺とノエルで作る。それくらいの危険を感じていると思ってくれて良い」
俺の言葉で不安と恐怖が強くなっていくのが分かる。
これは扇動してる訳じゃなくて、ただ事実を述べているだけだ。
だが、次に続ける言葉もやはり事実だ。
その言葉で、この不安を払拭して見せようじゃないか。
そんな思いを乗せて強弁する。
「……なんてな。不安にさせたか? でもな、お前ら忘れてないか? 今、この場に、一体誰がいると思ってる? 他の誰でもない、あのタイラントを一撃で倒した『準英雄』がこの場にいるんだぞ? その俺が約束しよう。お前ら全員を無事ミゼルまで送り届ける。全員、俺が守ってやる。安心しろ。お前らの横には今、『英雄』がいるってことを忘れるな。俺を信じろ」
正に大言壮語。
つい数日前に初めて剣を握ったヤツがこんなことを言うんだ。
これ以上に滑稽なことがあるだろうか?
それでも迷いなくその言葉を口にした。
今この場で、俺は指揮官である。
混乱も、動揺も、不安も、恐怖も、俺が払拭しなければならない。
意を、決した。
今、この時だけでもこいつらの『英雄』にでも何にでもなってやろうじゃないか。
そうでもしないときっと守りきれないだろうと思わせる程に強い悪い予感を感じるのだから、それならその予感を俺が超えていけば良い。
幸い、それだけの力を俺は女神から譲り受けているんだから。
「はい、師匠」
迷いのないノエルの返事を聞く。
「もちろん、忘れはしないさ。私は既にタクトに救われている。その時から、タクトは私にとって『英雄』だ」
……いろいろと詳しく聞きたいクローディアの言葉に目を向ける。
「先輩……こういう時は、変わらないんですね」
何故だか嬉しそうな笑顔で言う薫。
「何格好付けてんのよ……斥候くらいは手伝わせなさいよ」
リノアは照れ臭そうにそんなことを言った。
「絶対守ってくださいね?」
頷かずにはいられないその言葉は、もしかしてわざと言ってるのか? ミリア。
「タクト様がお側にいらっしゃるのです。私はもちろん、タクト様を信じております」
真っ直ぐなルーミィの言葉に湧いてくる気恥ずかしさを飲み込む。
それを契機に、口々に上がる賛同の声を聞いた。
三十あまりのその声を聞き、後押しされ、この決心が間違っていなかったことを確信する。
ああ、任せろ。
ミゼルに戻るまで、俺はお前らの『英雄』になってやる!
覚醒拓斗降臨。




