第10話 パーティの夜、ヘタレの場合。
「それじゃ話を戻しますけど、この五人でパーティを組むということでそれぞれの役割をはっきりさせておきましょう」
真面目な薫が真面目な話題を選択した。
役割分担、まさに俺が思い描くパーティそのものじゃないか! なんてことを考えながら目に付いたお姉さんに追加の料理を注文する。
「お、良いねそういうの。なんつーか冒険者っぽい。あ、お姉さん何かガッツリ系の料理ない?」
「ハッシュドポテトのローストビーフ乗せなんてどうでしょうか?」
「じゃ、それ二皿と合いそうな酒を……」
「エールかウイスキー、ブランデーでも良いと思うぞ」
「ブランデー……! じゃ、それで!!」
「ブランデーを一樽と、グラスは六つで良いじゃろう」
「ブランデーはちょっと……赤ワインをもう一本お願いします。それとエルクチーズとトマトのリゾットを」
「リゾット! それも二皿で!」
「あのー、皆さん聞いてます? とりあえずそれぞれ何ができるか自己申告しましょう。僕は、剣と、一応補助魔法と攻撃魔法もできるんで……そうですね、この構成だと補助の盾役をやりながら遊撃が妥当だと思います」
逸れた話題を修正する薫。
いやー、進行役が居ると楽だわ。
何より考えなくても話が進むのが良い。
心の中で勝手に薫のポジションを確定しながら話を聞くことにした。
「私の武器は短剣と短弓ね。斥候と罠の処理は任せて」
薫に続いてリノアが自分にできることを話す。
薫が勇者スペックだとするとリノアはシーフポジションだろうか?
それにしては、どこがとは言わないがボリュームが足りないような気がするという考えはおくびにも出さず頷く。
女盗賊といえば、やはり国民的な某怪盗を手玉に取るような妖艶さが必要だろう。
「私は治療術と杖術を少しだね。ヒーラー以外できないと思う」
次はミリアだ。
……そういえば『ルイーナの華』のヒーラー、サーシャも何がとは言わないがとてつもなく大人びていた。
この世界のヒーラーは育っていないとなれないのだろうか? 何がとは言わないが。
ああ、丸みとか包容力とか、そういうのが重要なんだろうか?
「攻撃魔法を少し、です。薬の調合の方が得意ですけど……」
そして自信なさげなノエル。
魔力の量か、攻撃魔法の適正が低いんだろうか?
気になって思わずノエルの頭に手を置いた。
「ひゃう! な、何ですか?」
俺の不意打ちを受けて体を強張らせた後見上げてくるノエル。
こう、上目遣いが非常によろしいんではないだろうか?
そんな評価を下しながら簡単な触診を済ませてみた。
「いや、魔力の量はどんなもんかと思ってな」
魔力量は、四年間冒険者を続けているはずのエミリーに少し劣る程度。
魔法使いとは言ってもまだ見習いということを考えれば、量は飛びぬけているように思えるが、さて……それでなんで攻撃魔法に自信が持てないんだ?
身体能力は何かが高い、なんてこともなさそうだし、適正は魔法に寄っているように思える。
そういえばノエルは前の師匠に破門……攻撃魔法の適正は低い、ということだろうか?
調合は得意だそうだが、錬金術とかそういう方面に適正があるんだろうか。
ノエルに限って言えば、しばらく適正を探すことから始めた方が良さそうだなと結論を出し、
「ワシは前衛特化じゃの。壁役も攻撃役もどっちもドンと来いじゃ」
何故か話に混ざってきたロリババアことニーナに思わず突っ込みを入れる。
「いやニーナのスペックとか聞いてない。俺はまあ、大体何でもできるかなぁ」
「なんでじゃー! ワシも混ぜてくれ!!」
「お前ギルドマスターだろ? 仕事しろよ。こっちはガキのお遊びじゃないんだよ? 命掛かってるんだよ?」
「んなこと分かっとるわ! この中でパーティを組んだことのあるヤツなんぞ居らんじゃろ? ある程度役割が回るようになるまで経験者が監督した方が良かろう! あとな、タクト。ギルドマスターの仕事なんぞほとんどないんじゃよ!」
適当に判子突いて仕舞いじゃ、とニーナ。
そのカミングアウトはどうなんだろう?
「……いや、それならそれこそ『ルイーナの華』にでも頼むわ」
「なんでなんじゃー! ワシだって自分で言うのもアレじゃがかなり名の通った冒険者なんじゃぞ!? ……折角楽して酒代稼げると思ったのに」
口の中で小さく付け加えられたそれを聞き逃す俺ではない。
そんなことだと思ったよと再度この酒漬け幼女のパーティ入りを一蹴する。
「そういう慣らしには試行錯誤ってのも大事なんだよ。初めから完成、じゃあ対応できる場面ってのが限られてくる。あとな、俺一人ならともかくこいつら引き連れていきなりダンジョンとかはありえねーだろ? お前の酒代一回分も稼げん、諦めとけ」
聞く人が聞けば『お前が言うか』とでも思いそうな正論を吐きながらニーナの申し出を蹴っていると、頼んだ料理と酒が届いた。
ちなみにニーナは酒代云々のところで『なんでバレた』という顔をしていた。
敗因は要らんことを口にだしたことだろうなと考えながらとりあえず酒樽を受け取る。
ニーナ一人に抱え込まれては困るのだ。
「お待たせしました、ありがとうございます! こちらハッシュドポテトのローストビーフ乗せと、エルクチーズとトマトのリゾットです!」
料理と酒樽、ワインとグラスを一人で持ってきた姉ちゃんの背中を見送る。
ワイン瓶握ったままの片腕で酒樽担いでもう片手に料理とグラス満載ってのは見てて気が気じゃない危なっかしさがあるが、そこは慣れているのだろう異様な安定感であった。
どう見ても俺より小柄なそのお姉ちゃんが二抱えはあるだろう酒樽を軽々持ち上げる絵面はまさにファンタジーとでも言いたい理不尽さを感じるものである。
「まあ、ニーナのどうこうはどうでもいいとしてブランデーってのはどう飲むのが良いんだよ?」
「よくないぞ! パーティの前衛枠、予約しとくからの!! ブランデーは、そうじゃの、お上品に飲むならストレートで掌で温めながら香りを楽しんで、というところか。まあ冒険者ならジョッキで汲んで飲むのが良いじゃろう」
まだ諦めていないらしいニーナの言葉に呆れながら、言われた通りジョッキで直接ブランデーを汲み上げる。
鼻を近づけると抜けるような刺激、その中に木樽の香りだろうそれと、微かな果物のそれを見つける。
……なるほど、ストレートはキツいかもしれない。
ジョッキの中に握り拳大の氷を作って落とした。
「え? タクトさん、今何したんですか……?」
「ん? 魔法で氷作っただけだろ?」
その様子を見ていたノエルが、目を見開いて問いを発した。
魔法使いならそれくらいできるだろ? そんな軽い調子で返してみる。
「……マリエラから聞いとったが、本当に氷の魔法も使えるんじゃの」
「まあ、使えるけど。これくらい誰でもできるだろ?」
魔法を使えるなら、だが。
「馬鹿たれ。氷なんぞ使える魔法使いは百人に一人も居らんわ」
ニーナが疲れたようにそんなことを言い出した。
思わずノエルの様子を伺ってしまった。
「はい……師匠も使えませんでした。そもそも、氷なんてどう出せば良いのか想像も付かないです……」
ノエルのその言葉に、遠い目をしてしまった。
そういえば俺の悪友、米田祐次は目が弱いのか、目が疲れたときによく遠くを眺めていたように思う。
そんな現実逃避の中、何故か薫と目が合った。
思わず見つめてみる。
『できるけど余計なこと言うなよ?』薫の瞳はそんなことを言っている。
……こんなことで道連れにしても後々引きそうな尾の方が気になる。
「まあ、今度教えるわ」
それだけ言うのが精一杯だった。
「それじゃ、リノアさんが斥候、先輩が前衛で僕がそのフォロー、ミリアさんとノエルさんが後衛で良さそうですね」
「どっちかって言うと俺とお前の役割、逆の方が良くねえかな。崩れた時に俺がフリーな方が良い気がする」
強引に話を戻した薫の尻馬に即座に飛び乗った。
もう、飛びついたと言っても過言ではない速度の返答である。
「それって……先輩に負担が掛かりすぎると思うんですけど」
「聞いた感じ、俺一人でお前らの役割どれでもできそうだしな。まあ、後衛の壁役メインで穴空いたらそこに入るのが良いと思うんだけどどうだ?」
「え、斥候とかもできるの!?」
リノアの反応にとりあえず頷いておく。
俺の中に居る四人、その内で未だに意思疎通が上手くいかないおっさんがその辺りは得意っぽいのだ。
多分、気配察知とか脳内マッピングとかはこのおっさんの技能だろう。
「……先輩、パーティ組む必要ないんじゃ……」
そんな薫の呟きに、同席した女性陣全員が頷く。
……ちょっと泣きそうである。
「ソロとか、寂しいじゃん……?」
思わず呟き返してしまう程には。
「ま、まあ、そういうことなら分かりました。それだと、もう一人くらいは前衛をできる人が欲しいですね」
気を取り直して、まさにそんな感じで話題をかえる薫。
俺も気を取り直し、薫の言葉を吟味する。
前衛と後衛一人ずつを一組にしたコンビの連携辺りを想定しているんだろうか?
または、カバーできる面積や方向を考えればもう一人いた方が安定度は増すという意味だろうか。
「『ルイーナの華』の三人、引き込んじまうか? あいつら、しばらく後衛が動けそうにないし」
かといって肉体的に特に問題のないクローディアがソロで、というのも考え難い。
そもそもがパーティを組んで行動していた三人だ。
一人で行動するにしても、ソロに馴れた冒険者と比べれば確実に多方面への『死角』は大きくなるだろう。
その『死角』は必ず彼女の足を引っ張り、いつかは引きずり込む。
もはや一人ではどうしようもない奈落の底へ。
かといって、一週間程度なら生活できる貯えがないとも言い切れない。
それなりに長い冒険者暦を考えれば、武具の整備や買い替え、悪天候やどうこうと入用だとか不意の休暇なんてものは付き物だからだ。
ただ、最前線に立つ前衛が一週間もの時間を戦場から離れて過ごすというのは、その感覚と肉体の双方を衰えさせるという危うさもある。
遠からず、もしかすると明日にもクローディアは狩りに出るかもしれない。
なら、その間『死角』を少なくできるような臨時パーティに入るというのが最も妥当な選択だろう。
その臨時パーティが俺たちのパーティ以外である必要はないのだ。
考えていると、凄く良い案に思えてきた。
一週間後にしても、後衛のエミリーとサーシャは病み上がりだ。
安全面を考慮するなら、彼女たちを守る壁役ってのは多い方が良い。
そもそもあの三人、パーティの構成が脆いのだ。
背後からの襲撃があればそれだけで危機に晒されるだろうし、罠への備えだって恐らくエミリーの魔法頼みだろう。
推測ではあるが、昨日壊滅しかかっていたのも背後からサーシャが崩されたのが原因じゃないかと考えている。
付け加えるなら、仮に二方面から攻められればそれだけで詰みかねないところもある。
よく今まで無事だったな……考えれば考える程ボロボロじゃないかあのパーティ。
「うん、あいつらも前衛不足だし前衛は最低でも二人は欲しいよな! とりあえず明日話付けてこようと思うけど構わないか?」
「ぐう、ワシの席は残るのか?」
ニーナの席はそもそも考えていない。
ってかこいつ今までどうやって冒険者やってたんだろうか。
少し疑問である。
前衛特化でソロ? 無茶過ぎるのは『剣翁』を見れば分かる。
あのレベルまで磨きぬいてようやく超感覚を使いながら一人で回せるという次元なのだ。
ぶっちゃけ一発攻撃貰ったらアウト。
前衛特化のソロなんてのはそんなもんである。
「その、僕らはその『ルイーナの華』という人たちを知らないんですけど……」
『人柄とか、いろいろあるだろ?』そう薫の目が問いかけてくる。
「まずは顔合わせってところか」
「それでお願いします」
その言葉を受けてざっとテーブルを見渡すと、残りの三人も異存はなさそうだ。
隣でジョッキを呷っているギルドマスターを除いて。
「決まりだな」
とりあえず、手に持ったままだったブランデーを軽く口に含む。
アルコールの刺激、その奥に芳醇と言って差し支えない香りが感じられる。
木と、恐らくブドウのそれだろう香りの後、深いコクと厳かにも感じられる僅かな甘味がまろやかに溶け合い、喉を通り過ぎる。
予想外に飲みやすいそれが、腹の奥で熱を生んだ。
◇ ◇ ◇
「で、俺が持って帰んのかコレ?」
「これってなんらこぞー、ぺったんこにすうお」
呂律が回らない程度にへべれけになっている幼女を背負いながら、嫌な顔をしてしまった。
「お前、できるかできないか考えて言えよ?」
「うしゃい!」
そんな俺たちの様子に苦笑しながら、四人を代表して薫が言葉を発する。
「僕らじゃギルドマスターが暴れ出したらどうしようもないですからね。申し訳ないですけど、お願いします」
一言で言えば、これは俺が求めてる柔らかさとは種類が違う。
せめてこれがもっと大人びた美女なら喜んでこの役に飛びついたというのに……そんな本音は飲み込むことにする。
わざわざ背負っている爆弾を爆発させる趣味はないのだ。
「……しゃーないか。それじゃ明日の朝ギルドで集合ってことで良いな?」
「はい。その後で『ルイーナの華』の人たちと相談してから連携とか細かいところの相談にしましょう」
「ういよー。んじゃ、おやすみ」
軽く決めておいた予定を薫に確認してから、ひらひらと手を振る。
「はい。先輩、ご馳走様でした」
「寝坊しないでよね」
「明日からよろしくお願いしますね」
その言葉に、肩越しにもう一度手を振る。
ちなみに飲み食いの代金は、銀貨五十枚。実に五十日分の宿泊費であった。金貨の半分である。
その頃には泥酔していたニーナのツケにしてやろうかと本気で考えたが、現金払いのみと断られて泣く泣く全額俺が払ったのはどういうことなのか。
ギルドを出る前に口座から金貨を引き下ろしていなければ食い逃げせざるを得ないところだった。ニーナだけ放置して。
そんなことを思い返しながら俺とは別の宿を取っているらしい三人と別れ、ギルドへと向かう。
「で、なんでお前は着いて来てるんだ? ノエルよお」
「お金がないんで、ギルドで泊めてもらおうかと」
おおう、これが駆け出し冒険者の身空というヤツだろうか?
思わずこっちが切なくなってしまった。
「……そうか」
「はい」
俺の背中ですっかり寝入ってしまったニーナの寝息を聞きながら、何となく訪れた沈黙の中を歩く。
時刻は、夜半前というところだろうか。
辺りにはすっかり人気もなく、コツコツと、俺とノエルが石畳を叩く音だけが響いている。
「今日は、ありがとうございました」
そりゃどれのことだ? そんな言葉は無粋ってものだろう。
どれでも構うことはないし、その中にあるだろう勘違いを正すってのも多分無理。
だから、これから先の感謝としてそれを受け取ろうと思う。
受け取れるくらいにはなんとかしてやらないとな、そんなことを考えながら。
「気にすんな。俺が好きでやったんだから」
これからすることも、俺が好きでやることだ。
視界の端に捉えるノエルの顔が少し赤いのは、酒のせいだろうか。
なんて、どこに赤面させるような要素があったよと考えながらも勘ぐってしまう。
また無言になるその道中、なんとなく空を見上げる。
俺の中の感覚が、その点と点を線で結んだ。
前の世界の星座なんてのはほとんど知らないが、それにしたって見たことも聞いたこともないその空の絵を眺めながらその線を無視する。
青く輝く半月に、色とりどりの星々。
夜、星が出て、月がある。
異世界でも、何も違いなんてのはないのだ。
そう、少し彩りが賑やかなくらいで。
でも俺は、その少しの賑やかさが欲しかった。
薫のことを考える。
あいつは、この世界に来て何を感じているんだろうか?
前の世界の周りの連中のこととか、考えてそうだなと思う。
はっきり言えば、俺の中にその辺りの未練ってのは一切ない。
この世界に来ようと思った時に、その辺りはすっぱり整理したからだ。
……女神のことを考える。
あの学生寮が全滅なんてことにはならなかったと言った彼女だ。
薫のことは触れもしなかったが、どういうつもりだったのやら。
まさか、嘘は言っていないとかそういうことだろうか?
下らない言葉遊びだ。
俺は少し、女神に怒りを覚えている。
なんで薫まで殺した? そんな種類の怒りを。
俺だけならそんな感情を覚えることはなかっただろう。
それどころか、もしかすると死ぬまで感謝し続けただろう。
多少、この世界の仕組みに不審があったところでそれを気にすることなんてなかっただろう。
そんな時間があれば、間違いなく俺はこの世界を楽しむことに腐心していたと断言できる。
もしまた女神と会うことがあれば、文句を言ってやろうと思う。
下らない隠し事だとか思惑だとか、そんなものをまとめて捨ててすっきりとこの世界を楽しめるように。
一通り頭の中を散らかした頃、ギルドの姿が見えてきた。
「ノエル、とりあえず俺と同じ宿で良いか? ああ、もちろん部屋は別で」
「え?」
「ギルドの三件隣だし、何より安いしな。冒険者ってのは体が資本だ。ちゃんと休める環境ってのは大事だぞ」
道中に一つ、飲み込むことにしたそれを口に出す。
「でも」
「俺に弟子入り、するんだろ? 師匠の言うことはとりあえず聞いとけ」
ノエルの反論を遮り、逃げ道を塞ぎにかかる。
きょとんとしたノエルの顔が徐々に喜色を滲ませる。
「はい!」
概ね笑顔になったところで、ノエルは元気な声を上げた。
「よろしい」
頷きを返して、ギルドの扉を開いた。
当然のように閑散としたギルドの中には受付が二人、依頼掲示板とは逆にあるテーブルに一人の冒険者らしき姿。
ピークの時間を過ぎれば、だいたいこんなものだ。
そして、こんな時間にも関わらず受付に腰を下ろしているマリエラさんに話しかける。
「マリエラさーん、ギルドマスター酔い潰れたんだけどどうすれば良い?」
「またですか……私が部屋まで運びます。お手数をおかけしました」
受付のカウンターから出てきたマリエラさんにニーナを渡す。
それにしてもマリエラさん、いつ寝てるんだろうか? そんな考えが顔に浮かんでいたんだろうか。
「もう上がりますよ。それに、昼休みを長めに貰っているんです」
苦笑しながら、マリエラさんはそんなことを教えてくれた。
また一つ、知らないマリエラさんを発見である。
「そうですか。お疲れ様です」
「タクトさんも。……ギルドマスターのこと、ありがとうございます」
「安いもんですよ……今日の酒代に銀貨二十五枚、請求しておいてください」
「確かに承りました」
俺の言葉に笑顔を残して、マリエラさんはギルドの奥へと入っていった。
ちなみに銀貨二十五枚は、確実にニーナが飲んだ酒代よりも安い。
あの幼女、五人分の飲み食い代相手に見事に割り勘勝ちしていきやがったのである。
あの小さな体の一体どこにそれだけの量の酒が納まるのか……謎は尽きない。
そんなことよりも、俺もそろそろ寝よう。
ようやく二日目を終えられそうだと思うと、無意味に疲れを感じてしまう。
「俺らも行くか」
「はい」
そんな訳で弟子になったノエルを連れて宿へと向かう。
ああそうだ、明日クローディアと会ったら手料理でも作ってもらう約束を果たしてもらおう。
そう考えると明日が楽しみになってきた。
まだ慣れない宿屋の扉を開きながら声を上げる。
「おやっさん、もう一部屋頼む!」
「ああスマン坊主、丁度お前の部屋が最後の一部屋だったんだ」
「……え?」
おやっさんこと宿屋の親父の返答に、思考が固まった。
「そっちの嬢ちゃんの分か? 同じ部屋なら銅貨五十枚で飯付けるがどうする?」
「それでお願いします」
「ちょちょちょ、ノエルお前何言ってんの?」
「師匠の身の回りのお世話は弟子の務めですから」
いきなりぐいぐい来るノエルに困惑する。
あれ、だってまだ好感度上げていく段階でしょ俺ら? あれ?
「がはは、羨ましいな坊主! ほら、鍵だ」
「ありがとうございます」
困惑どころか混乱しつつある俺を他所に勝手に話を進めていくノエルと宿屋のおっさん。
「ちょい待て! 待てって!!」
「ほらほら、行きますよタクトさん」
何故だかスイッチが入ったらしいノエルに押されながら階段を上り、部屋に押し込まれる俺。
ノエルが魔法でランプに火を点した。
「いやいやノエルさん? 俺だって男だよ? 同室は流石にマズくない?」
言わざるを得ないそんな言葉に、しかしノエルは一切聞く耳を持たない!
「冒険者は体が資本、ですよね! あ、そうだ! マッサージとか、教えてくださいよ!」
にっこにこしながら詰め寄って来るノエルに気圧され、脚はいつのまにかベッドの縁にまでたどり着いていた。
「いやいやいやいやマズいでしょそれは!」
「むう。あ、それじゃ体、拭きましょうか? タクトさん、疲れてるみたいですし!」
「いやいらないから! 急にどうしたノエル? ちょっとおかしいだろいろいろぉオッ!?」
そう、順序とか段階とかいろいろあるじゃん?
そんなことを考えていた俺はベッドの存在に気付かず、足を取られてベッドの上にすっ転んだ。
……これは所謂、押し倒されたというヤツだろうか?
慌てて上半身を跳ね起こす。
「ほら、やっぱり疲れてるじゃないですか!」
更に勢い込むノエルさん。
その勢いに僅かに恐怖を覚えながらどうしたものかと普段回さない頭を回転させる。
空転、そんな単語が頭を掠める程度には全然考えがまとまらない。
「とっ! とにかくお前のベッドは向こうだ! 分かったらさっさと寝ろ!! 休める時にはしっかり休む! 冒険者の鉄則だぞ!!」
途端に拗ねたような表情になるノエル。
なんだこれ、いつのまにナイアガラを滝登りするくらいにありえない勢いで好感度上がったんだ?
そんな疑問を感じながら、部屋に備え付けられたもう一つのベッドを指差す。
「……分かりました」
不承不承のお手本のようなその了承の言葉にほっと息を吐き、ベッドに体を預けた。
助かった。そう思いながらベッドの上の寝具に潜り込み、ランプの火を落とそうかというタイミングである。
……すっごい視線を感じた。
隙を伺っている種類の視線だ。
「……ちゃんと寝ろよ? 明日寝不足だとか言い出したら許さんよ?」
「はぁい」
舌打ちでも聞こえてきそうな程に不機嫌なその声を聞いて、弟子入りを許したのは間違いだったんじゃなかろうかと思わざるを得なかった。
とりあえずランプの火を風魔法で消す。
月明かりが弱く照らす部屋の中に、やけに輝いて見える一対の瞳を感じながら頭まで寝具に潜り込む。
時折、思い出したように向けられる視線を感じながら、異世界二度目の眠れない夜は更けていく。
明らかに自分よりか弱い弟子に怯えながら、日の出はまだかと震えながら。
ざっと仕込んだ好感度上昇場面はそれなりの数でしたが、どう見ても肉食系チョロインに……どうしてこうなった。
そして主人公のヘタレ具合。




