第七話
夜明け前に実家に帰るオリエが出て行った後。
アルベールは目を覚まし、身支度を整えて階下へ降りた。テーブルには彼女の筆跡で書置きがしてあった。
”おはようございます。
朝食は用意しておきます。なるべく早く戻るようにします。”
彼女らしく、淡々と書かれた文章。彼はそれを読むと、くずかごにそれを投げ捨てた。その書置きのそばには、パン・サラダ・果物などが置いてあり、ポットには茶の用意がしてある。彼は椅子に腰掛け、テーブルにおいてあった新聞を広げた。
一面には、本日未明、身元不明の女性の水死体が川岸に上がっていたことが報じられている。その遺体の女性は年齢的に若く、状況的に物的証拠や、遺体の外的損傷が見られない為、自殺ではないかということで、司法警察局は処理をするようだ。早朝の事件だからか、新聞社も慌てて記事を書いたのであろう。ところどころ誤字が見受けられ、詳細な事はかかれておらず、その事実のみが記載されていた。また同紙面には、最近女性や子供を狙い、ナイフで切りつけ軽傷を負わせる、という通り魔的な事件も数件あるようで、注意を呼びかけていた。
彼は一通り紙面に目を通し、朝食に手をつける。彼は朝食をすばやく済ますと、馬車に乗って、まだ朝早い王宮への道を進んでいった。
彼の日課は、まず王宮に上がり、父や兄弟が多忙な場合は、彼らと共に王族・貴族達の体調確認や診察を行うことだ。特に冬などは、風邪が流行していると、必ず父達の手伝いをさせられる。しかし、それ以外はもっぱら、王族・貴族の子女達の家庭教師のような事をしているか、書類整理を行っていた。彼は基本的に面倒なことは嫌うので、のらりくらりと医師の仕事から逃げようとするのだが、彼は仕事もよくできた為、父や兄弟からは重宝がられており、最近では、本格的に宮廷医師に戻るよう催促を受けている。
クレイトン家はその家柄と、代々排出する人物の優秀さから、王より信頼を得ていた為、保健衛生に関する事柄だけに限らず、時折、宰相や王の相談役にもなっていた。しかし、その行為は他の貴族の手前もあり、あらぬ災いを招いたりすることも予測できていた為、特に現当主ローランは、自身や身内の行動に注意を払っていた。しかし、兄のクロードや弟のブリスは、あまりそのような父親の思慮には我関せず、といった風であった。どうやら、二人は母親のカリッサの気質を強く受け継いでいるようで、父親の思考を取り越し苦労、と苦笑いして軽く受け流している節があるようだ。
父は現在、王宮の宮廷医師達の監督責任者として、医師長を勤めている。王の信頼も厚く、医師達のまとめ役としての立場もあり、父は、彼専用の研究室をかねた部屋を貰い受けていた。アルベールは、父親のいつも詰めている、その王宮の一室に足を踏み入れた。朝早いためか、父はまだ王宮に上がっていないようだ。しかし思ったとおり、父の作業台の上には、昨夜アルベールが読んでいた報告書と同じものが置かれていた。
報告書の題目には、こう書かれている。
“麻酔薬ルーンジュームからの成分抽出と、その依存性について”
ルーンジュームとは、今のエダル王国で使用されている、一般的な経口麻酔薬だ。
この麻酔薬の元は、二年草のルーンというもので、細い葉に青い小花が特徴の、エダルの高原地帯に生息する植物である。ルーンは元来帰化植物であり、エダル古来より生息する植物ではない。ルーンの生息については諸説あるが、今の学説として最も信じられているのは、秋に実をつけるルーンを好んで食べる渡り鳥が、越冬するためエダルに飛来し、山岳地帯に巣を作ることで、そこに不消化のルーンの種が糞から発芽し、自生するようになった、と言われている説だ。そして、それらは長い時間をかけてエダルの高山環境に適応し、今ではエダルの山岳地帯には、野生のルーンがたくさん見られている。
ところが、ルーンにはある不可解な謎があった。それは、虫や他の動物は、ルーンを一切口にしないことである。花や果実からは甘い芳香が漂い、いかにも美味しそうな赤くみずみずしい実をつけるのに、ルーンを口にするのは、その渡り鳥だけなのだ。
それを不思議に思った、当時の若き医師のヨルンジュームが、ルーンについての研究を行い、その他様々な薬草の知識・行った治療の記録などと共に本をしたため、それを世間に公表した。それが、現在エダル国内の医師達が必習する “ヨルンジュームの医学書” である。
それによると、ルーンの根以外の葉・花・実には、中枢神経に作用する幻覚・鎮静・催眠作用があることが記されていた。また、その渡り鳥だけがルーンを摂取できるのは、古来からその実を食し、体内にとりこんでいることで耐性があるから、あるいはその毒性を分解できる為ではないか、など、彼独自の学説が展開されていた。しかし、当時はこの植物について誰も知らず、一部の学術者しか興味を引かなかったので、この本やヨルンジュームには全くといっていいほど、世間の注目は注がれなかった。
その後、彼はこの作用に目をつけ、ルーンの果汁を絞り、乾燥させ、粉末にしたものを作り出した。そしてその粉末を、当時他国との戦争で負傷し、助からないと見放されていた瀕死の騎士達に飲ませたのである。彼らは大抵、傷からの感染や出血、栄養不良などで苦しんで死んでいくことが多かった。心臓をひと突きにされたり、頭頚部や上部脊椎の損傷で即死することは、非常にまれだったのだ。当時ヨルンジュームは軍医として従軍することもあり、彼らが苦しみながら死んでいくのを、ただ指をくわえてみていることしか出来ず、大層悔しい思いをしていたようである。
結果、彼の思惑通り、瀕死の騎士達はそれまでの苦しみから解放され、穏やかな表情で亡くなっていった、と本には記載されていた。そして彼はこれを機に、研究を重ね、粉末の経口摂取量を調整し、臨床へと応用した。粉末を摂取した人間の意識が朦朧としている間に、怪我人の治療を行うことを思いついたのである。
そしてとうとう、実践的に使える経口麻酔薬を作り出す。彼は、それを自らの名前と植物の名を組み合わせて、ルーンジュームと名付けた。これが、エダルにおいての、麻酔薬の始まりである。
余談だが、その彼の一連の行為を知った保守系貴族からは、人殺しの魔術師、または神への冒涜者、などと非難されていたようである。しかし実際の功績を称える騎士達により、当時の王もその結果を認めないわけにはいかず、ヨルンジュームは特別に恩赦を受けたという。その後、ルーンジュームの発表で一転し、彼は世の注目を浴びた。一躍、時の人として表舞台に躍り出たのである。当然、その功績により彼は王直属の宮廷医師となった。さらに褒賞として、その当時の王家の第二王女と結婚し、王族の一員として並ぶことすら許され、丁重に扱われたそうだ。また晩年は研究三昧だった、とも後世の歴史学者は彼について記録している。
ちなみに、世間にルーンジュームが発表された当初は、王族や騎士の間でしか使用できない、高価なものであった。しかし彼の死後、年月を経て、現在では研究や改良が進み、ルーンジュームは安定した需給が可能になった。その為、安価で一般の診療所でも使用できるようになり、ルーンジュームはエダルの一般的麻酔薬として、浸透していったのである。
しかし、ここ近年、少々不穏な情報が、ごく一部の宮廷医師の間には流れていた。それは、ある一部の貴族の間で、ルーンジュームを使用した時のような症状が何日も続き、時には死に至ることもあるという、どんな治療も無効な謎の奇病の噂である。
その噂は当然、医師長の父、そしてアルベールやその兄弟にも届いていた。しかし、アルベール以外の兄弟達はくだらない、根拠のない噂と一笑していたが。
だが、彼の入手した報告書からは、どうやらその噂にも根拠があるような内容が記載されていた。とある薬草研究機関から、ルーンを加工・乾燥させたものが、ルーンジュームの作用と類似したものと同程度、あるいはそれ以上の作用をきたす、という研究結果があげられ、また、その濃縮・抽出された成分は、依存性があるとも発表されていた。それだけでなく、その報告書の一番下の段には、こう書かれていた。
”安全な加工・乾燥技術には専門の技術を要するが、ルーン自体は単純に、乾燥させ成分を濃縮した状態で、火であぶる・いぶす・煮出すなど、熱を加えても、発生した気体もしくは液体に、ルーンジュームより高い濃度で、成分が抽出される。”
”一般的にその安全な技術には、多額の費用がかかるが、成分抽出のみを目的とする場合、簡便な方法は熱を加えることであるため、いつ何時でも可能となるであろう。”
そのよからぬ奇病の噂がささやかれ始めた頃、彼の教え子の兄が、家でその奇病らしい症状があることを知り、いろいろと調べてはいたのだ。
きっかけは、些細なことであった。その生徒を教えている時、真面目で熱心なその生徒が珍しく、アルベールの前でよく居眠りばかりをしていた。怒っても、彼の居眠りは改善せず、筆記試験もよく点数を落とすようになってしまった。彼は本来、とても勤勉で頭のいい生徒だと、アルベールは考えていたので、この彼の行動は腑に落ちなかったのだ。アルベールは彼を呼び出し、話をよく聞いて見ることにした。アルベールにしては根気強く返答を待った。すると生徒が長い沈黙の後、ポツリ、とこう漏らしたのだ。
”先生、ごめんなさい。その・・・最近あんまり眠れないんだ。兄さんが・・・夜中に変な声を部屋で出したり、僕の部屋にきて、たたいたり・・・あっ、でも、普通はやさしいんだよ。けど・・・このごろ変なんだ。僕、怖くて部屋に鍵をかけて・・・。父さんや母さんも・・・ここのところ帰りが遅いから、あんまり話してないけど、お昼ずっと寝てるんだ。だからこんなこと、話せないし・・・。”
アルベールは、この教え子に、自分と一緒に、この事を両親へ話すよう勧めたが、生徒は家の中のことを他人に知られたくなかったのか、何度説得しても、頑なに嫌がった。
その話を打ち明けられた後、そうこうする間に生徒の父親は自殺、母親も急死し、兄弟は親戚に引き取られていった。その際、一度アルベールは生徒の家に行ったが、親戚と思しき人間から、家庭教師の契約は一方的に破棄され、そのままその生徒とは会えなくなってしまったのだった。
アルベールは不審に思って、大学時代の同期で、司法警察局の友人に調査を依頼したところ、やはり同じように一家離散したり、死亡したり、あるいは病院や僧院・教会に隔離されたりする人間が、少数だが存在することを知った。だがこの時点では、そのような結果と奇病とは、因果関係がはっきりしなかった。それはごく少数の、一部の貴族にしか、起こっていない事象であったからだ。彼の友人もこの一連の状況に興味を持って、極秘に調査していたところ、このことは、さらに思わぬ事態に発展していることがわかった。それは、ルーンの成分が、合法的に貴族社会の中で、取引されつつあることだった。現在のエダルでは、王国の戒律で、ルーンの栽培と、ルーンジュームの作成・使用を、医療行為のみに制限していた。扱えるのは王が選任し、許可した薬師と医師のみである。それは、ルーンジュームの副作用や悪用を、王が懸念していたからだ。しかし、その戒律の目をかいくぐって、誰かが何らかの手をさらに加え、合法的に普通の生活品として加工して持ち込んだ事が、疑われている。友人に、その何らかの形とは何なのか聞くと、友人から帰ってきた答えはこうだった。
”俺が調べてわかった物では、葉巻だ。まあ、恐らく葉巻だけじゃなく、いろいろな形に化けている可能性は、否めないが・・・。一般的な代物として、なんの違和感もなく、加工されて貴族達の間で、最近出回っている。だが、ルーン自体大量生産なんてできないから、高価な嗜好品として、だが。しかし・・・いい徴候ではないな。王は、違法麻酔薬、として危機感を抱いている。貴族の間では、集会なんかの時に、闇取引しているみたいだからな。あれを摂取すると、天国に行くような、浄化されるような気持ちになるらしい。それが、なんて呼ばれているか、お前知っているか?・・・『聖薬』だぞ?それを愛用する、おかしな宗教まがいの集団も、出てきているくらいだからな。王は近いうちに、対処に乗り出すだろう。”
だが、その手を加えた者が誰かは、友人の調査でも現段階ではわからず、調査は継続していた。
友人のその言葉通り、王は、医師長で信頼の置けるローランに、水面下での『聖薬』の調査を依頼していたらしい。そのことは、最近、父親とたまたま司法警察局でばったり会ったことでわかった。
ルーンジュームについての報告書が、父の詰所に置いてあるのを見た後、アルベールはベルティーナ家での家庭教師の日であったため、そのまま王宮を出た。シルレーネから、今日は午後に所用があるため、午前中のみ授業を早めて行ってほしいと、依頼があったからだ。
いつも通り、ベルティーナ家の屋敷にたどり着くと、入り口ではシルレーネ付きの侍女の一人が出迎えてくれた。しかし、この日はいつもと違っているようだった。屋敷全体が静まり返っていたのだ。アルベールは、その侍女に問うた。
「いらっしゃいませ、アルベール様。」
「どうしたんだ。シルレーネ嬢は?」
「それが・・・」
侍女は言いにくそうに、言葉を濁す。視線を彷徨わせた後、声を潜めて小声で話した。
「急遽、今日はお休みにしてください、とのお嬢様からの伝言でございます。時間を変更していただいたのに、ご足労かけて申し訳ありません。」
アルベールは何かある、と直感し、さらに侍女を問い詰めた。この屋敷がこんなに静まり返っているのはおかしな話だ。いつもは何人か侍女が行き来しているのにそれもない。
「シルレーネ嬢は病気か何かではないだろうな?」
「いえ、そうではありません・・・・その・・・」
納得する理由を聞くまで、そこを動かなさそうなアルベールの雰囲気に、侍女は観念したように話し出した。
「・・・友人のご葬儀に出席される為、お嬢様はお出かけになったのです。」
「葬儀だと?誰の・・・」
「・・・お嬢様の極めて親しいご友人です。」
いつもなら、流していた何気ない、ありきたりな、侍女との会話。しかし、今日はなんだか嫌な予感がしていた。彼にしては珍しく、その話題に食い下がった。
「友人?」
「・・・はい。何でも、急に、との事だったのですが・・・」
「その友人とは、誰だ?」
侍女は訝しげに、アルベールを見た。なぜそんなことまで聞くのだ、といわんばかりに。アルベールはもう一度、その視線を無視し、侍女に詰め寄る。
「誰なんだ?死因は?」
侍女はためらった後、食い下がるアルベールに仕方なく口を開いた。
「・・・フェルマー様・・・バルバラ=フェルマー嬢です。・・・いいえ、今は先々月ご結婚なさっていますので、バルバラ=ディーツ夫人でいらっしゃいます。あの・・・新聞をご覧にならなかったのですか?」
アルベールは、家まで馬車を急がせる。
あれからベルティーナ家を挨拶そこそこに飛び出し、馬車を拾って自宅へと引き返していた。『バルバラ』なんて女性名は、エダルのどこにでもあるものだ。『バルバラ』に彼は会っていないので、オリエの言った『バルバラ』とシルレーネの友人である『バルバラ』が同一人物かは断定できないのだろうが、アルベールにとっては、いくらなんでも、今この時点でその名に接点を持つのは、不自然な感じがするのだ。そして、最後の侍女の言葉・・・『新聞』、そして『葬儀』。彼の本能は、厄介な面倒事が起こりそうな予感を示唆していた。
『バルバラ』
この名前をオリエから聞いた時、どこかで聞いたことのある名前だと彼は思ったのだ。
よく、シルレーネの、授業の合間に繰り広げられる、他愛のない世間話で登場していたから、耳に残っていたのだろう。
〝先生、今日バルバラったら・・・。〟
〝 やっぱり!先生結婚したって本当だったのね!お父様から噂できいてはいたけど、先生もてるから、本当かしらって、思っていたの。この間も、バルバラやリサと話してたのよね。〟
彼女の話によく出てくる、『バルバラ』『リサ』と言うのは、シルレーネより二つ年上の幼馴染らしく、仲が良いということは、今まで散々、彼女の他愛もない世間話に付き合わされてきたアルベールにもわかっていた。しかし、このくだらない話が、今となっては聞き流していたことが悔やまれる。彼女に関して、友人という肩書き以外の、有力な情報が得られたかもしれないのだが・・・。
アルベールが馬車内で悶々と考え込んでいると、馬車はいつの間にか自宅前で止まっており、御者が自宅へ付いたことを告げた。
彼は金を御者に押し付け、馬車から駆け下り、急いで自宅へ飛び込む。オリエは実家から、まだ帰っていないようだ。そのまま居間へ入り、朝、自分がテーブルに無造作に置いた新聞にすばやく目を通す。
“新聞を見ていないのですか?”
この侍女の言葉は、どう考えても、朝刊の一面記事を指しているのだろう。
発見された遺体については若い女性、としか書かれていないが、あの侍女の言い方では、被害者が『バルバラ』ということなのは一目瞭然である。だが、なぜ彼女は急に死んだのか?オリエに接触した”バルバラ”と同一人物なら、なおさら気になる。
・・・・・・ふと、アルベールは、なんとなく甘い香りが、台所から漂っていることに気が付いた。
朝は考え事をしていたせいか、全くわからなかった。それほどかすかな、芳香だったのだが。 彼は吸い寄せられるように、普段全くといっていいほど、足を踏み入れない台所へ入っていった。芳香の元となっている物が何か、視線を彷徨わせる。そして、彼の視線はある一点に注がれた。
台所のすみ、日の当たる台の上に、小瓶があった。そこには細い葉のついた、小さな花が一輪挿しにしてある。小瓶の水は替えているのか、綺麗であるが花自体は乾燥し、枯れかかっていた。ほのかな甘い匂いは、この花から漂っているようだ。オリエがもってきたものだろうか?だがこれは、彼の仕事上熟知した物とよく似ていた。
アルベールは、呆然と呟いた。
「ルーンがなんでここに・・・。」
ルーンは王国の戒律で、栽培がおいそれとは認められていない。限られた場所、限られた人間のみ、扱える植物であり、自生しているはずもない。
なぜ、その代物がここにあるのだ?
オリエが独自に手に入れたのか?だが、ルーンを手に入れてどうする?公にやり取りなんぞしていたら捕まるのは誰もがわかっているからこそ、闇取引となっているのに。
彼は、その考えをすぐに否定した。ありえない。人と接することもままならず、嘘もつけない、臆病な女が、後ろめたいようなことをすれば、自分がすぐ見抜く。多分、これがルーンだ、と言うこともわからないはずである。そうでなければ、こんなに堂々と、しかも王宮仕えの人間と住居を共にしていて、ルーンを一輪挿しになどしないだろう。
しかし、前述した通り、根拠も何もない。単なる彼の感情論でしかないのだが。
だとすると、入手先はいつ、どこからだ?そして、オリエは昨晩、なんと言っていた??
〝・・・や・・・やめてください・・・お茶なら、もらいました・・・〟
〝・・・女性・・・あっ・・・バルバラ・・・ディーツ・・・という方からです・・・〟
そして、友人の言葉も、同時に脳裏に浮かんだ。
”俺が調べてわかった物では、葉巻だ。まあ、恐らく葉巻だけじゃなく、いろいろな形に化けている可能性は、否めないが・・・。一般的な代物として、なんの違和感もなく、加工されて貴族達の間で、最近出回っている。だが、ルーン自体大量生産なんてできないから、高価な嗜好品として、だが。“
『バルバラ』『葬儀』『奇病』『報告書』・・・そして、この小瓶の花。こうも同時にタイミングよく、いろいろ起こるはずもない。
『バルバラ』からもらったとオリエが言っていた『茶』はもしや・・・
アルベールは、突然、台所の戸棚や引き出しを乱暴に開け始め、中を探り始めた。
彼の勘があたっているなら、オリエがもらったという『茶』は、ただの『茶』ではないかもしれない。