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第一話

少しでも苦手、と感じたら、読まないことをお勧めします。

美しい金髪の束ねた髪、そして青い瞳。どこから見ても、誰が見ても美しい夫。私は冴えない元成金・没落一族の女。なぜ、こんな人が私と一緒にいるのか?それは私と彼が政略結婚しているからだ。

 

夫は結婚前から、こんな美しい容姿であるため様々な浮名を流していたようであった。加えて、頭脳明晰で家柄も代々学者や医師を輩出している優秀な一族である。これでは女がほっとくはずがない。当初は私も、その容姿端麗な外見、そしてその付随するもの、そしてなにより気品のある紳士的な態度にすっかりだまされてしまったものだ。


 しかし、いったん結婚してしまうと彼の態度は豹変した。私はもともと冴えない上、容姿もいまいち、頭もそれほど・・・といった人間であった。いや、外見に関してはいまいちどころか、夫から言わせれば今まで知り合った女の中でも、下の中くらいだとのことだ。彼は、私をなじることが日常茶飯事となった。暴力まではないが、言動は冷ややかになっていった。また、浮気や女遊びも公然と行うようになり、パーティーなど夫婦同伴の集会には、愛人を伴っていくことも多い。彼曰く、私を、人様に妻であると紹介するのは、恥ずかしくて出来ないのだという。私は「じゃあなぜ私を選んだの?」といつもの疑問を心の中でつぶやくのであった。しかし、答えはわかりきっている。没落した我が一族が彼の一族に身売りをし、取り入って私を好きなようにしてください、とさしだしたからだ。私の運命は決まっているも同然だった。

 婚約したての頃は、そこまでわからなかった。ただ、彼の表面だけのものに振り回され、のぼせ上がっていたのだから・・・。

 そう、これは政略結婚なんだから、あきらめるしかないのだ、と唇をかんで私はいつも我慢する。

 

 「お前みたいな女の出来損ないが、俺と結婚できたことだけでもありがたすぎるくらいなんだ。」


と彼はよく私に言った。


 ・・・その通りだ。このままいけば売れ残りは必須だったはずなのだから。そして、生活も今のように夫に守られたものでなく、明日食べるものを確保するのも難しい状況になっていたに違いない。

 

しかし、私はお飾りの妻どころか、女中か下働きのようなものであった。炊事・洗濯など、彼は彼の実家のように侍女・執事をおかず、すべて私にさせた。私を信用しないのか、家計管理は彼が行っていた。また彼は、絶対に私には触れようとはしなかった。結婚初夜、彼は私を、まるで汚らわしいものを見るように「あっちへいけ。お前の部屋は向こうだ。」と冷ややかな視線と言葉をあびせ、私は彼の部屋から追い出されてしまった。私は呆然としてしまったが、すごすごと向かいの南角部屋に引っ込んだ。悲しくて、悔しくて、私はそのとき政略結婚をした彼の、本性を見たのだった。


 私の夫はアルベール・クレイトンという。クレイトン家といえば、私たちの住むエダル地方では知らぬ人がいないほど名家である。多くの学術者を生み、彼らは非常に優秀であった。私の義父である、クレイトン家の現当主も、王家から侯爵の地位をいただいており、彼自身は優秀な宮廷医師であった。また義母は、クレイトン家と並ぶ2大貴族・ゼフリール家の令嬢である。義父には3人の息子がおり、その次男にあたるのが、アルベールだ。


 アルベールは、他2人の兄弟より優秀であり、次期当主と目されていた。しかし彼自身は面倒ごとを避けており、宮廷医師になったにも関わらずその地位を辞してしまった。しかし、能力の高い彼は王宮からその才能を惜しまれ、貴族・王族対象の選任教育者として、宮廷にひきとめられた。一方で彼は顔も広く社交的であったため、趣味・道楽と称しその人脈を生かして貿易や経営なども行っていた。彼はそちらでも、才能を発揮していた。

 見た目は義母一族譲りの美しい容姿を持ち、能力は優秀な義父の血を受け継いでいるアルベールである。幼い頃からそれなりに人にもてはやされ、彼自身も自分の立ち位置や魅力をわかっていたのだろう。彼は非常に冷静で、冷酷な部分があったと思う。自分に益にならない人物は、それなりに排除してきていたし近づこうともしなかった。また、女遊びも非常に激しかった。出入りしている宮廷・貴族・果ては王族まで、彼に熱を上げる女性は多くいた。後から知った話だが、彼は王家の遠縁に当たる姫と婚約も勧められていたという。しかし、なぜか彼はそれを断り続けていたそうだ。 この話は、あくまでも結婚前に流れていた噂にすぎないのだが、私には結婚を前にして、心の中にしこりを残すことになってしまった。 噂の内容は、アルベールが学生時代、ある中流貴族の妻に熱を上げていて、二人は想いを遂げてしまったこと、そして彼女が夫の知らぬ間にアルベールとの子供を身ごもってしまった上に、流産で亡くなってしまったこと、しかもいまだアルベール自身はその婦人を忘れられず、彼女の面影を色濃く残す娘に執着していること、であった。

 私は、その噂が耳に入るたび、心がかき乱されていたが、彼の前では努めて平静を装った。これが私にとっての、なけなしの女としてのプライドだったのかもしれない。そしてまた、彼から捨てられるのも怖かったのだと思う。

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