君を、見つけた。
13年前、俺が4歳だった時。
近所の「りえ姉ちゃん」が死んだ。
彼女は高校生で、俺とは12歳も違ったけど、俺は彼女が好きだった。
憧れと、尊敬と、恋愛感情。
けれども高校生であるりえ姉ちゃんに何度「すき」といっても、彼女は当然相手にしてくれなくて。
「ありがと。私も夕くんが大好きだよ」
そう言って、俺の頭を優しく撫でるだけだった。
四歳児の俺は恥ずかしげもなく「ぼく、おっきくなったらりえねえちゃんのおむこさんになる!」なんて言ってたけれど、彼女にはしっかり、同年代の「彼氏」がいた。
4歳児ながらも、小さく嫉妬していた俺に、突然入った訃報。
部活帰り、暗い道での交通事故。
目の前が真っ暗になった。
その日から、幾日たった頃だろうか。
塞ぎ込む俺を慰めようとしたのか、母さんが言った。
「命はね、終わらないのよ。りえお姉ちゃんは、また新しく生まれるの」
「またうまれる?」
「そう。そしたら、こんどは夕がお兄さんね」
その会話を、まだ物心がついていたかも危うい頃だけど、まだ覚えている。
もう17歳になった今なら、はっきり分かる。
母さんがただ俺を慰めようとして、そんな突拍子もないことを言ったことを。
けれどあの日から、俺はりえ姉ちゃんの影を探し続けた。
そして――――見つけたんだ。
本当に、何億分の一かの確率で、偶然。
りえ姉ちゃんの面影のある、彼女に。
***
「ユウ? どうした? おーい、会長さーん?」
友人であり、生徒会副会長のハルこと小田嶋春仁の掌が、俺の目の前を上下する。
でも、俺はそれどころでは無かった。
ぽとり、と、箸から唐揚げが落ちた。
からん、と空虚な音を響かせて、箸もテーブルの上を転がる。
「……ちょ、まじでどうした? だいじょぶかー?」
眉を潜め、俺の顔を覗き込むハル。
「……邪魔だ」
その顔を、俺は押しのけた。
ってぇ、何すんだよ、というハルの苦情を無視し、俺は“彼女”を再び見つめた。
生徒たちの賑わう昼の食堂。
俺とハルの座るテーブルの一つ隣、俺の丁度真ん前で、笑顔で友人と話しながら、プチトマトを口に運ぶ茶髪の彼女を。
――――似ている、と思った。
外見ではない。
笑顔が。
仕草が。
話し方が。
落ちた髪を、耳に掛ける動作でさえ。
俺の愛した、そして今はもういない彼女に。
憧れの「りえ姉ちゃん」に。
息を飲み込み、瞬きしても、目の前の彼女は消えない。
制服からして、中等部だろうか。
新入生であろう彼女の生まれた年はきっと、「りえ姉ちゃん」がいなくなってしまった年。
「……ハル」
俺は彼女から目を離さずに、ハルに問うた。
「あの子は―――――誰だ」
ちらりと彼女を一瞥したハルは、ああ、と頷く。
「新入生。1-Aの結城莉絵」
「……は?」
今――――なんて?
「だーかーら、結城莉絵。入学試験は新入生252人中4位。得意科目は歴史と地学、苦手科目は理科。スリーサイズは……」
まるでデータベースかのように彼女の情報を羅列するハルの言葉を、しかし俺は聞いていなかった。
結城莉絵。
りえ。
失ったあの彼女と、同じ名前。
これは、偶然だろうか。
偶然でも必然でもいい。
俺は椅子を倒して立ち上がり、彼女――――結城莉絵の元へと向かった。
故意ではない。自然に足が、動いた。
13年間求め続けた、彼女の元へと。
やっと。
君を、見つけた。
帰りにチャリこい出る時にふっと書きたくなって、書き殴りました。
また出しちゃった、長編な短編。
うあー、私、「ここから物語は始まる」的な短編の終わりが多い。←
一応、転生してるんです。
ちゃんと、この先も想像してるんです。
書いてないだけで。←