プロローグ
歌が聴こえる。
銃弾の雨の下、一瞬の油断が死に繋がる世界だというのに、
俺は自分が思っていた以上にまだまだ余裕みたいだ。
いや、もしかしたらこれはただの幻聴で、俺はだいぶ追い詰められているのかもしれない。
その兵士は崩れかけた家屋に身を隠しながら自嘲気味に笑った。
戦局は変化なし。互いに身を隠しながらの戦闘で、持久戦に持ち込みたいのは両軍ともに同じのようだ。
ほんの少しだけ耳を澄まして歌を聴いてみる。
ゆったりとした曲調、高い歌声、銃撃音や兵士の叫び声のせいで歌詞までは聞き取れない。
歌声は哀しみと憂いを帯びていた。
誰が歌っているのだろう。
鉄と暴力が全てで、死と諦めが満ちたこの戦場で。
その兵士はまた耳を澄ます。
銃撃と人々の怒号の中からかすかに聴こえる歌声には、先程より力がこもっている気がした。
……鎮魂歌≪レクイエム≫だ。
サッと血の気が引き、一瞬だけ訪れていた穏やかな気持ちはすぐにかき消された。
その噂は兵士の間では有名だった。
『戦場でレクイエムが聴こえたら、覚悟を決めろ。
そのレクイエムを聴いて、生きて戦場を出られた兵士はいない。』
全身から汗が噴き出る。さっきまであんなにうるさかった銃撃と怒号が聴こえない。
仲間はどこに行った?俺はここで死ぬのか?
「…いやだ、まだ死にたくない!」
周りを確認する暇すら惜しく、勢い良く立ち上がりそのまま撤退ポイントを目指して走り出した。
そのとき、
『死は佇む、あなたの隣で、静かに、静かに。』
歌が聴こえた。
直後、一発の弾丸が兵士の頭を貫いた。
もう、歌は聴こえない。




