タダでメシ食う交渉術
「昼飯おごってくれ」
「ざけんな?」
「じゃあジュースだけでもいいから」
「自分で買え」
「無理だ。今月ゲーム買いすぎた」
「自業自得だろ」
「あの百円菓子でいいから」
「断る」
「むぅ」
§
「ン……いかん、十円足りん。あるか?」
「あん? しゃーねぇな」
「おお、助かる。……ふむ、十円はありか」
「ん、なんか言ったか?」
「いや、気にするな。恩に着る」
「おう、存分に感謝しろ」
§
「喉が乾いて死にそうだ、ジュースおごってくれ」
「干からびて死ね」
「ひどい」
§
「……ワゴン品と馬鹿にしてれば、なかなか素晴らしい掘り出し物じゃないか」
「あー、前から欲しいっつってたなそのゲーム。二世代前のゲーム機じゃねぇか」
「名作は朽ちぬ。……ぬああ、五百円、この五百円が……」
「そんなにスッカラカンか」
「もちろんだ」
「威張って言うな。ったく、ほれ、五百円くらいなら出してやるよ」
「マジか、お前最高だな、愛してる」
「五百円で買える愛などいらん」
「ひどい。いやホントありがとう。じゃちょっと買ってくる」
§
「ジュース」
「断る」
「まだ言ってないのに」
§
「お疲れ。大変だな、こんな遅くまで」
「ぬー、うああ。お、リポディタン。こんな時間にどうした?」
「真っ先に品確認しやがったよこいつ。まあいい、それ差し入れだ」
「おお、すまんな。そういえばトイレ行くのも忘れてた」
「お前……いや、大変だな」
「まあ、ね。なんとか片付けて、早く続きをやりたいよ」
「こないだのゲームか。相変わらずだなあ、お前」
「ふ、当然だ。そっちは珍しく優しいな」
「珍しく言うな」
§
「……んー。基準が分からん。値段じゃないのか? 気分か? 私への愛か? よし、試してみよう」
§
「愛してる」
「なんだお前」
「ジュースおごってくれ」
「去ね」
「古語!?」
§
「百円だと思ったら五十円だった件について」
「ベタだな」
「すまん、五十円」
「またか、スカンピン基準で買い物すんなお前」
「助かる、愛してる」
「十分の一かよ、安いなお前の愛」
「心配するな、私の愛は百八まである」
「煩悩の美称か」
§
「昼飯おごってくれ」
「断る」
「愛してる」
「ノーサンキュー」
「しどい」
§
「まったく基準が分からん。何が違うんだ? ……あれ、もう月半ばか。時間が流れるのは早いのぅ。……ん? うん。あれ? ……お、オアァーッ! わ、忘れてた! 明日発売日じゃないか! 予約解禁日から三ヶ月って、ああ、抜かった! うわぁ、二円しかないのに……。ああ、うわぁ……。やばい、タンス預金、なんて、ないよなぁ。うわぁ、参ったなぁ……うわぁ……」
§
「ダメだ。こうなったら、もう、ふんだくるしかない……ッ!」
§
「……こういうのは間が大切だ。ふぅ、よし。リラックスして、気が緩んでる時を狙おう。……負けられん」
「なにに負けるって?」
「うぇひっ!? いやいやいや、なんでもない!? いつの間に来たんだお前!」
「今だよ」
「そうか。……そうか。うん」
「なんだよ?」
「……いや、なんでもない」
§
「一億円貸してくれ」
「は?」
「一億」
「なに言ってんだお前」
「ダメか? じゃあ一千万円でもいいぞ」
「じゃあじゃねーよ、アホか」
「仕方ない、五千万で妥協しよう」
「妥協してねぇ、あげんな」
「まだダメか、なら一千万でどうだ」
「どうだ、じゃねーよ。戻ってんじゃねーか」
「いいじゃないか、そのペットボトルを毎日買って二年になるが、死ぬまで続ければ、えっといくらだ? まあたぶんそれより安いぞ」
「生涯累積と比べてもな」
「よし分かった、なら、せめて一万円」
「一気に下がったなオイ」
「頼む! 一万円! 必ず返すから!」
「げ、本当に借りたいのか。なにに使うんだよ」
「必要なんだ、すぐに!」
「……ったく、いいな、今回だけだぞ。必ず返せよ」
「ああ、ありがとう。ホントありがとう」
§
「……ふふふ。『大きい数字を出して価値を混乱させる作戦』は成功だ。これで、限定版スペシャルボックスは安泰だ。ふふふふふ」
§
「というわけで、確かに返したぞ」
「受け取った」
「ついでに昼飯おごってくれないか」
「自分で買え」
「……あれー。いいじゃん、一万に比べたら些末なものじゃないか?」
「些末と言うなら自分で払え」
「ちぇ」
§
「やっほー」
「おう」
「やあ」
「ねね、悪いんだけどさー、お昼おごってくれない? 今月ピンチなんだ」
「む、ああ、分かったよ」
「なにぃ!?」
「やたっ、ありがとう助かるー。また何かあったらいつでも言ってね。バイビー」
「はあ、やっと借りひとつ返したか……」
「おい、納得いかんぞ。なぜあいつはよくて私はダメなんだ」
「あいつには借りがたくさんあってなあ、頼られるチャンスを狙って感謝を示さないと」
「ずるいぞ、不公平だ。私にも感謝を示してくれ、そして昼飯おごってくれ」
「お前に感謝を示す理由がない」
「……むぅ」
§
「ふぅ、やっと明日で給料日。今月調子に乗りすぎたなー。……にしても、相変わらず二人一緒とか。愛されてるなぁ、あの子。羨ましー」




