④線視るせさ識意
時列系としては、『意識させる視線③』の直後の話です。
途中から『意識させる視線④』と連動してます。
緒川が裏で動いてたお話。
目を閉じる。
そして、整理しよう。
全ての疑問に答えをつけよう。
なぜ、九頭先輩は視線を意識するようになったのか。
なぜ、長谷川さんが九頭先輩を意識させようとしたのか。
なぜ、僕が周りの視線から意識を外したのか。
僕が思うに。
九頭先輩は視線を引きつける体質なんだろう。
理屈とかじゃなく。
意識させてしまう何かがある。
長谷川さんや僕でさえも意識させる何かが。
だけど、おそらく。
その体質に本人が気付いていないし、気付かないままの方が何かと都合がいい。
気付かない性格といってもいいだろう。
もう、遺伝子の段階で、意識させる何かとそれに気付かない何かを持っている。
そうしないと。
生きるのが辛いからだ。
もし気付いてしまったら、謎の視線にずっと神経をすり減らしてしまう。
今までは、そうならないように。
ある程度、鈍感に。
上手に、生きてきた。
なのに。
女子が夏服になる頃。
視線に気付け、と。
気付いてはいけない人間に対し。
周りをよく見ろ、と。
糾弾した馬鹿がいる。
僕だ。
きっとその時から。
彼は視線に気付き始めた。
自分が異常なほどに人の視線を集めることに、恐怖した。
気付いてはいけなかったのに。
気付かないはずだったのに。
気付くわけがなかったのに。
僕が、気付かせた。
罪悪感がぶわっと、身体にのしかかる。
なんとかしなければ。
彼の体質だと、多分一生視線から逃れられないだろうから。
大丈夫、手はある。
特定の犯人を作り出して、この問題に終止符を打てばいい。
終わったと勘違いさせる。
今までのは、意識しすぎていただけだと。
気にしなければいいだけだと。
思い込ませればいい。
適役は、いる。
立花 渚。
彼女は、九頭先輩に好意を抱いている。
他の人とは少し違う視線。
熱っぽい、眼差し。
好意の視線だと知ったら九頭先輩も悪い気はしないだろうし、安心するはずだ。
後味もいい。
視線に対する恐怖は多分消える。
一番いい方法だ。
それ以上の方法はない。
よし、と呟く。
都合の悪い事から目を逸らすように。
早足で教室に戻った。
次の日の昼休憩。
僕は、ちょうど廊下にいた九頭先輩の元に向かう。
「こんにちは、今日は一人ですか?」
「おー、お前か。そうだよ、唐沢はパン買いに行ってる。何か用か?」
一人なのは好都合だった。
僕はすぐに本題に入る。
「視線のことなんですけど、ちょっと前から気になる人がいまして…」
「え!本当か!?」
「はい」
僕は顔を近づける。
あまり不自然にキョロキョロしないでくださいね、と前置きをして、中庭にいる肩までのショートヘアの女の子をこっそり指差す。
3年生の教室は一階だから、廊下を隔てて中庭があるのだ。
立花さんは、中庭のベンチでパンを食べていた。
「あの子、見覚えありますか?」
「…ないな」
「僕、実は彼女と同じクラスなんです。彼女、1、2ヶ月前から中庭にいることが多いんですよ。ここからなら先輩の教室見えますよね?まぁ、偶然かもしれないですけど、ちょっと気をつけてみてください」
半分嘘で半分本当。
だけど、九頭先輩は静かな声で分かったと頷く。
よし、とりあえずは成功かな。
「あ、後輩君だ」
パンを持った唐沢先輩が現れた。
「一緒にご飯食う?」
「あーいや、僕はちょっとやることがあるので…」
そういって、九頭先輩に意味ありげな視線を送る。
九頭先輩はそれを察知して、じゃあ早く行くぞ、と唐沢先輩を引きずって退散した。
さて、次だ。
なんとなく廊下の窓から中庭を眺める振りをして、立花さんを伺う。
立花さんも、なんとなく教室側を見る素振りでこちらを向いた。
その瞬間を見逃さず、がっちり目を合わせる。
あまりにしっかり目が合ってしまったもんだから、立花さんは目を逸らすタイミングを失ったようだった。
僕は、ぎこちなく笑って。
クチパクで話しかける。
彼女は首を傾げる。
伝わっていないようだ。
今度はゆっくり。
一文字ずつ、口を開く。
「す き な の ?」
ちゃんと伝わったかはすぐに分かった。
彼女は顔を真っ赤にして、こちらに向かってくる。
「な、なななな、何、いきなり!?」
「いや、どうなのかなーって思って」
「どう…って、緒川くんには、関係ない、でしょ!!」
「うん、まぁそうなんだけど」
なんか可愛いな立花さん。
もう耳まで真っ赤になっている。
「九頭先輩がさ」
彼女は、その単語にびくっと身体を震わす。
目なんか、涙目で。
見るからに、体は熱そうで。
恋を擬人化したら、多分彼女になるんだろうな、と思った。
「…九頭先輩が、最近視線を感じるって相談してきてね、その視線の正体を探してたんだ」
「…………」
「多分、立花さんかなって」
本当は立花さんだけではないんだけど、彼女が九頭先輩を見ていたことは事実で、九頭先輩を見てしまう理由も明確で。
彼女は、否定できないだろう。
「…えと」
口ごもる彼女。
「余計なお世話なんだけどさ、………告白、しないの?」
「む、無理!!!!…あっ」
思わず肯定しちゃったことに、立花さんは再び顔を赤らめる。
「今なら、チャンスだと思うんだけど…。九頭先輩も意識し始めてるし。…でもまぁ確かに、僕が出る幕じゃないよね、ごめん」
僕は立ち去ろうと、向きを変えた。
「それじゃ」
「え、あ…ま、待って!!」
振り返る僕。
彼女は未だに真っ赤で、それでも今度は顔を上げて、困ったように微笑んだ。
「えと…、どうしたらいいと思う…?」
深呼吸する。
顔には出さないように。
気を引き締めて。
彼女を直視する。
「そうだなぁ、ラブレターとかは?」
「…なんでニヤついてんの?」
「あれ」
バレバレだった。
何はともあれ、今後昼休憩の間だけ二人で告白の計画を練ることになる。
「ラブレターかぁ。一般的ではあるけど、なんか愛が薄っぺらい感じしない?本当に好きなら直接のほうが…」
「直接言えるの?」
「…いや、無理」
んー、まぁ直接の方が都合がいいんだけどね。
「でも確かに難しいか、直接は」
「そもそも、九頭先輩の教室に行って呼びだすとか出来ないよ…」
「じゃあ、手紙で呼びだせば?それで直接告白」
「うー…それが一番いいんだけどね…。…なんかゴメンね緒川くん。もう一週間くらいグダグダしちゃってるけど」
「ううん、いくらでも付き合うよ」
そう言ったら、立花さんはほっとしたように笑顔をこぼす。
「…ありがと。勇気出た」
それから2日後。
九頭先輩の元に手紙が届いた。
立花さんだ、とテンションが上がる。
遂に、書けたんだ。
「ラブレターですか?」
「それがさぁ、よく分かんねーんだよなぁ」
分からない…?
どういう意味だ?
そう思ったのも束の間、どういう意味なのかはすぐ分かった。
これは…ひどい…。
そして、立花さんが言ってた言葉をふと思いだす。
「呼び出すだけだから、ラブレターだとか意識する必要なんてないよね!」
「そうだよ、気楽にね」
「うん、気楽に気楽に!招待状を書くと思えば!それなら書き方分かるよ!」
「あ、そうなんだ?」
「うん、お兄ちゃんが漫画いっぱい持ってるからさ」
「……へぇー?」
彼女は、脅迫状を招待状だと思っているのだろうか。
今すぐ彼女に真実を教えてあげたい衝動に駆られる。
そして、立花さん。
名前書けよぉぉおおお!!
仕方ない。多少不自然だけど、九頭先輩に彼女の存在を思い出させる。
「立花 渚、ね」
長谷川さんと大橋くんがすぐに反応した。
もしかしたら、僕が立花さんに接触していた事を知っているかもしれない。
余計な事を喋らせないよう、すぐに九頭先輩に話を振る。
「どうでしたか?彼女の視線。ヤバそうでした?」
『ヤバそう』なんて、視線の見えない九頭先輩には分かるはずもない。
だから、彼は表情で判断するしかないだろう。
「いや、別に。睨んでる感じでもなかったし」
睨んでいないから大丈夫なんて根拠はないけれど、それでも大丈夫だと思い込ませる。
「だったらやっぱりラブレターくさいなコレ!!」
グッジョブ唐沢先輩!!
そのセリフが欲しかった!!
思わず、こっそり拳に力を入れる。
だが、九頭先輩はまだ疑っている様子。
僕は思わずベラベラと口走ってしまう。
「立花さん、きっとラブレター書くの初めてで、なんか変なヤンキー漫画の果たし状かなにかをラブレターと勘違いしてるだけなんですよ」
「緒川くん、なんで立花さんのことそんな詳しいの?」
長谷川さんが、怪訝な表情をして追求する。
しまった、と思った。
僕と立花さんに接点があることを九頭先輩が知ったら、ちょっとややこしくなる。
最終目標は告白なんかじゃなくて、九頭先輩が視線を意識しなくなることだから。
「いや、なんとなく。冗談だからさして意味はないよ」
「ふぅん?」
それ以上言及するつもりはないようで、長谷川さんは口を閉じた。
少しほっとして、すぐに頭を切り替える。
九頭先輩を乗り気にさせなければ。
すかさず、唐沢先輩が提案してくれる。
「まぁ、ガチで脅迫状かなんかだった場合のことを考えて、後輩くんと俺がコッソリついていってやろう!!な!!」
これは、どうなんだろうか。
乗ってくるかな?と九頭先輩を伺うと、満更でもないみたいだ。
九頭先輩は連れションおっけーな人なんだな、とどうでもいいことを考える。
ちなみに、僕は連れション苦手だ。
「じゃあ明日の昼に」
僕らは解散した。
立花さんに会わなきゃな、と考えつつ、教室に向かった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
『意識させる視線』は次の話で終わらせる!…予定。
しばしお待ちを!




