プロローグ
人は、意識して見ないと物を認識出来ないらしい。
例えば、考え事をしているとき。目は確かに開いているけど、外の景色なんて見えてはいない。見る必要がないからだ。『見る』ということは『興味がある』ということ。逆にいえば、『見ない』ということは『興味がない』ということ。当たり前に思えることかもしれないが、実際その事実を意識し理解している奴はいったいどのくらい居るのだろう。見ている振りをして、理解した気になっていないか。
もっとちゃんと焦点合わせて、がっつり見てみろよ!
「―――…がわ」
ん?
「戻ってこい緒川!」
「――ッ!?」
教科書で頭を叩かれた。
うん、痛い。
恨めしげに見上げると、眼鏡をかけた神経質そうな数学教師が横に立っていた。
「緒川、問2の答えは?」
「え、あ…えーと、すいません分かりません」
先生はわざとらしく大きな溜め息をついて歩きだす。寝ている生徒を2、3人叩き起こして教壇に立った。
やべ、説教モードだ。
「一回一回の授業が大切だと、何度言ったら分かるんだ?こういう風に授業を中断したら、せっかく真面目に授業を聞いている生徒の邪魔になるというのがまだ分からないのか!」
あーこれは長くなるな。
クラスみんなの意識が先生から離れていくのが見える。
視線がバラバラに動きだす。
先生、気づきませんか?
自分の言いたいこと、好き放題言ってますけど、あなたの言葉に興味持っている人なんていませんよ。僕の右隣の長谷川さんは外の景色を見てるし、左隣の大橋くんはずっと黒板のXと言う文字しか見ていません。それと、誰なのか判別はつきませんが、4人ほどの生徒が先生の少し長い鼻毛を直視しています。蛇足ですが、あなたの目に向けられている視線が一つもないんですよ。だけど、当然といえば当然なのかもしれません。先生の視線の先も決して生徒の目ではないんですから。
ホント、すれ違いもいいとこだ。
こんなの虚しいじゃんか。
こんなに沢山の視線があるのに、一つも交わらないなんて。
みんな、見えないのか。
一人ひとりの目から出る一筋の光が。
僕には視線が見える。




