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半妖従者と拗らせ主人の契約結婚と初恋事情  作者: 石動なつめ
騒動の正体

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20/28

20 班別行動

 話し合いの結果、幾つかの班に分かれて鵺を探すこととなった。


 カエデの班はアズマとカサイの三人だ。

 指揮官が同じ班になるのは、バランスが悪い上に護衛の負担も増えるので、普段であればあまり取らない。

 

 しかし今回は思うところがあったので、カエデがそう提案をしたのだ。

 もちろんちゃんとした理由を述べた上で、だが。


「八森家の皆さんの手を逃れられるくらいですから、だいぶ素早い相手なのではないですか? それなら討伐中に逃がした場合に、後方で待機していた方が追いかけやすいです。私、犬のモノノ怪の血を引いているので、嗅覚にはちょっと自信がありますし。アズマさんとカサイさんも、後方にいた方が全体を見渡せるでしょう。こちらでまとめて面倒を見ますよ」


 と、出来るだけ早口にならないように気を付けて、そう提案したのである。

 ついでに「二度も逃がせないでしょう?」とダメ押しもしておいた。

 若干難色を示した者もいたが、他の者が「八森家に泥を塗るわけにはいかない」と言ってくれたので、どうにかカエデの案が通すことが出来た。

 ちなみに加勢してくれたのは、鵺を捕まえると言った時に、安堵していた中の一人である。


 そういうわけでカエデたちは三人で山中を、鵺を探して歩いていた。

 先頭からカエデ、カサイ、アズマの順番だ。

 耳と鼻で、周囲の音や匂いを確認しながら、カエデは敢えて他の者たちから距離が出来るように獣道を進む。


 土の匂い、草花や木々の匂い――それらの中に、カサイと同行していた者たちの匂いが交ざらなくなるのを見計らって、カエデは足を止めて振り返った。

 先頭が立ち止まったものだから、後続の二人も僅かに遅れてその場に止まる。


「カエデさん?」

「どうしました?」

「少々確認させていただきたいのですが……アズマさん、カサイさんの首の辺りを見ていてもらえますか?」


 カエデはカサイを真っ直ぐに見たまま、その向こうにいるアズマに頼みごとをする。アズマは軽く目を開いてから「分かりました」と数回頷き、カサイのうなじへ目を向けた。

 カサイはその間黙っていた。目が、何かを期待しているような色を浮かべている。


(当たりかな)


 そう思いながらカエデは、先ほどと同じ質問を彼にする。


「鵺が暴れた理由、本当はご存じなのではありませんか?」

「それは」


 カサイがにこりと笑って口を開く。

 その瞬間、チリ、とやはり術が発動する音が彼の首の後ろから聞こえて来た。


「アズマさん」

「なるほど、そういうことですか」


 アズマへ呼び掛けると、彼は納得した様子で呟き、懐から呪符を取り出した。そしてカサイのうなじへ呪符を近付ける。

 すると呪符近くの肌から金色の光が放たれ始めた。

 霊力だ。カサイは首に何らかの術を掛けられている。

 アズマはロウの時と同じように、術の霊力を吸い取って解除しているのだ。


(首の裏側というのがなかなか性格が悪い)


 カサイは長い髪を首の後ろで結んでいる。

 ロウのように首輪状であれば術が発動すれば直ぐ分かるが、カサイの場合はだいぶ見えにくい位置だ。狙って術を仕掛けたのだろう。

 術者の周到さと底意地の悪さを感じながらカエデが見守っていると、数秒後には光が治まり、アズマが小さく息を吐いた。


「これで完了です。どうですか、カサイさん。違和感や、気分の悪さはありますか?」

「いえ、まったく。さすがですね、アズマさん。いやぁ、久しぶりに爽快な気分です。ああ、すっきりした……」


 カサイは天に向かって大きく両手を伸ばして、はー、一度大きく深呼吸をした。


「ありがとうございます、カエデさん。気付いてくださると思っていました。さすが、聴覚や嗅覚に優れた犬のモノノ怪だ」

「私は半妖ですけどね。ですが術が発動し掛けたりしなければ、分かりませんでしたよ。それに見つけたところで、私じゃどうにもなりません。アズマさんがいてこそです」

「そうでしょう、そうでしょう。褒められて気分が良いです」


 カエデがアズマを称賛すると、当の本人はにやりと笑って鼻を高くしていた。

 調子に乗らなければもっと良いのだが、こういう素直さも好ましいところの一つだとカエデは思っている。


「それで、あれって何の術だったんですか?」

「特定の内容を言えないようにする術ですよ。従属の術を人間にも効くように応用したものですね」

「うわ。何でまたそんなものを……」

「ちょっと、うちの母がね。私の口から、知られてはまずい話が出るのを恐れたのです」


 カサイはほんのり苦く微笑んだ。

 家族仲でも悪いのだろうかと思ったカエデの頭に、ナデシコのことが浮かんだ。そう言えばカサイが謝罪に来た時に、ナデシコにも事情があると言っていた。


(見かけによりませんねぇ……)


 八森家の当主が真面目な性分なので、家族も似た雰囲気だと思っていたが違うのかもしれない。


「では改めて、鵺が暴れた理由についてお伺いしても?」

「はい。母がナデシコを唆してモノノ怪に従属の術を掛け、そして抵抗され、失敗した。そのことに怒り狂って暴れたのです」



 * * *



 その頃ロウは、八森家の狸のモノノ怪のトコと、人間のマツバと共に山中を鵺を探して進んでいた。


(歳はモノノ怪のが上か?)


 どちらも外見年齢的には十代半ばか、後半くらい。こういう仕事に連れて来るのは、特に人間のマツバの方は珍しい年齢だが、カサイに顔立ちが似ているので恐らく親戚筋だろう。


(それならまぁ、普通にあるか。アズマやカエデも、そのくらいにはユキメさんの手伝いをしていたらしいし)


 そんなことを考えながら地面の落ち葉や小枝を踏む音を聴きながら歩く。

 迷いの術を掛けられて人があまり入らないと聞いていたが、思っていたよりも整備はされていた。


(逃げた鵺がどこへ行くかは分からねぇが、水場を目指してみるか)


 モノノ怪も生きるために水や食料を口にする必要がある。

 八森家の追跡から逃げた鵺は疲労していることだろうし、水分の補給はしておきたいところだろう。

 消耗が激しければ、ロウのようにモノノ怪を食らおうとしている可能性もある。

 水か、血の匂いか。その辺りを追えば見つけられるかもしれない。


(こういうのはカエデの方が得意なんだろうが……)


 嗅覚に鋭い犬のモノノ怪の血を引くあの半妖は、別行動中だ。

 班分けをした時に、アズマよりも積極的に主張していたので、何かしら思惑があるのだろう。

 八森家側の者たちが周囲にいたため詳しい事情は聞けなかったが、アズマも一緒にいることだし上手くやるだろうとロウは思いながら、ちらりと自分の班の者たちへ目だけ向けた。


(さっき反応が二種類あったな)


 カエデが鵺を『捕まえる』と言った時だ。

 あの時、安堵した様子だったのがトコ、眉を潜めたのがマツバだった。


 モノノ怪は悪さをすれば自己責任という共通認識がある。だから件の鵺がそういう事情で暴れ回ったのならば、ああいう反応にはならない。

 つまり何かやむを得ない事情があるのだ。


(さーて、何があるのかねぇ)


 ロウは口角を上げた。

 厄介事の対処は面倒だが、八森家へ対しては思うところがある。その対処(・・)が自分へ従属の術を掛けた者への嫌がらせになるとしたら、多少は溜飲も下がるというものだ。


「なぁ、お前ら」


 ロウは振り返らずに、後ろの二人組に呼び掛ける。


「何でしょうか?」

「鵺と八森はどういう関係なんだ? 事情をそろそろ教えてくれねぇかい?」


 足を止め、出来るだけ明るい口調でロウはそう尋ねる。

 ダメ押しに、気味が悪いくらい満面の笑みを貼り付けて顔だけ向けて「ん?」と続きを促した。

 ぎょっとした顔の二人組をじっと見つめていると、先に視線を泳がせたのは人間の方だった。


「ですから、暴れているモノノ怪を退治しようと……」

「またまた~。暴れたがりのモノノ怪が、自分を退治に来た奴から逃げ出したなんて、作り話としちゃ三流だろ」

「つ、作り話?」

「ああ、そうだよ。モノノ怪は暴れるのも、悪さをするのも、その結果で起こることすべては自己責任。それが常識。だからさぁ……」


 ロウは腕を組んで僅かに首を傾けながら、マツバの方に視線をぴたりと止める。


「……っ」


 ひゅっ、と息を飲んで青褪める彼に、ロウは一歩分近付く。


「――ありえねぇんだわ。その理由はよ」

「お、お前だってそうだろう! ナデシコ様に術を掛けられたじゃないか!」

「ああ、そうだ。術を掛けられて、てめぇで認めた奴以外に従わされるだなんて、んなもんふざけんなって逃げたのが俺だよ」


 もう一歩、近付く。するとマツバも一歩後ずさる。

 トコは二人をハラハラした表情で交互に見ていた。


「だけどな、俺は退治対象になるような悪さなんてしてねぇんだよなぁ。一方的な理由でやられたわけだ」


 はは、とロウは声を出す。しかしその目はまったく笑っていない。


「この落とし前、八森サンはどうつけてくれるんだい?」

「……っ」


 長身の鬼から見下ろされたマツバの顔色は、どんどん悪くなっていく。自分の上に影を落とされ、マツバはだらだらと冷や汗をかいた。


(ま、脅しはこのくらいでいいか)


 すっかり怯え切ったマツバを眺めながら、ロウはほんの少し屈んで視線を合わせる。びくり、と分かりやすくマツバの肩が跳ねた。

 そのままぶるぶると震え出す目の前の人間に、さてここからどう聞き出してやろうかとロウが考えていると、


「お、奥様の指示です! 奥様の指示で従属の術を掛けようとして、失敗して……!」


 トコが死にそうな形相で間に入ってそう言った。

 マツバがぎょっと目を剥く。


「ばっ! 馬鹿! お前、それを言ったら!」

「ッ、ぅあっ!」


 とたんにトコの首に金色の光の首輪が現れた。彼女は苦悶の表情を浮かべて、首を押え、地面に膝をつく。


(従属の術!)


 ロウは咄嗟に懐から呪符を取り出しトコの首に当てた。すると呪符が術に込められた霊力をみるみる吸い取って行く。

 ややあって、光が消えると同時にトコの首輪もまた消滅した。


「おいおい、何が日常的に使っていないだよ。普通に使ってんじゃねぇか……」


 ロウは舌打ちしたくなるのをぐっと堪えながら、呪符を懐へ戻す。

 これは事前にアズマから渡されていたものだ。


 ロウは一度、ナデシコから従属の術を掛けられている。

 今は篠塚家の者になったが、それでも同じことをされない保証はない。だからその対処として、この呪符を預かったのだ。

 霊力を吸い取る以外には使えない、素人でも扱えるシンプルなものだが、予想外のなところで役に立った。


「トコちゃんっ! 大丈夫か⁉」

「う、うん……な、何とか……」


 マツバがトコに駆け寄って声を掛ける。

 それを見ながらロウが、どうしたものかと考えごとをしていると、


「あ、ありがとう、ございました……」


 トコからお礼を言われて、ロウは目を丸くした。


(お礼を言われてもなぁ……まぁ結果的にはそうなるだろうけどよ)


 ロウは後頭部を手でがしがしとかいてため息を吐くと、


「それじゃ、ちょいと詳しい話をしてくれるかい?」


 と改めて問いかけたのだった。


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