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半妖従者と拗らせ主人の契約結婚と初恋事情  作者: 石動なつめ
八森家の次期当主

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17/28

17 会合終わり


 その後、会合の参加者たちに、結婚の話を聞かせろと二人揃って捕まった。

 ひと足先に解放されたカエデは、少し離れた場所からアズマたちをのんびり眺めていると、八森カサイから声を掛けられた。


「カエデさん、先日ぶりですね」

「こんばんは、カサイさん。ご挨拶をせず、申し訳ありません」

「いえ、今日は会合でしたから。急なことで、こちらこそ申し訳ありません」


 カサイからそう謝罪される。

 会合が開催された理由が、自分たちにあると気に病んでいるのだろう。


「こちらも表の状況が分かって良かったので、お気になさらないでください」


 とりあえずカエデはそう返しておいた。

 とは言え、これは本当だ。表の世で使われた従属の術に対して、モノノ怪たちがどう思っているのか気がかりではあったのだ。


 被害にあったのはロウだが、その様子を他のモノノ怪たちが目撃したり、察知していたりしていそうだとは思っていたのである。

 どこからか話が漏れたとのことだが、恐らく誰か見ていたのではないか――これはカエデだけではなくアズマやユキメも同意見だった。


 ロウにもその辺りのことは聞いたが、とにかくその場から離れることに必死になって周りを見る余裕がなくて、覚えていないとのことだった。

 だから今回の会議で、その辺りの情報の補完が出来て良かったと思っている。


「ところで、ご当主様は大丈夫ですか? ご入院されたと聞きましたが……」

「ええ。過労とのことで、しばらく安静にしていれば大丈夫です。あと一週間ほどで退院出来るかと」

「それは良かった。どうかご自愛くださいとお伝えください」 


 お見舞いを送った方が良いかもしれないと思いながら、カエデは言う。


(帰ったらユキメさんに相談しましょう)


 そう考えていると、カサイは胸に手を当てて「ありがとうございます。父も喜びます」と微笑んだ。

 それから彼は、カエデの頭に目を向けた。


「ところでカエデさん、その髪飾りとても良くお似合いですね」

「ありがとうございます。アズマさんからいただいたもので」

「そうですか、アズマさんから。ふふ、仲が良くて羨ましいです」


 カサイは目を細める。


(前にも羨ましいと言われたっけ)


 仲が良いと褒められるのはカエデも嬉しい。

 しかし、こう何度も羨ましいと言われると、それはそれで何とも言えない気分になる。

 八森家もきっと、八森家にしかない羨ましさがあるだろうに。


(まぁ、それは敢えて言いませんが)


 他の家には他の家なりの事情がある。よく知らないカエデが、想像で物を言ってはならないことだ。

 だからカエデは曖昧に笑って「ありがとうございます」とお礼を言うだけに留めておく。


(おかしなことを言ってしまう前に、話を切り上げた方が良いかもしれませんね。それに……)


『もう一つ思い出したわ。八森の次の当主、白い犬が欲しいって度々言っていたらしいぜ』


 頭の中にロウの言葉が蘇る。

 思い返してみれば、ナデシコもそんなようなことを言っていた。


(白い犬……)


 カエデは自分の耳と尻尾を僅かに動かした。


 その犬というのはもしや、自分を指しているのではないだろうか。

 もちろん自惚れかもしれないが、そう思えて仕方がない。


 だからどうと言うことはないが、アズマと結婚している以上は、あまり近付かない方が得策だろう。

 そう考えたカエデは時計を見上げてわざとらしく「あっ、もうこんな時間だ」と声を出す。


「すみません、カサイさん。そろそろ旅館を出ないといけませんので、これで」

「そうでしたか、残念だな……。またお話しましょうね」


 カサイは名残惜しそうな顔で微笑む。

 カエデは軽く頭を下げると、その場を離れてアズマの方へと向かう。


(……見られている)


 背中にカサイの視線が刺さるのを感じながら、カエデはアズマに「そろそろ出ましょう」と声を掛けたのだった。



 * * *



 居酒屋いすゞに立ち寄って、一時間ほど飲んでから、カエデたちは怪域へと戻って来た。


 住人たちが休み始めた黄昏通りは、ぽつぽつとした灯りが残っているだけで、暗く静かだ。

 その道を酒が入ったアズマとロウは陽気に酔っぱらって、肩を組んで歩いている。

 カエデは彼らを見守りながら、その数歩後ろについていた。


(しっかり飲みましたねぇ、この二人)


 アズマもそこそこ飲める方だが、ロウはそれ以上だった。酒豪とまでは行かないがかなりの量を飲んでいて、アズマがそれにつられて飲んだという形だ。

 カエデはと言えば、ちびちびと自分の分を飲みながら、二人が飲み過ぎないように見張っていたりする。


「あっははは。話が分かるじゃありませんか~」

「そうだろう、そうだろう。お前も最初に見た時は口も性格も悪そうだと思ったんだがな~。これが意外と良い奴じゃねぇか」

「性格が悪いのは余計ですよ~」

「そりゃ悪かったな~」


 あっはっはっ、と二人が朗らかに笑う。


(意外と気が合いましたね、この二人)


 ロウが篠塚家に来てから、二人が世間話をしている姿は見たが、お酒が入って一気に仲良くなったようだ。

 いすゞの女将も「アズマちゃんにしては珍しいわね」と言っていた。

 アズマは仕事上では親しげな態度を取れるが、一個人として相手と接する時には少々壁がある。警戒心が強いのだ。


 篠塚家の跡取りという立場上、色々な人と知り合う機会が多い彼だが、その中には下心満載で話掛けてくる者もいる。

 これはカエデが篠塚家へやって来る前の話だが、仲良くなれて嬉しいと思っていたら、実は全部が損得を計算の上だったと知って、幼いアズマは相当ショックを受けたらしい。

 それ以降、他人に対して警戒心が強くなってしまったのだと、ユキメは言っていた。ついでに「意外と寂しがりやなの」とも。


(だからロウさんみたいな相手は嬉しいんでしょうねぇ、んふふ)


 ロウは裏でこそこそ動くタイプでも、陰口を言って楽しむタイプでもない。何か言いたいことがあれば、真っ直ぐにぶつかってくるモノノ怪だ。

 裏表にそれほど違いがなさそうなので、アズマも付き合いやすいのだろう。

 彼と出会った経緯は悪いが、出来た縁は決して悪いものではなかった。


(何にせよ、アズマさんが楽しそうなので何よりです)


 自分の主が笑顔でいてくれるのが、カエデには何よりの喜びだ。


「お二人共、夜ですからね。声をもう少し小さくしてくださいね」

「はーい」

「ほーい」


 とは言え今は夜である。カエデが念のため注意をすると、二人は気の抜けた返事をする。

 本当に分かっているのだろうかとは思ったが――まぁ、大丈夫だろう。

 アズマの後ろ姿を見つめながら、カエデはくすりと微笑んだ。


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