01.取り巻きからの申し出
「リリアナさん、舞踏会についての定期報告は済ませてますよね」
「うん、それがなに?」
この国ではよく、要するに記念日が訪れる度に舞踏会が執り行われている。
宮殿にて、さまざまな関係者が招待され、一等品のグラスを掲げて親睦を深めるのだ。
しかし、困った点が二つある。
一つ目は、この舞踏会は辺境貴族からの献金から成り立っているということだ。王立貴族学院とは、裕福な貴族の集まりと言っても過言ではない。そのため、上流階級の人々の懐に入りたいと、辺境貴族はこぞって献金を進めるのだ。
そのことで困ったのは、二つ目。
献金で賄われた費用や人手は、ある時を境に著しく減ってしまったのだ。つまりは、辺境貴族からの献金が少なくなり、比例するように予算も足りなくなってしまったと考えるのが妥当だ。
いや、それしか考えられない。
しかし、実際には経理担当である男が頻繁に横領を行っていたと判明した。
異例の事態だ。早急に裁判が執り行われ、王国の方針で『業務上横領罪』として男は軟禁された。
そして事は収束に向かった、はずだった。奇しくも事件を知ってしまった北方貴族により、非公開情報は明かされ、内済金を渡す暇もなく、当事者に知れ渡ってしまったのだ。人づてにこの噂を聞いた辺境貴族も、王立貴族学院領地内を訪れ、異論を唱え始めた。
そうして、数年前に始まったのは『舞踏会についての定期報告』だ。
先ほど、辺境貴族からの献金から成り立っているといった通り、献金は今でも続いている。
「ふと思うんです。定期報告には皇太子さまが出向くのに、その書類仕事は雑務女にやらせるなんて」
「書類仕事と言っても、予算の確認と計画的な支出だよ。あと、雑務女っていうな。」
職務のような書類仕事を手伝ってくれる、私と同じ貧乏男爵令嬢のアーシャだ。
王立貴族学院では、婚約破棄や断罪が中央広場で見世物になっている中、せっせと婚約破棄状や読み上げる台詞を作る人が存在する。悪役令嬢なら優秀な取り巻きに、金持ちなら侍女に。
私も物心ついたころから、執務室のようなところでタイプライターを打ち込んでいた。
アーシャも同じ様な境遇らしいし、そうでなければこんなところで雑務などしていない。
「この図書館、何時も来ていますね。」
「さっきから質問攻めだけど、どうかしたの?」
つい、そんな質問をする。
「だって……。昨日から建国祭じゃないですか。」
「それがどうかしたの?」
「建国祭の最終日には、要人たちが集まる……舞踏会が……」
「私は行かないよ」
「行ってください、規則に反しますよ。この会話も何回目ですか」
(あ……、そういえば)
書類の中に舞踏会の際、調査をお願いしたいというものがあった。
差出人は悪役令嬢であり公爵令嬢イザベラの取り巻き役、ヴァイスと名乗っている。
「……黒色のドレスある?貸して欲しい。明日までに」
「やっと行く気になりましたか。でも、なぜ黒色のドレスなんですか?」
「夜に行われるから……暗闇に紛れやすい。もし、ブツの回収を命じられたら、と思って」
書類には、証拠となる文書を事前に回収しておくよう記されていた。
あいにく、寸前まで書類の存在を忘れていたため、今から文書を回収するのは難しいだろう。
(当日の朝は、警備がある。)
警備が手薄になるのは、舞踏会直前だ。来客の対応に手いっぱいになった隙を狙う。
しかし、宮門や中央広場には時期に人が溢れかえるため、遅すぎず早すぎないタイミングで。
「また、物騒なことに首突っ込むつもりですか?……もう、計画たて始めてる……」




