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高飛車疲れの執事、新生お嬢と路を征く  作者: 涼神ヘレン
目覚め編

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3/4

備えよう、新天地に

 私があれから別の仕事のために部屋を離れてからもマスミ様はずっと教科書を読み込んでいたらしく、夕食を持って行った時には国語、地理、そして外国語の教科書が積読のようにベッドに積まれた横で歴史の教科書片手にノートに何かを書いておられた。後にそれを見せてもらった時、書かれていた内容が今までに見たことない程細かすぎて転げ落ちそうなくらい目を見開いてしまって驚かれた。しょうがないじゃないですかルミナス様あんな丁寧にノート取ったことないですし。


 夕食の野菜たっぷりチキンスープ――具としての鶏肉は胃腸のことを考えて今日は抜き――を飲まれながら、お嬢様は私にこう問われた。


「ルミナスさんって学校で友達とかいたんですか?」


 ――いるにはいますよ、としか答えられなかった。なにせ私もそこまで詳しく学校での話や人間関係を把握していたわけではないからだ。

 それと……最早この世界に無き主への無礼を承知で申し上げると、そもそもルミナス様はかなり傲慢な性格で、隙あらば人を見下すので友達らしい友達がおそらくいたことがない。しかし同時に、カーマイン家自体がざっくり言えばかなり強力な家のため、敵に回してしまうことのないよう諍いを起こしたがる人も現れることがなかった。単に苛ついて帰ってきたルミナス様とか見たことなかったのと、喧嘩したとかの話を旦那様辺りすらも聞いたことがないらしいから勝手にそう思ってるだけだが……

 とにかくその辺の内心をすっ飛ばして、私はルミナス様の取り巻きの名前を友人として伝えた。流石に純粋な学生にこんな話は聞かせられないし、マスミ様には申し訳ないがその方が面倒もないので……


 それから心の中でマスミ様に詫びつつ、私は追加で学校に関係することを知っている限りで教えていった。シフォンとクレベルというお名前の取り巻きの女子生徒が二人いること、クラス担任の先生のこと、部活には入っていないことなどを色々……

 それらを伝えた時、マスミ様はスープに浮かべた人参を頬張りながら相槌を打ったり、出てきた名前を復唱したりして覚えようと努力してくださっていた。しかし本日だけでも覚えることが多かった筈なので、後でゆっくり見返せるように改めてメモを渡すことに決めた。


◆◇◆◇◆


 お嬢様が勉強を進めたり奥方様を初日のようにあしらったり、後は私がおすすめの小説を紹介していたりしているうちに追加休みの三日目が終わろうとしていた。『マスミ様としての』お嬢様が明日からついに学校に行くことになるのだ。緊張する彼女の不安を少しでも軽くさせられたらいいなと思い、私はこう提案した。


「一度制服に改めて袖を通してみませんか? 服自体は学校のものですから気休めにはならないかもしれませんが、デザインは可愛らしいですから試着してみたら案外気を紛らわせることはできるかもしれませんよ」


 制服が気になっておられた様子のマスミ様はその提案に目を輝かせて食いつかれた。今の中身も根はステレオタイプな女の子だったのだろう、やはり可愛い服も好きなのでしょう。

 「お願い着させて」と少し幼げにねだる彼女に今お出ししますよ、と伝えクローゼットから制服を取り出す。好みのデザインだったのかより目を輝かせる姿がなんだかかわいらしい子供のように見えた。絶対前の主人だったらこう思ってなかったのに、中身パワーすごい。


 そうして私が一時的に部屋から出て着替えてもらっていたが、背中のリボンとループタイがどうしても結べないとSOSが出たのでそこだけ手を貸した。それを終えて着替え完了のお嬢様を見ると……世辞に聞こえるかもしれないが、本当に可愛らしかった。少しサイズが大きいのか手が隠れかけの袖がふわっとした丸襟の白シャツに、胸元に花の刺繍が入れられたミッドナイトブルーのショルダーワンピースはよく合っていた。また腰のベルトの背中側に付いたワンピースと同色のリボンが、タイにも引き立てられたシックな雰囲気の中でチャーミングさを立てていた。

 可愛らしい制服に満足そうなマスミ様は「こんな可愛いのが制服とか信じられない!」とはしゃいで部屋の姿見の前でクルクルと回ったりしていた。明日からそれで外に出るのですよ、と言うと通学開始が俄然楽しみになったとかで緊張の面影もどこへやら、落ち着かない様子で期待が全身に表れていた。


 ちなみに前の制服はぶれざー?というスーツに似たものだったらしい、私達の仕事服なんかに似ていたら流石にワンピース程可愛らしくはなさそうだと思ってしまった。またシャツにつけるリボンもピンで留めるのに近かったために本物のネクタイを首に通したことがなかったそうだ。ループタイ導入の学校に通わせている身で言うのもアレだが、ニホンの子供は皆ネクタイを結んだことがないのだろうか……??


◆◇◆◇◆


「ゼロさん、いよいよ明日からなんですよね……ルミナスさんみたいに私も友達作れるでしょうか……」

「お嬢様は心配性ですね。きっと貴方様なら学年中と仲良くだってなれますよ」

「ふふ、それは流石に過言じゃないですか?」


 そんな軽口を叩きながら、私はお嬢様が目覚めてからを思い返していた。

 ――なんだかんだこの四日、たまたまとはいえ一番最初に後遺症で意識朦朧としていたお嬢様に信用された(という体で通っているらしい)ということで、側で色々世話や話をしたりしていたがその日々はなんとなく前よりいいものだった気がしている。

 そりゃあ私だって叶うことなら3日くらい自分のお気に入りの小説だけをしまい込んだ部屋で好きなだけ読書して過ごしたいし、子守仕事なんて願うだけタダならなるべくやりたくない。それでも、マスミ様という趣味の合う友人のような存在ができたことが嬉しかったのも事実だった。過去の話だが、同期のジェームズという庭師にお気に入りの小説を勧めても「ファンタジーなんざ読んで何が楽しいんだ」と言われたこともあるし、こんな風に好きなものの良さが誰にも話せないのも仕事くらいしんどいのだ。それが解消された息のしやすさったら……おっと申し訳ない話が逸れた。


 ぼんやり考え事をしていた私を心配するように名前を呼んだマスミ様に返事をして、明日に備えて準備を済ませた上でこれから眠る彼女に「おやすみなさいませ」と言って側を去った。

 閉まるドアの隙間から小さく見えた気のする、大切になってきた人に素敵な明日が訪れるよう祈りながら……

ここらでプロローグにあたる『目覚め編』は終わりになります、後は番外(1話の真澄視点)をどっかで更新するくらいかも

次回からは『初登校編』とかになります


ちなみにサラッと出てきたジェームズはゼロと腐れ縁みたいなもんです、ぶっちゃけモブなので忘れて良いです()

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