ナレッジ・コミュニケーション
「ルミナスゥゥゥゥ本当に良かったぁぁぁぁもう目覚めなかったらどうしようってパパ本当に心配だったんだぞぉぉぉぉ!!!!!!!」
……部屋入って早々やかましいなこの人。
お嬢様の指示のもと旦那様を部屋に入れたはいいものの……旦那様はドアを開けてすぐに大泣きしながらお嬢様に飛びついて、挙句大声でギャンギャンと心配していた旨を喚き散らしていた。当の本人が流石にいきなりの騒音に耳をやられたらしく耳を塞いでいるのも見ずに、涙やら何やら零して勝手に感極まって泣いている。
……何も知らない今のお嬢様から見たら今の旦那様はただの迷惑オヤジでしかないだろうな、みっともないからやめていただきたい。流石に引っ剥がそうと手を伸ばしたその時、お嬢様が自ら旦那様を宥めるために動かれた。
「お父様、たらればの話はおやめください!」
「る、ルミナス……?今パパのこと『お父様』って……」
「そんなことはどうでもいいです、それより今起きた私とちゃんと話し合うのが先でしょう? いつまでも過去の話をしていては進められることも進みません、そうですよね?」
「いや、ルミナスの言うことはその通りなんだけど……そんなこと……」
あーあ可哀想に、旦那様はお嬢様にパパ呼びされるの好きだったもんなぁ……それが急に「お父様」になって突き放されるのは子離れできてない人には耐えられないだろうな。
とにかくお嬢様によって泣き止まされた旦那様を運んできた部屋の椅子に座らせ、それからお二方は様態の確認やこれからどうするかを話し合っていた。
この話し合いでお嬢様は病気の菌がまだあったら危ないから様子見がしたいこと、休んだ期間の勉強も済ませたいこと等を伝え、三日程学校の休みを追加でもぎ取っておられたことを報告しておく。
◆◇◆◇◆
お二方の会話の後、旦那様は自分の用事に戻られた。そうして嵐の去った室内に蔓延る沈黙を、先に断ったのはお嬢様だった。
「……それで、先程言った身の上話のことなのですが……」
「そんなに萎縮なさらないでください、旦那様も部屋を出られたのでもう私以外誰も聞きませんから」
「そ、そうですよね……! ……簡単に信じられるようなものでないのは重々承知しています、そんな話でいいなら聞いてくださりますか……?」
「勿論です、どんな話でもお聞きしますよ」
安心していただくためにそう告げると、ほっと一息吐いたお嬢様は自身のことをかなり詳細に話してくださった。
要約すると、まずお嬢様に入った彼女の正体は『ニホン』という国で学生として生きていた『福田真澄』という方だそう。またマスミ様もここに来る数日前、丁度お嬢様が熱を出した頃と同じ時期に高熱を出しておられたらしい。彼女曰くルミナス様は同じく転移してマスミ様の体にいるか、下手したら己の体の中で眠っている可能性が高いとのことだが……正直ルミナス様はご両親以外に好かれていた覚えもないし、マスミ様の体も私や他の者が気にかけたところでどうにかなるものでもないからと、申し訳ないが気にするのをやめてしまった。
「――と、いうことなのですが……やっぱり信じられませんよね、こんなフィクションみたいな話……」
「……確かに現実で起こったことにしてはファンタジーのようですが、それでも私は信じますよ」
「えっ、信じれるんですか!? こんな、世界を跨いだ入れ替わりとかこっちじゃなんか聞かなそうなのに……」
「最近小説の題材として異世界人に憑依する等の導入の物語が流行っているのです、私もそれを嗜んだことが何度かありまして」
これを聞いたマスミ様は先程信じると言った時以上に驚いた顔をされていた。価値観か何かが思っていたのと違ったのだろうか……?
……そういえば「こっちじゃ」と仰られていたが、ニホンにもそういう話があるのだろうか。気になるし後で聞いてみよう。
「……とにかく疑われなくてよかったです、こんなの流石に御伽噺のように扱われてもおかしくなかったから……」
「マスミ様の思われていたよりこの世はニホンとやらに近かったのですかね」
「そうかもしれないですね……」
そう言ったところでマスミ様は「そういえば」と何かを思い出したご様子だ。かと思えばいきなりベッドを飛び出して机の引き出しを漁り始めた。何かお探しですか、と聞くと「教科書の中も前と近いか見なきゃ!」という返事が返ってきた。確かに常識が違うと勉強にかなり手間取ることになるだろう。おそらく追加の休みはその辺りを確認するためにもぎ取られたのだろうなと考え、私はベッドの横に立てかけられた学校の鞄を差し出した。「教科書の大体はこちらにありますよ」と一言を添えて。
礼と共に鞄を受け取ったお嬢様は数学や理科の教科書を熱心に眺めておられた。幸いにも文字は体がこの世界の人間で、かつルミナス様の知識がそのまま頭に残っているからかすんなりと読めるらしい。そうしてしばらく教科書と睨み合いを続けていたお嬢様は、一通り読み終えそれを閉じるとこう報告してくださった。
「何もかもこっちと変わりませんでした! なんなら社会科と外国語以外は真澄として前にやった勉強の方が範囲的に進んでそうです!!」
勉強についていけることがわかったのがすごく嬉しそうだった。これは良かったねと言えることなのだろうか……
ちなみに後半の発言について聞いたところ、どうやらマスミ様は18歳らしく推定この二年先まで学校での勉強が進んでいたそうだ。なんならニホンの学校ではテストも成績も大体良かったらしい。
ベッドに座り直して歴史の教科書を読み込むマスミ様を見ながら、私はぼんやりとこう考えていた。
――どうやらとんでもないお方が来てしまったようだ、と……




