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高飛車疲れの執事、新生お嬢と路を征く  作者: 涼神ヘレン
目覚め編

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1/4

醒めた彼女と

 ――バッ、とデュベが勢いよく捲られる音が聞こえてきて、私はそちらに目をやる。ベッドには特段気にかけている髪を乱してまで飛び起き、悪夢から覚めた後のように辺りを見回すお嬢様(主人の娘)の姿。「お目覚めですか、お体の調子は如何ですか」なんて言いかけた時、信じ難いお言葉がお嬢様から飛び出した。


「貴方、誰……?」


◆◇◆◇◆


 私が仕える家のお嬢様、基ルミナス・カルヴァーラ・カーマイン様。彼女はここ最近の数日、高熱に伏しておられた。倒れた当初過保護な旦那様が沢山の医者を呼んでおられたが、残念なことに誰も彼もが口を揃えて「原因不明」や「解熱剤を出すしかできない」としか言わなかった。

 こうなってしまえば仕方がないと我ら使用人一同はひたすらに熱を冷やし、薬と栄養のある食事を取らせ、できる限りの看病をしていた。


 ……しかし旦那様と奥方様はショックを受けておられたが、『原因のわからない高熱』というものがどうにも私には不思議でならなかった。今の時期は流感のような感染る病が流行る時期ではなかったし、万一拾い食いだとかをやらかしていたなら腹痛や嘔吐もあった筈で……風邪でもないのに、倒れるような熱だけが出るという症状が、まるで何か不思議なもののように思えた。

 それこそ最近夜明かしして読んだ小説に似たような話があった。熱を出して寝込んでいた令嬢がどこか変な世界――例えば機械が発展した未来のような場所――の人間に乗り移り、異世界生活を楽しむ……という物語だ。あれは面白かったが、流石に小説より奇っ怪な現実など流石にあるわけがない、お嬢様の不調はきっと知恵熱か何かだと……とりあえずそう割り切り、早く回復していただくために看病をしていた。


 ……そうやって少し前に思ったことに対し本当にそうだったらよかったなんて思ったのがついさっきのこと。


「あの、ここは一体どこなんですか? というかなんで私こんなきらびやかなベッドにいるんですか、この部屋私のじゃないんですけど……」

「……説明しますから、どうか落ち着いてください……」


 ――まさか自分の仕えるお嬢様が本当に熱がトリガーで異世界人と入れ替わるだなんて誰が思う、たとえ天地がひっくり返っても現実が小説よりファンタジーじみたことになるなんて有り得ないと思っていたのに!!

 とにかく最優先はお嬢様(?)への事態説明だと、私は混乱する頭を回していた。


◆◇◆◇◆


「……つまり、私はそのルミナスってお嬢様と同じように熱で寝込んでたら入れ替わっちゃってたわけで、この部屋や今寝てるキラキラふかふかのベッドはルミナスさんの私物と……」

「左様です。それと、申し遅れましたが私はここカーマイン家で奉仕をしている執事です。名をゼロ・ディヴォートといいます。」

「ゼロさんですね。覚えやすくてかっこいいお名前をお持ちのようで……」

「敬称抜きでも構いませんよ、もとより立場は貴方様の方が上ですから。そのお言葉はありがたいのですが、生憎()()お嬢様には一度も名前で呼ばれたことはありませんがね……」


 実際私を筆頭に前のルミナス様に名前を覚えられた使用人はろくにいないし、基本的に「ちょっとそこの」とか言われるのがお決まりでもう慣れていた。しょんぼりしている新しいお嬢様にそう追加で伝えてしまったところ、自分のことでもなかろうにもっと申し訳なさそうな顔をされた。

 ごめんなさい、私が悪かったのでそんな捨て犬を哀れむような顔しないでください……


「わ、私のことはいいじゃないですか!それより貴方様です、一体どなたがお嬢様の体に入ったのですか?」

「あぁ、それは――」


「ルミナスぅぅぅ!!! 見舞いに来たぞ!!! 体は大丈夫か??!」


 本人に自覚はないだろうが、お嬢様の言葉を遮るように旦那様が上げられた声が部屋に響く。幸いにもお嬢様がもう意識を戻されたからまだ良かったものの、寝ている時にこんなことをされたらたまったものではないだろうな……


「……今のやかましい人は?」

「……ルミナス様の父です……すみません、旦那様は子煩悩が酷くて……」


 気にしないで、とお嬢様が仰ってくださったのをありがたく受け止める。彼女はその上でこう仰られた。


「とりあえず、まずはあの人をなんとかしましょうか。私の身の上話はその後でもいいですか? 知らない国の話なんてされたところで、そんなものは手放しで信じられるようなものじゃないでしょうし、何より話して何か影響が出たらいけないから黙っておきたくて」


 要は『今の事態がバレたら周りにどう思われたりするかわからないから安定択を取りたい』とのことだろう、これには私も賛成だ。今のお嬢様は知らないことだが、旦那様も奥方様も行き過ぎた子煩悩で甘ったれの我儘娘を可愛がってきたきらいがある(「子供はおねだりがあるうちはいつまでも可愛い」とか変なことを言っていたし)。そんな愛娘がいきなり精神年齢がとんでもなく上がって、尚且つ自分達に他人行儀になれば確実に凹むだろう。親という存在は子供に嫌われるのが何より怖いと思うものだと前に他の使用人から聞いたし、おそらく旦那様方もその例外ではないであろうから。

 ――お嬢様の仰ることも真っ当です、構いませんよ。というようなそれを受け入れる旨を伝えた時。今度は何も遮らなかった、か細くなった旦那様の声が聞こえてきた。


「ルミナス〜……? もしかしてまだ寝ていたのか……??」


 ――ご心配なく、お嬢様はもうお目覚めですよ。体調確認で少しばかりお時間を頂いているだけなので、もうすぐドアを開けられます。

 こう言った途端に「早く済ませろよ」と怒号に似たような言葉が耳に入る。全くお嬢様のこと大事にしたいのか自分の欲優先なのかわからないな。


 私達の話を聞いていたお嬢様に「入れてあげて」とお許しが頂けたので、ようやく私はドアノブに手をかけた。

※補足

ルビ振ってないんでとても紛らわしいことになってますがゼロの一人称は「わたくし」読み、真澄の一人称は「わたし」読みです

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