第四話 力戦
初投稿二日目です、本日も宜しくお願い致します!
「火責めか、考えたな。おいジード、虎の子の攪乱装置回収しておけ。赤字になるぞ」
「今やってるところだ。連中本気になったな、ここからは力戦になりそうだ」
「ジード、敵兵の数がまだ多い。白兵戦になったらいつもの戦術でいくぞ」
「そのつもりだ、頼りにしている」
俺とディアは交戦状態に突入してからというもの、冷戦沈着そのものだった。むしろやや余裕すらある。これも名手ディアの狙撃のアドバンテージがあるお陰だ。
早々と戦術義眼を両眼解放したディアは敵兵の軌道を読み、遮蔽物を透視し、弾道計算と重徹甲弾への貫通術式付与を完璧に統御して素早い手さばきで狙撃していた。彼我の距離が詰まってきた今、ここからは俺の仕事だ。
まずはスモークディスチャージャーを3個等間隔に前方に向かって投擲する。たちまち濃い煙幕が広域に展開され、敵兵は数的優位を活かしにくくなった。
次にその煙幕に紛れ込ませるように、小型だが行動抑制に最低限は威力のある自律誘導式浮遊機雷をばら撒いておく。こいつらは探知範囲内に動体が侵入すると自動で対象を追尾し、接触するとそのまま自爆する特攻兵器の一種だ。
この存在に気付いても気付かなくても敵は対処を要求される、戦場の主導権とエリアコントロールを掌握する為には必要な一手だろう。
そうして俺は間近に迫ってきた敵重装魔導部隊の高速滑空術式の駆動音を彼我の残り距離に脳内変換しつつ、深呼吸をしてバスターソードを正中に構える。煙幕の海の中から敵兵が左右同時に飛び出してきたのは、その直後だった。
――彼我の距離、残り0メートル――
「ヴィー、左右から同時に仕掛けるよ!」
「うん!こいつは危険な臭いがする、早く仕留めなきゃ!」
煙幕とそれに隠匿した機雷による迎撃、丁寧な戦術でこちらから選択肢を奪いつつ手札を増やす腹積もりか。だが大剣持ちの敵重装機兵側に先行させたヴィーとルエは白兵戦闘のエキスパートだ。相手の機動装甲が近接型にチューンされていても二対一で後れをとることは通常あり得ない。
そのはずなのだが、先ほどの敵狙撃手の腕前と装備を考慮すると、この重装機兵も相応の実力者である可能性が高い。だから部隊の指揮を預かる者として、保険はかけておく。
「ルエ!ひとりで倒そうとしないで!」
「こいつ!攻撃が通らない!?」
やはりと言うべきか、全身黒一色の敵重装機兵は右手のバスターソードと左腕のラージシールドを巧みに使い分け、ヴィーとルエの息の合ったダガーでの激しい連撃を難なく凌いでみせているばかりか、次第に攻撃パターンに順応して反撃する余裕すらでき始めている。
そうして黒いバスターソードがペースを乱されて接近しすぎたルエの首筋を捉えようとした瞬間、私は躊躇わず秘術を発動した。
「【トランスロケーション】」
魔術の起動と同時に一瞬視界が暗転し、次の瞬間にはルエがいた位置に私が立っていた。魔術の副次的効果で、首を斬り飛ばさんと豪速で迫りくるバスターソードもあと少しの間だけは非常に遅く感じられる。その数瞬の猶予を活かして、私は最適な角度で大剣を受け流す姿勢をとり、魔導装甲の籠手に斥力を発生させる術式を起動しておく。
そこまでして辛うじて、といった感覚で黒い重装機兵の重すぎる一太刀を防ぐことに成功した。武器自体の特殊な性能か、強力な付与術式か、必ずこの威力には何か原因がある。それを看破できなくては勝算は乏しくなるだろう。実際に至近距離で対峙してみて、それほどの脅威であると認識させられた。
「この黒いやつは私が引き受ける、ヴィー、ルエ、ティアレスは狙撃手を追え!ほかの者は強化術式と付与術式で遠距離から支援に徹するんだ!」
敵の実力と脅威度を侮った、その代償に部下一名が戦死し、もう一名も重傷という有様だ。だがまだ数的優勢はこちらのものだ。ここからは当部隊内でも屈指の実力者を攻勢の主軸に据えて損耗を抑え、確実に敵を追い詰める。
ことここに至って新手が出てこないということは、やはり伏兵はいない。迷宮中層までたった二人で進出してきてほぼ消耗していないとなると、相手のシーカーランクは最低でもⅤ以上の精鋭と見るべきだ。主に地上で戦う正規軍に分類される我々と違い、シーカーには地下迷宮内での戦闘に一日の長がある。
その上相手側にとっても予期せぬ遭遇戦であるはずなのだが、こちらの戦力を着実に削り取るような待ち伏せのごとき冷徹な対処には、底冷えする嫌な感覚をおぼえる。これは奥の手を使わざるを得ないか――
――黒い業物と思しきバスターソードが、片手の膂力とは思えぬ速さと重さの一撃で重装術士隊長の手甲を叩き割った――
「ディア、そちらに三機向かった、対処を頼む」
「しっかり見えてるよ。接近戦主体のイノシシが二頭と不明なのがもう一頭か。こちらは任せておけ、そちらも抜かるなよ」
「おそらくこっちが敵の指揮官だ、確実に壊す」
相手の指揮官と思しき重装術士は両腕の手甲からエナジーブレードを展開し、猛烈な斬撃の嵐を見舞ってきている。ならばこちらはラージシールド上にエナジーシールドを多重展開し、タイミングを見計らってバスターソードで反撃してペースを乱してやりつつ相手の息切れの瞬間を待つ。
だが、いつまで凌いでも相手の限界が訪れない。その不自然さにはかつて見覚えがあった。
―魔力暴走―
練度の高い術士のみが行使し得る、一時的な魔導出力の限界点突破により尋常ではない戦闘能力を引き出す秘術だ。この限界突破状態をどれだけ長く維持できるかは術士の技量や魔力量といった素養に大きく左右されるほか、全身に絶えずほとばしり続ける魔力の奔流を完全に制御しきる精神力が試される。
そして魔力暴走状態を制御できなくなった時、術士は行き場を失った膨大な己の魔力に全身を焼かれて凄惨に息絶えることとなる。
(この男、ここで死ぬつもりか?)
多重展開していたエナジーシールドが全て破られ、ラージシールドの耐久力も限界に近付きつつあるが、術士隊長らしき男の斬撃は途切れず、むしろ威力と精度を増していく。
(闇雲にエナジーブレードを振り回しているわけではないな。俺の盾の急所を的確に狙って斬撃を集中させ、守りを崩そうとしている)
術士隊長のエナジーブレードが緑色から蒼炎を纏った蒼に変化して妖しく煌めく。あのブレードから繰り出される斬撃は、到底防ぎきれない。そう闘争本能が囁き、直感が告げてくる。
せめてもの反撃に振り上げた大剣の一撃は流麗に躱され、そのままこちらの間合いの外に出た術士隊長がこれまでになかった構えをとる。限界まで高められた魔力と、研ぎ澄まされた集中。強力な付与術式で鋭利さの極みにあるエナジーブレード。それらの気迫と圧力に、俺が大盾を捨て、一層集中して愛用のバスターソードを両腕で構え直し対峙した、その瞬間だった――
――突如として降り出した雨が、見る間に勢いを増して大雨となっていく――
(...なんだこの雨は?前兆がなかったぞ...殺気!)
素早く振り返ってほぼ反射的に防御姿勢をとったものの、後方から飛んできていた三日月型の光波の切断力を完全に殺しきるには至らない。気が付けば左腕の手甲に深々と斬撃を受けたような傷跡が残っていた。
突然の後方からの攻撃に、意図せず術士隊長に背を向ける形になってしまったが、不思議とそちらからの攻撃はない。首だけで振り返って見れば、どうやら術士隊長の側にも謎の三日月光波の攻撃が飛んできていたようだった。この大雨で視界を奪った何者かに、無差別に襲撃されている。
そして光波はこちらの疲労の蓄積を狙うかのように断続的に飛来し続け、その頻度と苛烈さは次第に圧力を増していく。いつの間にか、俺と同様に謎の攻撃の対処に追われている術士隊長と背中合わせをする位置取りになっていた。
ラージシールドを失っている今、バスターソードだけで攻撃を捌き切るのは不可能に近くなってきた時、不意に光波の襲来がピタリと止む。すぐ背後で堂に入った防御態勢を崩していない術士隊長と、じりじりとしつつも無言の一時休戦が成立していた。
「雨はお好きでしょうか?」
合成音声や機械音声に近い声音で、大雨の騒音の渦中にあるはずなのにそんな間の抜けた意図の読めない質問が聞こえてきたのは、光波が止んでから少ししてからだったと思う。
声の主はバスターソードの間合いのギリギリ外に直立していた。その存在すら知覚できぬままここまでの接近を許してしまったことに冷や汗が噴き出るようだ。
「?おかしいな、言語の選択は間違えていないはずですが、返答が得られません。私の知りたいことは、たったこれだけのことなのに」
全く腑に落ちない、といった様子で肩をすくめ、戦場にありながら泰然とした余裕を持て余しているその存在にはどこかで聞き覚えがあった。
全身の体表を継ぎはぎのような装甲に覆われ、装甲表面には幾何学的な紋様を描いて蒼い光のラインが走っている。身長2mはゆうに越えた細身の長身に頭部の大きな蒼く光る単眼が油断なくこちらの一挙手一投足を窺っている。
―その者、雨と共に来たりて潜み、雨上がりに獲物をついぞ残すことあらず―
...装甲生命体の一柱...
ここで遭遇してしまったのは、世界屈指の厄災指定知性体モンスターである装甲生命体。畏怖と戦慄とともに、その身に宿す人智を超越した力故に神格化さえされて語り継がれてきた伝説的な存在、そのうちの一種であった。
後書きまで目を通してくださり有難うございます。遂に登場した装甲生命体、戦闘は更に激化していく。
今後の投稿頻度的には、私自身が結構遅筆なこともあり、最速でも二日に一回の更新になると思われます。
執筆が楽しいので、もし宜しければこれからも拙作にお付き合い頂けますと幸甚に存じます。