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プロローグ

勤勉なる読書家の皆様、初めまして。ダイナモと申します!この度著名な小説家になろうの場をお借りして拙作小説を初投稿致します。ご閲覧、応援、何卒宜しくお願いします!



〝世話焼きジード〟と呼ばれる腕利きのシーカーがいた。


時に命知らずとも揶揄される危険な迷宮探索を経て、現存する最高峰であるレガシー級の装備や装置、それらを稼働させる希少なアークリアクターなどを国に持ち帰る栄誉を手にする冒険者たる優秀なシーカーは数少ない。


その中でも彼の名は跋扈する野心家達の喧伝の渦中でもそれなりに知れ渡っており、長年に渡って堅実な稼ぎをする古株のシーカーとして一目置かれている。

しかしその素顔と正体は一貫して謎に包まれたままであった。というのも――


「おーいジードの旦那、今回の探索も途中まで赤字すれすれだったんだって?あんまり世話焼きに凝るもんじゃねぇぞ」

「でも旦那がいつもルーキー共の尻拭いを買って出てくれるお陰で皆助かってます、これでも感謝してるんですよ」

「天下のランクⅥシーカー様にかかれば迷宮上層は安全地帯ってね!是非また同行させてくださいね」


時刻は深夜、場所はシーカーギルド併設の酒場、周りではやし立てるのは酔いが回って気分の高揚しているシーカー達である。

輪の中心に鎮座している男は全身を黒一色に統一したやや大柄な偉丈夫で、顔面を覆う幾何学的な模様の仮面の下の表情は窺えないが、なんとなく機嫌が良さそうに感じられた。

彼こそが世話焼きジードの異名でギルドの面々に親しまれるジードという男であり、最近増えてきた駆け出しシーカー達から面倒見が良いと専ら評判の熟練シーカーであった。


「皆聞いてくれ、今回は臨時編成での上層探索だったが軽傷者数名だけで全員生還、かつそこそこの成果を持ち帰ることができた。これは主神様のご加護だけでなく、メンバー全員がそれぞれの努力をした賜物であると言えるだろう。というわけでもう一杯俺からの奢りだ、今夜は探索の成功を祝って景気よくやってくれ」


ジードが傾聴を願った時点で嘘のように酒場の喧騒は収まり、皆がジードの言葉に素直に耳を傾けていた。これは彼の御仁への敬意と尊重の現れであろうか。

いずれにせよその言葉で一層の盛り上がりを迎えた酒場を後目に、ジードは野暮用があると言い残してギルドの外に出ていく。


夜露が舗装された路面を濡らし、月明かりが青白く反射していた。その道をジードが多量の酒を胃に流し込んだ者とは思えないしっかりとした歩みで数ブロック進んだところで、とある裏路地の入口からフードを深く被って素顔の見えない何者かがこちらを窺っているのが見えてくる。

そのまま至近すると、ある程度の距離でフードの人物は路地裏に消えていくが、ジードは意に介さず後を追った。


「...お前を、ずっと待っていた、聖域の守護者よ、遂に至らざる者よ」


薄暗い、というか完全なる暗闇に近い人気のない路地裏の奥部で突如振り返り、ジードと正対したフードの人物が厳かにそう告げる。

その声は澄んだ女声であり、どことなく霊妙ですらあった。夜闇の中でお互いの姿を把握できているのは双方がその両眼に視覚拡張デバイスを搭載して暗視しているからに他ならない。


「その口調と雰囲気、今は聖女アーモリーということか。今度は俺に何を伝えに来たんだ?」


――目の前の黒づくめで怪しげな女性とは実は結構長い付き合いだったりする。彼女がどれだけ俺にとって重要な存在であり、そして不思議な相棒であるのかは他の追随を許さず知っているつもりだ。彼女には二つの人格があることも。


「戦禍の時代が来る。最早誰しも傍観者ではいられぬ。多くが雌伏のうちに没し、一握りの者が名を残す」


「そんなことは最近の各国の情勢を見てりゃ判る。俺はどうすべきなんだ?」


「お前には二つの道がある。一つしか選べないが、どちらにしても戦は避けられぬ。夥しい数が死ぬ」


「...今度はどこと戦争になる?」


「ひとたび戦になれば、お前は命の選択を迫られる。新たに出会いし者、愛しき者、年若き者。選ばざれば誰も救えぬ」


「ディアを喪わない為にはどうすればいい?」


「時が満ちれば、この依り代にてまた伝えよう。案ずるな聖域の守護者よ、我が終焉まで汝と共に在る」


気が付けば周囲を覆っていた霊妙な気配は霧散し、夜闇と遠くから聞こえる喧騒が戻ってきていた。あれが予言者なのかなんなのか未だに見当がつかないが、彼女の言うことは間違いなく的中する。これはスピリチュアルな霊能主義ではなく俺の経験則だ。それにしてもまただ、またいつも通り会話がまともに成立しなかった。


だが感覚的に判る、もうアーモリーはここを去った。今目の前に残っているのは依り代のディアだ。


「...ぅん?ここはどこだジード?また何か変なことを話していたのか私は」


先程までとは打って変わって、どこか親しみの感じられる眠そうな声で彼女が声を掛けてくる。俺は努めて平静を装って、相棒を宿に連れ帰ることにした。


「いや、気の所為さ。きっと酒を飲み過ぎたんだよ。ほら、帰ろう。肩を貸そうか?」


「大丈夫だ、この程度。明日も忙しくなる、お前こそ酔いを残すなよ」


彼女の名前はディア。シーカーランクⅡの駆け出しだった頃から、二人タッグで持ちつ持たれつこの稼業で生き残ってきた。


信用が第一とか標榜しながら、率直に言ってこの業界は汚い連中が多い。基本的にシーカーは大迷宮を探索して様々な希少資源を持ち帰るのが仕事なんだが、生粋の実力主義なので競争が激し過ぎて日夜死人が出るレベルである。具体的にはレアな資源を搬送中のシーカーの一団が謎の襲撃に遭い壊滅したり、迷宮内に資源の豊富な穴場を見つけたシーカーがいつの間にか失踪していたり。


シーカーギルドが正規軍並みに戦力を持ち過ぎた結果、シーカーの後ろ暗い営みを裁く者が不在のまま長年が過ぎている。ただでさえ大迷宮のモンスターは強力な個体が多く、戦闘での死傷者は目を覆いたくなるほど多いのだが、それと同じくらい裏ではシーカー同士の血みどろの希少資源争奪戦が火花を散らし続けているのだ。


国の正規軍は地上での他国との覇権争いに忙しく、シーカーギルドは地下で大迷宮から希少資源を吸い出すシーカーという名の奴隷の選別に忙しい。それもこれも長期化どころではない泥沼の世界大戦の影響で大迷宮産の希少資源や、戦局を覆し得る超兵器であるレガシーウェポンの需要が急騰していて、今日の晩飯の為には老いも若きも大迷宮に潜って一山当てるしか生きる術がない窮状に起因しているのだが。


物心ついた時には俺はスラム出身の捨て子で、ディアも恐らくそれは同じ。なるべくしてシーカーという国とギルドに搾取されるだけの汚れ仕事に就かざるを得なかった。

必死の思いでこれまで生き残ってきた。数えきれないほど汚い所業に手を染め、報復に報復を重ね、血で血を洗い、それでも生き残ってきた。


その甲斐もあって現在のシーカーランクは名実ともにⅥ、上級クラスだ。ランクⅥ以下がシーカー全体の97%を占めるという過去の統計もあることから、我ながら上り詰めてきた一握りの成功例だと自身の幸運と苦楽を共にしてきた相棒のディアに深く感謝している。だが、ひとつだけ心残りがあるとすればそれは...。


「どうしたジード、また考え事か?」


フードを下げたディアの頭部が露わになり、銀糸の艶やかな長髪が月明かりの光沢を湛えて夜風になびく。その下に覗く深雪のような白銀の双眸は、けれど左眼が黒い無骨な眼帯に覆われている。これが俺の償っても償いきれない罪の証であり、今でも戦い続ける密かな理由でもある。


かつてディアの左眼から光を奪わせてしまった、あの過ちを贖うまでは死んでも死にきれないと、そう自身に言い聞かせて生きてきた。


ディアは美しい。贔屓目なしでそう感じている。そして美しいだけではなく非常に強かで逞しい、頼もしい味方だ。だからいつも甘えすぎてしまう。

そうであってはならないのに。


「ああ、ちょっとな。ディアは綺麗だなって、少し見とれてた」


ジラーニ共和国に伝わる秘伝の治癒魔術とか、サグラート連盟の最先端レガシーテクノロジーとかならディアの目を治せるんじゃないかって考えてた。とは、とてもじゃないが言えなかった。罪悪感と自責の念が強いことをディアに悟られて、辛い思いをしてほしくなかったからだ。それで変に茶化すことになった。でもそれも本心だった。


「////わっ、私を口説いてどうするこの痴れ者が!////」


しかし俺の直球の愛情表現に当のディアの反応は結構ウブで、照れに照れながら小突いてきたりする。カワイイ。



▽▲▽―――――▽▲▽




この後なるべくすぐに第一話を投稿しますので、ぜひそちらもご覧になってくださると幸いです。

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