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かつて地球を救ったが、別の世界に飛ばされた~機械生命体、エルフの守護神になる~

 大地が割れ、地下から煮えたぎる溶岩と共にマナが噴出する。

かつて『第78南極基地』と呼ばれていたこの場所も、今や燃え残った残骸があるばかりだ。

厚く張っていた凍土は溶け、赤黒い大地が露出している。


 大気圏外から飛来した、隕石によって。


 いや、コレは隕石ではなく……


「……ついに、ここまで来ちゃったね。ライコウ」


 わたしの『体内』で、イブキがぽつりとこぼした。

いつもと違って元気がないのは、これが最後の戦いだと……知っているからだろう。

操縦桿を握る手が、少し震えている。


『――そうだな。初めて会った時腰を抜かしたこと、今も懐かしく思い出すよ』


「もうっ!そ、そんな昔のこといつまで覚えてんのさ!!」


 憤慨するイブキ。

そういう所は、あのころと変わらないな。

これが、この人間のいい所だ。


『キミとのお喋りは好きだが――来たようだ』


「――ッ!!」


 大気が、震える。

地下から噴出した新しいマナが、大気中の残留マナと反応して紫電を閃かせる。


「あれが――」


『ああ、わたしたちの敵。今まで倒してきた数多の【魔鎧機(ルーダー)】、その頭目にして原初の【魔鎧機】――【アルファ】』


 裂けた大地の端を、手が掴む。

マグマを纏い、マナを散らし……わたしの、わたしたちの怨敵が姿を現す。


『久しいな、【アルファ】よ』


 わたしの声に、アルファがこちらへ顔を向けた。

禍々しい2対の長い腕、天を突くように伸びる角、深紅の瞳。


『【オメガワン】、まさかお前だというのか……同胞を悉く滅し、この世界への浸食を阻んだ敵が!まさかお前だったとは!!』


 漆黒の羽をひらめかせ、アルファが吠えた。


『私はもう【オメガワン】ではない。この地球の民にもらった【ライコウ】という新しい名がある』


『おのれ……現地民に絆されたか、同胞よ!』


『――違うッ!!』


 わたしの体に、力が宿る。

イブキの祈りに呼応し、創造されたマナが硬い装甲となって身を包む。


『思うままに無数の星を滅ぼし、無限に宇宙を彷徨う……そんなものは同胞ではない!!』


「――いけるよ、ライコウ!頑張って!!」


 腰に手を伸ばす。

ブラスターが変形し、輝く剣となる。


『――お前の旅は、今日ここで終わる!哀れな侵略者よ!!』


「いっけー!フォトンブレイバー!!」


 剣を構える。

意思を乗せ、万物を貫く剣を。


『エラーを起こしたか、オメガワンよ!同胞を討つは心苦しいが……我が覇道の為に、一族の繁栄の為に、貴様を討つ!!』


『他の命を滅ぼして得る繁栄に、何の価値があろうか!!そして――私は【ライコウ】だ!!!!』


 背中のブースターを吹かし、わたしはアルファに突撃した。



・・☆・・



 わたしの名は【ライコウ】、かつては【オメガワン】と呼ばれていた。

魔鎧機と呼ばれる、機械生命体だ。


 わたしたちの一族は、生命体の発するエネルギー……【マナ】を摂取して生きる。

そして、そのマナを創り出すことは……わたしたちにはできない。

だから、魔鎧機は本能として他の生命を求める。

 星を巡り、その星のマナを吸いつくしてまた別の星へ巡る……その繰り返しで生きてきた。

この【地球】と呼ばれる惑星も、新たな餌場となるハズだった。


 だが、偵察隊として派遣されたわたしは……ここでイブキに出会った。


「うわあ!?ろ、ロボット!?でっかい喋るロボットだぁ!?」


 大気圏から降り立った先の森で、危うく潰しかけた小さな生命体。

それは、この任務の為に『建造』されたばかりのわたしが、初めて出会った『いのち』だった。


「オメガワン?なーんかイカつい名前だよねぇ、ボクがもっといい名前を付けたげる!うーん……頭の角が鎧みたいで恰好いいから……【ライコウ】!昔の偉いサムライの名前なんだって!!」


 わたしは、この『いのち』に興味を持った。


「まな?へえ、それがご飯なんだ。ガソリンとかで動くのかと思っちゃった!」


 この星のことを知るために、わたしはイブキと協力関係になった。


 偵察任務の期間は、1年間。

それを過ぎれば、わたしの報告に従って本隊がやってくる。


「ライコウ!見て見て、ウチの『ポチ』だよ~!……え、犬だよ犬、い~ぬ~!うわっポチ!吠えないの!大丈夫だから!」


 イブキは、色々なことを教えてくれた。

歴史のこと、人間のこと、動物のこと。


「今日さあ、学校で怒られちゃってさあ……でも絶対ボク悪くないよ!聞いてよライコウ!?」


 人間とは、なんとよく表情を変えるのだろう。

なんという、感情の振れ幅だろう。


「じゃじゃーん!今日はライコウにサッカーを教えてあげよう!ホラこれ!タブレット見える~?」


 イブキが笑い、怒り、悲しむ。

感情が発露すればするほど、大気中に濃密なマナが放出される。

とても濃い、マナが。


 知識として知っている、わたしたちの『食事風景』とはまるで違う……恐怖や絶望によって生成されるマナとは、質も量も段違いだった。


 ここで、わたしは『わたしたち』の在り方について初めて疑問を持った。


 わたしたち魔鎧機は、生存の為により効率よく……自己進化をする能力がある。

ならば何故、対象を絶滅させる必要があるのだろうか。

イブキのような存在と、友好的に生きていけばよいのではないのか。


 人間の生み出すマナは、絶滅させるにはあまりにも惜しい。

いや、これは間違いだ、『惜しい』のではない。

――わたしはそれをするのが、『嫌』なのだ。


「ライコウの手に乗ると花火がよく見える~!ね、綺麗でしょ花火!」


 イブキとの触れ合いを経て、私は【オメガワン】から【ライコウ】になった。



「な、何あれ……ライコウみたいなのがいるよ!?」


 この星への侵略は中止するべきだ。

人間と共存の道を探れば、今までのように星々を使い潰しながら旅をする必要はなくなる。

今までのデータを添付し、そう本隊へ連絡を行った……1週間後。


 1年の期間を経ず、先遣隊が送られて来たのだ。


『オメガワン、報告を確認した。本隊の決定を伝える』


 同胞は、そう言い――イブキに武器を向けた。


『お前には思考汚染の疑いがある。よって、接触した当該生命体を検疫の為に―――処理する』


「えっ、ライコウ、この人なんて言って――」


『――イブキッ!』


 思考するよりも早く、体が動いた。

わたしは、同胞のマナブラスターからイブキを庇った。


 装甲が吹き飛び、耐えがたい痛みが襲う。


『――嘆かわしい。最早汚染は不可逆か……先遣偵察個体【オメガワン】、規定に従って抹殺処分を施行する』


『待て、わたしは汚染されていない!この星の人類とは――』


『汚染伝播の可能性を検知。対話を拒否する』


『ぐぅう!?』


 イブキを抱え、ブラスターに耐える。


「ライコウ!?ライコウッ!?」


 一射ごとに装甲が剥離し、内部へとダメージが蓄積する。

 

 わたしは偵察個体、あの同胞は戦闘用の侵略個体……彼我の戦力差は圧倒的だ。

わたしに配備されているマナブラスターの出力では、侵略個体の装甲を貫通できない。

このままでは、破壊されてしまう。


『イ、ブキ……こ、ここへ』


 胸の装甲板を開き、そこへイブキを格納する。

コアユニットを内包する胴体ブロックは、わたしの体で最も頑丈に作られている。

これで、余波による被害は防げるだろう。


 だが、どうする、どうすればいい。

この状況で、イブキを、人類を助けるためには――



「――ライコウ、死なないで!!」



 ――瞬間、今までに感じたことのない感覚を覚えた。


 コアユニットに、凄まじく濃密なマナの奔流が流れ込む。

これは、なんだ!?


 ――イブキか。

イブキの、人類の力か。


 通常の活動量、その優に10倍以上のマナ。

コアユニットから余剰として溢れたマナが、破壊された装甲板を即座に修復していく。


『む、う――!』『何!?』


 立ち上がり、同胞の攻撃を避ける。

――速い、運動機能がかなり向上している!?


『オメガワン、なんだその力は。お前から既定値を遥かに超えるマナが観測されているぞ!』


 狼狽する同胞。

だが、それに答えている余裕はない。

 

 装甲は修復され、さらに外装が生み出されつつある。

膨大なマナと、わたしの……魔鎧機特有の自己進化が噛み合い、新たな個体へと変わろうとしている。


『――イブキ』


「ライコウ!元気になったんだね!」


 わたしの『体内』で、イブキが叫んだ。

その言葉に含まれる喜び、慈しみ……全ての感情が、マナに変換されて体内を駆け巡っている。


『オメガワン!貴様は危険だ、ここで――破壊する!!』


 マナブラスターの射線。

それを、躱す。


『何ィ!?なんだ、その運動性能は!偵察個体の範疇を超えている、だとォ!?』


 創造されたスラスターからマナを放出し、ブラスターを避け続ける。

周囲の木々は破壊され、爆炎が闇夜を照らす。

 

 いくらここが山中でも、すぐに周辺に気付かれてしまうだろう。


『……イブキ、わたしは決めたよ。同胞と戦う、戦って――キミを、キミ達を守るよ』


「ライコウ……でも」


 乱射されるブラスターを回避。

スラスター出力を上げ、一気に同胞へと肉薄する。


『共存を捨てるのなら、同胞と言えども――敵だ!』『ごァ!?』


 突き出した拳が、同胞の頭部装甲板を破損させる。

表面に纏ったマナが、通常なら決して傷つけられないハズの侵略個体に通用したのだ。

 

 同胞が吹き飛び、山肌を破壊しながら滑っていく。

破損はさせたが、決定打にはなっていない!


『おのれ、おのれェ!!』


 同胞の装甲板が展開し、背部ユニットが砲を形成する。

マナカノン!あれの斉射性能では、周辺に甚大な被害が発生してしまう!!


『同胞よ、わたしは……種族に、反逆する!』


 マナブラスターに、意識を集中する。

余剰マナが注ぎ込まれ……外装を、内装を、作り替えていく。


『イブキ、祈ってくれ。わたしの勝利を』


「う、うん!」


 心からの祈り、真摯な願い。

イブキの意思が、マナに変換されてコアユニットへ流れ込む。


 ブラスターでは駄目だ、これだけのマナ容量は……周辺への被害が大きすぎる。

直接、相手の体内へマナを流し込めるようにしなければ。


 ――剣だ。


 いつか、イブキが見せてくれた映像データ。

アニメーションの中で、わたしのような存在が使用していた剣。

それを、思い描く。


『光子……フォトン……フォトン、ブレイバー』


 マナブラスターだったものは、光り輝く剣へと変化した。


『マナによる創造だと!?【オメガワン】、それは一級侵略体にのみ許された――』


『――違うッ!!』


 剣を構え、跳ぶ。

全身のスラスターから、マナを噴射。


 音すら超えて、わたしは跳ぶ。


「――っい、いっけえええええ!ライコウ!!」


 イブキの叫びが、加速をさらに後押しする。


『馬鹿な!?【オメガワン】、お前は――』


『――私の名は【ライコウ】だと言った!!』


 突き出した剣は、同胞のコアユニットを完膚なきまでに破壊した。



「ライコウ……これから、どうなっちゃうの?」


 同胞の残骸の前で、地面に下りたイブキが言う。


『わたしと同胞の通信装置は破壊したが……最後の救難信号を辿ってまた、同胞がやってくるだろう』


 リンクは断たれているが、データは残る。

もう既に、地球の存在は本隊へ知られてしまった。


『イブキ、キミを巻き込んでしまってすまない……わたしは、同胞と戦う』


 イブキを、これ以上巻き込むわけにはいかない。

今回取り込んだマナで、この先も戦い続ける。

それが、どれだけ辛く苦しくとも。


 これは、この星を報告してしまったわたしの……罪だ。


「ライコウ!ボクも……ボクも一緒に戦うよ!」


『何を言う、駄目だ。キミを、人類を争いに巻き込むわけには―――』


 止める間もなく、イブキはわたしの膝に飛びついて体をよじ登ってきた。

優れた運動能力だが、膝立ちしているとはいえわたしの体を登るのは怪我の危険性がある。


『イブキ、危険だ。いや、この行動のことでもあるし同胞と戦うことも――』


「地球に攻めてくるんでしょ!?ならボクも戦う!それに――ライコウと僕は友達なんだから!友達を助けるのは当たり前でしょ!!」


 胸に縋り付き、イブキがそう叫んだ。


『――ッ』


 論理的に考えれば、断るべきだったのだろう。

だが、わたしはついぞそれができなかった。 

……恐らく、わたしは『嬉しかった』のだろうと思う。



 ――それから、わたしとイブキの長い戦いが始まった。

 

 次々とやってくる侵略個体と、人知れず戦い続けた。

幾度も幾度も危機がやってきたが、その度にイブキの祈りが力をくれた。


 そして、遂に……南極大陸での最終決戦が始まったのだ。



・・☆・・



『オオオオッ!!』


『ガアアアッ!?おの、オノレ!!!』


 フォトンブレイバーが唸り、マナを纏った斬撃がアルファの腕を斬り落とした。

これで、残りの腕は1本。


「ライコウ!体が……!」


『問題ない、このまま畳みかける!』


 だが、満身創痍なのはわたしも同じ。

左腕は根元から吹き飛び、右足は膝下から千切れた。

今は、スラスターで何とか飛行している。


 戦闘が始まって、1時間経過した。

ここが南極大陸でなければ、周辺への被害は甚大だったろう。


 しかし、さすがは原初の魔鎧機……高濃度のマナを装甲へ変換したわたしでも、即死を避けることしかできない。

アルファにとって、『餌場』である地球を破壊しないように戦っているから……まだこの程度で済んでいるだけだ。


 ――だが。


『――オノレ、オノレオノレオノレ!裏切者がッ!!』


 アルファの貯蔵マナが、著しく目減りする。

それは翼に纏わりつき……長大な1対の砲へと変貌を遂げた。


『もういらぬ!この惑星も!マナも!裏切者のお前も!!』


 収束マナカノン砲……!あの出力は不味い!

水平に発射されれば、地表が抉れる!


『ぬうっ!』


 急上昇。

逃げ道は、ここしかない!


『な、に!?』


 わたしを、砲が追わない!?

アルファ、まさか貴様――地球が狙いだったか!


『フハ、はは、ハハハハ!!!!』


 アルファの高笑いに呼応し、マナの収束が始まる。


『――イブキ、アレを止めねばならない』「……うん」


『――祈ってくれるか?いつものように』「――うんっ!!」


 ――ああ、力が湧いてくる。

暖かく、優しいマナ。

他者を思いやる、慈愛のマナ。

わたしを、信じてくれるマナ。


 これで、わたしは戦える。

誰とでも、何とでも。


 急旋回。

地表に突っ込む。


『――終わりにしよう、アルファ。魔鎧機は、この星に……いや、この宇宙に不要だ』


『不要なものは、貴様だけだ!オメガワン!!』


 地表スレスレを飛行する。

わたしに向かって、収束の終わったマナカノンが発射された。


『イブキ』「え?」



『ありがとう――キミに会えて、よかった』



 胸部ブロック、解放。

マナでシールドを構成し、イブキを包んで射出。

指向性を持たせたので、安全な場所まで運んでくれるだろう。


「――ライコウッ!?」


『どうか、元気で』


 イブキが、わたしの中から消える。

凄まじい、喪失感だ。

半身が欠けたような、そんな気持ちだ。


 ああ、これが『悲しい』ということか。

こんな、気持ちなのか。

ならば……


『他の誰にも、同じ喪失感を与えるわけには――いかない!!』


 残存マナ、全開放。

装甲の維持に回していたものも、全てスラスターへ。

アルファに向け、特攻する。


『消え去れ!オメガワン!!』


『私は――【ライコウ】だと言ったハズだ!!』


 フォトンブレイバーに、マナを注ぎ込む。

イブキの祈りが込められた、最後のマナを。


『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!』


 マナカノンの奔流に突っ込む。

表面装甲が一瞬で剥離、続けて内部装甲の融解が始まる。

イブキがいた胸部装甲も破損、コアユニットに無視できないダメージ。


 ――これを、待っていた!


『な、に!?』


 アルファが驚くが、もう遅い。


 あの規模のマナカノンを、防ぐ手立てはない。

わたしのマナをすべて使っても無理だろう。

だから、わたしは……マナカノンのエネルギーを利用することにした。


 コアユニットがマナによって破壊される時、膨大なエネルギーが周囲に解き放たれる。

そのままでは、マナカノンなど比較にならないレベルの破壊が起こる。


『や、やめろオメガワン!貴様まさかっ――』


 フォトンブレイバー。

高密度のマナをつぎ込んだそれを……わたしのコアユニットが崩壊するタイミングで、突き刺す。


 わたしが、消えて行く。

わたしという存在が、無になってゆく。


『……さよう、なら、地球。さ、ようなら、イブ、キ』


 膨大なマナが双方向の縮退を起こし――


『やめろオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』


 

『――どう、か、しあわせ、に』

  


 ごく短時間、極小のブラックホールを生成する。


 わたしも、アルファも……この地球上から、消える。

言ったハズだろう?【魔鎧機】は――宇宙に、不要だと。


 意識が消し飛ぶ数瞬前に、イブキの泣き声を聞いた気がした。



・・☆・・



 あれから、どれほどの時間が経ったのだろう。

まどろみに似た空気の中で、わたしは覚醒した。


 ――おかしい。

何故、わたしに自意識が残っているのか。


 コアユニットは、確かに破損したはずだ。

剣が食い込む感触を今でも覚えている。

……そもそも、ブラックホールによって完膚なきまでに破壊されたはずだ。


「~~~~ッ!~~~~~!!」


 声が、聞こえる。

……聴覚ユニットが、存在しているだと。

いや、これは……修復『されている』!? 

マナが注ぎ込まれている、だと。


「……けください、どう……すけ、ください!」


 カメラユニットが、マナによって高速で修復された。

何度かのノイズが走り、視界がクリアになった。


「機神さま、どうか……どうか、お助け下さい!」


 うっそうと茂った森が見える。

イブキと出会ったよりも、なお深い……原始の森のようだ。

 

 ここは、どこだ。

大気中のマナが、濃すぎる。

地球よりも、なお。


「機神さま……!」


 わたしは、石造りの台座に安置されているらしい。

復帰した視界に、子供が見える。


「……キミ、は」


「っき!機神さまァ!……ほ、本当に、願いを聞き届けてくださった……!」


 年齢は、イブキと同じ頃だろうか。

だが、イブキとは違って……耳が、長い。

一般的な地球人のそれに比べると、二倍以上だ。


 わたしも地球のすべてを見たわけではないから、この子がどのような人種かはわからない。

だが、その声に乗っている感情の音は……聞き覚えがある。

『悲しい』だ。


「わたしに、何の用だ?」


 音声ユニット、修復完了。

コアユニット、修復……済み、だと。

あの時に砕けたはずでは……?


「わ、私の村が、帝国の奇獣兵に襲われて……みんなを助けてください!私にできることなら、何でもします!」


 奇獣兵が何かはわからない。

ここが、どこなのかもわからない。


 だが、まずは。

この子の『悲しみ』を止めてやりたい。


「……わかった」


 脚部アクチュエーター、問題なし。

軋んだ音を立てながら、台座を破壊しつつ立ち上がる。


「ここに、乗れ」


 子供を手に乗せ、胸部に導く。


「っは、はい!」


 子供が乗り込む。

途端に、懐かしい感覚が蘇ってくる。

イブキ……キミは、幸せになったかい?


「案内してくれ。そして―――祈ってくれ、私の、勝利を」


「はいっ!」


 コアユニットに、マナが流れ込む。

慈愛に満ちた、素晴らしいマナだ。


 全身にマナが行き渡り、虚空から装甲が展開する。

装甲表面に積もった埃や植物のツタが、バラバラと地面に落下していく。



「――アレが、奇獣兵」

 

 森の裂け目から、炎と煙が見える。

村と思しき建造物が燃えており、その周囲には……異形の個体が、3つ。


 体長は地表から15メートル前後。

わたしよりも、少し低い。

それは……昔イブキが見せてくれた、『動物図鑑』に載っていた恐竜に金属の鎧を着せたような姿だった。

なるほど、奇妙な獣とはよく言ったものだ。


 そして確信した。

ここは、地球ではない。

あのような生命体は、見たこともない。


「アレが、敵だな?」


「はい!お願いします、機神さま!うわ、うひゃああっ!?」


 背部スラスター起動。

わざと轟音を上げて、飛び上がる。


 奇獣兵たちが、こちらを見上げる。

武器は……斧に、槍に、杖。

そのどれもに、マナが宿っている。


「キミ、名前は?」


「はへぇ!?、い、イブキ!【新緑谷】のイブキですっ!!」


 ――イブキ、か。


「いい名前だ。……イブキ、ひとつお願いがある」


 奇獣兵の杖にマナが収束、弾丸となって飛んでくる。

スラスターを起動させ、横に躱す。


「は、はい!?」



「私のことは――【ライコウ】と呼んでくれ」



 フォトンブレイバーを展開しながら、わたしはそう言った。



 地球ではない場所で、新たな戦いが始まった。

だが、わたしは戦い続けるだろう。


 優しい祈りが、ある限り。


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