表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第2話

 男の意識が戻る。目の前には真っ白な空間が広がっている。

 自分が起きているのか、横になっているのかはっきりしない。

 そもそも身体が動かないというより、身体感覚が、まるでない。

 

(俺は、死んだのか?としたらここはなんだ?天国か)


 思考を巡らせる。考えることができるということは、脳はあるのか?それともこんな非科学的な状況だからそういう、魂的な何かなのか?と色々考えているところで


「色々考えていますが、あなたが思うように、あの世界でのあなたの身体はすでに魂の器としての役目を終えました。わかりやすく言えば死にました」

 

 と女性の声が聞こえてきた。

 ずっとそこにいたかのように、目の前に女性が立っている。純白のワンピースのような服に身を包み、両目を布で隠している、女性が。


「そうすると、あなたは私を天国に連れていってくれる天使様か何かですかね?」


 男は尋ねる。言葉は出ないが思えば通じる。なんとなくわかった。


「天国という概念はあなた達の世界のものなので、なんとも言えないですが……神といえば神ですね。えぇ。女神です。もっとわかりやすく言えば魂の管理者です」


「魂の管理者?」


「そう。魂の器が稼働する世界は数多ありますが、解放された魂は最終的にはこの場所へ集まります」


「なんだかよくわからないが……つまり俺は今、自分の意識を持ったままの魂ってことですか?」


「そうですね。私の役割は適切に魂を管理すること。本来魂は意志を持たずここに来て、そして輪廻に還帰った新しい命として生まれるの。あなたは珍しく自意識を持ったままここに訪れた」


「今のこの状態は珍しいんですね」


「とってもね。だからわざわざ私が出向いているのよ」


 重々しかった女神の口調が少しだけ軽くなる。


「あなたの魂に刻まれた歴史、見させてもらったけど、とっても面白いわ」


 女神の口元がにぃと横に伸びる。悪戯好きの少女のような笑い方だ。


「それは光栄だ。神様をも楽しませる人生を歩んだのであれば後悔はないな」


「あら、ほんと?本当に?後悔ない?」


 自称女神は楽しげに問いかける。

 男は、死んだ人間に対して酷い奴だなぁとか思いつつ、そう言われると少しは後悔もあると考えた。


「ほら!やっぱり後悔してる!そんなあなたにとっておきの話があるのだけど」


 男は知っている。こういう話の持ってき方をする奴は、大抵面倒な話を持ってくるし、関わったとしてろくな事にならないと。


「あなた……ちょっと失礼なこと考えてるわね。まぁいいわ。端的に言うとね、あなたには2つの選択肢がある。ひとつはこのまま他の魂と同じように自意識をなくし、新しい魂として、世界の輪廻に還される」


「もうひとつは?」

 警戒はしているものの、結局は好奇心に勝てない。男は気になるもう1つの選択肢について問いかける。


「もうひとつは、別の世界で新たな依代となる身体を用意しますので、あなたの魂を”そのまま”その身体に入れちゃうのです」


「そうすると?」


「あなたは、あなたの意識を持ったまま、新しい人生を歩むことができるのです!どうですかすごいでしょ」


 少し得意げな女神。


「すごいが、そうすると俺にとって何がいいんだ?」


 ほんの一瞬だけ間があく。


「あなたの夢、叶うかもしれないですよ」


 理解が追いつかず、返事に困っている男に対して女神が続ける。


「紡ぐのですよ。未来に残す名作とやらを」


 女神はさらに話を続ける。


「そして届けるのです。そんなあなたの物語を待っている人々に」


「待っている人々……」


「えぇ。悲しくて、辛くて、生きる希望を無くしてしまった人々に」


「そうか」


「あなたにとってきっととーーーーっても、素敵な第二の人生を送れますよ」


 男は深く考える。


 きっとあの子に出会わなければ、諦めていただろう。笑顔を導く楽しさも、喜びも、苦悩も忘れてしまっていた俺なら、と。


「こんな俺にできることが、その世界にあるのなら」


 最後に見たあの少女の笑顔が脳裏に焼き付いている。


「俺は、そこに行くよ」


「あなたならそう言ってくれると思ってました」


 目の前の女神が徐々に消えゆく。

 女神が消えているのか、それとも自分の意識が遠のいているのか、男にはわからない。


「最後に」


 薄くなった意識の向こう側から女神の声。


「あなたに、女神の祝福があらんこと」


 そうしてまた男の意識は閉ざされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ