第2話 新メニュー攻防戦
それから数日後、もしもしバーグは新たな試練を迎えていた。
新メニューの開発である。
考案したメニューを披露するのは、KRバードとHRシャオミンの2人。
審査員として試食会に参加するのは以下のメンバー。
店長・バード・シャオミン・新人枠で陸。
果たして採用されるのはどちらの商品になるだろうか。
レストランの客席に腰かけた4名。
これから熱いバトルが繰り広げられる。
口火を切ったのは店長であった。
「ではこれから新メニューの採択をはじめようと思う。まずはシャオミンさんから」
「かしこまりました。私からですね!」
シャオミンはドリンカーの方向を振り返り「みんな、例の物をお願い」と合図を送った。
「はーい、かしこまりましたー!」
黄色い声で返事をするホールスタッフ達。
シャオミンは先にメニューの概要説明を始めた
「今回私たちが開発した新メニューは、イチゴのムースドリンクです。テーマは見せる元気。カフェメニューにおいてインスタやTikTokでの映えを意識するのは最早常識。その可愛いという見た目の常識にプラスして、『飲んでみると実はエナジードリンクだった』という驚きのギャップを取り入れてみました。女子はギャップに弱いもの。軟弱と思っていた男性が服を脱いだら実は筋肉隆々(きんにくりゅうりゅう)だったとか、オレ様系の男性が雨でびしょ濡れの野良犬に餌をあげてる姿とか。わざとらしい位ありきたりのシチュエーションに、乙女は思わずキュンとしてしまうものなのです。ではご覧ください。新メニューで『苺モンスター』」
ホールスタッフが4人の前にドリンクを提供した。
パフェグラスの上部は生クリームで覆われており、クリームの上には真っ赤な苺が丸ごと5つも乗っている。苺に振りかけられたシュガーパウダーはまるで淡い雪のような繊細さを醸し出し、脇にはミントのグリーンのアクセント」
(か、可愛い……)
バードは思わずつぶやきそうになるが、それをグッとこらえた。
(いかんいかん、これはライバルが考えた新メニューだ。認めてしまったら俺の考案した新メニューが却下されてしまう)
「確かに、上からの角度であればそれなりに整っているようには見えるな。だが、肝心のグラスの中身はどうかな?」
バードは皆の視線をグラスの中のドリンク部分に向けさせた。
「見たまえ。武骨な黄土色の液体から、泡がグツグツと湧き上がっているではないか!」
シャオミンは皆にストローを配りながらこう切り返した。
「炭酸なんだから当たり前じゃない。それに、この、色のギャップがポイントなのよ。さっきの話、聞いてなかったの? 愛らしい装飾部分と荒々しいドリンク部分。可愛いだけのデザートなんてありきたりでつまらない。これからの映えに必要なのは敢えてのミスマッチ。あなたたち男性陣も、このドリンクを見習いなさいよね」
「グッ」
シャオミンの言葉に歯ぎしりするバード。
店長と陸は
「なかなかオシャレじゃないか。見た目は合格じゃ」
「なんか、可愛らしくて食べるのがもったいないですね」
とシャオミンに同調した。
「では実際に食べる前に、今度はバード君が考えた新メニューを披露してもらおう」
店長は料理の提供を促した。
「よし! 今度は私が逆襲……、いやメニューを提案する番だな」
バードはキッチンの方向を指差して「始めてくれ」と合図を送った。
「今回開発したメニューは『噴火バーグ』富士山が噴火すると言われ続けて早や数年。噴火の興奮が待ちきれない私は、ハンバーグを噴火させてみることにした。まずはこれを見てもらおう」
前置きが終わると、BRガールズがキッチンから大きなワゴンを押してきた。
特注で作られたワゴンは頑丈で重そうである。
2人がかりで運んできたワゴンがテーブルの横に据え置かれると、一同はそこに目を向けた。
そこに見えたのは大きな炎を上げる燃料式コンロ。そしてコンロには鉄板とハンバーグが置かれていた。
「さあ、いきますよ。 GO!! BRガールズ!」
合図と共に、BRガールズが手にしたブランデーをハンバーグに振りかけた。
熱い鉄板に反応してジュウジュウと音を立てるブランデー。
続けてガールズはバーナーをハンバーグに向けた。
青緑に燃え上がる炎。香ばしく広がる香り。
バードはうっとりとした目で眼下の炎を見つめながら言った。
「フランベだ。本来肉料理のフランベはキッチン内で行われるものだが、今回はライブ性を意識してテーブルサービスとして披露することにした。さぞやYouTube受けもいいことだろう。どうだね? フランベとワゴンサービスの融合。これが新しいアメリカンスタイル、BirSASだ!」
大きく胸を張りドヤ顔を決めながら皆の反応を楽しむバード。
(す、スゴイ。これがBirSAS……。)
派手な演出に声を失うシャオミン。
(でも、ダメよ。感心してはダメ。そんなことをしたら私が考案した『苺モンスター』が却下されてしまう。ここは何か弱点を見つけるのよ!)
シャオミンは炎の収まったハンバーグを指差してこう言った。
「ご、ご覧なさい。ハンバーグの付け合わせのパセリが焦げてしまっているわ。こんなことをしたら最後にパセリを食べようと思っていた人が黙ってないわ。残念だけど、これは料理として失格……」
言い終わる前に、バードは顔色一つ変えずに焦げたパセリをトングで取り除いてしまった。
「な、なにを……」
反応する間もなく、代わりに一口大にカットされた人参が乗せられた。
「シャオミン君。キミは何も分かってないな。付け合わせの野菜などいくらでも替えがきくのだよ。人参のグラッセなら多少のおこげは逆に良いアクセントになる。クックック。良いアイディアを思いつかせてくれてありがとう。逆に礼を言うよ。シャ・オ・ミン・君」
(くぅ、余計なことを言ってしまった)
涙を滲ませながらバードを睨み付けるシャオミン。
彼女の涙が悔し涙なのか、はたまたフランベの炎の熱によるものなのか。
真相は闇に葬られたままであった。