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黒幕が私を仲間にしたそうにこちらを見ている  作者: 世界を守らんと戦う勇者と聖女。敵対する魔王と巻き込まれた私。
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第2話 『三回目の始まりと再会』


「早く! パーティーが始まってしまうわ」


 目を開くと緑色の瞳に赤銅色の髪をもった、小柄な少女に手を引かれながら廊下を歩いていた。


「リリー!」


 手首を掴むその手を引っ張り返して、その勢いのままに抱きしめる。


「ちよっ?!」


 一年前に戻ってきたのだ。


今腕の中にいるの彼女の名はリリー・ローブモンド。ショルトゴスの腕に吹き飛ばされて死んだ、私の友達。

 寮で同室なことをきっかけに仲良くなった。世話焼きな性格で、薬の研究に没頭して寝食をよく忘れる私を介護してくれる。私が健康を損ねることなく進級できたのは、間違いなくリリーのおかげだ。


「生きてる……、ありがとう。愛してる」


「急に何なの。また臨床試験とか言って、よくわからない自作の魔法薬キメておかしくなってる?」


 すぐに人の正気を疑うところ、間違いない。生きているリリーだ。


「魔法薬じゃなくて覚悟をキメてきたんだよ」


 今度こそリリーを、愛しい人々を、そして私自身を死なせないための覚悟を。


「わけのわからないことを言ってないで放して頂戴。ただでさえ遅刻しそうなのに」


 リリーは埒が明かないと思ったのか、しがみつき続ける私を無理やり引きはがして背後に回り、私の肩を押しながら進み始めた。


「なにこれ、らく~」

「ちょっと、モル。あなたまた痩せてない? 会わなかった春休み中、ろくな生活をしていなかったようね」


 どうだったかな。2回にわたる死に戻りのせいで、リリーの言う春休みは私からするともう二年も前のことだ。


「どうだったかな。もう忘れちゃったよ」

「全く。そんな生活してると、いつかぽっくり死んじゃうわよ」


 通算二回も死んでる私からすれば、シャレにならない冗談だ。

 押されるがままに足を進め、パーティー会場に向かう。


「──よかった。間に合ったわ。もうほとんどの人が集まっているみたいね」


 確か、今日は新入生の歓迎パーティーだ。4学年すべての生徒が招待される学園主催の大きなもので、学園関係者のほぼすべての人が参加する。


 一年後、このパーティーの最中、外の森からショルトゴスが現れて学園を襲う。

 新入生の歓迎が怪物歓迎に早変わりだ。誰も歓迎してなかったけれど。


「2年生のモルブティーナ・アト・ウィタル様とリリー・ローブモンド様ですね。ようこそいらっしゃいました。本日は立食形式のパーティーとなっております。ごゆるりとご学年を越えた歓談をお楽しみください」


 入口に立っていた学園付きの執事が案内してくれる。中では軽快な音楽が流れていた。


 広間の中央で燦々と輝くシャンデリアが目にまぶしい。あれ、明かりになってる蝋燭以外は全部ガラスだから落ちたときにすごい音がするんだよな。一回目の死因の腹に刺さったガラス破片、あのシャンデリアのやつだし。


「なに、親の仇見るみたいな目で天井を睨んでいるのよ」

「親じゃなくて、自分の仇だよ」

「そう。それは大変ね。それよりこのワイン、度数低すぎよ。これじゃあ酔えないわ!」


 私の仇はワインの話題にによって軽く流された。


「大勢の前で子息、令嬢たちを酔わせない配慮だよ。仮にも新入生歓迎パーティーだし」

「歓迎なんで名前だけで、実際はお貴族様による人脈アサリの場でしょ。上流階級の社交会。全くやってらんないわ」


 そう愚痴ちながらワインの入ったグラスを次々と空けていく。


「そういう側面があることは否定しないけど、こういう機会じゃないと他学年の人と話せないから。それに、リリーだって貴族でしょう」


「私は所詮、商人の一代貴族よ。商談なしに話かけたところで馬鹿にされるのが落ちだわ」


 リリーは王都一の宝石商人の娘だ。父親がデザインするアクセサリーが王妃のお気に入りになったことで、一代限りの貴族の地位を賜った、元平民。


 生徒のほとんどが貴族であるこの学園でリリーの居心地がよくないことも相まって、リリーは貴族が嫌いだ。


「そんなにくさくさしなさんな。あっ。ほら、あそこにリリーが大好きな鑑賞用美男子がいるよ」

「アレイスター様?! 何処?!」


 しかし、『貴族は金貨の入った財布』と豪語するリリーにも例外がいる。


「絹のような金髪に紫水晶のように煌めく瞳、傷一つない白い肌……嗚呼、なんて商品価値が高い顔なのかしら」


 リリーを虜にする美貌の持ち主はこのヨグランテ王国第二王子。名をアレイスター・ヴィ・ヨグランテという。


 彼には王子以外にも『勇者』という肩書きがある。


 そう、ショルトゴスと戦うも、全く歯が立たなかったあの学生勇者だ。

 最後に見た彼の顔は、血まみれの冷たくなった聖女の名を呼び続ける、絶望に染まった顔だった。

 しかし、一年後の未来を知らない彼は、王子モードと仲間内でからかわれていた爽やかな笑顔を浮かべて誰かと話している。


「確かに、あの笑顔には価値がある」


 笑っていられるように守る。もう絶対にあんな、見ているだけでこちらの胸までつぶれそうになる顔はさせない。


「顔だけじゃないわ。生まれっ持った権力、剣の達人にして学年一の秀才。それら鼻にかけない謙虚さまで持ち併せていらっしゃるお方なのよ。才色兼備、博学多才、文武両道。まさに女神アスロフェルムの祝福を受けた、完璧な人間ね」

「起用貧乏なだけで、完璧な人間じゃないよ」


 前回一緒に行動していたからその性格はよく知っている。


  下手に優秀なせいでいつも貧乏くじを引かされ、勇者なんて重荷を課せられる。責任感が人一倍あるもんだから全てをこなそうとして、背負いこみすぎて偶に爆発する。


「私は優等生がキレることの恐ろしさを彼で知った」


「……アレイスター様がお怒りになるところなんて想像できないわ」


 そんなことを話していると、『リリーさん!』と呼ぶ声が背後から聞こえた。


「レ、レイラ!?」


 リリーが酷く驚いた様子で後ろから声をかけてきた少女の名前を呼ぶ。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないですかー」


 夕日の光を閉じ込めたような橙色の瞳に、ゆるくウェーブがかかった白金の髪。

 珊瑚色の唇から発せられる鈴の鳴るような声を私はすでに知っている。


「あなた何故ここに? 学園の制服……新入生?! あなた使用人のはずよね? どうやつて入学したの? まさか貴族の養子になったの?!」

「まさかー! お貴族様になんて頼まれてもなりたかないですよぉー。成人の儀で教会に行ったら、次の日から何故か『聖女様』って呼ばれるようになって、気が付いたら馬車に乗せられて、この学園に入学することになってたんですよ。私もチョーびっくり」 

「せ、聖女?! 昔、いつも顔が怖いからって、シスターのスープに笑い茸を盛ったあなたが?! 冗談でしょ!?」

「よく覚えてるねぇー、そんな昔のこと」

「衝撃的過ぎて、一生忘れらんないわよ」


 『信じられない』と頭を抱えるリリー。レイラは我関せずという風に執事からワインを受け取っている。


「ところで、こちらのジト目の美人さんはどなたですー? さっきから私を瞬きせずに見てきて怖いんですが」

「ちょ、レイラ失礼よ。いくらモルがダサいおさげで、隈が酷くて、センスがないから学校の指定制服をそのまま着るようなぼやったい女でも、王族の血を引いた公爵令嬢なの。気安く話しかけてはダメ。不敬罪で首をはねられるわよ」

「おぉ、怖い。それなら気安く罵倒されているリリーさんの首は、何故繋がっているのですか?」

「友達だからよ」

「なるほどぉ」


 衝撃から立ち直ったリリーは、わざわざ悪意ある表現で私を紹介したのち、流れるようにデれた。

その下げてから上げるのは大変心臓に悪い。嬉しさで吐血しそう。

 そう言えば、一回目もこんな紹介されたな。あの時はなんて返したっけ。


 だめだ。

 リリーとレイラがまた立って、笑いながら冗談を言い合っている現状があまりにも尊すぎて頭が回らない。


「初めまして、モル先輩。しがない教会の孤児で、リリーさんの家の使用人をしておりました、レイラ・ゼラロメルカです。どうぞお見知りおきを」


 知ってる。

 レイラ・ゼラロメルカ。今代の聖女に選ばれた平民の少女。私を守って死んでしまった、私のかわいい後輩だ。


 リリーのように抱きしめたいのをこらえる。初対面だし、仮にも公爵令嬢が人前でしがみつくわけには行かない。


「初めまして、生きていてくれてありがとう勇敢なる聖女レイラ。こちらこそよろしくね。命以外なら何でもあげるから、困ったらいつでも遠慮なく頼って」

「??」


 疑問符を浮かべてこちらを見つめるレイラと腹を小突いてくるリリー。わりと本気の威力だ。痛い。


「……あー。ちょっと今この子、お薬のせいで頭イかれてるの。話半分に聞いてあげて」

「失礼な。私は本気だよ。彼女が幸せになるなら、なんだってする」


 過去に私を命がけで助けてくれた恩を私は忘れない。


「うんうん。そっかー。レイラのことがすごく気に入ったのね! そういうことよ。わかったかしら?」


 私の足をぐりぐり踏みながら笑顔で言うリリー。

 その、私が変なこと言い始めたら周りにばれないようにつま先を重点的に踏む癖、懐かしいな。


「えっと……?」

「いくら神に選ばれた聖女といっても、あなたは平民。貴族社会の学園には口さがない連中がたくさんいる。けれど仮にも公爵令嬢の庇護下にあると分かれば、そいつらの抑止力になる。よかったわね。気に入られて」

「そうなんですか、告白されたのかと思いましたよー」


 『びっくりしたー』と笑いながら手に持ったワインを一気に飲むレイナの顔を見つめ、改めて思う。


「やっぱりかわいいな」

「まさか、ほんとに告白だったの……?」

「娶って一生を捧げる覚悟はあるけど、彼女の運命の人は私じゃないら無理だね」


 勇者と聖女の恋路を邪魔はできない。


「そもそも性別的に無理よ」

「それもそうだ」




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